『悪夢の真相』/筒井康隆 | こだわりのつっこみ

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  文一の片ほうの足が、張り出しにかかったので、昌子は文一のズボンのベルトをしっかりとつかみ、やっとのことで、かれを引っぱり上げた。
 ふたりとも、しばらくは、せまい張り出しの上にすわって顔を見あわせたまま、胸をドキドキさせ、息をはずませていた。ながい間、ものもいえなかった。地上を見おろし、おそろしさのあまり、ふたりはあらためてぞっとした。
 (こんなことが、以前にもあったような気がする)
 昌子はそのとき、ぼんやりと、そんなことを考えたのである。
(p147より)

 
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今回は、『時をかける少女』に所収されていた短編、悪夢の真相を読みました。


早速
あらすじです。

中学2年生の昌子は、同級生の仲良しである文一に、宿題を教えてもらおうと彼の部屋に出かけます。
小4以来の訪問でしたが、昌子には文一の部屋に恐い思い出がありました。
びくびくしている昌子に文一は般若の面をつけて驚かせます。

一方、昌子の弟の芳夫にはおねしょぐせがありました。
暗くて、何かがいるからトイレには行けないとのことで、昌子は芳夫のおねしょ癖を直そうと夜にトイレに行ってみますが、もちろん誰もいません。
不思議に思っていましたが、ようやくなぞが解けました。
それは、昌子と芳夫のお母さんが、怒った時、おチンチンをちょんぎってしまうと言われたことが原因で、芳夫は恐怖感からトイレに何者かがいると想像してしまったのでした。

さて、この芳夫の克服は、昌子の恐怖心の克服も奮い立たせます。
昌子の怖いものは、先に述べた般若の面と、高い所。
まずは高い所を克服しようと文一を誘って、町の時計塔へ向かいます。
ここを上りきれたら克服できるはず、そう思い、時計塔の階段を上り始めた昌子でしたが、蜘蛛嫌いの文一が、階段で蜘蛛を見つけてしまい、慌ててしまって階段の張り出しから落ちそうになってしまいます。
すんでのところで昌子が助け、事なきを得ますが、同時に昌子は恐怖の原因を思い出したような気がしました。

そこで数週間後、文一と共にある場所へと向かいます。



では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。











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~1回目 2012.1.5~

では、あらすじの続きを。


昌子
文一が向かったのは、橋。
昌子がかつて住んでいた郊外へと向かう途中にありますが、いよいよ何か得たいの知れぬ恐怖感が昌子に襲ってきます。
しかし、高い所が恐いのではなく、手すりや欄干が恐いのです。

恐怖が解決しないまま家に戻り、床に就く昌子。
そこで、彼女は夢を見ます。
出てきたのは田舎にいたときのお友達、悦ちゃん
そして長い橋。

昌子は文一を連れて再びかつて住んでいた田舎へと向かいます。
夢と同じく長い橋があり、橋を渡る途中で、電柱の影から悦ちゃんが偶然に現れます。
懐かしむ話もそこそこに、なんと昌子はかつて悦ちゃんを橋から突き落としたことが判明します。

しかし、もちろんわざとではなく、川向こうの店に買い物をした帰り、昌子は橋を渡っていましたが、電柱の影に悦ちゃんが般若の面をつけて隠れていました。
悦ちゃんは少し驚かそうと昌子の前に出ましたが、昌子はあまりの驚きと恐怖で悦子を突き飛ばしてしまったのです。
すると欄干が砕け、悦ちゃんは川へと落っこちてしまったのでした。

さて、互いの誤解が解け、邂逅。
昌子の得体の知れぬ恐怖も原因が分かり、克服したようでした。



さて、感想です。

トラウマを上手く子供用に仕立てています。
でも、『時をかける少女』のようなSFではないのだけれど、昌子がトラウマを乗り越えていく様が非常に愛くるしいです。



総合評価:★★☆
読みやすさ:★★★★
キャラクター:★★
読み返したい度:★★