最近読んだ本
「誤解を招いたとすれば申し訳ない 政治の言葉」(藤川直也)
あまりに頻繁かつ悪い意味で気軽に使用されるこの言葉。J党A派のゴロツキ連中を筆頭に人を苛立たせる言葉だ。で、読んでみた。気鋭の言語学者が分析しているだけあって、ものすごく精緻かつ息の長い論理で、何度も道に迷う・・・(苦笑)。ここまで突き詰めると逃げ道がなくなるんだが(なのでこの言葉を気軽に悪用する連中の息の音は止まるんだが)、あまりに精緻かつ息の長い論理にこちらまで脱落しそうになる・・・、といういうか後半失速して脱落した。当たり前のことをここまでに丁寧に証明する、ということで数学的な本である。
「「百年の孤独」を代わりに読む」(友田とん)
「文庫化されると地球が滅亡する」ガルシア・マルケスの名著「百年の孤独」。文庫化されてすぐには滅亡しなかったけど、徐々に、でも確実に滅亡に向かっているのである意味予言どおりなのか!?それはともかく、「百年の孤独」、遠い昔に読みかけた記憶はあるものの、南米文学あるあるにはまってしまい、おそらく読了できなかった気がする。それどころか何も内容を覚えてない。なので代わりに読んでもらうことはとても嬉しい。ということで購入。
大雑把に筋書きを紹介しながら脱線しまくった挙げ句に、最後は「代わりに読む」の意味を見事に本編とシンクロさせて見事な着地を決めてくれた!なんだか「罪と罰を読まない」に似た感じなんだけど、それよりずっと真面目で純粋だ(終わってみれば)。もちろん途中は微笑苦笑でいろいろ楽しめる。全体に本を読む、という行為が読む人によって当然ながら全て意味あいが違う、ということを再認識させてくれる。あまり時間もかからずに読めるし、友田さんはなかなかの才人とお見受けするので他の著書にも手を出してみたい。
最近読んだ本
「ケルト人の夢」(マリオ・バルガス・リョサ)
南米系の小説はハマるか馴染めないか、割とはっきりする(自分の場合)。これはハマるまではいかなかったが一気読みできた(馴染めない場合は話の設定に感情移入できないかワケわからないことが多い)。主人公はアイルランド人で実在した人。大英帝国植民地周辺での壮絶な差別と搾取を糾弾し、その中で母国アイルランドへの帝国支配に反抗する気持ちが生まれて革命を目指すが捕まって処刑される。読了しての感想は、その理想主義にすごく共鳴するものの、物事の進め方がすごくナイーブで真面目、こういうことに必要ないい意味での策謀家の側面が少ない、というもの。これでは辛い人生になりそうだなぁ、という感じで、共感はするんだけど心からサポートする感じではないんだなぁ。そこが残念。
「舌の上の階級闘争」(コモナーズ・キッチン)
安逸なイギリス庶民グルメ紹介本だと思うと大火傷をする一冊。庶民の食事に欠かせない料理の向こうにある社会構造・経済構造への鋭い批判の眼差しはなかなかで、行間に漂うラジカルでアナーキーな雰囲気が深淵かつ最高。メッセージ性溢れてロックなスピリットが噴出する、これは結構な名著だと思うな。おすすめしたい。
「愛される書店をつくるだめに僕が2000日間続けて考えてきたこと」(ハヤシユタカ)
神奈川県民の心のオアシスにして、知らない県民は100%モグリ、というべき書物の殿堂「有隣堂」。その有隣堂がやっているYou Tubeが最高に面白くて、普段決してこの手のメディアは敬遠する私だが、これだけはファンになってる。で、その「有隣堂しか知らない世界」をプロデュースするハヤシさんが書いた本。ビジネス書だったら嫌だな、と思ったけど(まぁそういう側面をあるけど)、どちらかと言うとゼロから人気番組を立ち上げた苦労話・裏話をほんわかと記した本。1時間で読めるので「ゆうせか」ファンはおすすめ。
「将棋の子」(大崎善生)
最近将棋にハマっていて、アマ初段を取って今二段に挑戦中。前から知っていたこのノンフィクションを遂に読んでみた。内容は純粋かつ痛切。プロ棋士を目指してその夢に破れた人々に哀情あふれる視線でスポットをあてたもので、将棋を知ってる人なら全員没入できるはず。「月光」の章は涙なくして読めない。著者は先日亡くなったが、最後まで女流プロ棋士誕生を信じて西山さんをサポートしていたそうで、そういう弱い立場の人々への終生変わらぬ温かい視線に胸が熱くなる。
追悼
会社員時代に所属していたオケの知り合いが亡くなった、との連絡がきた。
楽器も同じで入社も同期、いつも穏やかで感じのいい女性だった。僕が最後にコンマスやったときにジュピターを同じプルトで弾いてもらった。学会参加のためにイタリアの片田舎の島に行った帰りにウィーンで一泊したら彼女たちもウィーンに来ていて、薔薇の騎士を皆で観たんじゃなかったか。終演後に近所の酒場で4人で食事したときに彼女がイアリングを無くしたことに気づいて、お店の人にロウソクを持ってきてもらって一緒に探した(見つからなかったけど)。会社を辞めて大学に戻ったあとに、東京の学会の帰りにオケの練習を覗きにいったら彼女が「私これから少し練習抜けるけど戻ってくるから楽器弾いてて!」と貸してくれて(押し付けられて?)彼女の楽器で「宗教改革」を初見で弾いた。
いろんなことが想い出される。ご冥福をお祈りします。
幻覚の北欧
心と体の覚悟ができる前に暑くなってしまったので、バテている。
仕方がないので通勤途上でシベリウスの交響曲全集(ラトル・バーミンガム)を聴いている。きっと幻覚なんだろうけど、クソ蒸し暑い京都の道の両端に、霧に霞む針葉樹林が見える気がする。
追悼・長嶋茂雄
本当に亡くなった。大谷翔平を直接見るまで0.1%くらいその存在を疑っていたように、0.1%くらい長嶋は死なないんじゃないかと思っていたけど、この日が来てしまった。
巨人ファンではないけど、長嶋は好きだった。子供の時にパジャマに「3」番をつけてもらったのはいい思い出で、野球というものに興味を持って見出して最初に好きになった選手だった。引退試合をテレビで見たこともよく覚えているし、引退特集で雑誌をいくつか買ってもらったこともいい思い出だ。まぁ風変わりな人ではあるけど憎めない、キング・オブ・陽キャ。超生き生きしている人。巷間言われているように他人を寄せ付けないオーラじゃなくて自然に人を引き込むオーラの持ち主。
一茂の「長嶋茂雄は野球の星に帰りました・・」で少しだけ泣いた。でもしんみりすることは故人がお嫌いだそうなので、もうやめておく。
最近読んだ本
連休半ばから体調を崩して、またもひどい風邪をひいた(ひいてる)。もう健康だった頃を忘れてしまったくらいだ・・・(遠い目)。
読書は、忙しいのもあって進まないが、大著を1冊上げた。
「グランゼコールの教科書」(ブラウンスタイン・ファン共著)
フランスで大学より格上のグランゼコール。ここの卒業生は文句なしに威張れる。グルノーブルにいる友人に尋ねたら、ちょっと恥ずかしそうに、でも嬉しそうに「リヨンのグランゼコールを出た」。あの笑顔は忘れられない。で、そのグランゼコールで必修らしい「文化概論」の内容を850ページにまとめたのがこれ。ギリシャ時代から21世紀まで、歴史・哲学・宗教・科学・芸術・文学の6項目を時代ごとにまとめた本。まぁチャート式みたいな参考書みたいなもん・・・?
しかし内容はものすごく充実していて、自分が詳しい(と思っている)時代やトピックでも1つくらいは「へぇ」という内容がある。いわんや詳しくないギリシャ時代なんて毎ページ、付箋がつく始末だ(苦笑)。時間かかったけど、読み応えはあったし、読み直しは難しいけど付箋つけたところを確認しなおす価値のある本。
「戦時から目覚めよ」(スラヴォイ・ジジェク著)
ラカン派哲学者で共産主義者でオペラや音楽にも造詣の深いジジェク。難しいけど面白いのは事実。今回も全部理解できたわけじゃないし、同意できないところもあるけど、現状批判としては極めて正しい。あとはどこに世界を持っていくか、なんだけど、さすがのジジェクも確たる具体策はないみたいで、やや空想論的になっているところはやや残念。
映画を見る
へとへとの4月。
疲れ果てたので映画を見に行く(受動的に楽しみたい、というくらい疲労)。見たのは「教皇選挙」と「プロフェッショナル」。「教皇選挙」はあまりにタイムリーなネタで、制作者はそこまで予想はしていなかったんだろうが、映像は綺麗で重厚だし、サスペンスタッチの人間ドラマも普遍的(シェイクスピア的?)で2時間たっぷり楽しんだ。自分は映画はできるだけ少人数で(できれば1人で)みたいので(まさにルードヴィヒ2世状態で、オペラも1人で見られたら最高だなぁ、くらい暗い性格)、ヒット作はみない主義&どうしても見たい場合は上映期間の最後〜〜〜のほうでできるだけ人が少ない環境でみたいんだが、期待に背くまさかの満員・・・。外人さんまで複数いた。雨降ったので観光を諦めて見に来たんだろうか・・・。なかなか日本人には背景が理解しづらいので、皆さんがどこまで楽しまれたのかは不明だが、とにかく十分に楽しんだ。
もう1本は原題通りがいいのになぁ、と途中から切実に思った(原題は"In the land of saints and sinners"[聖人と罪人の土地で])。これなら北アイルランドの荒涼とした自然の美しさが沁みるし、伏線としても重要なドストエフスキーの「罪と罰」の効果が上がる。主演は自分の好きなリーアム・ニーソン。アイルランド訛のキツイ英語話者ばかりで英語なのにさっぱり聞き取れないが、それもまたいい味。100分十二分に堪能して、なかなか味わい深い、アクション映画と言ってはダメな映画という好印象だったわけなんだが、この映画が公開2週間くらいで上映終了になっちゃうってどういうこと・・・?たしかに10人ほどしかいなかったので自分的にはよかったんだけど・・・。
アンドラーシュ・シフ&カペラ・アンドレア・バルカ
旧聞に族するが印象を。
シフが好きでわざわざ遠方まで行ってきた。曲はバッハのピアノ協奏曲から6曲(6番以外)。配列はユニークで、3/5/7/2で休憩して4/1。最初は特にオケがもう一つ縦が緩くて「まぁお年寄りの多い楽団だし仕方ないか」という感じではあったんだが、時間と共にシフの出来が強烈に上がってきて。最後の1番なんて、もうこの先これを超える演奏は聴けないんじゃないか、という思うくらいの密度と緊張感のある名演。会場もめちゃめちゃ集中して聴いていることがよくわかり、咳(しわぶき)一つない、ってのはこのことだ、と思うくらい。
アンバランスなプログラムだったのでアンコールはあるんだろうと思ったが、本編ラストの1番が名演すぎたので、もうアンコールなしでいい、と思ったわけだが、いざアンコールが始まるとフルートが入ってブランデンブルクの5番で、楽章は2-3-1の順番で結局全曲。さすがに1楽章のピアノカデンツァは素晴らしかったが、かといって1番を超える演奏ではなかったので落胆したら、そのあとシフが1人で出てきて(ちなみに、既にこの時点で3曲アンコールやってる)やんやの喝采。やにわに弾き出したイタリア協奏曲が空前絶後の素晴らしさで、不覚にも涙が出た。いやー、遠くまで聴きにきてよかった、明日は地元だけどモーツァルトの40番だったしなぁ、と佳い1日になったことを神に感謝。さらにもう1曲(多分モーツァルトのソナタ)を弾いて合計3時間近い演奏会は終了。
来年はソロリサイクルだそうなので、確実に行ってしまいそう。
ラトル2題
BSでやっていたので、ヴェルビエ祝祭室内管弦楽団とバイエルン放送響の演奏会を。
ヴェルビエはベルギーの街のほうか思ったらスイスなんだね。若手のマスタークラスをやって選抜メンバーで室内オケをやる、ということらしい。ところどころにトレーナー役らしいシニアの人が入っている。曲はエロイカ。物凄く推進力のあるキビキビしたラトルらしい演奏で、大変好感が持てる演奏だった。しかしエロイカってのは名曲だ。強烈なカタルシスがある。ちなみにニコニコ笑いながら周りとアイコンタクトしながら引いているチェリストがよく抜かれていたが、あれってクラウス・マケラだよね?チェロも相当うまいらしいし。
バイエルンは昨年11月の東京公演らしく、マーラー7番。こちらはあまりテンポが速くなく、全体に大艦巨砲主義的な演奏(こちらはあまり好みではない)。CDで持ってる ペトレンコ・バイエルン国立歌劇場管弦楽団のほうが、顳顬から血が吹き出しそうなテンションであるのに対し、和音の響き重視なのかじっくり鳴らせる演奏だったかな。
ラトルは太ったし(誰かに似てきた、と思ったらネルソンスか・・・)、髪も減った。それにしては若々しい演奏は変わらないが、バイエルンのほうの演奏は少し大家的になってしまったかも。
「ゲーテはすべてを言った」
芥川賞なんて退屈で面白くもない小説の賞だ、とバカにしてたんだが、あまりにもタイトルと宣伝が興味をそそるので買って読了(芥川賞受賞作を買うなんて30年以上ぶりだと思う)。
これが豈図らんや、作者はものすごい才能だ、と感服してしまった。まだ23歳?英文学専攻の大学院生?ストーリーとしても魅力あるし、創作と模倣、引用と盗用、普段ギリギリの線をあまり意識しない&考えないところをグイグイ突いてくる。選評が早く読みたい。