ネギのことをひともじ、ニラのことをふたもじといいます。オモテの句に詠んでウラを工夫しました。二階建て俳句。
ひ——も
一文字や/出しに海老煮て/二文字も (三冬)
ひともじや だしにえびにて ふたもじも
もしも賜ぶ/手に陽金雀枝/香具師元ひ (初夏)
季語:一文字(葱・根深)・三冬。金雀枝・初夏。
一文字(ひともじ):葱(ねぎ)のことを女房詞で。以前は「き」と一音で言った。因みに「二文字(ふたもじ)」はニラのこと。どちらも強壮剤として知られていたので直言を避けた言い回しをした。(なお、韮(にら)は春の季語ですが、光を当てない軟化栽培で冬に出荷したものと解釈してください)
出し(だし):だし汁。転じて、口実・方便。
元ひ(もとい):「元へ」という命令を意味する旧軍隊用語。元の状態に戻す、または言い直しをするときの語。
いい葱が入ったので汁にして温まりましょう。だしはいつもの昆布に豪華ななんと海老、ですよ。はいはい、え!?ニラもですか。精力強壮と、誤解されませんかねえ、世間のひとに……
そのエニシダをくださるのなら、心に太陽なんですがねえ。テキヤさん。あ、いや、言い直し、縁日植木屋さん!
くつろいでください。歯医者さんのハナシです。
総入れ歯がいいか? 義歯の6本差し引いて26本の自前の歯が人工エナメルに変わったら……食べ物の味もわからぬだろう。少々無理でも歯茎で噛むほうがまだいくらかマシだろう。長生きも良し悪しだ。
歯科医学会はなにしてる。インプラントより大事なことがあるだろう。
「欄干」はこの嵩上げの譬喩だったのだ。医者の言うことを100%理解するのには文学的素養が欠かせないようだ。受験勉強はつらかったが、歯医者で役に立つとは……人生、一寸先は闇だ。
先々、歯の土手で噛むことにして追加工事は断った。
医者はいかにも残念そうだったが、30分は食事しないように。9月ごろまではダイジョブです、と言って紙の涎掛けを外してくれた。
解放された人質の気分だ。
口の中に錦帯橋を造られなくてよかった。体の一部が国定文化財になった日には夏暑いからとてステテコ一丁で胡坐もかけぬときたもんだ。
医院入り口の17段を手すりにつかまりながら下りきって、急勾配を見上げたら、英彦山で修行山伏の鉄の鎖をつかんで山登りをしたことを思い出した。
肉じゃがを驕って竣工祝に替えた。
暑いですね。60年使っている扇風機からゴムが焼ける匂いがして妙に煙い。修理するのも億劫です。キケンは承知です。しかし億劫なのです。クソ暑いのに火事は困るけど…
逆読みすると別の俳句になる二重俳句は、今回は「ゑ」「ひ」と「ひ」「ゑ」です。
あと、「も」「せ」「す」で、このシリーズはおわかれです。
ゑ——ひ
絵合子に/帆駆る日厳し/暮秋の灯 (晩秋)
ゑがふしに ほかるひきぶし ぼしうのひ
美の潮/しぶき昼顔/二十が会 (仲夏)
季語: 暮秋・晩秋。昼顔・仲夏。
絵合子(えごうし):金泥などで絵付けしてある蓋つきの椀。
厳し(きぶし):中世語。「きびし」の転。①激しい。強烈な。②食べ物の味の刺激が強い。③厳格である。④険しい。
格式ある料亭で出された料理の器に帆を駆る舟が描かれている。晩秋の夕陽を弾いて、さすが、それは美しいものだ。
汐のしぶきが昼顔にかかって、その風情は実に美の極致といっても過言ではない。回を重ねてもう二十を数える例会のことだった。
ウラの句はすべて体言留になり、気になりますが…
歯医者のはなし。
「犬歯はムシにきれいに喰われています」
「犬死、ですね」
「のんきですね。お客さんは。鬼歯はムシも喰わない」
「ムシしましたかね」
「またまた…。―—ハタケがほとんど無いですね」おいおい。歩道橋の次は野菜畑、かよ。
「いやその畑じゃないですよ」まさかという顔をして医者は顎をすくめた。プラント・ハウスは考えてないですよ。
「歯丈(はたけ)です。歯がすり減って短い」確かに噛むとき食べ物が歯茎に当たって痛むことが多くなった。
「嵩上げしますかね。32本全部いじることになりますが…親知らずを抜くとすると大工事になります」
治療費の領収書に市販のコクヨに三文判を押してくれるのは税金対策かも知らんが、気を付けたほうがいい、と思ったが特段、闇値でボルわけでもなさそうだ。治療費が50円というときもある。不思議な医者だ。
梅雨明けだそうです。暑い。
あと、「も」「せ」「す」で、このシリーズはおわかれです。
ゑ——ひ
絵合子に/帆駆る日厳し/暮秋の灯 (晩秋)
ゑがふしに ほかるひきぶし ぼしうのひ
美の潮/しぶき昼顔/二十が会 (仲夏)
季語: 暮秋・晩秋。昼顔・仲夏。
絵合子(えごうし):金泥などで絵付けしてある蓋つきの椀。
厳し(きぶし):中世語。「きびし」の転。①激しい。強烈な。②食べ物の味の刺激が強い。③厳格である。④険しい。
格式ある料亭で出された料理の器に帆を駆る舟が描かれている。晩秋の夕陽を弾いて、さすが、それは美しいものだ。
汐のしぶきが昼顔にかかって、その風情は実に美の極致といっても過言ではない。回を重ねてもう二十を数える例会のことだった。
ウラの句はすべて体言留になり、気になりますが…
歯医者のはなし。
「犬歯はムシにきれいに喰われています」
「犬死、ですね」
「のんきですね。お客さんは。鬼歯はムシも喰わない」
「ムシしましたかね」
「またまた…。―—ハタケがほとんど無いですね」おいおい。歩道橋の次は野菜畑、かよ。
「いやその畑じゃないですよ」まさかという顔をして医者は顎をすくめた。プラント・ハウスは考えてないですよ。
「歯丈(はたけ)です。歯がすり減って短い」確かに噛むとき食べ物が歯茎に当たって痛むことが多くなった。
「嵩上げしますかね。32本全部いじることになりますが…親知らずを抜くとすると大工事になります」
治療費の領収書に市販のコクヨに三文判を押してくれるのは税金対策かも知らんが、気を付けたほうがいい、と思ったが特段、闇値でボルわけでもなさそうだ。治療費が50円というときもある。不思議な医者だ。
梅雨明けだそうです。暑い。
「し」と「ゑ」そして「ゑ」と「し」のダブル沓冠(くつこうぶり)の俳諧です。
「ゑ」のコトバは絶望的に少ない。どうすれば褒めてもらえるか、か。
し——ゑ
十五夜や/屈託は雲/尼狐に餌 (仲秋)
じふごやや くつたくはくも にきつにゑ
絵日記に/木馬ぐたつく/稚児無事 (晩夏)
季語:十五夜・仲秋。絵日記・晩夏。
十五夜(じゅうごや):旧暦八月十五日「仲秋の名月」月が澄んで一年で最も美しい。
屈託(くったく):気がかりな。心配ごと。
尼狐(にきつ):「きつ」はキツネ。「ネ」は美称。
ぐたつく:物腰がきまらず。よたよたする。
稚児(ややこ):あかご。
明月十五夜。ただちょっと気がかりは雲が、大丈夫かな。いつのころからか、住み付いている美しいメギツネに食事を準備する。
遊園地の回転木馬は楽しかったが弟の幼児がよたついていて危なく落馬するところだった。今日の絵日記帳より。
歯科医問答。こちらも日記帳より。
「いよいよ、請負第二架橋工事。現場の状況はどうですか」
「基礎が緩んで、ちょっと危ない橋を渡る」
「渡り初め⁉ 組頭の工夫の見せどころですね。ドドメに麻酔を何本も打ちましたが……」
「くい打ちは仮止め。雨が来ると持たない」
「ところで、陸橋、だそうですが、普通の橋とどう違うのです?」
「陸橋は歩道橋。だから、手すりが着く。歩道橋はひとのためにあるんじゃない。下を通るクルマのためにある。手すりは人がクルマの通行のじゃまをしないためにつけます」
「え? 手すり? 通せんぼ、しているのですか手すりは…手すりで第一、噛めますかね」
左側の歯のブリッジの話をしている。念のために聞いておこうか。
「まさか、歯ごとに擬宝珠をたてるのじゃないでしょうね、手すりはいいとしても」やりかねないのだ、この歯医者は。
「そんなことはしないよ。保険の適用外だからね」
健康保険が適用されればやりかねないところだったのだ。危ないところで犬釘を一本。
この歯医者はヒトの口の中に歩道橋を造ろうとしている。そんな無法が許されるのか。
開いた口がふさがらない。「口を開けてください」口はふさがっていた。顎が外れていた。
「ゑ」のコトバは絶望的に少ない。どうすれば褒めてもらえるか、か。
し——ゑ
十五夜や/屈託は雲/尼狐に餌 (仲秋)
じふごやや くつたくはくも にきつにゑ
絵日記に/木馬ぐたつく/稚児無事 (晩夏)
季語:十五夜・仲秋。絵日記・晩夏。
十五夜(じゅうごや):旧暦八月十五日「仲秋の名月」月が澄んで一年で最も美しい。
屈託(くったく):気がかりな。心配ごと。
尼狐(にきつ):「きつ」はキツネ。「ネ」は美称。
ぐたつく:物腰がきまらず。よたよたする。
稚児(ややこ):あかご。
明月十五夜。ただちょっと気がかりは雲が、大丈夫かな。いつのころからか、住み付いている美しいメギツネに食事を準備する。
遊園地の回転木馬は楽しかったが弟の幼児がよたついていて危なく落馬するところだった。今日の絵日記帳より。
歯科医問答。こちらも日記帳より。
「いよいよ、請負第二架橋工事。現場の状況はどうですか」
「基礎が緩んで、ちょっと危ない橋を渡る」
「渡り初め⁉ 組頭の工夫の見せどころですね。ドドメに麻酔を何本も打ちましたが……」
「くい打ちは仮止め。雨が来ると持たない」
「ところで、陸橋、だそうですが、普通の橋とどう違うのです?」
「陸橋は歩道橋。だから、手すりが着く。歩道橋はひとのためにあるんじゃない。下を通るクルマのためにある。手すりは人がクルマの通行のじゃまをしないためにつけます」
「え? 手すり? 通せんぼ、しているのですか手すりは…手すりで第一、噛めますかね」
左側の歯のブリッジの話をしている。念のために聞いておこうか。
「まさか、歯ごとに擬宝珠をたてるのじゃないでしょうね、手すりはいいとしても」やりかねないのだ、この歯医者は。
「そんなことはしないよ。保険の適用外だからね」
健康保険が適用されればやりかねないところだったのだ。危ないところで犬釘を一本。
この歯医者はヒトの口の中に歩道橋を造ろうとしている。そんな無法が許されるのか。
開いた口がふさがらない。「口を開けてください」口はふさがっていた。顎が外れていた。