今、公文公(くもん とおる)さんの評伝『現代ソフィスト伝 公文公は教育に何を見たか』(村田一夫、公文さんの元側近です)を読んでいます。700ページ近い大冊です。
この文章はこの本を見つける以前に構想したものです。読み終わってよほど新しい事実が出てこないかぎりこの文の主旨は変りません。
水道方式という名前
水道方式とは、「算数教育で、最も標準的な問題を先に学習させ、しだいに特殊な問題を解答させていく、筆算中心の学習方式。『一般から特殊へ』の方針を、上水道が貯水池から給水系統に分かれていくことにたとえた呼称。(遠山啓(とおやま ひらく)さん らが開発)
水道方式は詳しい理論書があります。読んでみると、整然としている反面、理論先行の機械的な感じがします。
(結果だけを求める公文さんはこの理論先行のところが、成果を求めるじゃまになると批判していたようです)
水道方式は旧文部省の妨害とは逆に、教科書会社が黙って教科書に取り入れていったという点で大きな影響を与えました。
公文式… 難度順の問題に「標準完成時間」を設定し「理解」より先に「できる」ということを優先します。間違ったところを確実に訂正させ、できるまで繰り返します。
公文式は教材研究を企業化することで、より精密に教材開発ができるようになり、教材の量と質が上がった。
公文式は企業化の成功で広く行われ、他教科、他国での事業展開で現在に至っている。
徹底した「繰り返し」、「速度追求」が公文式の特徴であると同時に問題点であることが論争になっています。
ただし、公文さんの真意が公文式講師にどれだけ理解されているかは疑問です。(なかなかわかりにくい人のようです)
また、方針をめぐり公文式塾講師から独立する者が後を絶たない。
きっと、公文式が本領を発揮するためには公文さんの真意を理解する必要があるのでしょう。
わたしは生半可に公文さんの指示だけ鵜呑みにすれば害がある方法だと思います。
◎似ているところ
*徹底したケースの分類と繰り返しでの合理的な訓練
*特に算数の計算の取り扱い方はうり二つである
*共に微積分を最終の学習目標にしている
(現代数学よりも工学や物理学とのかかわり(量)を重視している)
◎似ていないところ
◉公文式 徹底した訓練・結果主義
*プリントの解答達成をもって理解ととらえる
*解けたらどんどん先に進む、解けなければ何度でも繰り返し
*最初から学校というワクを考えず、自学自習できるしくみを求めている。
◉水道方式 訓練主義を通して法則・概念を身につけることを目的にしている。
*学校というワクの中での学習を当然としている。
そのためには教師の力量に頼り、教師という集団の支持を必要としている。
*その結果、反旧文部省の教師と結びつくこととなり、旧文部省から学校で水道方式を取り入れないように圧力がかけられる。
合理的な訓練という方法論ではよく似た両者ですが、そのプロセス、最終目的では全く違った方向へと向かったわけです。
学校の教師をよりどころにした水道方式は学校教育というワクの中で揺れ動きましたが、
初めから学校を無視した公文式は逆に学校というワクに影響を与えない(学校と共存?できる)
という皮肉な状況となっています。