【以下ニュースソース引用】
暴れる、ものを壊す、家のお金を盗んで課金…増える小学生の「ゲーム依存」とは 専門医に聞く
配信
スマートフォン(スマホ)やタブレット端末、ゲーム機が普及して、デジタルゲームは身近なものになりました。
小学生もゲームに触れる機会が増えていますが、夢中になりすぎて日常生活に支障を来すケースも出てきています。
ゲーム依存に詳しい、久里浜医療センター名誉院長で精神科医の樋口進さんに話を聞きました。
■WHOがゲーム依存を「病気」と認定
――「子どもがずっとゲームばかりしているが、大丈夫だろうか」「ゲームをするときの約束を決めたはずなのに、最近、守れなくなってきた」などと心配する親御さんは少なくありません。
ゲームには、やめたくてもやめられなくなる「依存性」があることがわかっています。
依存にまでに至らなくとも、長時間のゲームによって学業など日常生活に悪影響が出ている人もたくさんいます。
世界保健機関(WHO)は2019年、新しい国際疾病分類(ICD-11)に「gaming disorder」を収載しました。gaming disorderは「ゲーム行動症」と和訳され日本語の正式な病名となっていますが、いわゆるゲーム依存やゲーム障害と同じと考えて差し支えありません。
つまりWHOが、「ゲーム依存は病気であると正式に認めた」ということです。(※記事では一般の人にわかりやすいように「ゲーム依存」と表記します)
――ゲームに夢中になってやめられないことは誰にでもあると思いますが、どこからが病気なのでしょうか?
次の四つの症状が当てはまる場合に、「ゲーム依存」と診断されます。
・ゲームのコントロールができない(たとえば、ゲーム時間を減らそうと思っても実行できないなど)。
・生活の中でゲームを最も優先させ、ゲーム中心に生活が回っている。
・ゲームによって学業や仕事、家庭生活、健康などに著しい影響が出ていて、不登校などの社会的な問題が起きている。
・こうした問題が起きていても、ゲームをやり続ける。
WHOの診断基準は、「上記の4項目のすべてが当てはまり、12カ月以上続く場合」としていますが、重症化している場合などは継続時間が12カ月より短くてもゲーム依存と診断されることがあります。
特に小中学生では短期間で重症化しやすい傾向があります。
■「ゲーム依存」は男子に多い傾向
――ゲーム依存の人は増えていますか?
正確なデータはありませんが、ゲーム産業のマーケットは年々広がっているので、ゲーム依存の患者数も増えていることは間違いありません。
久里浜医療センターでは2011年に「インターネット依存専門外来」を設置して以来、受診者数は年々増加し、ここ数年は年間延べ約2500人を超えています。
動画やSNSへの依存もありますが、受診者の約9割はゲーム依存です。
――小学生以下はどのくらいいるのでしょうか?
ゲーム依存の患者は10代から20代が中心ですが、年々低年齢化しています。
2016年までは12歳以下はゼロだったのに、その後毎年増え続け、現在は新規受診者の2割近くを12歳以下が占めています。
これまでの受診者の最年少は、小学1年生でした。
――男女どちらが多いといった特徴はありますか?
男の子のほうが圧倒的に多いですね。これまで私が診察した12歳以下の患者さんは女の子は1人だけで、あとは全員男の子でした。
もともとゲームは男の子に好まれる傾向があって、どの年代でも男性のほうが女性よりも割合が高くなっています。
女の子はゲームよりもSNSや動画配信にハマりやすいですね。
男の子はシューティングゲームや格闘系のような順位を競ったり、勝ち負けがはっきりしたりするゲームを好むことが多く、こういったタイプのゲームは依存性が高いことが知られています。
女の子はあまり依存性が高くない育成系やパズル系のゲームを好む傾向があります。
■小学生でも暴言や暴力、不登校、高額課金も
――ゲーム依存になるとどのような問題が起きるのでしょうか?
健康面では、睡眠障害はほぼ全員に見られます。
運動不足やきちんと食事を取らないことによる体力の低下ややせ、目の使い過ぎで近視が進む子も少なくありません。
またゲーム依存は脳のさまざまな部位の萎縮を引き起こし、脳の機能に影響を及ぼしていることも示唆されています。
生活・社会面の問題では、朝起きられない、昼夜逆転、欠席が増える、ものを壊す・ものに当たる、暴言・暴力、食事を取らない、勉強に集中できない、成績が落ちる、友だちとの関係が悪化、不登校・ひきこもりなどの深刻な問題が起きています。
――小学生では、どのような症状が見られますか?
当院を受診する小学生では、暴言や暴力が目立ちます。
暴れる、大声を出す、ものを壊すといった類の割合が、中学生以上に比べてとても高いです。
ゲームをなかなかやめない子どもに対して、親が「まだ小学生だから親の言うことを聞くだろう」と、スマホを取り上げたり、インターネットの接続を強制的に切ったりしてゲームを物理的にできなくすると、子どもは尋常でないほど大暴れをする
――そういうことを繰り返しているうちに親ではどうにもならなくなって我々のところを受診してくるケースが非常に多いですね。
不登校も多いです。
受診前6カ月のうち3カ月以上不登校が続いているお子さんがだいたい6割から7割ぐらいいます。
また小学生でもほぼ全員がゲーム課金をしています。
少額の課金は自分の小遣いから出している場合が多いですが、課金額が増えてくると、家に置いてあるお金を盗んで電子マネーに変えるとか、祖父母の財布から盗むとか、親のクレジットカードで勝手に番号を入れる場合も少なくありません。
月に何十万円も課金している子もいます。
国民生活センターのインターネット関連の消費相談で最も多いのは小学生に関する相談で、その相談内容の多くを「多額のゲーム課金」が占めています。
――「たかがゲーム」では済まないですね。
ゲーム依存を放置すれば、直近の学業や社会生活に支障が出るだけでなく、将来にも影響します。
インターネットやゲームは依存の危険を孕(はら)んでいることを、親御さんにはぜひ認識しておいていただきたいと思います。
(取材・文/熊谷わこ)
○樋口 進(ひぐち・すすむ)医師/精神科医。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター名誉院長。1979年東北大学医学部卒。米国立保健研究所留学、国立久里浜病院臨床研究部長、同病院副院長、2011年に同病院院長となり、わが国初のインターネット依存専門外来を開設し、診療を開始した。2022年から現職。WHO物質使用・嗜癖行動研究研修協力センター長、慶應義塾大学医学部客員教授を兼務。
熊谷わこ
【関連記事】