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「このまま死ぬんじゃないか」と思うほど苦しいのに…なかなか理解されない"パニック障害"の深刻さ

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プレジデントオンライン

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

 

ジャニーズ事務所(現・SMILE-UP)前社長の藤島ジュリー景子さんのほか、多くの芸能人やスポーツ選手が「パニック障害」の罹患経験を公表している。

 

パニック障害とはどんな病気なのか。精神科医の井上智介さんは「パニック障害は、誰がなってもおかしくない疾患だが、イメージと実態のずれが大きい病気の一つ。

 

発作が起きると、死を覚悟するほどの深い恐怖に襲われるつらい病気だ」という――。

 

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■芸能人らが罹患経験を公表

 

  昨年は、ロックバンド、Dragon AshのKj(降谷建志)さん、ユーチューバー東海オンエアのしばゆーさんらがパニック障害を公表して活動を休止したほか、ジャニーズ事務所(現・SMILE-UP)前社長の藤島ジュリー景子さんも、記者会見で読み上げられた手紙の中で、パニック障害と診断されたことを明かしました。

 

過去には、星野源さん、KinKi Kidsの堂本剛さん、長嶋一茂さん、元King & Princeの岩橋玄樹さん、元プロ野球選手の小谷野栄一さんらも、罹患(りかん)経験があることを公表しています。

 

  「パニック障害」は、100人に1人の人が発症するといわれていて、いつ、誰がなってもおかしくありませんが、なかなか理解されておらず、イメージと実態のズレが大きい疾患の一つです。

 

  かかる人が増えているわけではありませんが、罹患経験を公表する有名人が多いからか、「自分もそうかな」「無理せず病院に行ったほうがいいかも」と、病院に足を運ぶ人が増えている印象はあります。

 

 ■前触れなく起きる「パニック発作」

 

  パニック障害の症状は、主に「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」の3つがあります。

 

  一つ目の症状のパニック発作は、何の前触れもなく、急に体じゅうの血の気が引いて、動悸(どうき)やめまい、冷や汗、息苦しさといった呼吸困難の症状があらわれます。

 

発作は10分~20分くらい続きます。

 

  「パニック」という言葉の響きが、それほど深刻さを感じさせないせいか、軽くとらえられてしまうことが多いのですが、実際は超緊急事態レベルのことが体に起きて、時に死を覚悟してしまうほどの恐ろしい感覚に襲われます。

 

  「海の中で泳いでいるとき、突然何かに足をつかまれ底の方に引きずり込まれるような感覚。

 

もうこのままおぼれて死んでしまうんじゃないかと思う」と表現する人もいます。

 

それほどに強い恐怖心が突如襲ってくるのがパニック発作です。

 

  こうした発作が起きるときには、何か引き金になるものがあるのですが、それは人によって異なります。

 

よくあるのは、電車や飛行機、高速道路、エレベーターなど「閉鎖的な空間」にいるときです。

 

つまり、すぐに降りられない、今すぐ逃げられない、そういう状況になったときに不安や焦りが増して、パニック発作が出てしまうのです。

 

電車だと、「特急は発作が出てしまうけれど、普通列車だと大丈夫」という人もいます。

 

■職場の環境が引き金になることも

 

  職場の環境が引き金になることもあります。

 

たとえば、ずっとデスクにいなければいけない状況や、会議室、エレベーターなどのように閉鎖的な空間で、複数の人が集まって話しているときも起こりやすくなる人もいます。

 

  また「急かされる状況」が苦手な人も多く、締め切りやノルマが厳しいことが発症のきっかけになることもあります。

 

  閉鎖的な空間や、急かされる状況が引き金になることは多いですが、ほかにも、会社の集まりや飲み会などの人が集まる場や、暑すぎたり寒すぎたりするところなどの、「不快な環境」が発作につながる人もいます。

 

特に冬は危険な季節です。

 

防寒のためにコートやマフラーを着込んでいるところに、電車に乗ると暖房がきいていて、さらに雨や雪だといきなりムシムシした環境になって不快感が増すので、パニック発作が起こる人が増加します。

 

 ■前に発作が起きた場所に行けなくなる

 

  「予期不安」も厄介です。予期不安とは、一度パニック発作が出た場面を脳が覚えていて、また同じ場所に行こうとすると、体が硬直したり、過呼吸になったり、震えが止まらなくなったりすることです。

 

  前におぼれそうになった海に、また行くようなもので、「またおぼれるんじゃないか、死にそうになるんじゃないか」という恐怖心に襲われてしまう。

 

本人が頑張って行こうとしても、体が全力で拒否して、本当に体が動かなくなるのです。

 

過去に電車の中でパニック発作が起きた人の場合は、「また同じことが起きるのではないか」という不安から、改札を入ってホームまでは来たものの、どうしても電車に乗ることができず、遅刻したり、休まざるをえなくなったりすることがあるのです。

 

会社に行けなくなることもあります。

 

 ■苦手な場所が広がり行動範囲が狭まってしまう

 

  3つ目の症状は「広場恐怖」です。

 

予期不安が、一度行ったところにもう一度行くことに対して恐怖心が出るのに対し、広場恐怖は、初めて行く場所であっても、過去に発作が起きた場所と似た場所に行くことに対して、強い恐怖心が出ます。

 

  たとえば電車で発作が出た人が、同じように閉鎖的な空間で移動する飛行機やバスなどの乗り物にも乗れなくなる。

 

さらに、自由に動くことができず拘束された状態になる、歯医者や美容院などにも行けなくなる。

 

こうして苦手な場所が連鎖的に広がり、行動範囲が狭まって、行動が制限されてしまうようになるのです。

 

■病院に行きたいのに行けない 

 

 本当は、症状が深刻になればなるほど、受診して治療することが必要なのですが、広場恐怖のために行動が制限され、「電車に乗れないので病院に行けない」「病院そのものに恐怖感が生まれてしまう」などで、治療がなかなか進まなくなることも少なくありません。

 

  医師としては、調子が悪いときほど、頻繁に病院に来てほしい一方で、患者さんにその都度、苦手な乗り物に乗るという負担を強いることになるのでジレンマに陥ります。

 

本人も、「行きたいけれど行けない、たどりつけない」という、つらい状況になります。

 

 ■治療は服薬と生活習慣の改善から 

 

 このように、パニック障害は非常に深刻でつらい病気です。

 

しかも、原因がはっきりわかっておらず、誰がなってもおかしくありません。

 

  ただ、もともと感受性が強い、不安や恐怖を感じやすいといった性格要因や、強いストレスにさらされることがきっかけになるといった環境要因もあるといわれています。

 

ですから、パニック障害と診断された人は、なるべくストレスを避けて過ごすことが大切です。 

 

 治療は簡単ではありません。

 

「抗不安薬」や「抗うつ薬」といった薬を使って、パニック発作が出にくくなるよう抑えたり、できるだけストレスを抱え込まない生活習慣に変えていくなど、本人の状態に合わせて複数の方法を組み合わせて対応していきます。

 

睡眠をしっかりとったり、趣味でリフレッシュしたりして、自分のコンディションを整えることに加え、食事にも気を付ける必要があります。

 

カフェインをとると発作が出やすいといわれているので、カフェインを摂るのも控えるようにします。

 

  こうして、服薬や生活習慣の改善などで、できるだけ発作が出ないようにしながら、苦手な環境に少しずつ慣れていきます。

 

■1、2年かかることもざら

 

  一度パニック発作が出て怖い思いをした場所には、二度と行きたくないと思うものです。

 

しかし治療のためには、自分に「あの時とは違うから大丈夫」と言い聞かせながら、少しずつ何度もトライして、「大丈夫だった」という成功体験を積み重ねていかなくてはなりません。

 

たとえば電車に乗ることに恐怖感がある場合、まず各駅停車の電車に、ひと駅分乗ってみる。

 

それができたらふた駅分……と、少しずつ距離を延ばしていきます。

 

  何度かうまくいっても、また発作が出てしまうこともありますし、一進一退を繰り返しながらの治療になります。

 

医師は、本人の様子を見て薬を処方しながら応援します。

 

こうして、少しずつ苦手な場所に慣れていくというプロセスは、病院の心理士などの専門家のアドバイスを受けながら進める必要があります。

 

病状に応じてステップの区切り方を二人三脚で決めていくことが重要だからです。

 

自己判断で取り組んでは、ステップの大きさを見誤ることもありますし、うまくいかないときに心が折れてしまいやすいので、注意してください。

 

  パニック発作の頻度を減らすだけなら、服薬や生活習慣の改善で、正味3カ月ぐらいでコントロールできるようになる可能性がありますが、それですぐに毎日会社に行けるようになるわけではありません。

 

そこから恐怖感を乗り越え、苦手だった環境に慣れて社会活動ができるようになるには、1年、2年とかかることもざらです。

 

 ■パニック障害を抱える部下がいたら

 

  産業医をしていると、上司の立場の人から「パニック障害を抱えている部下がいるが、どうしたらいいか」という相談を受けることがあります。

 

  パニック障害は非常につらい疾患ですが、周りからは軽く見られることも少なくありません。

 

発作自体は10分~20分くらいでおさまり、その後は仕事に戻れる人も多いため、周りからは「気の持ちようなのではないか」「それくらい我慢できないのか」と、根性論を持ち出されたり、発作が出ると「またか」と嫌な顔をされたりすることもあるようです。

 

  上司までもがこうした対応をするのはもってのほかですし、ほかの人がそうした対応をすることのないよう、上司は心を配り、常に部下の「味方」でいてほしいと思います。

 

不安やストレスは回復を妨げ、症状を悪化させる可能性があります。

 

できるだけ、急き立てたりせず、締め切りに余裕を持たせるなどの、配慮をするようにしてください。

 

  部下がパニック障害だとわかったら、まず本人に、次の3点を確認してください。

 

  ①どんな状況が苦手なのか 

 

 どんな状況が発作の引き金になりやすいかを確認し、そうした状況を避けるためにどうしたらいいか、話し合います。

 

  不快と感じる環境は、人によって異なります。

 

たとえば大きい音が苦手な人なら、席を、プリンターなど急に音のする機械から離します。

 

明るすぎる場所が苦手な人なら、蛍光灯の真下の席を避けるなど、できるだけ本人が落ち着ける場所を探しましょう。

 

閉塞(へいそく)感のある個室が苦手であれば、できるだけ打ち合わせはオープンスペースでするようにしたり、オンラインで参加できるよう調整することなどが考えられます。

 

しっかりとヒアリングし、話し合って対策を考えてください。

 

 ②発作が起きたときの対応

 

  パニック発作が起きたときに、周りの人にはどう対応してほしいと考えているのか、あらかじめ聞いておきます。

 

  パニック発作を目の当たりにした周りの人たちは、驚いて救急車を呼ぼうとするかもしれません。

 

しかし、発作は10分~20分もすれば落ち着きますし、本人は非常に苦しくつらいものの、命に別状はありません。

 

救急車が到着するころには、発作がおさまって何ともないということもありえます。

 

本人も、あまり大ごとにしてほしくないと考えていることもあります。

 

  本人が、「発作が出たら、その場を離れて、ゆっくり休める場所がほしい」と言う場合は、休憩室やロッカー室、空いている会議室など、一人で休める場所を決めておきましょう。

 

また、会議中に発作が出そうになったら、その場を離れてもいいなど、伝えておくといいでしょう。

 

  また、発作が出ると動けなくなるので、そのときに具体的に何をしてほしいのかも聞いておきましょう。

 

薬を手渡してほしいという場合は、薬がどこに置いてあるか共有しておきます。

 

また、発作中はペットボトルのキャップも開けられなくなることがあるので、水を飲ませてほしいという場合は、どのようにサポートすればいいのか、聞いておきます。

 

  ③発作が長引いたらどうするか

 

  発作が通常、どれくらい続くのかを聞いておきます。

 

あわせて、発作が長引いた場合はどうしてほしいかも、聞いておきましょう。

 

  パニック発作は10分~20分でおさまることが多いですが、1時間を超えてもおさまらない場合は、他の疾患の可能性があります。

 

「発作が1時間でおさまらない場合は、救急車を呼ぶ」などと、あらかじめ決めておくと、お互いの安心感につながります。

 

 ■病気そのものに加え周囲の無理解にも苦しむ 

 

 パニック障害は、誰でもかかる可能性がある病気です。

 

大人だけでなく、子どももかかる可能性があります。

 

耳にしたことがある人が多いわりに、どんな病気なのか知っている人は、まだまだ少ないように感じます。

 

そして患者さんたちは、症状のつらさに加え、周囲の無理解でつらい思いをしている人が少なくありません。

 

  少しでも多くの人がこの病気について理解を深め、患者さんたちが安心して治療に向かえるようにサポートしてあげてほしいと思います。

 

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 井上 智介(いのうえ・ともすけ) 産業医・精神科医 産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。

 

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産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子

 

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