「そろそろ帰ろうか?」
そう言い出したのは私の方であった。
正直、彼らの宴会には終わりが無い。
そんな私の申し出に今日子は寂しいそうに頷いた。
「俺の嫁さんが送っていくよ!」
そう言い出したのは勝又であった。
勝又の妻の美代子はお水丸出しの癖に酒が一滴も飲めない。
それで、市内に数件の飲み屋を経営してるのだから大した物である。
私はこの女が昔から好きではなかったが、勝又がこうして好き勝手に生きられるのも彼女のおかげである。
しばらくするとジープのエンジンの音が聞こえた。
それは、私達の宴会の終わりを告げる合図のようであった。
「勝又!また、連絡をするよ!」
そんな私の言葉に彼は言った。
「お前の連絡するほど、当てにならない物は無いからな!期待しないで待ってるよ!」と
ジープに乗ってる美代子を見つめ今日子は呟いた
「綺麗な人ね!そして、寂しそうな人・・・」と
私はそれの言葉を無視するように今日子の手を引き皆に別れの挨拶をするとジープに乗り込んだ。
美代子は寂しい女であった。いや・・多分、勝又と結婚した今でも彼女の心には孤独感と言う何とも面倒な気持ちが居座ってる。
私だけが知ってる・・美代子の心の孤独・・・
それは、旦那である勝又にも言う事は出来ない。
なぜなら、それを言ってしまう事は彼との別れを意味するからだ。
「準備は良い?」
二人の顔を見ながら美代子はそう言い車を発進させた。
美代子の横顔が月明かりに美しく照らされていた。
昔からこの女は変わらない。何時も妖艶ななんとも表現できない危険な香を漂わせている。
実は、私はこの女を一度だけ抱いた事がある。
多分、勝又が彼女に入れあげていて彼女が勤める店に通い始めた頃であったと思う。
どう言う経緯でそうなったのか、もう記憶は定かではないが、ある言葉だけは鮮明に覚えている。
行為が終わりタバコを吸いながら美代子は私に言った。
「私を誰とでも寝る尻軽女だとは思わないでね!私はね!あなたに今夜、勇気をあげたのよ!」と
正直、今でもその言葉の意味は私には解らない。
しかし、多分、私がこの女を苦手だと思い始めた始まりの言葉であったと思う。
私の全てを見透かしたような美代子の言葉や態度が嫌でたまらなかった。
ジープは快調に山道を抜け長岡の温泉街まで辿り着いていた。
ホテルの駐車場に入り今日子が先に下りると美代子は私の耳元に顔を近づけ呟いた。
「誠!あんた、あの女を愛してはダメよ!あの女はダメ・・・厄介な男がいるから・・」
私は美代子の甘い香に朦朧となりその言葉をあまり気にもしていなかった。
「美代子さん!あいつを頼みます・・あいつは良い奴だから・・」
そう車を降りながら私が言うと・・
「余計なお世話よ!」と美代子は笑いながら言った。
ふと、走り去るジープを見送りながら美代子の言葉を思い出す。
「今日子を愛してはいけない・・」
そんな事は当たり前だ!それに彼女はあくまでも仕事上の商売相手でしかないのだ。
ただ、最後の厄介な男と言う言葉だけが気になった。
これだけ美人で優秀な女性なのだから男が居ない訳はないと思っていた。
ただ、きっと、商売女の鋭い勘なのだろうか?それを私に言うと言う事は、相当な厄介な男に違いない・・
気をつけよう!今は、契約の事だけに専念しなければ・・そうだ、私は接待をしにこの場所に来たのだから・・
「坂本さん!早く!」
旅館の入り口で今日子がまるで恋人でも呼ぶような笑顔で私を呼んでいた。
あの女を愛してはいけない・・
そんな言葉を何度も繰り返しながら私は今日子の元にゆっくりと歩き出した。