僕が死ぬ日・・生まれる日 -9ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「そろそろ帰ろうか?」


そう言い出したのは私の方であった。


正直、彼らの宴会には終わりが無い。


そんな私の申し出に今日子は寂しいそうに頷いた。


「俺の嫁さんが送っていくよ!」


そう言い出したのは勝又であった。


勝又の妻の美代子はお水丸出しの癖に酒が一滴も飲めない。


それで、市内に数件の飲み屋を経営してるのだから大した物である。


私はこの女が昔から好きではなかったが、勝又がこうして好き勝手に生きられるのも彼女のおかげである。


しばらくするとジープのエンジンの音が聞こえた。


それは、私達の宴会の終わりを告げる合図のようであった。


「勝又!また、連絡をするよ!」


そんな私の言葉に彼は言った。


「お前の連絡するほど、当てにならない物は無いからな!期待しないで待ってるよ!」と


ジープに乗ってる美代子を見つめ今日子は呟いた


「綺麗な人ね!そして、寂しそうな人・・・」と


私はそれの言葉を無視するように今日子の手を引き皆に別れの挨拶をするとジープに乗り込んだ。


美代子は寂しい女であった。いや・・多分、勝又と結婚した今でも彼女の心には孤独感と言う何とも面倒な気持ちが居座ってる。


私だけが知ってる・・美代子の心の孤独・・・


それは、旦那である勝又にも言う事は出来ない。


なぜなら、それを言ってしまう事は彼との別れを意味するからだ。


「準備は良い?」


二人の顔を見ながら美代子はそう言い車を発進させた。


美代子の横顔が月明かりに美しく照らされていた。


昔からこの女は変わらない。何時も妖艶ななんとも表現できない危険な香を漂わせている。


実は、私はこの女を一度だけ抱いた事がある。


多分、勝又が彼女に入れあげていて彼女が勤める店に通い始めた頃であったと思う。


どう言う経緯でそうなったのか、もう記憶は定かではないが、ある言葉だけは鮮明に覚えている。


行為が終わりタバコを吸いながら美代子は私に言った。


「私を誰とでも寝る尻軽女だとは思わないでね!私はね!あなたに今夜、勇気をあげたのよ!」と


正直、今でもその言葉の意味は私には解らない。


しかし、多分、私がこの女を苦手だと思い始めた始まりの言葉であったと思う。


私の全てを見透かしたような美代子の言葉や態度が嫌でたまらなかった。


ジープは快調に山道を抜け長岡の温泉街まで辿り着いていた。


ホテルの駐車場に入り今日子が先に下りると美代子は私の耳元に顔を近づけ呟いた。


「誠!あんた、あの女を愛してはダメよ!あの女はダメ・・・厄介な男がいるから・・」


私は美代子の甘い香に朦朧となりその言葉をあまり気にもしていなかった。


「美代子さん!あいつを頼みます・・あいつは良い奴だから・・」


そう車を降りながら私が言うと・・


「余計なお世話よ!」と美代子は笑いながら言った。


ふと、走り去るジープを見送りながら美代子の言葉を思い出す。


「今日子を愛してはいけない・・」


そんな事は当たり前だ!それに彼女はあくまでも仕事上の商売相手でしかないのだ。


ただ、最後の厄介な男と言う言葉だけが気になった。


これだけ美人で優秀な女性なのだから男が居ない訳はないと思っていた。


ただ、きっと、商売女の鋭い勘なのだろうか?それを私に言うと言う事は、相当な厄介な男に違いない・・


気をつけよう!今は、契約の事だけに専念しなければ・・そうだ、私は接待をしにこの場所に来たのだから・・


「坂本さん!早く!」


旅館の入り口で今日子がまるで恋人でも呼ぶような笑顔で私を呼んでいた。


あの女を愛してはいけない・・


そんな言葉を何度も繰り返しながら私は今日子の元にゆっくりと歩き出した。

国道1号線を三島から芦ノ湖方面に上って行く。


きついカーブが何度も連続してありバイク乗りには何とも楽しいコースである。


芦ノ湖を過ぎるとそのまま強羅方面に向かい途中のレストランで食事をした。


「芦ノ湖まで戻って遊覧船に乗りましょうよ!」


今日子のそんな提案で強羅方面から再び芦ノ湖に戻り1時間ちょっとのクルージングとしゃれ込んだ。


「これから何処に行く?」


時計を見ると2時を少しだけ過ぎていた。


「見せたい物があるんだ!このまま伊豆スカに乗って一気に稲取方面に行くけど大丈夫かい?」


そんな私の言葉に「馬鹿にするな!」と言いたげに今日子はガッツポーズをしながら笑った。


お気に入りの場所があるんだ!凄くステキな夕日が見れる・・


昔はよく行っていたんだ!一人で・・


辛い事や生きる事に負けそうな時・・そんな景色が僕に勇気をくれた・・


丁度、海に太陽が傾き始めた頃・・私達は目的地の岬に到着しょうとしていた。


海面に真っ赤な夕日が沈もうとしていた・・


「うゎ~~~~~綺麗・・」


それを見た今日子は感動の雄叫びを上げた。


「綺麗だろ!ここの夕日・・・なんとなく心が洗われる気がしないか?

そして、自分の悩みなんて凄くちっぽけな気がするんだ!」


二人で何も話さずにただ、夕日を見つめていた。


不意に私の右手に温もりを感じた・・・


柔らかい今日子の手が何時の間にか私の手をしっかりと握っていた・・

真っ赤な夕日が今日子の横顔を赤く染めていた・・


「綺麗だ!」


思わずわたしは呟いてしまった。


「えっ?」


今日子は驚いたようにそう言うと私の顔を見つめた。


「い・・いや!夕日が、夕日が綺麗だと言ったんだよ!」


そんな私の苦しい言い訳に今日子は楽しそうに笑った。


「そろそろ行きましょうか?キャンプ場はここから1時間くらいかかりますから・・」


私はそんな重い空気を誤魔化すかのようにそう呟いた。


午後の6時・・


私達は綺麗に舗装された山道をひたすら頂上に向けて走っていた。


村おこしなどと言われ一時期のキャンプブームに乗っかって村が完全装備のキャンプ場を作ったのは10年程前の事である。


しかし、夏などは多くのキャンパーで活気がある山奥のキャンプ場も今の時期はすれ違う車さえ無い。


深い森を抜けると急に大きな近代的なキャンプ場が目の前に広がった。


こうこうとナイター設備の大型ライトがキャンプ場を照らしトイレやバーベキュー施設も充実している。


こんな設備をタダ同然で使えるのだから何とも有難い。


キャンプ場には2台の大型キャンピングカーと数個のテントが立てられていた。


まるで何処かの戦場の常駐キャンプのようである。


それを取り囲むように30台ほどのバイクが止まっていた。


私と今日子はバイクを降りるとゆっくりとテントに向う。


もう、酔っ払ってるライダーも数人見かけた。


「勝又!なんだ!随分と大掛かりに集まったじゃないか!」


「ああ・・最近、ここで宴会やってなかったからな!連絡入れたら皆、早退して大集合だよ!

まったく!ライダーって奴は・・」


ライダーって奴は・・しょうもない!


それが勝又の口癖だ!一番、しょうもない男の口癖がこれなんだから、目も当てられない。


女性グループが夕食の用意をしていた。今日子は自然とその輪に紛れ込みバーベキューの用意を始める。


「坂本!まぁ~一杯飲めよ!」


勝又が私にビールを差し出す。


「すまん!これでも一応は接待中なんだ!酔っ払う訳にはいかない!」


そう私が言うとあまりにも勝又が寂しそうな顔をするので、私は居たたまれなく「今夜は!無礼講だ!」と叫んだ!


そう、その言葉は自分自身に言った言葉・・


それに、ここまで皆がやってくれたのにくだらない事でへそを曲げる女ならこちらから願い下げだ!


「乾杯!坂本!お帰り!!」


あちらこちらでそんな乾杯の言葉が聞こえる!


「奥さん!おめでとう!幸せになってね!」


食事の準備をしていた今日子に皆がビール片手にそう言いながらビールを注ぎに行く!


オイオイ・・披露宴かよ!思わずそう突っ込みたくなったが、何だか嬉しくなって、そんな野暮な事を言うのは止めにした。


今日子は今日子で楽しんでいるようであった。


そうやら、何気に私のサプライズ接待は成功したように思えた・・・


「花火やろうぜ!」


静寂に包まれた森の中で・・季節外れの花火が何とも綺麗に咲き溢れていた・・・


「楽しいね!」


「ああ・・楽しいだろ!」


私達二人は、そう言い合いながら万遍の夜空の星を見上げた・・

「別にバイクでも良いのだけど条件が一つあるわ!」


不意にそう言われ私は少しだけ戸惑いの表情を見せる・


「条件とは?」


今日子はまるでおどけた少女のように微笑みながら言った。


「私に運転させてよ!」と


私は少しだけ驚きながら・・


「これは車の免許じゃ乗れないんだぜ!限定解除って言うバイクの免許がないと!」


そう私が言うと今日子は少しだけ誇らしげに財布から免許証を取り出す。


「これの事かしら?その、限定解除とか言う大層な物は・・」


驚いた事に彼女は限定解除の免許を持っていた。


そう言えば、私のマンションの地下の駐車場にピカピカのハーレーが一台、止まっている。


もしかして??あのバイクは彼女の物なのか?


「バイク・・好きなの」


そんな私の質問に・・


「好き?冗談じゃないわ!好きなんてものじゃないわよ!愛してる・・」


そう言いながら笑っていた・・・


「なら、2台で行こう!もう一台、用意するから・・」


私は急いで勝又に電話をした。


「何時でも取りに来いよ!バイクは売るほどあるのだから・・」


そうだ、彼はハーレーのバイクショップのオーナーなのである。


「よし!もう一台、確保出来たから2台でツーリングに行こうぜ!」


「まさに!サプライズね!こんな楽しい接待を受けた事が無いわ!」


そう言いながら今日子は嬉しそうにバイクのエンジンをかけた・・・


ドドドドド・・・・ッ!ドドドド・・・・・・・・ッ!


心地よい低音のエンジン音が嬉しそうに叫び始める。


「しっかり捕まっていなさいよ!あなた!年なんだからね!振り落とされないようにね!」


そう笑いながら今日子が呟くとバイクは静かに走り始めた・・・


今日子の背中の温もりが何とも安らぎを私に与えた・・


そして時折、無意識に触れる彼女の胸の柔らかさが私の心臓をドキドキと鼓動させた・・


真っ青な空がまるで私達を包み込むように、私達を包み込んでくれた。


そして、私の接待が始まった。


国道136号線を国道1号線に向う。


1号線にでると左折して静岡方面に少し行くと勝又のバイクショップが立っていた。


既に外で彼はバイクのエンジンをかけて調子を見ていた。


「悪いね!何度も無理なお願いを・・」


「別に!今に始まった事ではないし・・」


そっけなくそう言うとバイクの運転席に座っている今日子をジロリと睨みつけた。


「お前にしては随分と美人と一緒に居るな!まぁ~うちのかみさんには負けるけど!

お嬢さん!悪いが、そのバイクは坂本専用でね!君のバイクは用意したから乗り換えもらえるか?」


このバイクは・・・そうだ、こいつとの思い出のバイクであった。


私が勝又と初めで出会った時の思い出のバイクである。


今日子は少し戸惑いながらバイクを降りると用意された他のハーレーに乗り換えた。


「ステキなバイクですね!とても可愛がられているのが解ります!」


今日子はそのハーレーのタンクを優しくなぞりながらそう呟いた。


「気に入った!ねぇ~ちゃん!」


勝又は少し興奮気味にそう言った。


「坂本!今夜は宴会やろうぜ!何時ものキャンプ場に6時だ!」


勝又は何時もそうだ!相手の都合などまったく気にしない。


それにしても今日子を気に入るとはあの女を妻にした男にしては女を見る目がある。


私はどうも、勝又の奥さんが苦手であった。少しだけ気が強いと言うのか・・威圧感があると言うのか・・


「えっ!キャンプ場で宴会ですか!またしてもサプライズ!楽しみにしています!

それでは、この子をしばし、お借りします」


そう言いながら今日子はハーレーのエンジンをかけた。


「とりあえず、箱根に行きましょう!」


そう私は今日子に言うと国道1号線を箱根に向かい走り出した。