自分の部屋に戻りとりあえず大浴場に向う。
24時間使えるのが有難い。
温泉に入りながらさて、明日はどうしたものかと考えていた。
「接待の究極はお客ではなく自分が楽しむ事ですよ!」
そんなチームの接待担当の言葉を思い出す。
自分が楽しむ事ね~この町で私が楽しむ事・・・
私が楽しいと思う事・・・そうだ!これしかない!
私は急いで体を洗うと大浴場を出て携帯電話を取り出した。
時間は12時を少しだけ過ぎていた。
まだ、大丈夫だ!きっと、あいつは仲間と飲んでるに違いない。
数回のコールの後、ケタタマシイ音楽を背に電話が繋がる。
「よう!久しぶりだな!」
あいつは少しだけ照れたようにそう言った。
「ああ・・久しぶりだ!元気にしてるか?また、飲んでるのか?」
「えっ・・まぁ~これも仕事のうちさ!」
「都合の良い仕事だな!」
「なんだ!いきなり電話をして来て説教か?」
「いいや・・お前に頼みがあるんだ。」
「ほぉ~坂本が俺に頼みとは珍しいな!」
「ああ・・お前にしか頼めない事だよ!」
「怖いな!酔いが冷めちまうから早く言えよ・・」
「バイクを1台、用意してくれないか?あと、男性用と女性用のウエアーを一式。」
「なんだ!女用もか?何だやっと、お前も身を固めるのか?冗談だろ?ツーリングか?」
「いや・・接待だよ!」
彼の名前を勝又純一と言う。私がこの街に住んでいた時に知り合った。
私の唯一の親友と呼べる男である。
「それで・・サイズは?その女の?お前何処に泊まってるんだ?」
「ああ・・長岡のしのぶと言う旅館だ!それでサイズはな!大体だが・・・」
「解った!6時にしのぶの駐車場に持って行く!それにしてもしのぶとは随分とリッチな所に泊まってな!
俺なんか一生、そんな宿には泊まれない・・」
「嫌味だな・・会社の金だよ!接待だから・・」
そう私は呟くと静かに電話を切った。
次の朝、早朝に私は駐車場に立っていた。
響き渡る低音のエンジン音が静かな温泉街に響き渡る・・
相変わらず近所迷惑のバイクだ・・しかし、良い音だ・・・
そんな事を考えて居ると一台のバイクと一台の大型のジープが現れた。
「勝又!悪いな!無理を言って・・」
バイクから巨体を揺らしながらまるでプロレスラーのような男が降りて来た。
隣のジープにはまるでファッションモデルのような美しい女が私を見つめ笑っていた。
「バイクはこれで良いよな!お前が乗ってるハーレーと同じタイプだ!自分のバイクは東京か?」
「いや・・もう、バイクは止めたんだ!なんとなくな・・」
「そうか!寂しいな・・」
悪人面の勝又が少しだけ寂しそうな顔をした。
「ウエアーと靴はこれな!予算を聞いていなかったので適当に持ってきた!」
「ああ・・悪い!うちの会社に請求書を送っておいてくれ!」
「あっ・・あと、これ・・」
私はジープの女・・いや、正確には彼の奥さんに見つからないようにそっと、封筒を手渡した。
「おい!余計な事をするなよ!いらないよ!こんなの・・」
「迷惑料だ!今でも金に厳しいんだろ?嫁さん!何かの足しにしてくれ・・」
そう言いながら無理やりに彼のポケットに封筒をねじ込むと勝又は少しだけ嬉しそうに笑った。
8時になり私は今日子の部屋に内線をした。
「そろそろ朝食の準備が出来たようですが、お運びしても大丈夫でしょうか?」
そんな私の口調に今日子は少しだけ不機嫌そうに「大丈夫だ!早く持って来い!」とおどけて命令口調で言った
昨夜の言葉をふと、思い出す!「丁寧語は嫌いなの・・仕事の時は別だけど・・」
昨日、必死で彼女が報告書を仕上げたのは、きっと、今日を休日にするためだったに違いない。
朝食を食べ終わると私は笑顔で持参した紙袋を差し出した。
「これに着替えろよ!それで、君の事は今日は何と呼べば良いのかな?俺は誠で良いよ!」
そう私が言うと今日子は少しだけ嬉しそうに・・「今日子で良いよ!」と呟いた。
「何よ!これ??皮ジャンにジーパン?それに、このジャラジャラアクセサリーは?」
「本日のサプライズの衣装でございます!サイズは私の目分量なので少々、自信がございませんが・・」
手に取ったど派手なTシャツを見つめ!バストが入るかしら?私、着やせするタイプなの・・と笑いながら言った。
それから20分後、私はハーレーのエンジンをかけてた。
入り口で着替えて待っていた今日子は驚きの顔をした。
「まさか!バイクで行くの!」
そんな彼女の言葉に私は笑顔で言った!
「サイコーの休日をお前にくれてやるよ!」と・・
そんな私の言葉に今日子は笑いながら・・
「にあわね~~~~!馬鹿じゃないの!」と呟いた。