僕が死ぬ日・・生まれる日 -10ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

自分の部屋に戻りとりあえず大浴場に向う。


24時間使えるのが有難い。


温泉に入りながらさて、明日はどうしたものかと考えていた。


「接待の究極はお客ではなく自分が楽しむ事ですよ!」


そんなチームの接待担当の言葉を思い出す。


自分が楽しむ事ね~この町で私が楽しむ事・・・


私が楽しいと思う事・・・そうだ!これしかない!


私は急いで体を洗うと大浴場を出て携帯電話を取り出した。


時間は12時を少しだけ過ぎていた。


まだ、大丈夫だ!きっと、あいつは仲間と飲んでるに違いない。


数回のコールの後、ケタタマシイ音楽を背に電話が繋がる。


「よう!久しぶりだな!」


あいつは少しだけ照れたようにそう言った。


「ああ・・久しぶりだ!元気にしてるか?また、飲んでるのか?」


「えっ・・まぁ~これも仕事のうちさ!」


「都合の良い仕事だな!」


「なんだ!いきなり電話をして来て説教か?」


「いいや・・お前に頼みがあるんだ。」


「ほぉ~坂本が俺に頼みとは珍しいな!」


「ああ・・お前にしか頼めない事だよ!」


「怖いな!酔いが冷めちまうから早く言えよ・・」


「バイクを1台、用意してくれないか?あと、男性用と女性用のウエアーを一式。」


「なんだ!女用もか?何だやっと、お前も身を固めるのか?冗談だろ?ツーリングか?」


「いや・・接待だよ!」


彼の名前を勝又純一と言う。私がこの街に住んでいた時に知り合った。


私の唯一の親友と呼べる男である。


「それで・・サイズは?その女の?お前何処に泊まってるんだ?」


「ああ・・長岡のしのぶと言う旅館だ!それでサイズはな!大体だが・・・」


「解った!6時にしのぶの駐車場に持って行く!それにしてもしのぶとは随分とリッチな所に泊まってな!

俺なんか一生、そんな宿には泊まれない・・」


「嫌味だな・・会社の金だよ!接待だから・・」


そう私は呟くと静かに電話を切った。


次の朝、早朝に私は駐車場に立っていた。


響き渡る低音のエンジン音が静かな温泉街に響き渡る・・


相変わらず近所迷惑のバイクだ・・しかし、良い音だ・・・


そんな事を考えて居ると一台のバイクと一台の大型のジープが現れた。


「勝又!悪いな!無理を言って・・」


バイクから巨体を揺らしながらまるでプロレスラーのような男が降りて来た。


隣のジープにはまるでファッションモデルのような美しい女が私を見つめ笑っていた。


「バイクはこれで良いよな!お前が乗ってるハーレーと同じタイプだ!自分のバイクは東京か?」


「いや・・もう、バイクは止めたんだ!なんとなくな・・」


「そうか!寂しいな・・」


悪人面の勝又が少しだけ寂しそうな顔をした。


「ウエアーと靴はこれな!予算を聞いていなかったので適当に持ってきた!」


「ああ・・悪い!うちの会社に請求書を送っておいてくれ!」


「あっ・・あと、これ・・」


私はジープの女・・いや、正確には彼の奥さんに見つからないようにそっと、封筒を手渡した。


「おい!余計な事をするなよ!いらないよ!こんなの・・」


「迷惑料だ!今でも金に厳しいんだろ?嫁さん!何かの足しにしてくれ・・」


そう言いながら無理やりに彼のポケットに封筒をねじ込むと勝又は少しだけ嬉しそうに笑った。


8時になり私は今日子の部屋に内線をした。


「そろそろ朝食の準備が出来たようですが、お運びしても大丈夫でしょうか?」


そんな私の口調に今日子は少しだけ不機嫌そうに「大丈夫だ!早く持って来い!」とおどけて命令口調で言った


昨夜の言葉をふと、思い出す!「丁寧語は嫌いなの・・仕事の時は別だけど・・」


昨日、必死で彼女が報告書を仕上げたのは、きっと、今日を休日にするためだったに違いない。


朝食を食べ終わると私は笑顔で持参した紙袋を差し出した。


「これに着替えろよ!それで、君の事は今日は何と呼べば良いのかな?俺は誠で良いよ!」


そう私が言うと今日子は少しだけ嬉しそうに・・「今日子で良いよ!」と呟いた。


「何よ!これ??皮ジャンにジーパン?それに、このジャラジャラアクセサリーは?」


「本日のサプライズの衣装でございます!サイズは私の目分量なので少々、自信がございませんが・・」


手に取ったど派手なTシャツを見つめ!バストが入るかしら?私、着やせするタイプなの・・と笑いながら言った。


それから20分後、私はハーレーのエンジンをかけてた。


入り口で着替えて待っていた今日子は驚きの顔をした。


「まさか!バイクで行くの!」


そんな彼女の言葉に私は笑顔で言った!


「サイコーの休日をお前にくれてやるよ!」と・・


そんな私の言葉に今日子は笑いながら・・


「にあわね~~~~!馬鹿じゃないの!」と呟いた。

「ごめんなさいね!食事が運ばれて来る間に少しだけ汗を流させて頂くわ!

せっかく温泉に来たのだが美味しい食事の前にさっぱりしないとね!それにビールが不味くなる。」


そう言いながら今日子は洗面道具を鞄から取り出すと露天風呂に向った。


しばらくすると仲居が料理を運んで来た。


宿はイマイチだが、料理はどれも美味そうなものばかりで、ひとまず安心をする。


浴室のドアが開き浴衣姿の今日子が現れる。


化粧を落としたせいだろうか?なんとなく風呂上りの彼女は昼間の感じとはまるで違い、幼い少女のような感じがした。


「今日は一日、お疲れ様!」


そう言われながら彼女が私のグラスにビールを注ごうとするので私は焦りながらそれを奪い取る。


「いけません!私からお注ぎするのが礼儀ですから・・」


そんな私の言葉に不機嫌そうに彼女は言った。


「もう、仕事は終わりましたら、そう言うの止めませんか?それにその話し方も・・・

私、あまりそう言うの好きじゃなんです!まぁ~仕事の時は仕方が無いけど・・」


そう言われ、その言葉の意味を真剣に考える。


もしかしたら、試されているのかもしれない!いきなり言葉を変えてそんな失礼な奴とは仕事はできない!

なんて言われないだろうか?


私は途端に無口になってしまった。


そんな様子から微妙に何かを感じたのか彼女は・・


「まぁ~別に何でも良いのですけどね!でも、何となく言葉一つで、距離感が生まれるんですよね!」と


仕方なく、私は通常の言葉使いに渋々、直す事にした。


「それじゃ~何に乾杯する?」


そう彼女が言ったので・・


「二人の出会いに・・」と少しだけ臭い台詞を言うと彼女は笑いながら・・


「本当は契約の無事、成立にでしよ!」と言った。


「もぉ~何でも良いよ!とりあえず乾杯!」


私はやけくそ気味でそう叫びながらグラスを鳴らし一気にビールを飲み干した!


「あとは手酌でやるから!本当は誰かについで貰うの好きじゃないんだ!自分のペースで飲めないから!」


「あら、奇遇ね!私もなのよ!」


それから出された料理の話をしたり、お互いの当たり障りのない愚痴を言ったり・・・


料理を全て食べ終わり、何となく飲み足りなくなって焼酎と数本のビールを追加した。


「君は結構、飲めるんだね!」


「あら、男社会で生きて行くにはこの程度のお酒でダウンなんて出来ないわよ!」


顔を真っ赤にしながら今日子がそう言った。


「でも、あなたは殆どの飲んで居ないようだけど・・」


そう、正直、酔っ払うわけにはいかない!なぜなら、私は今、接待をしているのだから。


いくら、壁を無くしてと言われてもそれを忘れる訳にはいかないのだ。


「処で明日の件なんですけど・・」


私は話をはぐらかすかのようにそう言った。


「何かご希望はありますか?なければ私が考えたコースで観光でも!車も借りて来ますので・・」


そうんな私の言葉に彼女はグラスの焼酎を一気の飲み干しながら・・


「くだらない観光名所巡りならお断りよ!期待してるわよ!あなたからのサプライズを!

私をびっくりさせてね!も~~う!飲みなさいよ!今夜は無礼講でね!」


その言葉でまた、頭の中がパニックに陥った。


だから、俺はへたんだよ!特の女の接待は!


男なら適当に美味い物と美味い酒でも飲ませて女を与えておけば事が終わるのに・・


女はそうも行かない。何ともめんどくさい。


しばらくすると急に部屋が静寂に包まれた。


ふと、今日子を見るとなんとも気持ち良さそうに寝息を立てていた。


その寝顔には昼間のなんとも言えない威圧感のあるオーラはまったく無い!


「結構、可愛いな!この子・・・」


私はそう呟くとゆっくりと今日子を抱えベットにつれて行った。


何とか今日一日の私の仕事が終わった・・


しかし、さて、弱った!サプライズね~どうしたものだろう・・


私はそう呟きながら今度は味わうようにビールを飲み干した・・

電車に乗り5個目の駅に目的地の工場は立っていた。


電車の窓の景色が何時の間にかビルや店からのどかな田園風景に変化していた。


「次で降りますので・・」


そんな私の言葉に彼女は小さく頷く。


駅を降りて10分程歩くとそんなのどかな風景に不似合いななんとも近代的な工事が姿を現す。


工場に入り担当者から商品の説明を受ける。


彼女はしきりに持参したデジタルカメラで写真を撮り、メモを取っている。


さすがだと思ったのは、彼女のそんな一連の行動にまったく無駄が無い事であった。


やはり、この若さで役職を与えられる人間は違う。私は再び気をしき締めた。


正直、相手は女だから・・とたかを括っていた所が無いわけでは無かった。


適当におだてておけば何とかなる程度の簡単な気持ちを持っていた。


しかし、それは大きなあやまちであった。


「以上ですが、何かご質問はございますか?」


そう工場の担当者が発した言葉から長い旅が始まった・・


今日子の質問は途切れることなく永遠と続いた。


それはどうでも良い事から機能的な事、機械的な構造にいたるまで・・


時計を見ると既に午後の1時を廻っていた。


そして、やっと、今日子が満足げな顔をしたのは午後の2時を少しだけ過ぎた頃であった。


それまで、昼食も食べずに付き合っていた工場の担当社もとんだ災難であったに違いない。


「私ね!妥協って嫌いなんです・・」


工場から出て駅へ向う道を歩きながら今日子は少しだけ時間を気にしながらそう呟いた。


工場のある駅から3つほど修善寺方に行くと伊豆長岡と言う小さな温泉街がある。


私はその温泉街に宿をとっていた。


伊豆長岡温泉。


私は静岡で過ごした3年間をその小さな温泉街で過ごしていた。


駅を降りると昔と変わらない寂れようになんとなく安心感を覚えた。


「お食事はどういたしますか?まぁ・・お食事と言ってもこの辺に食事をする場所は殆どないのですが・・」


そう私が今日子に言うと彼女は別に食事の事等、気にもしていなかったようで・・


「あら、そう言えばお昼を食べて無かったわね!あなた、お腹がすいたでしょ?ごめんなさいね!」と


他人事のように言った。


とりあえず、ホテルに向った。


最近は、なんか「隠れ家的宿」などと呼ばれる宿が流行りだそうで・・


この温泉街で一番、人気のある宿を予約させたのだが、実際に行ってみると何ともみすぼらしい質素な宿で・・


修繕寺にしなかった事を少しだけ後悔した。


「これからのご予定は?」


チェックインをすませ彼女にそう尋ねると今日中に本日のレポートを会社に送らないといけないと言われた。


「ならば、何か御用がございましたらお気軽に内線してください!」と私は告げ自分の部屋に向った。


待機が一番、辛い業務であると久々の待機業務に思い出した。


酒を飲む訳にも何処かに出かける訳にもいかない!


ただ、部屋でボォ~としながら時間を潰す。なんとも暇である。


あまりにも暇で余計な事をやり始めてしまった。


私は携帯電話を取り出すと友美にメールを打ち始めた・・


本当にやらなくても良い、余計な事である。


外の景色が何時の間にか夜に変わっていた。


友美にメールを送った直後ぐらいに突然に内線がなった。


「夕食はどうしますか?」


そう言われ、宿でご用意しております!ご希望のお時間はありますか?その時間にお部屋にお持ちするように

指示をいたしますので・・」


時計を見ると6時を少しだけ過ぎていた。


「そうですか!なら、7時にお願いします!もう少しで終わりそうですので・・」


そう私に告げると彼女は内線を切った。


7時5分前に一度、内線を入れ了解を取ると私は彼女の部屋に向った。


彼女の部屋は俗に言うスイートで部屋が4個もある。


作りも豪華で部屋用の露天風呂まで付いていた。


私の泊まっている部屋とは大違いであった。


「どうですか?終わられましたか?」


そう私が話しかけると、彼女は少しだけ疲れた顔を無理やり笑顔にしながら・・


「ええ・・お蔭様で・・」と言った。


何としても契約を!私は気合を入れながら夕食のテーブルに付くのであった。