原木の駅が近づいてきた。
私は何気に窓の外を見つめる。
すると朝の通勤客に紛れて一組の夫婦を見つける・・・
見覚えのある女・・
そしてその横で小さな赤ん坊を抱いている男にも見覚えがあった。
私は心の中で祈った・・・
どうか・・きずかれませんようにと・・・
列車が原木に到着して通勤客が数人、列車の中に入ってくる・・
私は目を細めてその乗客の中に例の夫婦が居ない事を確認をした。
しばらくすると隣の車両から聞き覚えのある女の声が聞こえる・・
来るな!来るな!!来ないで~~~
そう心の中で叫ぶが、そんな時、だいたい・・自分の望みは叶わないものである。
「あら・・今日子じゃない!久しぶりね!」
私の前に小太りの厚化粧の女が立っていた・・・
私は下を向いていたのだが、どうやら見つかってしまったようだ・・
しばらくして旦那が子供と大きな荷物を抱えて現れる・・・
「あれ?佐藤ジャンか?久しぶりだな!」
私は地元に帰って来て会いたくない人間に同時に会ってしまった・・
話には聞いていたが、静香と晃が本当に結婚をしていたとは意外であった。
あ~本当にこの2人は結婚をしたんだ・・・
晃とは高校の時に、2年間付き合っていた・・・
そして、静香とは親友であった。
高校3年の時に私は晃に突然に別れたいと言われた・・
当時の私にはその理由がまったく解らなかった。
晃は頭も良くて部活のバスケット部でもレギュラーで・・・
ある意味、女子の憧れの的で・・
そんな男と付き合っていると言うだけで少しだけ優越感を感じられた。
2年の時に告白をされたのは私の方で少しだけ有頂天になっていた事を思い出す。
大学の進学先で私達は当時、毎日のように喧嘩をしていた・・
喧嘩と言ってもジャレ合い程度の喧嘩でそれが別れる決定的な理由になるとは私には考えられなかった・・
東京に行きたい私と地元の国立大学を希望していた晃・・・
結局は私は東京の大学に進学して、彼は静岡大学に合格をした。
東京と言っても会いに来れない距離ではない・・・
新幹線で1時間で来れるし、東海道線でも2時間もあれば会いに来れる・・・
それでも、それが大きな別れる理由になった。
2人で合格のお祝いをする約束をした・・・
離れてもあなたが大好きだから・・
私は彼にそう・・・その晩に言うつもりでいた。
そして、2年間、拒み続けていた抱かれる事を許そうと思っていた・・
そして、彼もそんなそんな私の言葉に笑顔で答えてくれて・・
私を抱きしめてくれるはずだったに・・・
彼は私のそんな言葉を聞く前に自分から呟いた・・
「別れてくれないか・・」と
なぜかその時、涙なんか全然、出なかった・・
泣きすがりながら、別れないで!と言う事も出来たけど・・
結局は私の心の中でもある程度の覚悟が出来ていたと言うことなのかもしれない・・
それから数ヵ月後、私は地元の友達から信じられない事実を聞かされた・・
「たいした女だよね!静香も・・
あんたから晃を横取りしたんだから・・・」
静香は、あまり目立たない女であった。
変な言い方をすれば、彼女は私のコバンザメのような感じで・・・
何時も、私の影で怯えているみたいな・・
そんな女であった。
友達付き合いも悪く、私が友達と遊ぶ時に必ず付いてくるみたいな女であった・・
私は地元の友達からその話を聞いて唖然とした・・
「だ・・だって・・あいつ・・ブスじゃん・・」
思わず・・本音が飛び出してしまった・・
地元の友人は受話器の向こうで大笑いをしている・・
「だって・・あいつ・・ブスじゃん!」
そんな言葉が私のその時の心境を明確にあらわし過ぎて居たからかもしれない・・
何でも静香と晃は、まだ、晃が私と付き合っている時から関係があったらしい・・
「あいつ・・抱かせてくれないんだ・・」
私達が別れた本当の理由を私はその時に地元の友人から聞かされた・・
男と女の間には・・
本当は愛なんか存在はしない・・
あるのはきっと、欲望だけなんだ・・
そして常に男と女を繋げている見えない糸は・・・
愛なんて物ではなく・・
快楽と言う名の糸でなのかもしれない・・
「くだらない男・・・」
私はそう強がり言い、彼女の電話を切った後・・
一晩中・・・泣いた・・
私の青春時代の苦い想い出だ・・・
思い出したくも無い・・思い出・・・
こんな男に捨てられて・・・
こんな女に横取りされて・・・
なんとも・・情け無い・・
そして、その一番、会いたくない女が・・・
今、私の目の前に立っている。
私は静かに下げていた顔を上げて静香の顔を見つめて言った・・
「あら・・お久しぶりね!お元気そうで・・」と