僕が死ぬ日・・生まれる日 -68ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「最近・・奥さんとどうなの??」


広小路の駅に着いた頃、佐藤さんが急にそんな言葉を・・


「えっ?最近どうなのって?どうんな意味??」


「えっ??その~上手く行っているの?って意味・・」


佐藤さんの表情があまりにも真剣だったので少しだけ私は返す言葉を捜した。


「何で?何かあったの??」


「いえね・・勘違いしないで!別に・・あのね!」


「良いよ!話しなよ!」


「あのね・・最近、よく、誠ちゃんの奥さんを見かけるのよ・・

電車で・・

多分、向こうは気が付いて居ないと思うのだけど・・」


そう言うと佐藤さんは言葉を詰まらせた。


「良いよ!全部、話してよ!きっと、悪い話なんだろ・・」


覚悟は出来ていた・・佐藤さんの何時もと違う真剣な表情から・・覚悟は・・


「何時も、同じ男性と乗っているのよ!電車に・・

30代の真面目そうなサラリーマンって感じの男性・・

それで、凄く楽しそうに話している・・

この前なんか・・手を握っていたし・・

別に告げ口とかじゃないのよ!

でも・・でも・・あなたの事が心配だから・・」


佐藤さんの言葉で妻が私に離婚届を渡した意味がやっと解ったような気がした。


「あ~その人ね!私も知っている人だよ!

昔からの妻の親友でね!うちにも何度も遊びに来てる・・

手を握っていたって・・

それはきっと、君の見間違いだよ!」


私は無理矢理微笑んで・・そう彼女に言った。


多分、何か感じたのだろう・・・


彼女も微笑みながら・・


「あら、ごめんなさいね!余計なお話をしてしまって・・

そう、お友達なのね!

失敗!失敗!私もまだまだ・・人生経験が足りないわね!

だから、結婚できないのかも・・・」


私は両方の手の平をきつく結び必死に体の震えを堪えていた・・・


そうか・・男がね・・・居たんだ・・・


そっと、私の拳を柔らかい手が包み込んだ・・・


佐藤さんは何も言わずに私の拳を握りながら・・


切なそうに微笑んだ・・・


「これからカーブが続きますのでお気をつけください・・」


そんなアナウンスが流れると終点の三島駅はもうすぐだ・・


結局、私は彼女にハンケチを返す事が出来ないかもしれない・・


列車は三島の駅に入って行く・・


周りの人間達はドアに向かい数分違いで2個向こうのホームに到着する東海道線に乗る準備を始める。


電車が静かに停止する・・


「終点・・三島でございます。

お忘れ物等ございませんように御気をつけください・・」


そのアナウンスと同時にドアが開き、東京に向う乗客達が一成に走り出す。


ホームに下りて人の波に身を任せながら前に進む・・


遠くに彼女の姿が見えた・・


もう会えない・・会えないのか・・・嫌だ!もう・・会えないなんて・・君と・・


「坂本・・・坂本誠と申します!

毎朝、水曜日以外はこの電車に乗っています!」


私は・・私は無意識に大声で叫んでいた!


足早に前に進む人の波が一瞬、止まる・・


そして一成に皆が振り返り私を見つめた・・・


隣の佐藤さんが何が起こったの?とキョトンとした顔をしている・・


そんな中・・・


君だけは・・


私を見つめながら・・・


右手を大きく上げて・・・


ピースサインをしながら微笑んでいた・・・


そして、また、彼女は何事も無かったように澄ました顔をして改札に向う・・


私は恥かしくなって佐藤さんを置いて足早に改札を抜けて行く・・


「どうしたのよ!誠ちゃん!急に・・恥かしい~~」


私はそんな佐藤さんの言葉なんか聞こえていなかった・・


心臓がドキドキしていた・・・


まるで張り裂けそうに・・ドキドキしていた・・


でも・・どうやら自分の名前だけは彼女に伝えられたようである。


アホか!俺・・・・


そう呟いて・・苦笑い・・・


私の1日が始まった・・


ホンの30分間の事なのに・・・


ホンの30分の通勤電車の中で私は恋をしてしまったのかもしれない・・


そして・・


物語は折り返し電車に続いて行く・・


人生は辛すぎて私の手には負えない・・


そんな言葉を呟きながら・・

電車は南二日町の駅を出発して三島田町の駅に向かい始める。


あ~席を移動した時に彼にハンケチを返すために話しかければ良かった・・・


何度も何度もそう後悔をした。


私は何時も大切な事に気がつくのが遅い。


隣の彼も私に何か言いたげに何度も私の顔をチラチラと見つめる。


私は決心して彼に話しかける事にした!


どうしても、伊豆長岡での彼の涙の意味を知りたかったから・・


何で??何で知りたいの?それの理由が実は私にもわからない。


別に偶然に電車の中で前に席になっただけの男である。


それに左の薬指にシルバーの指輪をしている。


どうやら結婚をしているようである。


そんな男に私は何を求めている???何を・・・


「何処の駅まで行かれるのですか??」


その言葉は本当に自然に私の口から発せられた・・


まるで昔から知っている知人と話すかのように・・


本当に・・何のためらいもなく・・


彼は一瞬、驚きの表情を見せて下を向いてしまった。


しまった・・また、やってしまったのか?


何やら下を向きながらゴニョゴニョ言葉を言っている。


すると電車は何時の間にか三島田町の駅に到着をしていた。


ドアが開き一人の美しい女性が車内に入ってくる。


彼女は私の隣の彼を見つけると嬉しそうに微笑んだ。


そして彼の目の前に足早にやって来て笑顔で言った・・


「誠ちゃん!おはよう・・」と


誠ちゃん??誠ちゃんね~


彼はどうやら誠と言う名前らしい・・


そしてこの美しい女性は彼を「誠ちゃん」と呼べる関係の女性のようだ・・


結婚してるのにそんな女がいる・・


男なんか皆、同じなんだとやりきれない気持ちに包まれる・・


私は無関心を装いまた、文庫本を読み始める。


三島図書館・・


彼は誠言う名前で三島図書館で仕事をしてる。


そして、この女性は同僚で・・・


2人の関係は、もしかしたら私が想像していた関係では無いのかもしれない・・


その証拠に彼女が彼を「誠ちゃん」と呼ぶ度に彼は迷惑そうに顔をしかめていたからだ・・


2人の会話が盛り上がり始める。


どうやら、私の最後の望みも彼女の登場により閉ざされた・・・


きっと、彼と彼女は三島で降りて二人で職場に向うに違いない。


そんな2人の中に見ず知らずの私がハンケチを持って声をかける事は中々難しい事である。


私はなんだか2人の会話を聞いている事がうとましくなって来た。


何だろう?嫉妬??いや・・そんなはずは無い・・嫉妬なんて・・


私は文庫本を鞄にしまうと席を立つ・・・


えっ??


一瞬、彼がそんな表情をして私を見つめた気がした・・・


彼女は直ぐに私の座っていた席に座り直した・・・


私は少し離れたドアに寄りかかりながらまた、文庫本を読み始めた・・


家庭のある男を思いながら泣く生活になんか戻りたくない・・


かかって来ない電話待ちながら一人でお酒を飲む生活にも・・・


叶わない恋を追い求め・・・


叶わない安らぎと言う世界を夢見る・・


そんな世界を捨て自分なのに・・


出会ってまだ、30分しか経っていない見知らぬ男性に引かれている自分・・


そんな現実も認めたく無かった・・


私・・バカなのよ!本当に・・本当に・・バカな女なの・・


今まで交際を申し込まれた事が無い訳ではない。


ただ、晃と別れた事がトラウマになっている事も事実だ。


どんなに愛しても何時かは消えてしまう相手・・


ならば、最初からそんな期待なんかしないで・・


割り切った恋をすればいい・・


自分が二度と傷つかないように・・・


彼には家庭があるのだから・・


きっと、私は何処かで彼が消えた時の言い訳を何時も持って居たかったのかもしれない・・


彼には家庭があるのだから・・仕方が無いと・・


でも、結局はそんな割り切りも出来ないで誰かを愛する事自体を止めてしまった自分・・


何がなんだか解らなくなって来た・・


ただ、なんとなく・・


これきり、彼と二度と会えない事が寂しかった。


電車はもう直ぐ、最後の停車駅の「広小路駅」に到着しょうとしていた。

「えっ・・ええとですね・・・」


私がそう彼女に答えようとした瞬間に電車は田町の駅に着き、ドアが開く。


私は下を向きながらモゴモゴと話す言葉を捜していた。


すると私の前に人の気配を感じる。


私はその気配に気が付くとゆっくりと下げた頭を上げた・・


「誠ちゃん!おはよう!今朝も早いんだね!」


私の目の前に清楚な美人が笑顔で私に微笑みかけながら立っていた・・


佐藤友美


彼女は私の同僚である。


と言っても私よりも大分、年下だが先輩である。


大学を卒業して直ぐに地元に帰って来て私が勤める図書館に就職をした。


髪が腰ぐらいまであり、色白の何とも清潔感のある美人である。


年はもう直ぐ、32歳になるそうだが未だに独身である。


彼女は図書館での仕事をしながら小説家を目指しているそうだ!


何度か大きなコンテストで賞を取った事があると噂で聞いている。


「一流の文字書きになるまでは結婚なんかしている余裕なんか無いわよ!」


以前、飲み会の時に酔っ払った彼女が同僚の女性に叫んでいた言葉を思い出す。


彼女ぐらいの美人だからこそ!何のためらいも無くそんな言葉が言えるのか??


私はふと、原木で見かけたアンパンマン似の女性を思い出す。


色々だ・・女も男も・・・


佐藤さんは何時も同僚を名前で呼ぶ。


私は何度も名字で呼んでもらうようにお願いをした。


こんな美人に名前で呼んでもらえる事はなんとなく嬉しいのだが・・・


私の妻はもの凄いやきもち焼きでそんな姿を見られたら余計な疑いをかけられ厄介だからだ・・


でも、彼女はそんな私の願いも無視で未だに私を名前で呼ぶ・・


10歳近くも年が離れている私を・・「誠ちゃん!」と・・


隣の彼女は突然の佐藤さんの登場により、バツが悪そうな顔をした。


そして、何事も無かったようにまた、文庫本を読み始める。


私はどうして良いかわからず、とりあえず佐藤さんと会話を続ける事を選んだ。


「今朝は早いんだね!どうかしたの??」


「うん!ほら、昨日、新刊が大量に入ったでしょ!

それのバーコード付けが間に合わなくってね!

今日から貸し出すらしいのよ!

そんで昨夜は、用事があって残業が出来なかったので早朝出勤って感じ・・

まったく・・人使いが荒いよね!うちの図書館・・

韮山図書館なんか5時で定時帰宅なんだってよ!

勘弁してよ!三島図書館!って感じ・・」


韮山図書館の職員だって何時も5時帰宅ではないだろう・・・


それに、彼女だって早く帰宅する事もある。


なんとも自分勝手な愚痴である。


三島図書館と言う言葉が出た瞬間に一瞬、隣の彼女が私をチラッと見た気がした・・


私はこの佐藤友美と言う女性の突然の登場でハンケチを返す最後の機会も逃したような気がした。


なぜなら、私は彼女と三島で降りて一緒に職場に行かなければいけない。


そんな中、電車を降りた時に隣の彼女に話しかける事は無理に等しかったからだ・・・


私はしゃべり続ける佐藤さんの話になんとなく相槌を打っていた・・


何度も隣の彼女の顔をチラチラ見つめながら・・・


「もう!誠ちゃん!聞いてるの??私の話・・・」


佐藤さんが少し不機嫌そうに私にそう話しかける・・・


その言葉と同時に隣の彼女が席を立つ・・


えっ?広小路で降りるの??


思わずそう言いそうになり必死にその言葉を飲み込んだ・・


私は佐藤さんの話に適当に相槌をうちなが彼女の姿を目で追った・・


どうやら広小路で降りる訳ではないらしい・・


彼女は少し離れたドアにもたれながらまた、文庫本を読み始めたからだ。


少しだけ安心をして・・


少しだけ・・隣でもの凄い勢いで話してる美しい女をうとましく思った。


「次は~広小路!広小路でございます・・」


電車は最後の停車駅に到着をしようとしていた。