広小路駅 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「えっ・・ええとですね・・・」


私がそう彼女に答えようとした瞬間に電車は田町の駅に着き、ドアが開く。


私は下を向きながらモゴモゴと話す言葉を捜していた。


すると私の前に人の気配を感じる。


私はその気配に気が付くとゆっくりと下げた頭を上げた・・


「誠ちゃん!おはよう!今朝も早いんだね!」


私の目の前に清楚な美人が笑顔で私に微笑みかけながら立っていた・・


佐藤友美


彼女は私の同僚である。


と言っても私よりも大分、年下だが先輩である。


大学を卒業して直ぐに地元に帰って来て私が勤める図書館に就職をした。


髪が腰ぐらいまであり、色白の何とも清潔感のある美人である。


年はもう直ぐ、32歳になるそうだが未だに独身である。


彼女は図書館での仕事をしながら小説家を目指しているそうだ!


何度か大きなコンテストで賞を取った事があると噂で聞いている。


「一流の文字書きになるまでは結婚なんかしている余裕なんか無いわよ!」


以前、飲み会の時に酔っ払った彼女が同僚の女性に叫んでいた言葉を思い出す。


彼女ぐらいの美人だからこそ!何のためらいも無くそんな言葉が言えるのか??


私はふと、原木で見かけたアンパンマン似の女性を思い出す。


色々だ・・女も男も・・・


佐藤さんは何時も同僚を名前で呼ぶ。


私は何度も名字で呼んでもらうようにお願いをした。


こんな美人に名前で呼んでもらえる事はなんとなく嬉しいのだが・・・


私の妻はもの凄いやきもち焼きでそんな姿を見られたら余計な疑いをかけられ厄介だからだ・・


でも、彼女はそんな私の願いも無視で未だに私を名前で呼ぶ・・


10歳近くも年が離れている私を・・「誠ちゃん!」と・・


隣の彼女は突然の佐藤さんの登場により、バツが悪そうな顔をした。


そして、何事も無かったようにまた、文庫本を読み始める。


私はどうして良いかわからず、とりあえず佐藤さんと会話を続ける事を選んだ。


「今朝は早いんだね!どうかしたの??」


「うん!ほら、昨日、新刊が大量に入ったでしょ!

それのバーコード付けが間に合わなくってね!

今日から貸し出すらしいのよ!

そんで昨夜は、用事があって残業が出来なかったので早朝出勤って感じ・・

まったく・・人使いが荒いよね!うちの図書館・・

韮山図書館なんか5時で定時帰宅なんだってよ!

勘弁してよ!三島図書館!って感じ・・」


韮山図書館の職員だって何時も5時帰宅ではないだろう・・・


それに、彼女だって早く帰宅する事もある。


なんとも自分勝手な愚痴である。


三島図書館と言う言葉が出た瞬間に一瞬、隣の彼女が私をチラッと見た気がした・・


私はこの佐藤友美と言う女性の突然の登場でハンケチを返す最後の機会も逃したような気がした。


なぜなら、私は彼女と三島で降りて一緒に職場に行かなければいけない。


そんな中、電車を降りた時に隣の彼女に話しかける事は無理に等しかったからだ・・・


私はしゃべり続ける佐藤さんの話になんとなく相槌を打っていた・・


何度も隣の彼女の顔をチラチラ見つめながら・・・


「もう!誠ちゃん!聞いてるの??私の話・・・」


佐藤さんが少し不機嫌そうに私にそう話しかける・・・


その言葉と同時に隣の彼女が席を立つ・・


えっ?広小路で降りるの??


思わずそう言いそうになり必死にその言葉を飲み込んだ・・


私は佐藤さんの話に適当に相槌をうちなが彼女の姿を目で追った・・


どうやら広小路で降りる訳ではないらしい・・


彼女は少し離れたドアにもたれながらまた、文庫本を読み始めたからだ。


少しだけ安心をして・・


少しだけ・・隣でもの凄い勢いで話してる美しい女をうとましく思った。


「次は~広小路!広小路でございます・・」


電車は最後の停車駅に到着をしようとしていた。