臨時電車「特急 踊り子号」(今日子編)№7 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

電車は南二日町の駅を出発して三島田町の駅に向かい始める。


あ~席を移動した時に彼にハンケチを返すために話しかければ良かった・・・


何度も何度もそう後悔をした。


私は何時も大切な事に気がつくのが遅い。


隣の彼も私に何か言いたげに何度も私の顔をチラチラと見つめる。


私は決心して彼に話しかける事にした!


どうしても、伊豆長岡での彼の涙の意味を知りたかったから・・


何で??何で知りたいの?それの理由が実は私にもわからない。


別に偶然に電車の中で前に席になっただけの男である。


それに左の薬指にシルバーの指輪をしている。


どうやら結婚をしているようである。


そんな男に私は何を求めている???何を・・・


「何処の駅まで行かれるのですか??」


その言葉は本当に自然に私の口から発せられた・・


まるで昔から知っている知人と話すかのように・・


本当に・・何のためらいもなく・・


彼は一瞬、驚きの表情を見せて下を向いてしまった。


しまった・・また、やってしまったのか?


何やら下を向きながらゴニョゴニョ言葉を言っている。


すると電車は何時の間にか三島田町の駅に到着をしていた。


ドアが開き一人の美しい女性が車内に入ってくる。


彼女は私の隣の彼を見つけると嬉しそうに微笑んだ。


そして彼の目の前に足早にやって来て笑顔で言った・・


「誠ちゃん!おはよう・・」と


誠ちゃん??誠ちゃんね~


彼はどうやら誠と言う名前らしい・・


そしてこの美しい女性は彼を「誠ちゃん」と呼べる関係の女性のようだ・・


結婚してるのにそんな女がいる・・


男なんか皆、同じなんだとやりきれない気持ちに包まれる・・


私は無関心を装いまた、文庫本を読み始める。


三島図書館・・


彼は誠言う名前で三島図書館で仕事をしてる。


そして、この女性は同僚で・・・


2人の関係は、もしかしたら私が想像していた関係では無いのかもしれない・・


その証拠に彼女が彼を「誠ちゃん」と呼ぶ度に彼は迷惑そうに顔をしかめていたからだ・・


2人の会話が盛り上がり始める。


どうやら、私の最後の望みも彼女の登場により閉ざされた・・・


きっと、彼と彼女は三島で降りて二人で職場に向うに違いない。


そんな2人の中に見ず知らずの私がハンケチを持って声をかける事は中々難しい事である。


私はなんだか2人の会話を聞いている事がうとましくなって来た。


何だろう?嫉妬??いや・・そんなはずは無い・・嫉妬なんて・・


私は文庫本を鞄にしまうと席を立つ・・・


えっ??


一瞬、彼がそんな表情をして私を見つめた気がした・・・


彼女は直ぐに私の座っていた席に座り直した・・・


私は少し離れたドアに寄りかかりながらまた、文庫本を読み始めた・・


家庭のある男を思いながら泣く生活になんか戻りたくない・・


かかって来ない電話待ちながら一人でお酒を飲む生活にも・・・


叶わない恋を追い求め・・・


叶わない安らぎと言う世界を夢見る・・


そんな世界を捨て自分なのに・・


出会ってまだ、30分しか経っていない見知らぬ男性に引かれている自分・・


そんな現実も認めたく無かった・・


私・・バカなのよ!本当に・・本当に・・バカな女なの・・


今まで交際を申し込まれた事が無い訳ではない。


ただ、晃と別れた事がトラウマになっている事も事実だ。


どんなに愛しても何時かは消えてしまう相手・・


ならば、最初からそんな期待なんかしないで・・


割り切った恋をすればいい・・


自分が二度と傷つかないように・・・


彼には家庭があるのだから・・


きっと、私は何処かで彼が消えた時の言い訳を何時も持って居たかったのかもしれない・・


彼には家庭があるのだから・・仕方が無いと・・


でも、結局はそんな割り切りも出来ないで誰かを愛する事自体を止めてしまった自分・・


何がなんだか解らなくなって来た・・


ただ、なんとなく・・


これきり、彼と二度と会えない事が寂しかった。


電車はもう直ぐ、最後の停車駅の「広小路駅」に到着しょうとしていた。