終点 三島駅 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「最近・・奥さんとどうなの??」


広小路の駅に着いた頃、佐藤さんが急にそんな言葉を・・


「えっ?最近どうなのって?どうんな意味??」


「えっ??その~上手く行っているの?って意味・・」


佐藤さんの表情があまりにも真剣だったので少しだけ私は返す言葉を捜した。


「何で?何かあったの??」


「いえね・・勘違いしないで!別に・・あのね!」


「良いよ!話しなよ!」


「あのね・・最近、よく、誠ちゃんの奥さんを見かけるのよ・・

電車で・・

多分、向こうは気が付いて居ないと思うのだけど・・」


そう言うと佐藤さんは言葉を詰まらせた。


「良いよ!全部、話してよ!きっと、悪い話なんだろ・・」


覚悟は出来ていた・・佐藤さんの何時もと違う真剣な表情から・・覚悟は・・


「何時も、同じ男性と乗っているのよ!電車に・・

30代の真面目そうなサラリーマンって感じの男性・・

それで、凄く楽しそうに話している・・

この前なんか・・手を握っていたし・・

別に告げ口とかじゃないのよ!

でも・・でも・・あなたの事が心配だから・・」


佐藤さんの言葉で妻が私に離婚届を渡した意味がやっと解ったような気がした。


「あ~その人ね!私も知っている人だよ!

昔からの妻の親友でね!うちにも何度も遊びに来てる・・

手を握っていたって・・

それはきっと、君の見間違いだよ!」


私は無理矢理微笑んで・・そう彼女に言った。


多分、何か感じたのだろう・・・


彼女も微笑みながら・・


「あら、ごめんなさいね!余計なお話をしてしまって・・

そう、お友達なのね!

失敗!失敗!私もまだまだ・・人生経験が足りないわね!

だから、結婚できないのかも・・・」


私は両方の手の平をきつく結び必死に体の震えを堪えていた・・・


そうか・・男がね・・・居たんだ・・・


そっと、私の拳を柔らかい手が包み込んだ・・・


佐藤さんは何も言わずに私の拳を握りながら・・


切なそうに微笑んだ・・・


「これからカーブが続きますのでお気をつけください・・」


そんなアナウンスが流れると終点の三島駅はもうすぐだ・・


結局、私は彼女にハンケチを返す事が出来ないかもしれない・・


列車は三島の駅に入って行く・・


周りの人間達はドアに向かい数分違いで2個向こうのホームに到着する東海道線に乗る準備を始める。


電車が静かに停止する・・


「終点・・三島でございます。

お忘れ物等ございませんように御気をつけください・・」


そのアナウンスと同時にドアが開き、東京に向う乗客達が一成に走り出す。


ホームに下りて人の波に身を任せながら前に進む・・


遠くに彼女の姿が見えた・・


もう会えない・・会えないのか・・・嫌だ!もう・・会えないなんて・・君と・・


「坂本・・・坂本誠と申します!

毎朝、水曜日以外はこの電車に乗っています!」


私は・・私は無意識に大声で叫んでいた!


足早に前に進む人の波が一瞬、止まる・・


そして一成に皆が振り返り私を見つめた・・・


隣の佐藤さんが何が起こったの?とキョトンとした顔をしている・・


そんな中・・・


君だけは・・


私を見つめながら・・・


右手を大きく上げて・・・


ピースサインをしながら微笑んでいた・・・


そして、また、彼女は何事も無かったように澄ました顔をして改札に向う・・


私は恥かしくなって佐藤さんを置いて足早に改札を抜けて行く・・


「どうしたのよ!誠ちゃん!急に・・恥かしい~~」


私はそんな佐藤さんの言葉なんか聞こえていなかった・・


心臓がドキドキしていた・・・


まるで張り裂けそうに・・ドキドキしていた・・


でも・・どうやら自分の名前だけは彼女に伝えられたようである。


アホか!俺・・・・


そう呟いて・・苦笑い・・・


私の1日が始まった・・


ホンの30分間の事なのに・・・


ホンの30分の通勤電車の中で私は恋をしてしまったのかもしれない・・


そして・・


物語は折り返し電車に続いて行く・・


人生は辛すぎて私の手には負えない・・


そんな言葉を呟きながら・・