折り返し運転 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「離婚届・・何時返してくれるの???」


その日の晩に妻にそう言われた・・・


「もう少し・・気持ちの整理をさせてくれ・・」


私のそんな返事に彼女は不満そうな顔した。


「別に良いんだけど・・どうせ裁判はするから・・」


子供も居ないのに裁判かよ!


内心、私はそう思ったが、我が家には適当な財産と私が婿養子であると言う現実があった。


念には念と言う事だろうか??


私が後になって金でもセビリに来るそんな人間だと思っているのか???


それならば・・・搾り取るだけ搾り取ってやる!


別に金の問題は無かった・・・


それは私のプライドの問題であった。


我慢し続けた15年間の自分の価値を現金と言う目に見える物で確認をしたかったのかしれない。


私は次の日から2時間だけ早く仕事場から帰宅することにした。


佐藤さんから聞いた妻の浮気の現場を押さえるためだ。


毎日、彼女が数回見かけたと言う広小路の駅で妻を張った・・・


牧野郷で出会った彼女との再会を夢見て毎日、同じ電車に乗り込むが・・・


それ以来、牧野郷の駅から乗り込んでくるのは何時もの巨漢の男だけであった。


やはり・・もうこれきりなのかな・・


少しだけ寂しくなる。


私は別に妻の浮気の現場を押さえてその場でどうこうするつもりは無かった。


裁判で有利に話を進める材料と言う考え方もあるが本当は・・・


背中を押してくれる材料を探していたのかもしれない。


なんだかんだ言っても15年間、夫婦として生きて来た相手である。


この女しか居ないと!愛した女である。


未練ではない・・未練ではないが・・一歩、前に進むきっかけが欲しかった・・


夫婦と言う関係は他人が考えるよりもっと複雑なんなのだ・・


一緒に居る時間が長ければ長いほど・・その糸はドンドン複雑に絡まって行く・・


張り込みを続けて3日後、私は何時ものように広小路の駅のベンチに変装をして座っていた・・


一組のカップルが私の少し離れた所に座る・・


「それで、旦那さんとはどうなったの??」


「うん!なかなか動いてくれないのよ!

もう、愛なんか無いのに・・

何を考えているやら??」


「僕達の関係がばれているのでは無いだろうな!」


「それは大丈夫!絶対にばれていない!

それに今の時間は図書館に居るはずだから・・・」


「そうか!早く君と結婚したいよ!早く・・」


「私もよ・・・純ちゃん・・」


妻がそこには居た・・


1人のはじめて見る男と一緒に・・・


こんなに楽しそうな妻の顔は何年ぶりに見るのだろう??


笑顔の妻の顔を・・私は久しぶりに見た気がした・・


私は・・少しだけ嫉妬し・・少しだけ・・・涙を流した・・・


すっと・・席を離れデジタルカメラで2人の写真を撮る。


そして駅を出ると妻にメールを送る・・


「今夜は遅くなります・・

同僚の加藤君と飲みに行きます・・」


白々しいかと思ったが一応、メールをしてみる。


「あっ!今夜は午前様だわ!ダンナ!もう少し、ゆっくり出来る・・」


「なら・・行こうか??」


「えっ・・うん・・・」


2人は修善寺方面に向う電車に乗らずに三島方面の電車に・・・


そのまま、沼津駅に向かい・・駅の近くのラブホテルへと消えて行く・・


シャッター音がする度に・・涙が流れた・・


そして・・その涙が、私の未練と言う心の闇を洗い流して行く・・・


さようなら・・・さようなら・・


最後の写真を撮り終わると私はそう呟いた・・


翌日、私に裁判所から通知が届いた・・・


私は最後の戦いに向った・・・


もう止めよう・・・


誰かを愛して自分を傷つけるのは・・・


そんな言葉を呟きながら・・


人生は辛すぎて私の手には負えない・・