僕が死ぬ日・・生まれる日 -66ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

その日、今日子は幼い葵を自転車に載せて教えられたカマキリの自宅に向っていた。


やっと、共通の趣味を持つ友人が出来る。


それにカマキリは友達が多いからそこから沢山、ママ友が出来るかもしれない・・


今日子は胸の高鳴りを抑えながら笑顔で自転車を飛ばしていた・・・


カマキリの自宅は閑静な住宅街の一戸建てであった。


狭いアパート暮らしの今日子にとっては一戸建てに住んでいるだけで尊敬の的である。


チャイムを鳴らすと高そうな服と高価なブランド物のアクセサリーと身につけたカマキリが笑顔で出迎えてくれた。


そこには畑で出会った時のカマキリの感じは無く・・・


誠から言わせれば、まさにそれは獲物を狙う戦闘体制に入っているいでたちである。


リビングに通されると数人の女性が高そうなソファーに座っている。


畑で見かけた事がある顔も数人居る。


「子供達は隣の部屋で遊ばせておきましょう!

今日は坂本さんが初めて参加してくれたので・・

会から担当者の方が特別に勉強会に参加してくれたので・・」


「えっ~本当に!感激!!

坂本さんに感謝しなくては!!」


1人の女がわざとらしくそう叫んだ!


彼女は見かけない顔である・・誰??この人・・・


畑の顔見知りのメンバーは一瞬、苦笑いをした。


勉強会が始まった・・・


「我が会の創立者のウイリアムは・・・」


会から招かれたスーツ姿の男がよう話し始めると全ての人間がメモを取りながら聞き始める・・


今日子はそんな空気に圧倒され何時の間にかこんな凄い商品なのかと錯覚を起こし始める・・・


一瞬・・カマキリが微笑んだ・・


「どう・・坂本さん!会員になると全ての商品が10パーセント割引で買えるのよ!」


「えっ・・でも、旦那に相談をするように何時も言われているので・・・」


「あら・・結構、亭主関白な家なのね!1度、旦那さんを見かけたけどそんな感じには見えなかったけど・・」


カマキリは疑い深そうにそう呟く・・


「なら、今、お試しセットと言う物があるのよ!

うちの商品の良さをわかって頂くには使っていただくの一番だから・・

セットで3万円なの!通常で買うと6万円はする商品なんだから・・・

どう??会員になるのは使ってみて良さを実感して頂いてからで結構だから・・」


そんなカマキリの言葉を後押しするようにそこに居た全員が今日子に言った・・


「試してみなさいよ!3万円で健康が得られるなら安い物よ!

体を壊して病院に通ったら幾らお金がかかるかわからないのだから・・」


その日、今日子の財布の中には、偶然にも銀行に入れる食費の4万円が入っていた・・


それを思い出した今日子は・・


「そ・・そうね!お試しだけなら・・」と言って財布から食費の3万円を取り出した。


それから1時間ほど勉強会は続けられた。


帰り際に今日子に仮会員証が手渡される。


それとぶ厚い商品カタログと正規の会員申込書と一緒に・・・


「坂本さん!一緒に健康になる為に勉強しましょうね!」


カマキリは帰り際に笑顔で今日子にそう呟いた・・


今日子は3万円で消えない友達を買った。


典型的なドツボに嵌るパターンである。


それが証拠にお試しセットを購入後も正規の価格で数点の商品を購入するはめになる。


「どう?もうそろそろ正規会員にならない?

うちの会の商品の良さはわかって頂いたと思うのだけど・・・

会費は今なら無料なのよ!でも、来月になったら3万円かかるの・・」


そんなカマキリの言葉に今日子は誠に相談もしないでその場で印鑑をおしてしまった。


それから数日後、またカマキリから連絡が・・・


「あなたも元にならない?私のように・・・」


カマキリからそう言われて正直、今日子は迷った・・・


なぜなら、商品の購入代金も結構、家計を圧迫していたし・・


何よりも食費と自分のお小遣いを削るのも限界があったからだ・・


でも、せっかく、巡り会った友達を手放したく無かった・・


その晩、今日子は誠に相談をする・・・


「あのね!会員制の・・・」


詳しく話を聞く前に誠は怒鳴った・・


「そんなの!ネズミコウだろ!お前!それ騙されいるに決まってんだろ!

商品を売るだって!止めておけ!どうせ友達に売ろうと考えてるんだろ!

無くすぞ!お前・・友達・・」


誠の顔があまりにも真剣だったので今日子はそれ以上何も言う事が出来なくなった・・


でも、勇気を振り絞って誠に言う!


「ち・・ちゃんとした商品なんだよ!添加物が入っていない!安全な商品を友達に紹介する事の何処がいけないのよ!」


「お前な~このシャンプー幾らだ?このリンスは!その訳がわからない健康になる液体は幾らしたんだ!」


今日子は顔をしかめて明細書を誠に見せる・・


「お・・お前!アホか!こんなシャンプーが5千円か!こんなリンスが4千円か!

良いか!俺んちは金持ちじゃね~んだよ!その金は俺が稼いだ金だろ!

お前!舐めんじゃね~よ!」


誠は上に上げた握りこぶしを押さえるのに必死であった・・


この女は何て馬鹿なんだ!そんな事も解らないのか!騙されてる事も・・・


誰でも・・解るだろ!そんな事・・・


泣き崩れる今日子・・・


「だって・・あなたや葵に健康で居てもらいたかったんだもん!」


それも嘘だと誠はわかっていた・・


そんな寂しい人間を誠は今まで嫌と言うほど見て来たからだ・・・


そして借金まみれになってどうにもならなくなった人間を・・今まで何人も見て来たのだ・・


「良いか!お前が何をしょうが構わん!でも、そんなものに手を出したら離婚だからな!」


そう誠は吐き捨てると不機嫌そうに自分の部屋に閉じこもってしまった。


友達が消えちゃう・・でも、旦那と離婚もできない・・・どちらを取る???


まぁ~正常な人間なら答えは決まっていた。


今日子も一応は・・正常な人間であった。


今日子は泣きながらカマキリに電話をした・・・・


「あら・・そう残念ね!旦那に立てつけないの・・変な奴・・」


そう不機嫌にカマキリは電話を切った・・


そしてこの電話をきっかけに今日子は辛い現実に直面していく事になるのだ・・


人生は辛すぎて私の手には負えない・・

事の始まりは娘の葵が幼稚園に入園する半年前の事である。


ある日、今日子が一枚のパンフレット持って嬉しそうに誠に話しかける。


「市でね!野菜に親しむ会ってをやっているのよ!

皆で協力して野菜を作っているの・・

毎週、農作業をして収穫した新鮮な季節の野菜をもらえるんだって!」


誠は嬉しそうに差し出されたそのパンフレットを興味なさげに見つめた。


妻の今日子は強烈なベジタリアンであった。


そして旦那の誠は強烈な肉食者であった。


そんな2人が結婚をして誠夫婦の食卓には肉と言う物が一切出てこない。


通常は草食動物より肉食動物の方が強いのだが・・


坂本家では逆で優しい誠は多少は不満があったがそんな食事も嫌な顔しないで食べていた。


「それで、家族全員参加が規則なのよ!あなたも参加してもらえないかしら??」


誠はそんな妻の申し出を聞いて一瞬、顔をしかめたが静かに無言で首を縦に振った。


しかし、参加したのは最初の日だけでそれ以降は仕事や何かと忙しい適当な理由をつけて参加しなった。


それでも会としてはOKらしく、妻は娘を連れて毎週のように早朝から畑に向った・・


そして、午後には誠がげんなりするほどの野菜を持って帰宅する。


ある日、今日子はその会で1人の女性と知り合う事になる。


顔は逆三角形で何時も淡いブルーの色が入っためがねをかけている。


子供は幼稚園児と小学生の子供が2人・・・


そんな彼女を今日子は「カマキリ」とあだ名で呼んでいた。


カマキリは顔が広い・・・


幼稚園ママから小学生のママまで多くの友達が居た。


地域の子供会でも役員をやっていたしある意味、実力者である。


1つ、難点を言えば、カマキリはある健康食品にはまっていた・・・


いや・・売っていた。


その会社の商品を売ると数パーセントのリベートが会社から入る・・


新規の会員を紹介すると数万円のリベートが入る・・


そんな会員制の健康食品の会社だ。


そんなカマキリが今日子に近づかない訳は無かった。


今日子は正直、言って「騙されるオーラ」を全開に漂わせている女であった。


と・・言うよりも誠を付き合いって居る時も数回、キャッチセールスで苦い想い出を持っている。


まだ、付き合って間もない頃、遠距離恋愛をしていた今日子は誠が住む町に泊りがけで遊びに来ていた。


その日は丁度、誠が仕事で駅に今日子を迎えに行く事が出来なかった。


案の定、誠が自宅に帰宅しても今日子の姿が無い・・


急いで携帯に電話をすると今、駅前の喫茶店に優しいお兄さんと3時間も話をしていると言う・・


「ねぇ~誕生石が格安で買えるらしいのよ!通常なら40万円もするのに・・

今回は20万円でよいんだって・・

もう、契約書にサインしちゃった!」


あんともあっけらかんと今日子はそう誠に話した・・


「お・・お前!まだ、そいつと一緒なのか?契約書は渡してしまったのか!」


「いいえ・・今、渡す所よ!

支払い・・どうしょう?ねぇ~おごってよ!」


何の悪びれる事無く簡単に誠にそう呟く・・


誠は急いで駅前の喫茶店に行くと・・そこにはいかにも人が良さそうな金髪の兄ちゃんが座っていた。


誠が表れると急に強面の顔に変わり今日子から契約書を奪い取ろうとしている・・


散々もめたあげくに・・・なんとか契約を取り消した・・


そんな・・女である。


騙されているとか、自分がどれだけ損をするとか、まったく先が考えられない女であった。


結婚しても数回、そんな揉め事が続いた・・


さすがの誠も怒りながら今日子に怒鳴った・・


「絶対に契約するな!話を聞くな!誘われたらその場で返事をしないで旦那に聞くと言え!

基本的に、物は店で買え!訪問販売で物は買うな!絶対に・・・」と


その時の誠の表情があまりにも真剣だったのでさすがの今日子もその事だけは今でも守っている。


その日、大根を畑から抜いている今日子の横にカマキリは近づき小声で言った・・


「坂本さん・・健康食品に興味は無い??

ほら、市販のシャンプーや食品には添加物がイッパイなのよ!

小さな子供に凄く悪い影響を及ぼすのよ・・・」と


ベジタリヤン=健康主義!と言う公式が見事に当てはまる女である。


今日子が興味を持たない訳が無かった・・


「今度、お友達を集めて添加物の勉強会を開くんだけど・・

あなたも良かったら参加しない??」


今日子は二つ返事でカマキリの申し出に承諾した・・


それが・・今日子の不幸の始まりだとも知らずに・・・


数日後・・今日子はカマキリの群れに単独で突入する事になる・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。

「誠さんごめんなさいね!この子は本当に世間知らずな娘なの・・

あなたに迷惑をかけるかもしれないけど・・この子の事をよろしくお願いいたします・・」


誠の手を握り老婆は涙を流しながらそう呟いた・・・


「ふぅ~また・・あの夢か・・・」


誠は額にイッパイ汗をかきながらダルそうに起き上がる。


横には4歳になる娘の葵と妻の今日子が川の字になって眠っていた。


彼の名前は坂本誠と言う。大手の食品メーカーの営業をしている。


彼は小さい時から両親とソリが合わずに18歳で高校を卒業すると今の会社に就職したのをきっかけに家を出た。


それから17年・・それなりに苦労もして来た。そして、営業畑が長いせいか人あたりが良く誰とでも直ぐに仲良くなれるタイプの男である。


それと反対に妻の今日子は人付き合いが悪い・・


いや・・悪くは無いのだと思う・・


誠から言わせると人付き合いが下手な女であった。


誠は冷蔵庫から冷たい水をコップに注ぎ一気に飲み干し呟いた・・


「これで・・あの夢を見るのは何回目だよ!

っつたく・・まさか本当に世間知らずだとは思わなかった・・・」


まさか本当に世間知らずだとは思わなかった・・・


それは妻の今日子の事である。


最近、誠は口癖のようにこの言葉を呟き・・・


そしてビデオのリピートのように同じ夢を見ている・・


人付き合いの上手い誠に比べて今日子は本当に下手であった。


ただ、何が最悪かと言うとその事に今日子自身が気が付いて居ないと言う事だ・・


若い時から何時も逃げていたらしい・・


人間関係がおかしくなると直ぐに職場を辞めてしまう。


自分と気が合う特定の友達としか付き合わない・・


何時も逃げてきたせいなのか?今日子は初対面の人間とどう付き合うべきなのかその術を知らなかった。


そんな彼女が誠と結婚したのが今から5年前の事である。


当時、誠は35歳で今日子は30歳であった。


2人はお見合い結婚なのだが、その時も今日子は就職はしておらずアルバイトをしていた。


実家は裕福で暮らす事には困っていない。


だから、金銭感覚も長く1人で暮らして来た誠とは大分違う。


金は無くならない物・・・幾ら使っても・・・


その言葉を聞いた瞬間に誠は今日子から通帳を取り上げたくらいである。


ただ、今まで逃げて来た今日子であったが、娘の事に関してはそうはいかなかった。


子供が生まれ、初めての公園デビューも失敗した。


ママ友が出来ない訳では無かった・・・


いや・・友人を作るのはかえって誠よりも上手いのかもしれない・・


しかし、何時の間にかその友人は消えていく・・

実に不思議なくらいに消えていく・・


娘が3歳になりワンパクキッズと言う市のサークルに参加し始める。


そこでも最初は多くのママ友を作るのだが何時の間にかお弁当を1人で食べている有様だ・・


それでも、娘が幼稚園に入園するまでは良かった・・


なんだかんだと逃げられたからだ・・


しかし、今年の4月に娘の葵は幼稚園に入園をする。


それが今の誠にとって一番の悩みの種であった。


あいつは・・上手くやって行けるのだろうか?ママさん達と・・・


そして、その不安は次々と的中して行くのであった。


このお話はそんなカッパとあだ名を付けられた今日子の奮闘記である。