友達を得る道具 | 僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

その日、今日子は幼い葵を自転車に載せて教えられたカマキリの自宅に向っていた。


やっと、共通の趣味を持つ友人が出来る。


それにカマキリは友達が多いからそこから沢山、ママ友が出来るかもしれない・・


今日子は胸の高鳴りを抑えながら笑顔で自転車を飛ばしていた・・・


カマキリの自宅は閑静な住宅街の一戸建てであった。


狭いアパート暮らしの今日子にとっては一戸建てに住んでいるだけで尊敬の的である。


チャイムを鳴らすと高そうな服と高価なブランド物のアクセサリーと身につけたカマキリが笑顔で出迎えてくれた。


そこには畑で出会った時のカマキリの感じは無く・・・


誠から言わせれば、まさにそれは獲物を狙う戦闘体制に入っているいでたちである。


リビングに通されると数人の女性が高そうなソファーに座っている。


畑で見かけた事がある顔も数人居る。


「子供達は隣の部屋で遊ばせておきましょう!

今日は坂本さんが初めて参加してくれたので・・

会から担当者の方が特別に勉強会に参加してくれたので・・」


「えっ~本当に!感激!!

坂本さんに感謝しなくては!!」


1人の女がわざとらしくそう叫んだ!


彼女は見かけない顔である・・誰??この人・・・


畑の顔見知りのメンバーは一瞬、苦笑いをした。


勉強会が始まった・・・


「我が会の創立者のウイリアムは・・・」


会から招かれたスーツ姿の男がよう話し始めると全ての人間がメモを取りながら聞き始める・・


今日子はそんな空気に圧倒され何時の間にかこんな凄い商品なのかと錯覚を起こし始める・・・


一瞬・・カマキリが微笑んだ・・


「どう・・坂本さん!会員になると全ての商品が10パーセント割引で買えるのよ!」


「えっ・・でも、旦那に相談をするように何時も言われているので・・・」


「あら・・結構、亭主関白な家なのね!1度、旦那さんを見かけたけどそんな感じには見えなかったけど・・」


カマキリは疑い深そうにそう呟く・・


「なら、今、お試しセットと言う物があるのよ!

うちの商品の良さをわかって頂くには使っていただくの一番だから・・

セットで3万円なの!通常で買うと6万円はする商品なんだから・・・

どう??会員になるのは使ってみて良さを実感して頂いてからで結構だから・・」


そんなカマキリの言葉を後押しするようにそこに居た全員が今日子に言った・・


「試してみなさいよ!3万円で健康が得られるなら安い物よ!

体を壊して病院に通ったら幾らお金がかかるかわからないのだから・・」


その日、今日子の財布の中には、偶然にも銀行に入れる食費の4万円が入っていた・・


それを思い出した今日子は・・


「そ・・そうね!お試しだけなら・・」と言って財布から食費の3万円を取り出した。


それから1時間ほど勉強会は続けられた。


帰り際に今日子に仮会員証が手渡される。


それとぶ厚い商品カタログと正規の会員申込書と一緒に・・・


「坂本さん!一緒に健康になる為に勉強しましょうね!」


カマキリは帰り際に笑顔で今日子にそう呟いた・・


今日子は3万円で消えない友達を買った。


典型的なドツボに嵌るパターンである。


それが証拠にお試しセットを購入後も正規の価格で数点の商品を購入するはめになる。


「どう?もうそろそろ正規会員にならない?

うちの会の商品の良さはわかって頂いたと思うのだけど・・・

会費は今なら無料なのよ!でも、来月になったら3万円かかるの・・」


そんなカマキリの言葉に今日子は誠に相談もしないでその場で印鑑をおしてしまった。


それから数日後、またカマキリから連絡が・・・


「あなたも元にならない?私のように・・・」


カマキリからそう言われて正直、今日子は迷った・・・


なぜなら、商品の購入代金も結構、家計を圧迫していたし・・


何よりも食費と自分のお小遣いを削るのも限界があったからだ・・


でも、せっかく、巡り会った友達を手放したく無かった・・


その晩、今日子は誠に相談をする・・・


「あのね!会員制の・・・」


詳しく話を聞く前に誠は怒鳴った・・


「そんなの!ネズミコウだろ!お前!それ騙されいるに決まってんだろ!

商品を売るだって!止めておけ!どうせ友達に売ろうと考えてるんだろ!

無くすぞ!お前・・友達・・」


誠の顔があまりにも真剣だったので今日子はそれ以上何も言う事が出来なくなった・・


でも、勇気を振り絞って誠に言う!


「ち・・ちゃんとした商品なんだよ!添加物が入っていない!安全な商品を友達に紹介する事の何処がいけないのよ!」


「お前な~このシャンプー幾らだ?このリンスは!その訳がわからない健康になる液体は幾らしたんだ!」


今日子は顔をしかめて明細書を誠に見せる・・


「お・・お前!アホか!こんなシャンプーが5千円か!こんなリンスが4千円か!

良いか!俺んちは金持ちじゃね~んだよ!その金は俺が稼いだ金だろ!

お前!舐めんじゃね~よ!」


誠は上に上げた握りこぶしを押さえるのに必死であった・・


この女は何て馬鹿なんだ!そんな事も解らないのか!騙されてる事も・・・


誰でも・・解るだろ!そんな事・・・


泣き崩れる今日子・・・


「だって・・あなたや葵に健康で居てもらいたかったんだもん!」


それも嘘だと誠はわかっていた・・


そんな寂しい人間を誠は今まで嫌と言うほど見て来たからだ・・・


そして借金まみれになってどうにもならなくなった人間を・・今まで何人も見て来たのだ・・


「良いか!お前が何をしょうが構わん!でも、そんなものに手を出したら離婚だからな!」


そう誠は吐き捨てると不機嫌そうに自分の部屋に閉じこもってしまった。


友達が消えちゃう・・でも、旦那と離婚もできない・・・どちらを取る???


まぁ~正常な人間なら答えは決まっていた。


今日子も一応は・・正常な人間であった。


今日子は泣きながらカマキリに電話をした・・・・


「あら・・そう残念ね!旦那に立てつけないの・・変な奴・・」


そう不機嫌にカマキリは電話を切った・・


そしてこの電話をきっかけに今日子は辛い現実に直面していく事になるのだ・・


人生は辛すぎて私の手には負えない・・