僕が死ぬ日・・生まれる日 -58ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「生きる事はくだらない・・」


木村はよく私にそんな言葉を呟いていた。


なんとか言う作家がよく使う言葉らしい。


生きる事はくだらない・・・


そんな言葉を聞く度に私はこいつはきっと幸せな人生を送って来たのだと感じた。


俺は心が病んでいる・・・


私が居た世界のようにまだ、心の病なんて病気がまだ、認知されていない時代・・


でも、私は何時も思っていた。


満たされない心・・・


無気力・・


うつ病・・


そんな言葉を聞く度に・・・・


なんてそんな言葉を発する奴らは幸せな環境に居るのかと・・


そんな無気力になっても生きていける。


仕事をしなくても生きて行ける・・・


それは幸せな事ではないのだろうか???


私の母親が死ぬ時に母親は私の手をしっかり握って言った・・


「働かない事は罪である・・」と


人間は様々な悩みを抱えながら生きてる。


それは病に犯されている人間もそうで無い人間も同じなのだ。


ただ、違うのは自分が弱いか強いかだけのような気がする。


それはあなたが心の病でないからだ!


きっと、病に犯された人間は言うだろう・・・


しかし、それは違う・・


私もきっと、彼らと同じ位の心の重荷を背負って生きて来たのだ。


仕事が辛い・・


人間関係のストレス・・・


自分が生きてる意味・・・


何度も眠れない夜を過ごした事がわからない・・


泣きながら自分に問う・・


俺は何で生きている?と・・


ただ、私が心の病にならなかったのは・・


そんな母親の言葉を何時も心に止めて置いたからかもしれない。


「働かない事は・・罪である」と


正直、今でもその言葉の意味はわからない。


ただ、きっと、そんな私に母は笑いながら言うだろう・・


それだけあんたが恵まれた環境に居るからだと・・


「生きる事はくだらない・・」


なんとも嫌な言葉であった。


私は正直、迷っていた。この世界でも自分が進む道を・・・


現実を受け入れるのか??


それとも夢を追うのか??


そんなある日、学食で食事をしていると私はある女子生徒に声をかけられる・・


「坂本君・・ちょっと時間・・ありますか??」


振り返るとそこには佐々木美香と言う女が神妙な顔をして立ってた。


佐々木美香・・・


私はリセットする前の世界でこの女をよく知っていた。


なぜなら、この女は木村の妻であったからだ。


木村は大学を卒業と同時に今日子と別れた。


それはこの女と出会ったからだ。


美香はマン研の部員であった。


特に美人でもブスでもない・・


特に痩せてもいないし・・デブでも無い・・


普通の女・・


しかし、アニメに対しての思いは熱い・・・


いや・・人並み異常の才能を持っていた。


しかし、絵描きと文字書きは違う。


人を感動させる絵は描けても・・・


人を感動させる言葉を生み出す事が美香は苦手だったのだ。


彼女は大学を卒業して直ぐにデビューした。


そしてデビュー作が大ヒットして一流の漫画家と呼ばれるようになった。


世間では原案と原作を彼女1人でやっていると思われていたが・・


実は原案は木村が書いていた。


それは私だけ知っている秘密であった。


この美香との出会いが私に新たなる苦しみをもたらそうとはその時の私には想像も出来なかった。


人生は辛すぎて私の手には負えない。



木村と純子は結局、2次審査を通過する事は出来なかった。


しかし、木村にとって一次審査を通過したという事は大いなる自信に繋がったようであった。


そして・・破れた私には大きな劣等感だけが残った。


次の年、私は「扉」に小説を応募する事をしなかった。


「来年、自分の全てをかけた小説を応募するから・・」


そう仲間には言ったが本当は怖かったのだ・・・


また、敗北と言う物を味わうかもしれないと言う事が怖かった・・・


今日子とは何の進展もなく普通の付き合いであった。


時期を待つ。


そんな言葉が今日子に想いを告白すると言う行為に歯止めをかけていた。


私達は4年生になっていた。


昨年の「扉」では木村も純子も結局は一次審査を通過する事は出来なかった。


私はなんとなく、落ち込む木村を見ながらホッとした。


「お前・・どうするの??」


4年になるとそんな会話が仲間同士の間で頻繁に繰り返されるようになる。


お前・・どうするの??


就職するの??それとも・・夢を追うの??


毎晩のように居酒屋でそんな論議か繰り返される・・・


「お・・俺は!夢を追うぜ!絶対に・・」


仲間内で一番に宣言したのは木村であった。


3年の終わりに驚いた事に木村と友美は同棲を始めた。


それは私にとって考えても居ない事態であった。


数回、私は彼らの新居に招待をされた。


エプロン姿で私の為に料理を作ってる友美を見て私はなぜが苛立ちを覚えた。


きっと、新婚当時を少しだけ思い出したのかもしれいない・・


男とはなんとも身勝手な生き物である。


「友美がさ~夢、捨てないで!って言うんだよ!」


飲み会の帰りに木村が私にそう呟いた・・・


「夢を捨てないで・・そうあいつが言ったのか??」


私は驚いたように木村に聞き返した・・


「ああ・・私が働くからあなたは夢を捨てないでって・・」


そんな事を・・あいつが・・・


「何を夢見たいな事を言っているの??

小説家になんかなれる訳がないでいしょ!

もっと・・現実をみなさいよ!子供なんだから・・」


私は当時、友美にそう言われた・・・


就職するか夢を追うか迷っていた時期の事である。


友美は確かに私に言ったのだ・・


「就職しろ!」と


木村には夢を追えと・・・


そして私には夢を諦めろと・・


俺には木村のような才能が無いとお前は言いたかったのか??


えっ!お前は俺の何を知って居たんだ!俺の・・何を・・・


「そうか・・友美がね~

お前ら・・将来どうするの???」


「ああ・・当面は扉で優秀賞を取る事が目標だ!

もしも、取れたら結婚をしょうと思っているんだ!

その時は、お前も式に来てくれよな!

友人代表としてさ!」


そう照れて苦笑いをしている木村に少しだけイラツク・・・


こんなヤツに俺は負けたくない・・


絶対に・・絶対に俺は・・この男に負けたくない・・


木村が将来、小説家として成功する事を知っているだけに・・


私の中に表現しきれない程の憎悪が生まれた。


「それで、誠はどうするんだ??

なんか、内定の話・・有るんだろ??

山田貿易だってな!一流じゃないか!

何も自ら進んで苦しみを選ぶ事は無いんじゃないのか??」


それはきっと木村の優しさの言葉であったと思う。


私が苦労しないように心配をしてくれて彼はそう言ったに違いない・・


しかし、その時の私には木村のそんな優しさを感じてあげる余裕が無かった・・


「何だ!お前!俺に才能が無いって言いたいのか!」


私はそう怒鳴っていた・・


もの凄い、憎しみに満ちた目つきで木村を睨みつけながら・・・


「えっ・・い・・いや・・違うよ!勘違いするな!」


少しだけ木村は動揺した。


なんともバツが悪そうに頭を下げる・・


「すまない・・お前のプライドを傷つけてしまったようで・・」と


私は何も言わずに歩き出した・・・


お前になんか負けない!絶対に・・絶対に負けない・・


そう何度も、何度も・・呟きながら・・


そんな私を見つめながら木村が一言・・呟いた。


「お前・・変わったな!」と・・


そして・・


「でも、俺たち、一生・・親友だからな!」と・・


私は・・無意識に泣いていた・・


そんな木村の声が聞こえない振りをしながら・・


俺・・変わったのかな??


なら・・本当の昔の俺は・・どんなヤツだったんだよ!


そんな言葉を呟きながら・・


人生は辛すぎて私の手には負えない。


「お前・・どのくらい進んだ??」


サマーキャンプが終わり9月になると部室ではこんな会話が繰り返される。


それは、10月に締め切りが迫った「扉」と言う小説コンテストに出す原稿の話である。


「扉」は歴史の深いコンテストであった。


言い換えれば新人の登竜門的なコンテストだ。


作家の世界で新人と言っても幅が広い。


私達のような10代の学生から40代の人間まで・・・


あくまで世に作家と言う名で出ていない人間は全て新人と呼ばれる。


したがってこの「扉」に応募する人間の数も半端ではなく・・・


審査は4次まで行われるのだが1次を通過する事も奇跡に近かった。


私達の同好会のメンバーももちろん、全員参加である。


ある意味、我が同好会の活動の殆どがこのコンテストの為と言っても言い過ぎでは無いだろう。


実は今から8年後にこのコンテストで優秀賞を木村が取る事になる。


ある意味、木村はこの賞を取る事により文壇にデビューするのだ。


私は当時、その新聞記事を読んでもの凄い嫉妬を覚えた事を今でも鮮明に覚えている。


それだけ、この賞を取る事は難しく、小説を書いてる人間には高嶺の花なのである。


「誠はどうよ??俺、今回は凄く、自信あるぜ!」


木村は自信満々で私にそう呟いた。


「ああ・・俺もボチボチな・・」


「っつたく!お前は何時もボチボチだよな!っつたくよ~」


10月の29日に部室に部員が全員集合するのも恒例の行事である。


狭い部屋の中に男女合わせて数十人の学生達が一同に集合する。


こんなに部員っていたんだ・・・


そんな光景を見ながら唖然とする。


「そんじゃ~原稿を出して!

明日、俺と副部長が出版社に持って行くから!」


テーブルの上に原稿用紙が入った茶封筒が山のように積まれた。


その時の部長と副部長が部員の原稿用紙を持って行くのも恒例の事であった。


正直、私は少しだけ自信があった。


なにせ、私は今から以降の全ての傑作と呼ばれている本を全て読破しているのだ・・


入賞は無理にしても・・2次くらいまでは通過する自信があったのだ。


一次審査の結果が発表されたのはそれから一ヵ月後の11月の末の事であった。


封書で私達の同好会宛に通過者のリストが送られて来る。


その日、部室には授業がある人間も無い人間も全員が集まっていた。


そして一通の封筒が到着するのを待っていた。


「来たぞ!」


そう叫びながら一枚の封筒を高々と上げて部長が走って来た・・


一瞬、部室内になんとも言えない緊張が走る・・・・


ベリ・・ベリベリ・・・


手荒に封筒を開く音だけが静寂をかき消すかのように響き渡る・・・


ゴクッ・・・


つばを飲み込む音がする・・


緊張の一瞬だ・・・


知らせは団体で応募してる所にはその団体のメンバーで通過した人間が居るか居ないかの知らせが来る。


居る場合はピンクの紙でその人間の作品名と名前が・・


居ない場合は、白い紙で通過者無しと言う一文字が・・・


部長の手が緊張で震える・・・


封筒から一枚の紙が取り出された・・・


「お・・おい・・ピ・・ピンクの紙が入ってるぞ!」


興奮気味に部長が叫ぶ!


無理も無い、私達の同好会の長い歴史の中でピンクの紙を見たのは今年が初めてなのだ・・


「ま・・マジかよ!ピ・・ピンク・・って言う事は・・通過者が居るのか!ま・・マジ!」


部長の興奮は何時の間にか私達、全員に伝染した・・


興奮が隠せないように全員が体の震えを必死に押さえた・・・


「で・・誰だ・・・誰だ!」


その場に居た全員が密かに自分の名前がある事を願っていた・・・


あるヤツは既にガッツポーズの準備をしてる・・・


「に・・二名の名前が書いてある・・」


「今年は2人も通ったのか!奇跡だな・・マジで・・」


「で・・誰だ!早く・・早く言ってくれ!心臓が爆発しそうなんだよ!」


「ああ・・・発表する・・・」


一瞬の静寂・・・


「作品名・・・陽炎・・・」


そう題名が読まれると純子が奇声を上げた!


「作家名!加藤純子!おめでとう!・・・」


おおおおおおお・・・・・・・・・・・・・・っ!


「それでもう1人は!もう1人は誰だ!」


「まてまて・・落ち着け!それじゃ~発表するぞ!

作品名・・・小さな恋の物語・・

作者名・・き・・木村純一!おあめでと~~~~~~~う!」


き・・・木村が・・・な・・何で??何で木村が・・・・


私は思わず唇を噛み締めた・・・・


何で・・何で俺でないのだ・・何で・・・


私は憎悪の目で木村を見つめながら微笑みながら呟いた・・


「やったな!木村・・おめでとう!」と・・


人生は辛すぎて私の手には負えない・・