「お前・・どのくらい進んだ??」
サマーキャンプが終わり9月になると部室ではこんな会話が繰り返される。
それは、10月に締め切りが迫った「扉」と言う小説コンテストに出す原稿の話である。
「扉」は歴史の深いコンテストであった。
言い換えれば新人の登竜門的なコンテストだ。
作家の世界で新人と言っても幅が広い。
私達のような10代の学生から40代の人間まで・・・
あくまで世に作家と言う名で出ていない人間は全て新人と呼ばれる。
したがってこの「扉」に応募する人間の数も半端ではなく・・・
審査は4次まで行われるのだが1次を通過する事も奇跡に近かった。
私達の同好会のメンバーももちろん、全員参加である。
ある意味、我が同好会の活動の殆どがこのコンテストの為と言っても言い過ぎでは無いだろう。
実は今から8年後にこのコンテストで優秀賞を木村が取る事になる。
ある意味、木村はこの賞を取る事により文壇にデビューするのだ。
私は当時、その新聞記事を読んでもの凄い嫉妬を覚えた事を今でも鮮明に覚えている。
それだけ、この賞を取る事は難しく、小説を書いてる人間には高嶺の花なのである。
「誠はどうよ??俺、今回は凄く、自信あるぜ!」
木村は自信満々で私にそう呟いた。
「ああ・・俺もボチボチな・・」
「っつたく!お前は何時もボチボチだよな!っつたくよ~」
10月の29日に部室に部員が全員集合するのも恒例の行事である。
狭い部屋の中に男女合わせて数十人の学生達が一同に集合する。
こんなに部員っていたんだ・・・
そんな光景を見ながら唖然とする。
「そんじゃ~原稿を出して!
明日、俺と副部長が出版社に持って行くから!」
テーブルの上に原稿用紙が入った茶封筒が山のように積まれた。
その時の部長と副部長が部員の原稿用紙を持って行くのも恒例の事であった。
正直、私は少しだけ自信があった。
なにせ、私は今から以降の全ての傑作と呼ばれている本を全て読破しているのだ・・
入賞は無理にしても・・2次くらいまでは通過する自信があったのだ。
一次審査の結果が発表されたのはそれから一ヵ月後の11月の末の事であった。
封書で私達の同好会宛に通過者のリストが送られて来る。
その日、部室には授業がある人間も無い人間も全員が集まっていた。
そして一通の封筒が到着するのを待っていた。
「来たぞ!」
そう叫びながら一枚の封筒を高々と上げて部長が走って来た・・
一瞬、部室内になんとも言えない緊張が走る・・・・
ベリ・・ベリベリ・・・
手荒に封筒を開く音だけが静寂をかき消すかのように響き渡る・・・
ゴクッ・・・
つばを飲み込む音がする・・
緊張の一瞬だ・・・
知らせは団体で応募してる所にはその団体のメンバーで通過した人間が居るか居ないかの知らせが来る。
居る場合はピンクの紙でその人間の作品名と名前が・・
居ない場合は、白い紙で通過者無しと言う一文字が・・・
部長の手が緊張で震える・・・
封筒から一枚の紙が取り出された・・・
「お・・おい・・ピ・・ピンクの紙が入ってるぞ!」
興奮気味に部長が叫ぶ!
無理も無い、私達の同好会の長い歴史の中でピンクの紙を見たのは今年が初めてなのだ・・
「ま・・マジかよ!ピ・・ピンク・・って言う事は・・通過者が居るのか!ま・・マジ!」
部長の興奮は何時の間にか私達、全員に伝染した・・
興奮が隠せないように全員が体の震えを必死に押さえた・・・
「で・・誰だ・・・誰だ!」
その場に居た全員が密かに自分の名前がある事を願っていた・・・
あるヤツは既にガッツポーズの準備をしてる・・・
「に・・二名の名前が書いてある・・」
「今年は2人も通ったのか!奇跡だな・・マジで・・」
「で・・誰だ!早く・・早く言ってくれ!心臓が爆発しそうなんだよ!」
「ああ・・・発表する・・・」
一瞬の静寂・・・
「作品名・・・陽炎・・・」
そう題名が読まれると純子が奇声を上げた!
「作家名!加藤純子!おめでとう!・・・」
おおおおおおお・・・・・・・・・・・・・・っ!
「それでもう1人は!もう1人は誰だ!」
「まてまて・・落ち着け!それじゃ~発表するぞ!
作品名・・・小さな恋の物語・・
作者名・・き・・木村純一!おあめでと~~~~~~~う!」
き・・・木村が・・・な・・何で??何で木村が・・・・
私は思わず唇を噛み締めた・・・・
何で・・何で俺でないのだ・・何で・・・
私は憎悪の目で木村を見つめながら微笑みながら呟いた・・
「やったな!木村・・おめでとう!」と・・
人生は辛すぎて私の手には負えない・・