真っ赤な夕日が今日子の顔を照らしていた。
私の背中では幸せそうに微笑む小さな天使が寝息を立てている。
「本当はね!この子の父親は生きてるのよ!
私・・離婚したの。」
然程、私はそんな今日子の言葉に驚きもしなかった。
大方、そんなもんだろうと思って居たからだ。
今日子は独り言のように話し始める。
それはまるで自分の人生を懐かしみ・・
自分の人生を呪う様な口調であった。
「高校を卒業して就職もしないで私は何時も夜の町をさ迷っていた。
歌舞伎町にね!朝までやっている飲み屋があってそこで小銭を握り締めて・・
毎晩、朝まで飲んでいた。
その時、偶然、その飲み屋で知り合ったのが晃・・
純の父親なの。凄くカッコよくって話し好きで・・・
私は直ぐに彼を好きになったわ!
しばらくして一緒に住み始めて・・私が24歳の時に結婚した。
純がね!お腹に居る事が解ったから。
晃も凄く喜んでくれた!フリターだった彼もちゃんと就職してくれてね!
私も小さなパン屋でパートして・・
でも純が生まれて彼は変わった。
女が居たの!私が妊娠してる時に偶然行った飲み屋の女・・
どうしょうも無い男だった!
そしてそんな男を愛してしまった私もどうしょうも無い女だった。
なんか別れたかったんだと思う・・私と
もの凄い暴力を毎日、毎日・・受けていた。
ある日、晃が純の首に手をかけながら言ったの・・
「こいつさえ・・居なければ俺は幸せになれるのに!」って・・
私は次の日に家を出た。
純はとっても良い子に育っている。
遺伝子ってあんまり関係が無いのね!
こんなろくでも無い親の血を受け継いでいるのにさ!
あの子は凄く良い子に育っている・・
でも最近・・思うのよ!
やはり子供には父親が必要なのではないのかと・・
どんなに愚かな男でも・・父親だもんね!あの子の・・
だからこの前ね!会いに行ったのあいつに・・」
ふと・・そんな言葉を聞いて歌舞伎町で今日子を見かけた夜の事を思い出す。
もしかして・・
ふとそんな考えが私の脳裏に浮かんだ。
「あいつ、今、新宿でホストなんかやってるのよ!№2なんだって!
アホくさ!って感じよ!あの時の女とも別れたなんて言っていた。
でも、純の事は何一つ聞こうとしないの・・
自分の自慢話ばかりよ!そして帰り際に何て言ったと思う・・
私にね!数枚の一万円札を握らせてさ・・
「もう来るなよ!」だって!
父親は確かに必要だけど・・
晃はもう・・純の父親じゃ無くなってるんだと思った。
だから・・話すの止めたの!
本当は私さえ我慢すれば、あの子に父親を返してあげれると思ったんだけどね!
馬鹿親は・・所詮は・・馬鹿親よね!
私もあいつも・・親になる資格なんか無かったのかもしれない・・」
いつの間にか夕日は沈み・・辺りは夜のネオンに包まれていた。
私は何も言う事が出来なかった。
ただ、今日子の手を優しく握り・・
何も言わずに駅まで歩いた。
そんな私に今日子は涙を流しながら一言呟く
「優しいね・・君・・」と
世界は一握りの「幸福者」と多くの「不幸者」から成り立っている。
多くの不幸者達は幸福者達を羨み妬みながら何時か自分もと生きてる。
しかし、必ずしも一握りの「幸福者」達が幸せとは限らない。
多くの不幸者が求める「幸福」と言うゴールが必ずしも幸せとは限らないからだ。
「幸福者」は幻想のような実態の無い幸せと言う思い込みを消さないように怯えている
だけなのかもしれない。
上野から京浜東北線に乗り今日子の家を目指す。
アパートの前に着いたのはもう夜の7時を過ぎていた。
私の背中でまだ、純君は眠っている。
私は部屋に入ると優しく彼を布団の上に寝かせた。
「飲まない?ろくなつまみは無いけど・・・」
そう今日子が言いながら冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
「ああ・・そうだな!飲むか!」
私はそのビールを受け取ると缶ビールのふたを開けた