僕が死ぬ日・・生まれる日 -43ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

真っ赤な夕日が今日子の顔を照らしていた。

私の背中では幸せそうに微笑む小さな天使が寝息を立てている。

「本当はね!この子の父親は生きてるのよ!

私・・離婚したの。」

然程、私はそんな今日子の言葉に驚きもしなかった。

大方、そんなもんだろうと思って居たからだ。

今日子は独り言のように話し始める。

それはまるで自分の人生を懐かしみ・・

自分の人生を呪う様な口調であった。

「高校を卒業して就職もしないで私は何時も夜の町をさ迷っていた。

歌舞伎町にね!朝までやっている飲み屋があってそこで小銭を握り締めて・・

毎晩、朝まで飲んでいた。

その時、偶然、その飲み屋で知り合ったのが晃・・

純の父親なの。凄くカッコよくって話し好きで・・・

私は直ぐに彼を好きになったわ!

しばらくして一緒に住み始めて・・私が24歳の時に結婚した。

純がね!お腹に居る事が解ったから。

晃も凄く喜んでくれた!フリターだった彼もちゃんと就職してくれてね!

私も小さなパン屋でパートして・・

でも純が生まれて彼は変わった。

女が居たの!私が妊娠してる時に偶然行った飲み屋の女・・

どうしょうも無い男だった!

そしてそんな男を愛してしまった私もどうしょうも無い女だった。

なんか別れたかったんだと思う・・私と

もの凄い暴力を毎日、毎日・・受けていた。

ある日、晃が純の首に手をかけながら言ったの・・

「こいつさえ・・居なければ俺は幸せになれるのに!」って・・

私は次の日に家を出た。

純はとっても良い子に育っている。

遺伝子ってあんまり関係が無いのね!

こんなろくでも無い親の血を受け継いでいるのにさ!

あの子は凄く良い子に育っている・・

でも最近・・思うのよ!

やはり子供には父親が必要なのではないのかと・・

どんなに愚かな男でも・・父親だもんね!あの子の・・

だからこの前ね!会いに行ったのあいつに・・」

ふと・・そんな言葉を聞いて歌舞伎町で今日子を見かけた夜の事を思い出す。

もしかして・・

ふとそんな考えが私の脳裏に浮かんだ。

「あいつ、今、新宿でホストなんかやってるのよ!№2なんだって!

アホくさ!って感じよ!あの時の女とも別れたなんて言っていた。

でも、純の事は何一つ聞こうとしないの・・

自分の自慢話ばかりよ!そして帰り際に何て言ったと思う・・

私にね!数枚の一万円札を握らせてさ・・

「もう来るなよ!」だって!

父親は確かに必要だけど・・

晃はもう・・純の父親じゃ無くなってるんだと思った。

だから・・話すの止めたの!

本当は私さえ我慢すれば、あの子に父親を返してあげれると思ったんだけどね!

馬鹿親は・・所詮は・・馬鹿親よね!

私もあいつも・・親になる資格なんか無かったのかもしれない・・」

いつの間にか夕日は沈み・・辺りは夜のネオンに包まれていた。

私は何も言う事が出来なかった。

ただ、今日子の手を優しく握り・・

何も言わずに駅まで歩いた。

そんな私に今日子は涙を流しながら一言呟く

「優しいね・・君・・」と

世界は一握りの「幸福者」と多くの「不幸者」から成り立っている。

多くの不幸者達は幸福者達を羨み妬みながら何時か自分もと生きてる。

しかし、必ずしも一握りの「幸福者」達が幸せとは限らない。

多くの不幸者が求める「幸福」と言うゴールが必ずしも幸せとは限らないからだ。

「幸福者」は幻想のような実態の無い幸せと言う思い込みを消さないように怯えている

だけなのかもしれない。

上野から京浜東北線に乗り今日子の家を目指す。

アパートの前に着いたのはもう夜の7時を過ぎていた。

私の背中でまだ、純君は眠っている。

私は部屋に入ると優しく彼を布団の上に寝かせた。

「飲まない?ろくなつまみは無いけど・・・」

そう今日子が言いながら冷蔵庫から缶ビールを取り出す。

「ああ・・そうだな!飲むか!」

私はそのビールを受け取ると缶ビールのふたを開けた

いったいどうしたんだ?何が理由だ?」

「どうもこうも無いわよ!毎日、毎日、何処かに連れて行け!連れて行けと!

パパはお仕事で日曜日はお休みできないのよ!って何度も言ってるのに!

まったく聞き分けが無いんだから・・」

そう叫ぶ妻から少しだけアルコールの香りがする。

「お前・・飲んでるかの?」

一瞬、妻の顔が引きつる。そして開き直ったかのように怒鳴り始める。

「飲みたくもなるわよ!あなたは毎晩、遅いし殆ど家に居ない。

子育ては全部、私に押し付けて好きな事をやっている。

それは仕事だから仕方が無い!でも最近のあなたは変よ!

あの香水の甘い香りを嗅ぐたびに気が狂いそうになる!

昔は違ったじゃない!忙しくても何時も家族3人だったじゃない!

暇を作ってくれて何時も3人で遊びに行ってたじゃない!

何時からよ!何時から家族がバラバラになってしまったの!

何時からよ!」

妻はいつの間にか泣いていた。

大きな切れ長の目からは涙が溢れ出していた。

お前が・・お前が浮気をしてるからだろ!

お前に男が居るからだろ!

そう怒鳴りつけたくなる気持ちを私は必死に押さえ込む。

「お前・・大分、酔ってるな!寝ろ!とりあえず!」

私はそう言いながら妻を寝室に連れ行く。

リビングに戻るとまだ娘の葵は半泣きでいじけていた。

私は娘を抱きしめながら言った。

「ごめんな!悪いパパで・・」と

娘は何も答えない。

そんな娘になぜか私の目からも涙がこぼれた。

私は・・悪い父親だ。

妻の浮気と娘の事は関係が無いのに・・

私はその時、娘の小さな心が傷ついている事を知った。

「来月、日曜日にお休みを取るから・・

ママと3人で何処かに遊びに行こうよ!」

微笑みながら葵に私はそう呟く。

「本当??わ・・私ね動物園が良い!動物園に行こうよ!」

クシャクシャになった顔を笑顔に変えて葵はそう笑顔で言った。

私は葵を抱きしめる手の力をより一層強め言った。

「そうだね!動物園に行こうね!」と

妻にいったい何が起こってるのか??

何が?

そしていったい私に何が起ころうとしているのか?

そんな不安を抱えながら私はそれから数週間後の日曜日に上野駅の改札に立っていた。

「パンダの前に10時に・・」

そう今日子からメールが入り私が待ち合わせのパンダの前に着いたのは950分頃であった。

しばらくすると大きなバックを持った今日子と純君が現れる。

私は今日子に手を差し出し・・

「また弁当かい?楽しみだね!」

そう呟くと彼女から弁当の入った鞄を受け取った。

「楽しいね!おじさんと居るとパパが生き返ったみたいだ!」

どうやら純君には父親は死んだと話しているようである。

「よし!今日一日!僕が純君のパパだ!」

私はそう笑顔で言った。

子供の笑顔・・・

何時からだろう?私たちがこんな純粋な笑顔を忘れてしまったのは?

何時からだろう?

お昼になり動物園の広場でお弁当を食べる。

「ママの料理は何時も美味しいね!」

純君が嬉しそうにそう言う。

「ねっ!パパもそう思うでしょ!」

「そうだね!」

そんな二人の会話を今日子は少しだけ辛そうに聞いていた。

夕暮れになり疲れたのかいつの間にか純君は寝てしまった。

彼をおんぶして私と今日子は夕暮れの忍ばずの池を散歩した。

「今日はありがとうね!」

今日子は申し訳なさそうにそう呟く。

「別に・・でもこれからはあまり付き合えないかもしれない!」

「何で?」

「えっ・・色々と俺の家でもあってね!」

「そう・・仕方が無いわね!」

そう今日子は当たり障りの無い言葉を呟きながら

私に何か言いたそうに私を見つめた。

今日子を新宿で見かけた次の日・・

店の事務所で事務処理をしてると不意に話しかけられる。

「店長!最近、お帰りが随分と早いんですね!」と

仕事の手を休め振り返るとそこに副店長の加藤がニヤケタ顔で立っていた。

「ああ・・最近、色々とプライベートが忙しくってね!

君にも迷惑をかけてるね!」

そんな私の言葉に

「羨ましい事です!私より3つも年下なのに・・

あんな綺麗な奥さんは居るわ!店長だわ!

それにプライベートも忙しいとは・・」

そう嫌味交じりに彼は言う。

加藤は私より3歳年上で東京大学を出ている。

本当は官僚になりたかったそうである。しかし試験の当日に風邪をひき試験を受けられなかった。

それから就職をする気持ちが薄れブラブラしていた。

今から3年前に親のコネでうちに就職した。

ある意味、異例の出世である。

1年前に本社の人事部長に呼ばれ「加藤を頼む!」と言われた時に・・

彼の噂を知っていた私は人事部長の大久保に向かい苦笑いをした。

彼は確かに頭は良かった。

しかし人とのコミニケーションが出来ない。

自分本位と言うのか?

昔ならいざ知らず今の世の中では学歴などまったく関係が無い。

東大出とチヤホヤされるのも1年くらいが関の山で後は無能なオヤジとうとましがられていた。

体よく私は押しつられたのだ。

「坂本!こいつを一人前にしたら本物だ!次はエリヤマネージャーだな!」

人事部長の大久保はそうタバコを美味そうに吹かしながら笑った。

加藤は噂通りの男であった。

副店長とは基本的に嫌われ役である。そして私と部下達とのパイプ役と言っても良い。

部下から一番、頼られなければいけない存在である。

しかし、加藤は仕事はミスばかり人望も無い。

そのくせ能書きだけは一チョ前!そんな最悪な社員の模範のような男である。

彼が私の部下になり数回、飲みに誘ったが一度も彼は私の誘いを受ける事は無かった。

ある意味、彼からすれば、私も無能な付き合う価値に値しない男なのだろう。

ニヤつきながら加藤が呟く・・

「店長!あんまり奥さんをかまわないと浮気されてしまいますよ!」と

一瞬、余計なお世話だと加藤を睨みつけてしまった。

加藤がその場から立ち去ると携帯電話が鳴った。

今日子・・そうデスプレイの表示。

「はい!坂本です!」

「あっ!どうも!あのね!今度の休日休みっていつ?」

「えっ?ああ・・・第二の日曜日かな?」

「そう・・動物園に連れて行ってくれない?あの子を・・」

「えっ??ああ・・別に構わないけど・・」

ふと昨夜の今日子の姿が私の脳裏をかすめる。

聖夜と会っていた女・・

妻の友美の浮気相手と・・

少なからずこの女が何かを企んでいる事はきっと確かだと思っていた。

そうでなければ私のような男にこんな美人が近寄って来る訳が無いのだから。

「あら・・なんか、乗り気じゃ無いわね!無理にとは言わないけど・・」

何時もながら強気の女である。

自分から電話をして来たくせに・・

「純君のために喜んで行かせて頂きます!」

そう私は笑いながら言った。

「よろしい・・なら詳しくはまた電話するから・・」

まるで恋人同士の会話である。

なんとも・・・頂けない・・

その日、自宅に戻り玄関を開けると妻の怒鳴り声が聞こえる。

「何であなたは我侭ばかり言うの!

いい加減にしないさい!あなたなんか生まなければ良かった!

この馬鹿娘!」

「ごめんなさい!ママ!ごめんなさい!もう我侭言わないから・・

お願い・・叩かないで!」

私は急いでリビングのドアを開く。

目の前に何度も何度ももの凄い形相で娘の頬を叩いてる友美に姿が・・

そして怯え泣きじゃくる娘の葵の姿あった!

「お前!何やってんだ!止めろ!」

私は妻を怒鳴りつけ妻の頬を一度・・平手で殴った!

「お前らしくない!どうしたんだ?」

「私らしいって何?私らしいって何なのよ!!」

そう叫びながら・・妻は私を悲しそうに見つめた・・