いったいどうしたんだ?何が理由だ?」
「どうもこうも無いわよ!毎日、毎日、何処かに連れて行け!連れて行けと!
パパはお仕事で日曜日はお休みできないのよ!って何度も言ってるのに!
まったく聞き分けが無いんだから・・」
そう叫ぶ妻から少しだけアルコールの香りがする。
「お前・・飲んでるかの?」
一瞬、妻の顔が引きつる。そして開き直ったかのように怒鳴り始める。
「飲みたくもなるわよ!あなたは毎晩、遅いし殆ど家に居ない。
子育ては全部、私に押し付けて好きな事をやっている。
それは仕事だから仕方が無い!でも最近のあなたは変よ!
あの香水の甘い香りを嗅ぐたびに気が狂いそうになる!
昔は違ったじゃない!忙しくても何時も家族3人だったじゃない!
暇を作ってくれて何時も3人で遊びに行ってたじゃない!
何時からよ!何時から家族がバラバラになってしまったの!
何時からよ!」
妻はいつの間にか泣いていた。
大きな切れ長の目からは涙が溢れ出していた。
お前が・・お前が浮気をしてるからだろ!
お前に男が居るからだろ!
そう怒鳴りつけたくなる気持ちを私は必死に押さえ込む。
「お前・・大分、酔ってるな!寝ろ!とりあえず!」
私はそう言いながら妻を寝室に連れ行く。
リビングに戻るとまだ娘の葵は半泣きでいじけていた。
私は娘を抱きしめながら言った。
「ごめんな!悪いパパで・・」と
娘は何も答えない。
そんな娘になぜか私の目からも涙がこぼれた。
私は・・悪い父親だ。
妻の浮気と娘の事は関係が無いのに・・
私はその時、娘の小さな心が傷ついている事を知った。
「来月、日曜日にお休みを取るから・・
ママと3人で何処かに遊びに行こうよ!」
微笑みながら葵に私はそう呟く。
「本当??わ・・私ね動物園が良い!動物園に行こうよ!」
クシャクシャになった顔を笑顔に変えて葵はそう笑顔で言った。
私は葵を抱きしめる手の力をより一層強め言った。
「そうだね!動物園に行こうね!」と
妻にいったい何が起こってるのか??
何が?
そしていったい私に何が起ころうとしているのか?
そんな不安を抱えながら私はそれから数週間後の日曜日に上野駅の改札に立っていた。
「パンダの前に10時に・・」
そう今日子からメールが入り私が待ち合わせのパンダの前に着いたのは9時50分頃であった。
しばらくすると大きなバックを持った今日子と純君が現れる。
私は今日子に手を差し出し・・
「また弁当かい?楽しみだね!」
そう呟くと彼女から弁当の入った鞄を受け取った。
「楽しいね!おじさんと居るとパパが生き返ったみたいだ!」
どうやら純君には父親は死んだと話しているようである。
「よし!今日一日!僕が純君のパパだ!」
私はそう笑顔で言った。
子供の笑顔・・・
何時からだろう?私たちがこんな純粋な笑顔を忘れてしまったのは?
何時からだろう?
お昼になり動物園の広場でお弁当を食べる。
「ママの料理は何時も美味しいね!」
純君が嬉しそうにそう言う。
「ねっ!パパもそう思うでしょ!」
「そうだね!」
そんな二人の会話を今日子は少しだけ辛そうに聞いていた。
夕暮れになり疲れたのかいつの間にか純君は寝てしまった。
彼をおんぶして私と今日子は夕暮れの忍ばずの池を散歩した。
「今日はありがとうね!」
今日子は申し訳なさそうにそう呟く。
「別に・・でもこれからはあまり付き合えないかもしれない!」
「何で?」
「えっ・・色々と俺の家でもあってね!」
「そう・・仕方が無いわね!」
そう今日子は当たり障りの無い言葉を呟きながら
私に何か言いたそうに私を見つめた。