僕が死ぬ日・・生まれる日 -36ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

私は今でも時々思うのだ・・

家族で食事をしている時に・・

私の目の前で嬉しそうに笑っている女を見つめながら・・

お前は・・いった誰なんだと・・

そんなある日、私は木村の自宅に招かれていた。

妻は娘を実家に預け美香の店のオープンの手伝いに行っていた。

久々に男だけで飲もうぜ!と木村から連絡を受けて私は仕事が終わると蒲田に向かった。

「なんか!いろいろ合ったよな~」

木村が少しだけ赤い顔してしみじみと呟いた。

いろいろとやったのはお前だろ!人事みたいに言うな!

そんな言葉が喉まで出掛かる・・

「あっ!悪いんだけど俺、ちょっと美香に頼まれたいたもの届けに行ってくるから!」

そう木村が言い出したので丁度、タバコを切らしていた私はタバコを買いに行く途中で俺が寄ってやると木村に言った。

私は木村から預かった小さな袋を手にぶら下げながらほろ酔い気分で美香の店に向かった。

店の玄関が閉まっていたので裏口にまわる。鍵が閉まっているかと思ったが鍵は偶然も開いていたのでそのまま店の中に入って行った・・

店の中で美香と友美の話が聞こえる・・

たまには主婦同士の話を盗み聞きしてやれといたずら心が芽生え私は物影に隠れ二人の会話に耳を傾けた・・

「それにしてもこんなに上手く行くとは思わなかったわよね!丁度、あの加藤とか言う馬鹿が現れたのがラッキーだったわ!」

美香のそんな言葉に私は耳を疑った・・

「本当にそうよね!美香!ここまで上手く行くとは思って無かったわ!それであんたこれからどうするのよ?」

「えっ・・もちろん!離婚するわよ!あんな男・・この店は慰謝料代わりよ!土地の名義も私の名前にしてあるの!それで借金はあいつの名義だし・・そうね!あと1年もしたら正式に離婚するわ!」

「マジで!それにしては随分、豪華な慰謝料ね!これ・・」

「冗談じゃないわよ!私が何年、あの馬鹿男と糞両親に尽くしたと思ってるのよ!

これでも足りない位だわ!でも正直、焦ったわよ!誠が探りだした時は・・・

ほら、最初のメールと待ち合わせの時の電話は、誰なんだ!なんて言い出してさ!

全部、加藤よ!なんて私もいっちゃったりして!あいつ、結構、感が良いのよね!

でも、私の誘惑に乗らなかったのは褒めてあげないとね・・・

あっ!でも、あの今日子とか言う女を抱いちゃったから同じか!

ホンと!男ってしょうも無いわよね~女もだけど・・」

そう言いながら美香は意味ありげに友美を見つめた。

私はその会話を聞いて本当の黒幕が誰なのか初めて知った・・

この二人がぐるだったのか・・

「でも、あんた、よく誠との浮気を責めなかったわね!何で・・」

「あんた何言ってるのよ!みすみす専業主婦なんて楽な仕事を逃すわけ無いじゃないの!

私はあなたみたいに独立心なんか無いの!あいつに毎月、お金を持って来て貰う方が何倍も楽なのよ!あんな浮気の一つや二つでみすみす逃さないわよ!金のなる木を・・

それに・・私だってしてるしね!う・・わ・・き・・」

脚が震えた・・これが夢である事を・・私は神に祈った・・

すると友美に携帯が突然に鳴った・・

「もしもし!うん・・えっ・・大丈夫よ!旦那とは上手くやってるし・・

そう・・ばれてないわ!ばれっこないから安心して・・

どう?今月のフランス料理は・・美味しい?精々奥さん孝行をしてくださないな!

えっ・・も~う!愛してるわよ!もちろん・・・」

美香の笑い声が聞こえた・・・

「あんた・・まだ!あいつの付き合ってるの?もう何年になるのよ!」と

あいつ?誰だ・・あいつとは・・美香が知ってる男か・・・

今月は・・フランス料理・・奥さん孝行・・

私は・・ハッ!と息を呑み・・そのまま静かに店を後にした。

お前は誰なんだ・・・俺の目の前で当たり前のように笑っている・・お前は・・

俺は何でお前と一緒に暮らしてる?お前の望みは・・お前は誰なんだ・・

そうか・・私は勘違いをしていたよ!俺達の間に愛があると・・

おれは・・ただの金を運んでくる都合の良い男だったんだな・・そうか・・

外に出ると急に私の携帯電話が鳴った・・

「もしもし・・会いたいの・・あなたと・・忘れられないの・・」

そんな1本の電話から私の新たなゲームが始まった・・

そうだ・・私もきっと愚か者なのだ・・きっと・・・

そして男と女の関係なんて所詮はそんな物なのかもしれない・・

人生は辛すぎて私の手には負えない・・

                        終劇

「ゲームオーバーだな!お坊ちゃん・・」

私は立ち去る二人を目で追いながらそう呟きテーブルの上のコーヒーを一気に飲み干した。

次の日、人事部長の大久保から突然に加藤が退職願を出した事を知らされた。

「なんだ・・お前・・驚かないんだな~」

大久保は少しだけ不思議そうにその話を冷静に聞いていた私にそう呟いた。

「いいえ・・驚いていますよ!でも彼にとってはそれが幸せだったのかもしれません!」

「そうかもな!あいつに客商売は向かないかもな!」

大久保はそう言いながら電話を切った。

あの事件は何だったのだろう・・

もしかして神様に自分が試されたのかもしれない・・

加藤が辞職して2ヶ月の月日が流れていた。

本当にあの地獄のような数ヶ月は何だったのか?

木村は都の指定業者の権利を放棄したらしい・・

その代わりに妻の美香が美容院を開店させた。

後で聞いた話だが美香は何度も木村に仕事をさせてくれと願い出ていたそうだ!

嫁と言う立場だけでは満足しない女なのかもしれない。

自立した・・女・・それが本当の美香の望みであったのかもしれない。

今まで専業主婦であった友美がなんと仕事を始めた。

それも美香の店で事務兼受付の仕事をするそうだ!

あんなに仲が悪そうだった二人なのにその知らせを聞いて私は驚きの表情を隠せなかった。

葵は何気に木村の娘のユカちゃんと仲良しになったそうで・・

人事部長の大久保は今月の妻の料理教室の課題がフランス料理だそうで生ぬるいソースと格闘してるらしい・・

聖夜は私の口利きで私の会社に就職をして今、私の店で研修の腕章を腕に付けながら品出し終われる日々を送ってる・・

今日子は店を辞めてスーパーでパートを始めた。聖夜の話では寄りが戻って聖夜と近いうちに再婚するとかしないとか・・純君の嬉しそうな笑顔が目に浮かぶ・・

私はあまり変わらない生活を送っている。朝早く仕事に場に向かい夜遅くまで店で働いている。ふと考えるあの時、あんなに飲みに出かた事は本当に奇跡に近いと・・

今日子にはあれ以来。一度も会っていない。あいつからも連絡もしてこない。

正直、忘れたいような・・忘れたくないような複雑な思い出である。

月に一度、私は木村に電話をかけて飲みに行くようになった。あいつも今までの女遊びを今回の事で反省をしたのか今は、私以外の人間と殆ど飲みに行く事は無くなったそうだ!

全てが上手く行っているように思えた・・まるであんな出来事が無かったのように・・

本当に全てが・・でも私はなんとなくそれが気に入らなかった・・

人生とは絶対にこんな物では無いはずなのだから・・

朝から美味そうな味噌汁の匂いが部屋を優しく包み込んでいた。

何日ぶりだろうか?こんな朝を迎えるのは・・・本当に・・

台所に行くと妻が朝食の用意をしていた。

「あなた!何時たい何を食べていたの?冷蔵庫にビールしか入って無かったわよ!

こんな事なら今日、買い物をして帰ってくれば良かったわ!」

何時もなら私を不機嫌にするそんな妻の愚痴も今朝はなんとなく私を微笑ませる要素のなってるのが不思議で仕方が無い。

「葵は?」

そんな私の言葉に・・

「とっくに学校に行きましたよ!」と妻の声・・

私が台所のテーブルに着くと同時に妻の携帯電話が鳴った。

妻は少しだけ不安そうな顔で電話に出る。

「はい!どちら様ですか?」

「友美・・俺を裏切りやがって!」

地獄の底から湧き上がってくるようなそんな不気味な声であった。

妻の顔が見る見る青ざめて行く・・

「貸しな!あいつからだろ・・」

そう私は静かに手を出した。

電話口では妻を罵倒する怒鳴り声が続いていた・・

「会わないか?加藤君・・・」

そう私が呟いた瞬間・・突然に罵声が止まる・・

「これ・・録音してるから・・今の携帯は便利だよね!

ゆっくり話そうじゃないか!被害届けだって直ぐに出せるんだよ!」

「俺を脅そうって言うの?あんた・・」

加藤はそう静かに呟いた。そこには何時も仕事場で接してる加藤は居なかった。

「脅そうとは思ってないよ・・これは取引だ・・

君が私の妻へのストーカー行為を止めればこちらも警察には言わない。

お互いのためだろ?それが・・」

「あんた・・何?善人ぶってるんだよ!今日子を抱いたんだろ?

別にあんたの嫁さんに言っても良いんだぜ!愛してなんか居ないんだろ!

だったら・・俺にくれても良いじゃないか!」

こいつ・・完全に狂ってる・・

私は何とも言えない恐怖を感じた・・・

「別に言いたければ言えば良いよ!俺はかまわない!別に・・」

「余裕だなあんた・・その余裕は何処から来るのよ?」

「そうだな・・愛かな?」

「ふっ・・随分と変わったもんだな!もう一つ教えてやるよ!

お前の大切な親友の木村な!」

私はその言葉を遮るように呟く・・

「ああ・・お前とぐるだったんだろ!知ってるよ!」

そんな私の言葉に加藤は口をつぐみ続くを話す事をやめた。

「電話じゃ~なんだから・・会おうよ!」

そんな私の言葉に加藤は声を荒げながら叫んだ!

「お前となんか!遊んであげないよ!」と・・

「なら仕方が無い・・お前の人生・・潰してやるよ!それでゲームオーバーだ!」

そう呟き私は静かに携帯電話の電源を切った。

そんな私を不安そうな顔で妻は見つめていた。

「友美・・実は俺・・・」

そう呟く私に彼女は言った・・

「もう・・良いじゃない・・終わった事なんだから・・」と

少しだけ辛そうに・・そして少しだけ嬉しそうに・・

最後に妻が少しだけ笑った・・その笑顔がなんとなく・・

私の記憶に鮮明に残った。

しばらくして弁護士だと名乗る男から電話が来た。加藤の件について会いたいと・・

呼び出された喫茶店に加藤と偉そうに胸にバッジを付けた男が待っていた。

席に着く私に一枚の紙切れを差し出す・・

「好きなだけお書きください・・そして書き終わった後にこの場で録音を削除してください!よろしいですか?」

私は何も言わず差し出された未記入の小切手を破り捨てその場で妻の携帯電話から加藤との会話を削除した。

あっけに取られたように弁護士は私を見つめる・・

「別に金が欲しくってこんな事をやったのでは無いから・・」

ふと・・喫茶店の外を見ると数人の刑事らしき男達がそんな私を見つめ舌打ちをしていた。

気が抜けない男である・・私を脅迫罪にでもでっち上げるつもりだったのか?

「その代わり約束してくれませんか?これ以上、私達に関わりにならない事を・・」

私は睨みつけるように弁護士に言った。

「解りました!坊ちゃん!それで良いですよね!」

そう諭すように彼は加藤を言った。

「ああ・・別に一回、抱きたいと思っただけだから・・良いよ!」

あっさりそう言い放つ彼に一瞬、殺意を抱く・・

お前は・・そんな事のために・・俺達にこんな事をしたのか・・そんな事のために・・

一枚の契約書が交わされた・・加藤はニャッと笑い喫茶店を出て行った