朝から美味そうな味噌汁の匂いが部屋を優しく包み込んでいた。
何日ぶりだろうか?こんな朝を迎えるのは・・・本当に・・
台所に行くと妻が朝食の用意をしていた。
「あなた!何時たい何を食べていたの?冷蔵庫にビールしか入って無かったわよ!
こんな事なら今日、買い物をして帰ってくれば良かったわ!」
何時もなら私を不機嫌にするそんな妻の愚痴も今朝はなんとなく私を微笑ませる要素のなってるのが不思議で仕方が無い。
「葵は?」
そんな私の言葉に・・
「とっくに学校に行きましたよ!」と妻の声・・
私が台所のテーブルに着くと同時に妻の携帯電話が鳴った。
妻は少しだけ不安そうな顔で電話に出る。
「はい!どちら様ですか?」
「友美・・俺を裏切りやがって!」
地獄の底から湧き上がってくるようなそんな不気味な声であった。
妻の顔が見る見る青ざめて行く・・
「貸しな!あいつからだろ・・」
そう私は静かに手を出した。
電話口では妻を罵倒する怒鳴り声が続いていた・・
「会わないか?加藤君・・・」
そう私が呟いた瞬間・・突然に罵声が止まる・・
「これ・・録音してるから・・今の携帯は便利だよね!
ゆっくり話そうじゃないか!被害届けだって直ぐに出せるんだよ!」
「俺を脅そうって言うの?あんた・・」
加藤はそう静かに呟いた。そこには何時も仕事場で接してる加藤は居なかった。
「脅そうとは思ってないよ・・これは取引だ・・
君が私の妻へのストーカー行為を止めればこちらも警察には言わない。
お互いのためだろ?それが・・」
「あんた・・何?善人ぶってるんだよ!今日子を抱いたんだろ?
別にあんたの嫁さんに言っても良いんだぜ!愛してなんか居ないんだろ!
だったら・・俺にくれても良いじゃないか!」
こいつ・・完全に狂ってる・・
私は何とも言えない恐怖を感じた・・・
「別に言いたければ言えば良いよ!俺はかまわない!別に・・」
「余裕だなあんた・・その余裕は何処から来るのよ?」
「そうだな・・愛かな?」
「ふっ・・随分と変わったもんだな!もう一つ教えてやるよ!
お前の大切な親友の木村な!」
私はその言葉を遮るように呟く・・
「ああ・・お前とぐるだったんだろ!知ってるよ!」
そんな私の言葉に加藤は口をつぐみ続くを話す事をやめた。
「電話じゃ~なんだから・・会おうよ!」
そんな私の言葉に加藤は声を荒げながら叫んだ!
「お前となんか!遊んであげないよ!」と・・
「なら仕方が無い・・お前の人生・・潰してやるよ!それでゲームオーバーだ!」
そう呟き私は静かに携帯電話の電源を切った。
そんな私を不安そうな顔で妻は見つめていた。
「友美・・実は俺・・・」
そう呟く私に彼女は言った・・
「もう・・良いじゃない・・終わった事なんだから・・」と
少しだけ辛そうに・・そして少しだけ嬉しそうに・・
最後に妻が少しだけ笑った・・その笑顔がなんとなく・・
私の記憶に鮮明に残った。
しばらくして弁護士だと名乗る男から電話が来た。加藤の件について会いたいと・・
呼び出された喫茶店に加藤と偉そうに胸にバッジを付けた男が待っていた。
席に着く私に一枚の紙切れを差し出す・・
「好きなだけお書きください・・そして書き終わった後にこの場で録音を削除してください!よろしいですか?」
私は何も言わず差し出された未記入の小切手を破り捨てその場で妻の携帯電話から加藤との会話を削除した。
あっけに取られたように弁護士は私を見つめる・・
「別に金が欲しくってこんな事をやったのでは無いから・・」
ふと・・喫茶店の外を見ると数人の刑事らしき男達がそんな私を見つめ舌打ちをしていた。
気が抜けない男である・・私を脅迫罪にでもでっち上げるつもりだったのか?
「その代わり約束してくれませんか?これ以上、私達に関わりにならない事を・・」
私は睨みつけるように弁護士に言った。
「解りました!坊ちゃん!それで良いですよね!」
そう諭すように彼は加藤を言った。
「ああ・・別に一回、抱きたいと思っただけだから・・良いよ!」
あっさりそう言い放つ彼に一瞬、殺意を抱く・・
お前は・・そんな事のために・・俺達にこんな事をしたのか・・そんな事のために・・
一枚の契約書が交わされた・・加藤はニャッと笑い喫茶店を出て行った。