僕が死ぬ日・・生まれる日 -15ページ目

僕が死ぬ日・・生まれる日

僕が死んで・・生まれる日までの記録

「島崎!お前、重機の担当だよな!これ、検討してくれ!」


そう部下の島崎に書類一式を投げるように手渡した。


島崎は興味深げにその書類を見つめる。


「主任がこんな事をするなんて初めてじゃないですか?四星ですか?あれ・・でも、担当者の名前が違いますが?」


島崎はそう不思議そうな顔をして私を見つめた。


「グダグダ言ってないで言われたら直ぐに動け!お前はお子様か!」


そんな私を見ていた課長が・・


「坂本!そんなに怒るなよ!今日はもう上がった方が良いんじゃないか?二日酔いなんだろ?」


そう諭されるように課長に言われ私は我に返った・・


「あっ・・いや!すまん!島崎!少しイライラしていて・・」


島崎は何時もの私に戻ったと安心したように言った。


「この重機は商談対象になっている商品ですので・・出来るだけ彼から買うように努力します!

でも、主任!四星の担当ともめませんか?この佐々木と言う男が・・」


私はめんどくさそうに島崎に言った。


「それはうちが心配する事ではない!」と


そのまま帰り支度をして私は早退した。


自宅にもう直ぐ着きそうなそんな頃合を狙ったように私の携帯電話が鳴った。


「はい!坂本でございます!」


仕事用の携帯電話である。私は営業用の声に変わる・・


「えっ・・・いや!あの・・友美だけど・・坂本君よね!」


私はなんとなく力が抜けたように答える・・


「何だ!君か・・何か?約束は守ったよ!」


「う・・うん!さっき旦那から連絡を貰って・・お礼を言わないといけないと思って・・」


「別にお礼なんていらないよ!俺は会いたいから会っただけの事だ!昨夜の事とは関係が無い!」


そうぶっきら棒に答える私に少しだけ笑いながら友美は言った。


「変わらないね!君は・・あの頃は全然・・・」と


「何だよ!成長してないと言うことか??」


「えっ・・いや!そうじゃなくって・・変わらず優しいって事・・」


「今言うなよ!あの時、言えよな!それじゃな!契約取れれば良いよな!出来る限りの事はするから・・」


「うん!有難うね!」


それから数日後、島崎が私のデスクに書類をもって現れる、例の重機の件である。


「何だ!四星に決めてくれたのか?」


「ええ・・主任の一押しとあっては!無下にする事はできませんよ!」


そう恩を売るように島崎は私に言った。


これは貸しですよ!彼は無言で私にそう呟いている。まぁ~それはそれで良い。


書類を手渡され私は唖然とする・・


「おい!島崎・・担当者の名前が違うようだが?佐々木じゃないのか?」


「あ~なんか、佐々木さんと連絡を取っていたんですけど、いざ、契約の段階になったら急に担当者が変わりましてね!なんでも四星の期待の人材だそうで・・」


「おまえ・・俺の話を聞いてなかったのか?俺の話を聞いてなかったのか!俺は佐々木と契約をしろと言っただろ」


私の凄い剣幕の怒りように島崎は萎縮してしまった


何度も!何度も「すいません!」と繰り返す・・


「話にならん!俺が連絡をする!もう良い!」


私は電話を持つと四星に電話をした・・


「営業1課の佐々木さんを!山田貿易の坂本と申します!」


「えっ!山田貿易様ですか!し・・少々お待ちを・・」


電話に出た女性は少しだけ動揺しながら電話を保留にした。


「お待たせ致しました!担当の長谷川と申します!坂本主任様ですよね!ご挨拶が遅くなりまして・・」


電話に出た男はそう私に言った・・


「あんた誰だ?私は佐々木君をお願いしたんだが・・」


「いや・・今回の件は全て私が・・」


「何度も言わすなよ!佐々木君を出してくれと私は言ってるんだ・・」


「いや・・だからですね!」


「口答えするな!貴様は何様だ!俺を誰だと思ってるんだ!」


つい、そんな横柄な口調になってしまった事を私は後で非常に後悔をした。


電話に出た男の声は少しだけ震えていた・・・


「も・・申し訳ございません!直ぐに佐々木に・・」


しばらくして電話口に何とも情けない声が聞こえた・・


「さ・・佐々木でございます!この度は・・・」


「佐々木!お前・・俺を馬鹿にしてるのか!ふざけるな!」


深々と震えながら受話器を持って頭を下げている佐々の姿がまるで見えるようであった。


「契約は白紙だ!俺はお前と契約したのに!こんな屈辱は初めてだ!あまり俺を馬鹿にするなよな!」


私はそう佐々木を怒鳴りつけると電話を切った。


佐々木が悪くない事は十分に知っていた。


きっと、上司の命令に違いない!佐々木では大口の契約に不安を感じての担当者の変更であったのだろう!


しかし、それでは私の顔が立たない!友美に対しての私のメンツが立たないのだ・・


「島崎!四星との契約は白紙だ!」


私は投げるように書類を島崎に手渡すとそう怒鳴りながら部屋を後にした・・



次の日の朝、私は久々の二日酔いと言うな病魔に犯されていた。


「珍しいな!お前が二日酔いとは・・」


課長が頭痛に苦しみながら真っ青な顔をしてる私に向かいそう呟いた。


そんな話をしてると私のデスクの電話がけたたましくなった。


「受付ですが、主任にお客様が!四星商事の・・」


受付嬢の言葉を最後まで聞かずに


「解った!今から降りるから・・」


そう言って私は受話器を下ろした。


一階のフロワーに降りると多くの人間が営業に会うために順番待ちをしてる。


私は佐々木を探す。


背が高くハンサムでスタイルが良い男・・


そんな勝手な先入観で佐々木を探すが何処にもそんな男は居ない。


仕方が無いので受付に向う。


「悪いが、私の客は・・・」


そう呟く私の横でいかにも頼り無さそうな巨漢の男が私に深々と頭を下げていた。


「佐々木か?お前・・・」


私は確認するかのようにその男に言った。


「本日はお忙しい時間を頂きまして・・・」


佐々木はそんな私の問いの返事の変わりにそう呟くと静かに自分の名刺を差し出した。


周りの順番待ちの営業達が羨ましそうに佐々木を見つめた。


自慢ではないが、それだけ私に会う事が彼らにとって困難であると言う意味だと思う。


お前・・変わったな!


そんな言葉を無理やりに飲み込んだ。


「久しぶりだな!元気そうだね!喫茶店にでも行こうか!」


佐々木はそんな私の言葉に恐縮するように何度も何度も頭を下げた。


何が彼を変えたのか?会社か?それとも世間か??


学生時代、まんまと私から友美と言う女をさらって行ったヒーローは見る影も無く・・


ただのうだつの上がらない営業マンに変わっていた。


「坂本主任様!本日は・・」


「もう止めろよ!佐々木!同級生じゃないか!」


「いや・・・しかし・・でも・・」


そんな受け答えからこの男の能力が解る。


少なくても優秀な営業マンではない。


「それで、話があるんだろ!俺も暇では無いんでね!手短に・・」


別に忙しい訳ではなかった!彼との約束が無ければ休みたいくらいであった。


「当社が御社にお勧めするですね・・」


「だから!その話し方を止めろと言ってるだろ!」


静かな店内に私の怒鳴り声が響き渡る・・


佐々木の顔色が見る見る真っ青になり手と足が同時に震えだした・・


これではまるで私がいじめているみたいである。なんとなく気分が悪い・・


「とりあえず、カタログと見積もりを置いて行けよ!また、連絡するから・・」


偉そうにするつもりはまったく無かったのに体調の不調が私をイラ着かせたのかも知れない。


佐々木は情けなく泣きそうな顔をして震える手で私に書類一式を差し出した。


俺は、こんな男に女を取られたのか?俺はこんな男に今まで劣等感を抱いていたのか・・


友美!お前は俺を選ばないで何でこんな男を選んだんだ!何で・・・


席を立ち会計に向う私に佐々木は何度も何度も「お願いします!」と叫びながら頭を下げていた。


「お前!俺に金を払わす気なのか?」


冷たく私はそう佐々木に言った。


佐々木は焦りながら私の手から伝票をむしり取るように奪い取る。


「き・・気が着きませんで!すいません!」


私は何も言わずそのまま喫茶店を後にした。


何となく何とも言えない悲しみに包まれながら・・

近くの大手の居酒屋チエーンの飲み屋に入った。


「あと2時間でラストオーダーですがよろしいですか?」


そう店員に言われたがお構い無しに席に着く・・


「トイレに行ってくる・・」


そう呟き席を立った佐藤は少しだけ震えていた。


しばらくして佐藤が戻って来た・・


その変わりように私は少しだけ驚きの表情を見せる。


先ほどの比較的、控えめなメイクではなく派手な大人のメイクで顔は変わっていた・・


そして、何とも甘い香が漂う・・


何よりもしっかりと締められていたシャツのボタンは上から3個まで開かれ薄いブルーの下着が見え隠れしていた。


「お前を誘ってるぞ!あいつ・・」


悪意が私にそう呟いた瞬間・・私の股間は少しだけ高揚を見せる・・


抱きたかった・・この女を・・何度も想像しながら自分を慰めた・・本当に抱きたかった・・


誠は少しだけ緊張した表情で震える指先でタバコを一本取り出すと火をつける・・


「私にも1本・・頂けるかしら?」


そう呟いた佐藤の目がオスを誘うメスの瞳に感じられたのはきっと錯覚であったに違いない。


自分が何を話したのか、正直、覚えていない・・


時間だけが勝手に過ぎているように思えた。


「お客様!そろそろラストオーダーですが!」


そう店員に言われこの店に入って2時間が過ぎたのだと初めて知った。


「ウーロンハイを一つ!君は?」


そう誠が呟くと佐藤は、甘い香のするカクテルを注文した。


店を出て時計を見ると2時を少しだけ過ぎていた。


「大丈夫か?少しふらついているようだけど・・」


そんな誠の言葉を待っていたかのように佐藤が誠に体を預ける・・


柔らかい佐藤の胸の感触と何とも言えない甘い香水の香が私を欲情させた。


通りの向こうにラブホテル街のネオンが見える・・・


「少し休んで・・・」


そう言いかけた瞬間に私の善意が悪意を押しのけ呟いた・・


「かっこ悪い男だな・・お前は・・」と


かっこ悪い!この俺が・・昔、振られた女を抱きたいと思っている・・


そしてその願いが叶おうとしてる事に欲情してる俺はかっこ悪い・・


そうかもな!いや・・きっと・・そうだ。


「送るよ!タクシーを拾う。」


そう言い換えた私の顔を佐藤は少しだけ悲しそうな顔をして見た。


「家は・・何処なの?」


「蓮沼・・・」


「蓮沼に行ってください!それから・・糀谷に・・」


佐藤は何も言わずにただ、窓から流れる景色を見つめていた・・


この女は何を望んでいたのか?何の代償に私に抱かれようとしていたのか?


いや・・それとも私の思い過ごしだったのか??


いや・・違う!この女の目は完全に抱いてと言っていた・・


「何か悩みでもあるのか?」


そう佐藤に言った私の言葉は善意だったのか?それとも未練なのか?


そんな私の言葉に佐藤は少しだけ言いにくそうに・・


「旦那と一度、会ってあげてくれないかな?」と呟く。


「プライベートでか?それともビジネスでか?」


そんなくだらない問いを彼女に言うと佐藤は言いにくそうに・・


「売り上げ足りないらしいの・・ノルマが厳しいらしいのよ・・毎晩、死にそうな顔で帰って来るの・・」


誠は少しだけ自分が発した言葉を後悔した。


ようは、佐々木から何かを買ってくれと言う事らしい・・


そして、その代償が自分の体だったと言うのか・・・


「明日でも会社に来るように旦那に言いなよ!」


そう呟きながら私は名刺入れから自分の名刺を一枚、佐藤に手渡した。


佐藤は少しだけ目に涙を溜めて・・


「それで・・抱くの?私を・・」を呟いた・・・


私はゆっくり首を左右にふると・・


「そんな寂しい事言うなよ!俺たちは友達だろ・・」と呟いた。


しばらくしてタクシーが止まった・・


佐藤は何度も私に頭を下げて言った・・


「あの人のことをお願いします!」と


「早く出してくれ!」


私はまるで逃げるかのように運転手に発進を急がせる・・


しばらくして寡黙な運転手がミラー越しに私に一言呟いた。


「あんた・・男だね!」と


私は少しだけ苦笑いを浮かべ呟く・・


「いいや・・唯の馬鹿者だよ。」と


タクシーは夜の街を私の自宅に向かい走り続けた。