2026年3月のテーマ

「人物伝」

 

第一回は、

「自由(上下)」

アンゲラ・メルケル 作、長谷川圭、柴田さとみ 訳、

株式会社KADOKAWA、2025年発行

 

 

 

 

です。

 

 

 

2005年から2021年まで、16年間ドイツの首相を務めたアンゲラ・メルケルさんの回顧録です。

上下巻とも分厚くてボリュームたっぷり。私にとってはちょいと時間のかかる本でしたが、読む価値はありました。

 

アンゲラ・メルケルさんの生い立ちから首相退任の日までの出来事を、ご本人がまとめられた本になります。

私は彼女が首相のころから興味があったので、ご本人がご自身の経験や考えを述べられているのを読めるということは、普段あまり読まない政治の分野の書物を読むときに大きなモチベーションになりました。

 

政治家の回顧録ということで、世界情勢やドイツの政治のお話が多く、正直小難しい本と言えなくもないですが、生い立ちから時代を追って書かれていることで、アンゲラ・メルケルという人がどのような考えを持って政治にあたっていたのか、彼女の信念とは何だったのかということが垣間見られます。

 

彼女は東ドイツ出身で科学者。東西ドイツの統一後に政治家になりました。

ドイツが統一されたときには35歳だったといいます。

父親は教会聖職学校(牧師研修所)の所長で、家族は研修施設の敷地内に住んでいました。共産圏では宗教に対して風当たりが強かったので、彼女は小さいころから常に要注意人物でした。非常に優秀な子供でロシア語オリンピックの学校代表に選ばれてモスクワに行ったこともありましたが、将来政治家や公務員になることは決してできないし、そのための勉強もさせてはもらえない、高等教育機関に進んで勉強をしようとおもうと非常に限られた分野しか道がなかった。そのため科学の道に進んだのだそうです。

宗教関係者の家庭ということで家族はマークされていて、外では少しでも体制に対する反感を示すようなことを言わないように気を付けていたといいます。幼少期~青年期の経験談は、国を分断されてからあまり時間が経っていない頃~ドイツの統一まで東ドイツでの暮らしはどのようなものだったのかの一例が具体的に書いてあって、貴重な記録ではないかと思います。

タイトルの「自由」は、そんな経験をした彼女だからこそ"自由"の大切さ、"自由"への熱い思いを伝えたかったのだと感じます。

 

また、首相在任時に起きた様々な出来事も時系列で書かれています。

ドイツの内政に関することは正直初耳なことばかりで私にとっては難しい話も多かったですが、外交関係の話はとても興味深くおもしろかったです。

有名なエピソードで、ロシアのプーチン大統領とメルケル首相の会談が行われた際に、プーチン氏が会談の席に愛犬を連れてきたというのがあります。

これは以前にテレビでその映像を見たことがあって知っていた話ですが、メルケル首相が犬が苦手ということを知ったうえでテレビカメラの前で大型犬を彼女に近づけたのです。

この時の話もこの本の中に書いてあります。

 

長い任期の間に、アメリカやフランス、イギリス、日本も国のトップが変わっていき、メルケルさんが交渉したり会談したりした方はたくさんいます。それぞれの相手に対する彼女の印象が私には興味深かったです。

 

私はアンゲラ・メルケルという方のことを強い女性だと思っていました。ですが、何をもってして"強い"と感じているのかは自分でもよくわかっていませんでした。

この本を読んでみて、メルケルさんがものすごい頭脳の持ち主で常人には真似できない仕事量をこなしていたということを感じましたし、重い決断を下す胆力があったことや、自分の考えを説明して皆に協力してもらう姿勢など、尊敬する点がたくさん見えました。

 

でも、諸々の中で一番私が感じた"強さ"は、どんな困難に対しても最善と思われる対応を探し続ける努力と、決断の結果には常にいい面とよくない面があるということを受け入れる覚悟を持っていることだと思いました。

 

もちろん、これは私の意見であり、アンゲラ・メルケルという政治家を好きではなかったという方もいらっしゃるでしょう。逆に、私とは違う観点で彼女を尊敬する方もいらっしゃると思います。

 

いずれにせよ、アンゲラ・メルケルという人物について、そしてドイツの歩みについて、詳しく知れる本だと思います。

何度も書きますが、(私基準では)ちょいと重い本です。

じっくりと時間をかけて読むのがいいと思います。おすすめいたします。(*^▽^*)

二月の閑話休題です。

 

2026年2月のテーマ

「まとめ版・名作古典」

 

でおすすめしてまいりました。

 

以前にも書いたことがありますが、私は海外の名作古典作品はできるだけ完訳版で読みたい派です。

名作古典…特に物語などでは、まず触れてもらう入り口としてストーリーが簡略化された形の本がたくさんあって、特に子供向けのものは挿し絵もかわいらしかったりもしてそれはそれで楽しいものです。その昔子供だった頃の私もこれらの本を読みふけったものですが、すでに基礎知識を得てしまってからでは、簡略化されていると物足りないとかもっと詳しく知りたいという欲が出てきたため最近では完訳版を探すことが多いです。

しかしながら、なじみのない分野の本とか、興味が深まるかわからないけどまずはちょっと内容に触れてみたいな…なんて時には、先に挙げたように入り口として概要を抽出してまとめてある本はやっぱりありがたいです。

 

今は、子供向けの児童書だけではなく、本を読む時間がなかなかとれない受験生のために文豪の書いた作品を漫画でサクッと読めちゃうシリーズなんかも出ているようです。

こういった漫画版名作古典に関しては、私はあまり好きではありません。

受験勉強として内容を押さえておく目的には叶うのでしょうが、楽しみとして本を読む私にとっては、雑にエッセンスを抽出しているように感じられる上に初読の楽しみがなくなってしまうのではデメリットしかありません。

ただ、漫画化に携わっている漫画家さん達を悪く言いたいわけではありません。描き手の方々は作品を読み込まなければならないでしょうし、(私は古典文学はストーリーだけが大事なわけではないと思うのですが)まずストーリーを限られたページ数の中に漫画という形でまとめるのだけでも大変だし無理があると思っているので、"雑にエッセンスを抽出"するしかないんじゃないかと思ってしまうのです。

しかし、漫画版名作古典を読むと想定されるユーザー層から私は外れていると思われるので、外からいちゃもんつけるのは良くないですね。読みたくなけりゃ読まなきゃいいだけの話。…反省。

 

ええと、話を元に戻しますと、「完訳版で読みたい派を自認する私ですが、まとめ版や簡略版のお世話になることも割とあります」ということと、「色んな形、目的のまとめ版や簡略版があるので、その都度自分に合う形のものを選べばいいと気づいた」と言いたかったのです。

 

では、そろそろタイトルの「本との出会いは突然に」の話にまいりましょう。

小田和正さんの名曲『ラブストーリーは突然に』みたいなタイトルつけちゃいましたが、この記事を書いているまさに今日、図書館で思いもかけない本に出合ったのでそのお話をしたいと思います。

私はブログの中で、"紹介する本を自分が手に取ったきっかけ"の出来事を時々書いています。

大抵は、他の本を読んでいた時に別の本の引用があったとか、作品名が出ていたとか、そんなところから興味を持って頭の片隅に作品名がインプットされて、後日何らかの機会に手に取ってみるというパターンです。

映画を見ていて気になった本とかも多いです。

 

 

 

で、今日図書館で出会った本は「ティンブクトゥ」というアメリカの小説なんですが、私は「ティンブクトゥ」という言葉が本のタイトルだということすら知らなかったので、見つけた時ちょっと衝撃を受けました。

「ティンブクトゥ」という言葉を知ったのは、私の大好きなコージーミステリー、ローラ・チャイルズさんの「お茶と探偵」シリーズでのことでした。

シリーズのどの作品に出ていたかはもう忘れてしまいましたが、"ティンブクトゥに行く"というような記述があったのです。

聞いたことない言葉だったので、「地名みたいだけどどこだろう?実在の場所というよりは物語に出てくる架空の場所(アヴァロン[アーサー王物語]とかファンタージエン国[はてしない物語]みたいな感じ?)のような気がするけど…」と思って頭の隅っこにその名をしまっていました。

何らかの物語の中に出てくる架空の場所の名前なら、その物語を偶然引き当てないと私の疑問は解消されませんが、本で引用されているくらいだから有名な作品に出てくる言葉なんだろう、それならそのうちどこかで出会えるかもしれないな…とそんな感覚でした。そんなことがあったのがもう10年以上も前のこと。

 

そしたら図書館の書棚にその言葉がまんまタイトルになっている本を見つけたのです。

突然の出会いに忘れていた言葉が脳内によみがえりました。(『ラブストーリーは突然に』が脳内で再生されているとご想像ください。)

10数年前の私はその言葉を調べてみることを思いつきませんでした。

まあ、その言葉についてどうしても知りたいという気持ちでもなかったので、調べなかったのでしょう。

しかし、運命的な出会いをしてしまったからにはこの本を読まねばならないという謎の使命感に駆られて、借りてきてしまいました。そのうちブログに書くかもしれません。

海のものとも山のものとも知れない、前知識ゼロの状態で「ティンブクトゥ」という本を読んでみることにした…こんなこともあるんだね。我ながらびっくりしたというお話でした。

 

さて、来月のテーマとまいりましょう。

 

2026年3月のテーマ

「人物伝」

 

でおすすめしたいと思います。

自伝、伝記、回顧録…実在する人物について書かれた本について書きたいと思います。

なんか、私の中でうまくジャンル分けできない本ってのが結構ありまして…。

特定の人物について書いてある本もその一つです。著者と書かれている人物との関係性も様々だし、アプローチの仕方も色々。(その人の生涯を描いたり、その人を知る大勢の人に聞き取りをして人物像を構築したり、ある出来事に関して中心人物だった人にフォーカスを当ててあったり。"伝記まんが"とか"偉人伝"みたいに書いてある児童書はわかりやすいんですけどね。)

どういうテーマにすればこれらの本を記事にできるのか悩んで出てきたのが"人物伝"。…工夫も何もあったもんじゃないテーマになってしまいましたが、よろしければ覗いていただけると幸いです。(*^▽^*)

2026年2月のテーマ

「まとめ版・名作古典」

 

第三回は、

「超訳 自省録(エッセンシャル版)」

マルクス・アウレリウス 作、佐藤けんいち 編訳、

株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021年発行

 

 

です。

 

ローマ帝国において善政をしき繁栄をもたらした皇帝、いわゆる五賢帝最後の皇帝であるマルクス・アウレリウス・アントニヌスの書いた心の記録です。

マルクス・アウレリウス・アントニヌスという皇帝は非常に仕事熱心でまじめ。ストア派の哲学者でもあり、哲人皇帝とも呼ばれています。

彼の書いた「自省録」は誰かに読ませるためのものではなく、自分自身を励ましたり戒めたりするために書いた自問自答の記録ですが、ストア派哲学の教えが存分に含まれており、その内容は我々日本人になじみのある仏教や禅の思想にも通じるところがあります。

「超訳 自省録(エッセンシャル版)」は、そんな「自省録」の中から現代人の心に響く言葉の数々をピックアップし、内容別に集約したものです。

 

基本的に原典主義の私からすると、エッセンスを抜き出して並べ替えてあるというのは形として好きではないのですが、原典がそもそも人に読ませるためのものではないのに後世の人々が彼の言葉を勝手に読んで自らの手本としているわけなので、大勢が活用しやすく編集するのは理にかなっていると思います。

 

この本は、「自省録」がどういった本なのか、マルクス・アウレリウス・アントニヌスがどういう人だったか、ということをはじめに説明してあって、その後に以下のようなテーマに分けて彼の言葉をピックアップしています。

 

Ⅰ. 「いま」を生きよ

Ⅱ. 運命を愛せ

Ⅲ. 精神を強く保て

Ⅳ. 思い込みを捨てよ

Ⅴ. 人の助けを求めよ

Ⅵ. 他人に振り回されるな

Ⅶ. 毎日を人生最後の日として過ごせ

Ⅷ. 自分の道をまっすぐに進め

Ⅸ. 死を想え

 

五賢帝時代はローマ帝国が繁栄した時代ではありますが、マルクス・アウレリウスが皇帝であったころにはその繁栄にも陰りがみえてきます。国のリーダーとして難しい判断を迫られることもたくさんあったでしょうし、まじめな性格ゆえにストレスフルな日々を送っていたことは想像に難くありません。

自問自答を繰り返し、書き綴ることはセラピーの役割を果たしていたとも現代では言われています。

書かれている言葉は平易で私の心にも響くものがたくさんありました。

取り上げられていた言葉のトピックを少しだけ挙げてみますね。

 

・コントロールできるのは現在だけだ

・いつも考えていることが精神をかたちづくる

・想像力が苦痛を増大させる

 

なんか、現代の心理学や自己啓発の本に書いてあるようなことではないですか。それを2000年前に考えて書いていたって、それだけでちょっと衝撃的で感動します。

この本は、以前に岡本太郎さんの「壁を破る言葉」についての記事で私が書いたように、ランダムに開いてそこに書いてある言葉に勇気をもらうというような読み方も効果的だと思います。

 

 

蛇足ですが、この本を読もうと思ったきっかけの話をば…。

 

映画「ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ」

2023年・コメディ/ヒューマンドラマ

 

で、堅物教師のハナム先生が授業の教材に使っていたのが、マルクス・アウレリウスの「自省録」でした。

映画では、1970年代アメリカの全寮制の学校でクリスマス休暇に事情があって学校に残らなければならない生徒と教師、職員たちの悲喜こもごもが描かれています。

ハナム先生は生徒たちに「自省録」を読ませますが、生徒からすれば哲学書なんてつまらないしお堅い授業は怠いばかり。

だけど先生は「自省録」は人生の指針になると信じていて、若者にこそ読んでほしいと願っています。

 

「自省録」は良い書物だというハナム先生の言葉に感化されて、軽く内容に触れられる本がないかと探していて見つけたのがこの「超訳 自省録(エッセンシャル版)」でした。

 

リーダーの心得が書いてあるかと思いきや、一人の人間としての訓戒が詰まっていて、しかも書いた人本人が悩んで自分を励ますために書いたのだと思うと、心理学のプロの先生が描いた本よりも私にはぐっときました。

「いま」を生きる私たちに必要な言葉がたくさん詰まっている本です。おすすめいたします。(*^▽^*)

2026年2月のテーマ

「まとめ版・名作古典」

 

第二回は、

「ドン・キホーテ」

セルバンテス 作、牛島信明 編訳、

岩波少年文庫、1987年発行、2000年新版発行

 

 

 

です。

 

上に貼ったPickは2000年に出た新版です。

表紙の絵はホセ・セグレーリュス『ドン・キホーテ』からとった絵だそうですが、この物語の主人公、ドン・キホーテのイメージがよく表れていると思います。ちなみに挿絵も同じ方の画だそうです。

あと、こちらも見てほしい。

 

 

これは、牛島信明さんが編訳する前の、岩波少年文庫の「ドン・キホーテ」。1951年ってありますからね。

表紙のデザインが全然違うけど、騎士と従者として旅をする二人の物語なので、この物語の表紙絵としては正統派って感じがします。

だけど、主人公のキャラクターこそがこの物語が人気であった要因だと思うので、私的には今の表紙絵の方が好きかな。

 

さて、作品の概要をば。

スペインのラ・マンチャ地方の郷士、アロンソ・キハーノが、大好きな騎士道物語を読みすぎて現実と物語の区別がつかなくなり自らを遍歴の騎士"ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ"と名乗って冒険の旅に出る物語。

近所に住む百姓のサンチョ・パンサを説得してお供にし、やせ馬のロシナンテにまたがって古い甲冑を身に着け、世の中の不正を正すと意気込んで旅に出たとき、ドン・キホーテは五十歳になろうとしていました。

騎士道物語の中に出てくるような怪物退治や麗しの姫君に愛と忠誠をささげるようなことは現実には起こりえないのですが、ドン・キホーテ視点ではそれも可能。次々と降りかかる剣で災厄をはらって…みたいなビジョンでごく普通の物事を普通でなくとらえて突っかかっていくので、トラブル続出なわけです。

初老のおじさんが妄想の冒険騎士物語を繰り広げる中世の滑稽本というところでしょうか。

 

ウィキペディア(2026年2月現在)によると、1605年に前編が、1615年に後編が出版され、発行部数5億冊で歴代の書物で1位だとか…。とにかくすごい人気作だったわけで、前編と後編の間に別の人物が勝手に「ドン・キホーテ」の続編(贋作)を出版してセルバンテスが後編で贋作について無関係であると主張したというエピソードもあります。(この件についてもウィキペディアに書いてあります。)

 

正直なところ、以前の私は、なんで「ドン・キホーテ」がそんなに人気があったのかピンと来てませんでした。

しかし、どうやら「ドン・キホーテ」は私が思っている以上に人気があったらしいと気づいたのです。

例えば、以前にある映画の中で初版本の収集家が「ドン・キホーテ」の初版本は価値があると言っているシーンを見たことがあり、なぜ「ドン・キホーテ」の初版本にプレミア価格がつくのか不思議に思ったことがありました。

また、スペインの画家、パブロ・ピカソが描いたドン・キホーテとサンチョ・パンサの絵を見たこともあります。

映画だか小説だかの登場人物が無謀な挑戦をする人のことをドン・キホーテに例えたりするのを見たこともあります。

そうなると、一度どんな話か読んでみたくなりました。

 

結果として、岩波少年文庫で読んでみたわけですが、読み終わっても私にはやっぱり面白さが分からなかった。

でも、解説を読んでちょっとそれが分かるような気がしたのです。

 

一つには、時代背景として、「騎士道物語」がたいそう流行っていた時に、それをまねる男の滑稽な話として出版されたそうなので、シンプルに面白かったのだと思います。

もう一つは、作者セルバンテスの生涯と重ね合わせて読むと、確かに味わい深い。

 

そして、私が面白く感じなかったのは、物語に起承転結や原因と結果、すっきりとした結末といったものを求めてしまっていたからだと思いました。

旅物語ならば、旅の目的があって、終着点が設定されているもの(「指輪物語」みたいなのを想像してもらうとわかりやすいと思います。)…という思い込みがあったので、それがないドン・キホーテの旅は私にとって座りの悪い椅子みたいに落ち着かないものでした。

滑稽な旅物語といえば十返舎一九「東海道中膝栗毛」なんかがありますが、旅の初めと終わりの地点が大体決まっていて、そこに到達するまでの過程で滑稽なドタバタ劇が起きるというお話です。この場合はドタバタ劇が面白くて読むものだと思うので、旅の終着点は「指輪物語」のようには重要ではない。

そういう意味では「ドン・キホーテ」は「東海道中膝栗毛」寄りの楽しみ方をされていた作品なのかもしれません。

けど、「ドン・キホーテ」には目的地もないわけで、さらに型から外れている気がしてとらえどころがありませんでした。

これは決して編集された訳者の方の問題ではなくて、そもそもの原作がドン・キホーテの巻き起こすトラブルの数々を楽しむものなんだと思います。

 

ちなみに、岩波少年文庫の「ドン・キホーテ」は、原作の前後編のメインストーリーの部分を凝縮して一つの旅にまとめた作品になっています。

原作では前後編でドン・キホーテは三回旅に出ており、メインのストーリーとは関係ない挿話もいくつもあるようです。

私のように物語に起承転結を求めてしまうタイプの方は、原作の完訳版で読んだらたぶん苦痛だと思います。

理想主義者で純粋で熱い男だが騎士の妄想にとらわれて突っ走るドン・キホーテと現実主義者で学はないけど生きる知恵を発揮するサンチョ・パンサはキャラクターとして対照的で、二人が抱えることになるトラブルには常に二通りのものの見方がされているような気がします。善悪がはっきりしておらず、白黒つけるというような内容ではない。

「ドン・キホーテ」は単なる滑稽な物語ではないという気がしてまいりました。

私の方が、本に追い付いていなかった…今はそんな気持ちです。

 

というわけで、ストーリーがあってないようなもの…に見える「ドン・キホーテ」。

私のように起承転結のある物語が好きな方には、凝縮版の方が向いていると思います。

お試しで読んでみたいという方にも同じく岩波少年文庫をおすすめします。

「ドン・キホーテ」の人気の要因が知りたいという方、ぜひともお試しあれ。おすすめいたします。(*^▽^*)

 

 

 

2026年2月のテーマ

「まとめ版・名作古典」

 

第一回は、

「やさしいダンテ<神曲>」

阿刀田高 作、

角川書店、2008年発行

 

 

です。

 

私が読んだのは、Pickの上の単行本の方。下の文庫版は装丁が違っててこれもいいですね。

ダンテ「神曲」といえば、西洋の地獄のイメージを確立した作品といっても過言ではないと思います。

中世以降ヨーロッパの宗教絵画に描かれる地獄の描写には「神曲<地獄篇>」に書かれていることをビジュアル化しているものがたくさんあります。

 

まず、ダンテと彼の作品「神曲」の概要からまいりたいと思います。

ダンテ・アリギエーリは13世紀~14世紀のフィレンツェ出身の詩人で哲学者で政治家です。

「神曲」は<地獄篇>・<煉獄篇>・<天国篇>の三部からなる長編叙事詩。作者のダンテ自身が古代ローマの詩人・ヴェルギリウスに導かれて死後の世界を巡る物語になっています。イタリア・トスカーナ語で書かれたイタリア文学の傑作だそうな。

 

そんなわけで、「神曲」は「ホメーロス」などと同様に物語ではあるけど詩なので、現代の日本人である我々には読みなれない形式の文学なのです。さらに、作者のダンテは詩人であると同時に哲学者で政治家という何足ものわらじを履いているので(表現として適切ではない気もしますがご容赦を。)、おそらくですが、そもそも難解な書物なのではないかと思います。(偏見です。)

 

今回おすすめする阿刀田高さんの「やさしいダンテ<神曲>」は、ただダンテの「神曲」を散文形式の物語としてまとめてあるという本ではなくて、日本人が読んで理解しやすいようにまとめてくれている本です。

まず、"日本人でダンテ・アリギエーリという人について詳しい人って多くない"という前提に立って、ダンテってどんな人だっけ?というところから入っていき、「神曲」が何ですごいとされているのかということまで軽い筆致で紹介してくれます。

いざ、「神曲」の世界をダイジェストで語っていく中にも、筆者自身の疑問とか突っ込みとかが随所に散らばっていてとても読みやすいです。作者目線(日本人目線)で書いてあるのがよかったです。

あと、文章もやさしい。読みやすいです。

「神曲」の中で、ダンテは死んでしまった歴史上の有名人にたくさん出会います。えー、こんな人が地獄行きなの?って思っちゃうような人もいたりして。キリスト教的に罪人ってのが、仏教徒(信心深くはないですが)の私にはピンとこないことも…。

 

私がこの本を図書館でみつけたのはまったくの偶然でしたが、以前から海外ミステリーや、西洋の有名な宗教絵画の解説なんかでダンテの「神曲」に言及されていることが時々あって、ざっくりでいいから内容を読んでみたいと思っていたので、本当に幸運だったと思います。

 

阿刀田高さんの本は若いころにいくつか読んだことがありましたが、ミステリーとか日本の古典作品の解説みたいな本だったように記憶しています。

今回「やさしいダンテ<神曲>」のことを書こうと思ってちょっと調べてみたら、他にも世界の古典ダイジェストの本を出されていることが分かったので、そのうち読んでみたいなあと思っています。(「コーラン」とか「聖書」の本もありました。)

 

ダンテの「神曲」、難しそう。読んだことない。でもちょっと興味あるかな。

…って方におすすめの一冊です。

単に散文形式で物語としてまとめただけの本とは一味違う、阿刀田高さんのダイジェスト版古典のこの作品。おすすめいたします。(*^▽^*)