2025年10月のテーマ

「クリスティー関連本」

 

第三回は、

「アガサ・クリスティー完全攻略」

霜月蒼(しもつきあおい) 作、

講談社、 2014年発行

 

 

 

 

です。

 

今はクリスティー文庫でも出ているんですね。Pickの検索するまで知らなかった…。

私が読んだのは一番目と三番目に貼った単行本版なんですが、図書館で借りたものはカバーがなかったので、こんなデザインだったのね…と新鮮な気持ちで見ております。

ちなみに、カバーを外した状態ものっぺらぼうというわけではなくて、黒地にミステリーっぽいモチーフが散らしてあって、シンプルだけどかっこいい感じです。

 

それはさておき、作者の霜月蒼さんはミステリー研究家だそうで、主に海外ミステリーに関する書評や評論を書いていらっしゃる方のようです。

そして、この本は「翻訳ミステリー大賞シンジゲート」にWeb連載された「アガサ・クリスティー攻略作戦」を加筆修正して書籍化されたものとのことです。

Webでの情報収集にどちらかといえば消極的な私は、ミステリー好きのくせに名作ミステリーだとかおすすめミステリーだとかの情報を検索することがほとんどありません。興味の方向があっちこっちに向くので、調べなくても読みたい本に事欠かない…むしろ飽和状態なので、たまたま私の人生とクロスして出会えた本が読みたいものであればそれでいっか!みたいなところがあるのです。

というわけで、この本の基になった記事についても全く知らず、もし書籍化されていなければきっと読むことはなかったでしょう。講談社さんありがとう。

 

さて、本の概要としては、早川書房から出ている早川クリスティー文庫の全作品(2014年時点での99作品)について、あらすじと解説がされている、"早川クリスティー文庫の詳しすぎるガイド本"です。

 

しかしながら、まだ読んでいないクリスティー作品のうちどれを読もうか決める指針として読むのならばさっき言ったとおりの"ガイド本"になりますが、私みたいにすでにほぼ攻略済みの人間にとっては全く別です。

(ほぼ、と書いたのは、購入していないクリスティー文庫が三冊くらいあるからです。)

ミステリー研究家から見たクリスティー作品の評価を一冊一冊ぜーんぶ読めるんですから。

 

ただのクリスティー好きおばさんの私には、クリスティー作品について人と話す機会はまずありません。

ネット上で同好の士をみつけて同じく好きな方々のグループに飛び込めばいいのかもしれませんが、日常生活を回す中で正直時間が足りませんし、クリスティー以外、何ならミステリー以外にはまっているときもあるので、そういう場に入っていいのか気が引けるところもあります。

クリスティー以外にも海外ミステリー作品をたくさん読んでいらっしゃる作者からは、解説の端々から新しい知識や見方を得ることもできて、個人的には楽しかったです。

 

ただ、概要とか知らないでまっさらなまま読みたい派の方には不向きだと思います。逆にほぼ攻略済みの方でも人によっては結末のわかっている作品についての解説を99作品読み続けるのは飽きてしまってきついと思われるかもしれません。

そのあたりは、個人個人の読書に求めるものが違う以上仕方がないことかなと思います。

 

私としましては、全作品(何度も言いますが2014年時点)を網羅してひとつひとつにこれだけのボリュームで言及している本にはお目にかかったことがなかったので、貴重な一冊だと思います。

いったいどれくらいの労力がかかっているのか、想像するだけで目が回りそう。…私のキャパと作者のキャパが違うのだろうとは思いますけれども。それでも。

個人的には、ほぼ攻略済みの方におすすめしたい作品です。私だったら、まだ見ぬクリスティー作品はまっさらで読みたいので…。とはいえ、本に求めるものは人それぞれ。どんな方にとは限定せずに…おすすめいたします。(*^▽^*)

2025年10月のテーマ

「クリスティー関連本」

 

第二回は、

「イギリスのお菓子と本と旅 アガサ・クリスティーの食卓」

北野佐久子 作、

二見書房、 2024年発行

 

 

です。

 

作者の北野佐久子さんは、児童文学、ハーブ、お菓子を中心にイギリス文化について発信している方で、以前イギリスに"ハーブ留学(自称)"されていたそうです。

実際にイギリスで暮らし、結婚後も四年間ウィンブルドンに住んでいらっしゃったとのことで、この本には作者自身がイギリス生活中に撮影した写真がたくさん使われています。

 

内容としては、クリスティー作品に登場する食べ物(主にお菓子)とその作品について、筆者が体験した現代のイギリス文化とも照らし合わせて章ごとに綴ってあります。

例えば、

 

・真夜中のココア『スタイルズ荘の殺人』

・英国のビールはぬるい『五匹の子豚』

 

みたいな感じです。

 

・英国のビールはぬるい『五匹の子豚』

を例にとると、ポアロの長編作品『五匹の子豚』ではビールが一つの注目ポイントなんですが、英国のパブで提供されるビールはその場でグラスに注いで出されるのが基本だが冷えていなくてぬるいのが普通だとか、作中に出てくる薬草にからめてハーブ専門家目線でのお話なども書いてあります。

さらには物語の舞台となった場所についても…トリビアが満載です。

 

他の章に関しても、ハーブの専門家らしく、作中に登場する植物から抽出された毒の話や、イギリスで料理の付け合わせによく使われるハーブのお話がたくさん書いてあるのはもちろんのこと、伝統的なお菓子やお祝い事の時に出される食べ物のお話、さらにはレシピが載っているものもあって、お菓子好きの方にも楽しめるのではないかと思います。

私はお菓子作りはあまりしないので、載っているレシピを活用することはできませんでしたが、日本にはないいろんな種類のお菓子の解説が面白かったです。

 

例えば、"ロックケーキ"、"コーヒーケーキ"、"プラムケーキ"…ケーキとついていれば焼き菓子なんだろうなーと想像しますが、焼き菓子といっても日本人が想像する"ケーキ"とは全然違うクッキー?でっかいスコーン?みたいなものもあったりしますし、想像だけではわからないビジュアルを写真で補ってくれてたりなんかもして、目に楽しいです。お店で売っているものや知り合いの方がホームパーティでだしてくれたもの、有名店で食べたものなど、写真も宣伝用のスチール写真ではなく作者が実際に触れたものなので、余計に臨場感があるというか。

 

また、お菓子をはじめとする食べ物に関する章だけではなくて、

 

・ハーブとしてのすみれ「鉄壁のアリバイ」(←短編)

・ふさわしい服装『書斎の死体』

 

みたいな、イギリス文化について紹介されているものもあります。

 

ちなみに、各章の下スペースに、対象のクリスティー作品からの抜粋が載せてありまして、先月の閑話休題で書いた、タペンスが牧師の娘だと明言しているのを見つけたのはこの本です…。だからどうだというわけではないですが…。

 

 

 

 

この作品は、クリスティー作品の中に登場するイギリスの生活の描写をより色鮮やかに感じさせてくれる本だと思います。

同じ作者で、"アガサ・クリスティーの食卓"シリーズの本がほかにも出ているようなので、見つけたら読んでみたいと思っています。おすすめいたします。(*^▽^*)

 

 

 

 

2025年10月のテーマ

「クリスティー関連本」

 

第一回は、

「ミステリの女王の名作入門講座 クリスティを読む!」

大矢博子 作、

東京創元社、 2024年発行

 

 

です。

 

作者の大矢博子さんはミステリー評論家で、名古屋で翻訳ミステリーの読書会やアガサ・クリスティー作品の講座などをされている方です。

クリスティー作品の読書会とか、参加してみたい~\(^▽^)/

私はこの本で初めて大矢博子さんという方を知ったのですが、他にもクリスティー関連の本を出しておられるならそのうち読んでみたいです。

 

作品の内容としては、タイトルの通り"クリスティー入門本"です。

何しろクリスティーは作品数が多いし、ポアロ、マープルもの以外のミステリーにスパイスリラー、戯曲、メアリ・ウェストマコット名義で書いた小説(叙情小説?)など、ジャンルもいろいろ。

この本は基本的に"ミステリーの女王・クリスティーの作品入門書"なので、内容的にはミステリーに絞ってあるけれど、読む作品を決める手法として、

 

第一章 探偵で読む

第二章 舞台と時代で読む

第三章 人間関係で読む

第四章 騙しのテクニックで読む

 

と、各章ごとに注目点を変えて作品を紹介してあります。

 

ちなみに最後の章は

 

第五章 読者をいかにミスリードするか

 

となっており、クリスティーの巧みな技術の一端が紹介されています。

 

 

「探偵で読む」章では、ポアロやミス・マープル、トミーとタペンスといった名探偵のほかに、バトル警視パーカー・パイン、ハーリー・クインが探偵として紹介されていまして、これも嬉しい。

 

「舞台と時代で読む」章では、中東や乗り物の中が舞台の作品だったり、戦前、戦中、戦後で変わりゆくイギリス社会の世相が反映された作品が紹介されていて、「そうよね、そうよね。」とうなずきつつ私は読みました。

 

「人間関係で読む」章では家族関係や恋愛関係、特に三角関係の使い方に着目してあって、取り上げられている作品が、個人的に好きな作品が多かったので(といっても私は好きな作品が多すぎなんですけど)、この章は一番おすすめかもです。

 

「騙しのテクニックで読む」章と「読者をいかにミスリードするか」の章はミステリーのテクニック的なお話が中心なので、ミステリー好きの方にはおなじみの話になるかと思いますが、あまりミステリーを読まない方には、たくさんの気づきがあるかと思います。

 

ここから先は、個人的なお話になってしまいますが、…実は、もう何年も前(10年くらい前かも)のことですが、とあるサイトにクリスティ作品の記事を書かせていただいたことがあります。

当時ライターという仕事にあこがれていて、大好きなクリスティーのことなら書けると思って応募しました。

 

その時に、"クリスティーを恋愛で読む"というテーマで作品を5つ選んで書いたのですが、内容的にはオッケーをもらったものの、記事のタイトルに"恋愛"という言葉を入れないでほしいと指示があって、タイトルから抜いたことがあります。

理由は「クリスティーと恋愛が一般的には結び付かないから」。検索で引っかからないということだと思います。

 

当時、私としてはクリスティーの魅力はミステリーのトリックだけじゃないということを広く知っていただきたかったので、やはり物語のメロドラマ部分に関してはあまり一般的にはイメージされていないんだなと再認識させられたことでちょっと残念な気持ちにもなりました。うーん、違うな…世間の認識と自分の熱量のズレみたいなものを感じてちょっと冷静になったけど、その分なんか恥ずかしいみたいな???…うまく説明できません。すみません。

 

この本の中で、クリスティを「人間関係で読む」というすすめ方をされていて、まさしく恋愛関係の面白さが語られていたことで、思い出してしまったりなんかして…。(そんでもって、章の内容に共感して嬉しかったりもして。)

あと、こちらはもう手元に資料が残ってないんですが、確か同じサイトで"クリスティーの探偵たち"についても5人挙げて記事を書いたことがありまして、この本の「探偵で読む」の章で挙げられている探偵たちのうち、バトル警視を抜いた5人だったなあ…なんてことも思い出しました。(バトル警視が探偵に入ってるのわかるわあ…。私あの時なんで抜いたんかな…5っていう数字にこだわった???)

 

結局、お金をもらってきちんと信頼性のある記事を書くためには調査がたくさん必要で、運営側の意向もあるし、好きなことに対する自分の気持ちだけでは難しいということがよく分かったので、好きなことに関しては個人ブログで書くことにしました。

…って、いつの間にかめっちゃ自分語りになっとる…。すみません。

 

話を戻しますと、この本は「クリスティー入門本」なんだけど、いろんな角度からクリスティー作品を検討できるようになっているし、ミステリーの用語やテクニックなんかにも言及されていて、すでにクリスティー作品をたくさん読んでいる人にも、これから読んでみたい人にも、どちらにも面白く読める本になっていると思います。

私はミステリー好きだけど、トリックだとか作品の分類だとか探偵より先に自分で謎を解くこととかには無頓着なもので、この本で紹介されている"メイヘム・パーヴァ"という言葉を知りませんでした。自分がもう長く親しんでいる好きな分野であっても、"入門"とうたっている本からも新たな知識を得られるものです。あ…言葉の意味はぜひ本をお読みになって確認していただけるといいと思います。

おすすめいたします。(*^▽^*)

九月の閑話休題です。

 

2025年9月のテーマ

「警察官が主人公の小説」

 

でおすすめしてまいりました。

 

警察官といいつつ「鬼平犯科帳」とかミステリーとは違う作品を入れてしまい、ちょっとこじつけがましいなと自分でも思いましたが、警察が舞台の小説をあまり読んでいないので、少ない中からそれぞれの違いを出して書くよりは振り幅大きくても違うタイプの作品について書きたいなーなんてところから、あのようなラインナップになりました。

実は前々から読んでみたい警察官ミステリーがあって時々その作品が頭をよぎるので、テーマを考えてるときにそれがよぎったんでしょう。たぶん。

ちなみにその作品は「フロスト刑事」シリーズです。

読みたい気分のタイミングと、作品との出会いがかみ合わずにもう20年くらい経っちゃってる。

ほかの積読をほっといても読みたいっ!て気分にならないってことなのかなあ…。でも作者のほかの本も読んだことなくて自分に合うか合わないか分からない状態の本を読もうと思うには、ちょっと勢いが必要というか、他の読みたい本の魅力に勝るものが出てこないといけないのかもしれませんね。

まあ、私の言い訳はここまでにします。

 

…と言いつつ、ここからもっと言い訳がましくなっちゃうかもしれないので、めんどくさい話は勘弁という方は回れ右してください。

タイトルの「"タペンスの父"でこじらせた話」です。

七月の閑話休題で、ネットで"タペンスの父"を検索したらAIの出す情報がいい加減すぎた…というようなことを書きました。

 

 

で、はじめは記事の中で"タペンスの父は聖職者"と書いていたのですが、彼の職業?肩書?が"教会の大執事"なるもので、本当に聖職者なのかなあ???と思ってウィキペディアで調べたら"信徒職"とあったので、敬虔な信徒で教会からリーダーとして役目をもらっている人のことだと思い、慌てて記事を訂正しました。

 

ところが、先日クリスティー関連の本を読んでいたら、作品の引用がされている箇所に、タペンスが自分のことを"牧師の娘"だと言っている部分が載っていたのです。

えっ!?と思って、覚えている部分でタペンスが父について語る箇所をピックアップしました。

 

・「サフォーク、リトル・ミスンデルの大執事カウリイの第五女、ミス・プルーデンス・カウリイの伝記をかいつまんで話しますと…」(「秘密機関」)

 

・「あなたはこの事実をお忘れかもしれないけれど、私自身、牧師の娘だったのよ。」(「おしどり探偵」『牧師の娘』)

 (→本に引用されていた箇所)

 

・VADのひとり、プルーデンス・カウリーだ。父は聖職者で、教区は―ええと、どこだったか、…(「親指のうずき」)

 

それぞれの本で翻訳者の方が違うので(タペンスの名前もカウリイだったりカウリーだったりするのはそのせいです。)そのせいなのか、原文で文言が違うのか、定かではありませんが、少なくとも"タペンスの父は聖職者"が正解のようです。

"信徒職"というものに対する私の理解が間違っていました。

なので、元の記事は再び訂正いたします。

申し訳ありませんでした。

 

で、実はここまでが前半の話でして、こじらせたというのはここから。

上に貼った以前の記事で、私はAIが私の記事からも学習しているかも…なんて書いていたんですが、私自身が"タペンスの父"に関して「聖職者ではない」と誤情報を書いていたわけです。

AIは誤情報なんて見分けられませんから、間違って学習しますよね。

心配だーなんて記事書いときながら、自分自身がAIの間違った学習に加担しとるやんかーい!!…と反省。

それからまたAIの学習やら情報提供やらについてぐるぐる考え始めてしまいまして…。

以下、私の拗らせ結果をちょっとだけ吐き出させていただきたく…。

 

前提として、

①人間は故意にも無意識にもうそをつくことがある。

②人間は間違えることがある。

③人間はあえて情報を伝えないことがある。

 (必要ないと切り捨ててしまったり、状況をコントロールする目的で印象操作したり、気遣いからのこともある)

④事実と真実は同じではない。

 (このことは、SF短編集「息吹」「偽りのない事実、偽りのない気持ち」中に書いてある内容から感じられることを私は支持しているので)

 

 

というのがあり、

人間同士が顔を突き合わせて話しても、情報に含まれる嘘や間違い、隠している事柄を見分けられない。

表情やボディランゲージといった言葉以外の情報があるにもかかわらず。

ならばAIにそれらを見抜けないのは当たり前。

よって、

 

例えば倫理や思想などの人間の間で大きく意見が分かれる事柄(明確な回答などない事柄)について、AIに判断や意見のように見える回答をさせるべきではない。

 

と思いました。以上です。

この半月こじらせまくった結果がこれです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。<(_ _)>

 

さて、気を取り直して来月のテーマへとまいりましょう。

 

2025年10月のテーマ

「クリスティー関連本」

 

でおすすめしたいと思います。

 

いやー、夏休みの図書館通いで思いがけずクリスティーの関連本を複数見つけてしまいまして、豊作でした。

それら以外にも、以前に読んだ関連本もございますので、タイプの違うものをピックアップしたいと思います。

ご興味ありましたら覗いていただけると幸いです。(*^▽^*)

2025年9月のテーマ

「警察官が主人公の小説」

 

第三回は、

「鬼平犯科帳15 特別長編 雲竜剣」

池波正太郎 作、

文春文庫、 1985年発行

 

 

 

です。

 

火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)長官、長谷川平蔵

江戸時代に実在した人物であり、池波正太郎さんによって江戸のヒーローとして小説で描かれています。

(大河ドラマの「べらぼう」でも登場してましたね。私が観たのは初回で吉原に遊びに来た本所の銕(てつ)としての平蔵くらいですけども…。)

火付盗賊改方は江戸時代の警察組織の一つで、奉行所とは別の機動隊。凶悪犯罪を取り締まる部隊です。

というわけで、現代ミステリー以外からも今回のテーマの作品として取り上げさせてもらいます。

 

ちなみに、私が持っているのは上に貼ったPickの一番下の版のものです。

私が買い集めていたころ、上の二つの方が新装版で、下のデザインのものが旧版でした。

古本屋さんで一気買いしたため、私が持っている鬼平犯科帳は旧版と新装版が入り混じった状態です。

シリーズの最後の方は古本屋さんにはおいていなくて本屋さんで買ったので新装版が多いです。

今は決定版とかもあるので、貼ったもの以外の装丁のものをお持ちの方もいらっしゃるでしょう。

 

横に逸れましたがあらすじを…。

火付盗賊改方の同心が連続して何者かに殺害された。腕利きの同心を斬った相手の技から、長谷川平蔵は半年前に己を襲ってきた相手の剣を思い出す。腕に覚えのある平蔵が身震いする凄い剣。火付盗賊改方の同心を狙って襲撃するのは、明らかに火付盗賊改方への挑戦であり、彼らを邪魔に思い弱体化を目論む悪党一味の仕業に他ならない。平蔵率いる火付盗賊改方は総力を挙げて凶刃の使い手を探索する。

 

以前に、鬼平犯科帳の映画のことを書いた記事で、鬼平の魅力についてもいろいろ書きました。

 

主にドラマや映画化された鬼平のことを書いたので、小説と全く同じというわけではありませんが、イメージのギャップはあまりないと思っていただいていいです。

江戸の町に暗躍する盗賊たちはただ盗むだけでなく、目撃者を残さないために残虐に人を殺してしまう者たちがあまりにも増えてしまった。そうした凶悪犯罪を取り締まる目的で置かれた火付盗賊改方の長官・長谷川平蔵は、凶悪犯罪者を許さず徹底的に捕まえるし、逃がすくらいなら切って捨てる。とても厳しく恐ろしい人。

一方で若いころに悪さをしていていろんな人とかかわってきた経験から、市井の弱い人たちには優しく、ちょっと道を踏み外した若者には更生の機会を与えたりする人情派でもあります。

彼の人柄によって火付盗賊改方は結束固く、一丸となって悪に立ち向かいます。

 

今回のお話は"特別長編"で、いつもは追われる立場の盗賊が、火付盗賊改方に戦いを仕掛けてきたというのがメインストーリー。恐ろしい剣の使い手が長谷川平蔵にすら襲い掛かるわけで、緊張感たっぷりの展開になっています。

しかしながら、紙数の余裕からか日常の描写もたっぷり入っていて、部下の同心や密偵、息子とのやり取りなど読んでいて楽しい部分も盛りだくさんです。

 

証拠を集めたり情報を分析して犯人を追い詰めたりする現代の警察組織と違って、密偵や同心たちが歩き回って見たり聞いたりして集めた情報から的を絞って盗賊団のアジトを突き止めるわけで、捜索には忍耐と細心の注意力が必要です。

このお話では、敵方も自分たちのことを調べて狙ってきているため、相手に悟られないようにもしなくてはいけません。

そのうえ、ひとたび捕り物となれば刀を抜いての斬り合いになってしまいます。

 

何が言いたいかというと、現代の警察ものの小説とは捜査の仕方をはじめ組織としてのしがらみやら何やらまで全然違うっていうことです。世の中の仕組みや市民の暮らしぶりまでもが今とは違う。

時代小説なんで当然ですけど、それでもこれは江戸時代の警察の小説です。

反面、市井の人々が安心して暮らせるように、凶悪犯罪を取り締まるという点では現代だろうが昔だろうが同じです。

前回おすすめした「刑事犬養隼人 切り裂きジャックの告白」では、現代の警察組織の一人として捜査に携わる刑事が主人公でした。

今回は、江戸の警察組織の一部門の長官が主人公ですが、組織を挙げて悪と戦うという点では同じだと思います。

 

さっきも書いたように、時代は違うし組織としての在り方も全然違いますが、"どちらも警察"という視点で比べてみると面白いと思います。

私の場合、"悪"って何なんだろうとか、捜査のために団結するためには何が必要なんだろうとか、思い浮かぶ問いの答えにはその時代その場所での価値観にも左右されるはずなのに、どちらの小説を読んだ時にも自分が持った気持ちや感想、こうあってほしいという願いにはあまり差がなかったように感じていて、不思議な気持ちになりました。

 

作品の見どころとしては、"盗賊一味 vs. 火付盗賊改方"の攻防に、恐るべき暗殺剣・雲竜剣の使い手との対決ということになりますが、ただエンターテインメントとして楽しめるだけではなくて、平蔵の弱きを助け悪を挫く姿勢になんだか自分まで市井の町人として守られれているような安堵感を得られたりして…私だけですかね???

というわけで、現代の警察ものとの違いを感じることもでき、長編なのでいつもよりたっぷり鬼平ワールドを楽しめちゃう「鬼平犯科帳15 特別長編 雲竜剣」、おすすめいたします。(*^▽^*)

 

 

 

漫画の15巻は「雲竜剣」とは別のお話だと思いますけど(小説とは進み方や区切りが違うと思う)、漫画の鬼平もビジュアルで見せたいので貼っときます。