2024年7月のテーマ

「いっぱいある!海外刑事ドラマ」

 

第一回は、

「女警部ジュリー・レスコー」

フランス、1992年~2014年放送、全101話

 

です。

 

フランスの刑事ドラマで、日本ではスカパーやミステリチャンネルで放映されています。

基本、字幕だと思います。

今回記事を書くにあたってネット検索したとき、出てくるDVDが字幕版ばかりだったので。

私は昔契約していたミステリチャンネルで64話辺り(その時点での日本で放映されている最新話)まで見ました。

その時点で長寿ドラマだと思っていましたが、まさか101話まで続いていたとは…。人気ぶりがうかがえます。

一話辺り90分くらいあって、日本でいうなら2時間ドラマのシリーズという感じでしょうか。

 

ではまず、シリーズの設定を…。

ジュリー・レスコー警部(実際の階級は日本でいうところの警視に近いらしい)はフランスのパリ郊外にあるクレリエール署に赴任してきた初めての女署長。彼女は娘二人を育てるシングルマザーで、(第一話放映当時)まだまだ男社会の警察の中で、犯罪に立ち向かうタフな警察官です。

強い信念を持ち、権力からの圧力や理不尽に女性蔑視する男性たちにも立ち向かい、家庭では育児にも全力投球です。

 

このドラマの面白いところは、彼女をただスーパーウーマンとして描いているわけではなく、家庭内での問題に悩みながらも奮闘する、プライベートの部分をしっかり描いてあり、主人公に人間味を感じさせられるところです。

その一方で、職場での問題に対応したり部下の悩みに寄り添ったりする、優しく強い、頼りになるボスの顔もきちんと描いてあって、嘘くさくなく、ジュリーが魅力的に感じられるところです。

 

ジュリーを演じておられるヴェロニック・ジュネストさんはとてもきれいな女優さんで魅力的ですが、ジュリーは母親としての顔が強く、恋愛関係が全くないとは言いませんが、恋愛対象としての魅力を前面に押し出していると感じられないところが、私としては良かったです。

女性の魅力は性的な魅力だけではない、と愛の国(だと私は思っている)フランスで描かれているのが良いなあ…と。

 

ジュリーの二人の娘たちは長女・サラと次女・バブー(エリザベス)で、初めて出てきたときはサラが4,5歳、バブーは2,3歳だったと記憶しています。(間違ってたらすみません。)

シリーズの間に成長し、私が観ていた64話辺りでは成人していたか大学生だったかという感じ。少なくともその時点までは同じ俳優さんが演じていました。成長の過程でたくさん母親に心配をかけますし、問題を起こしてがっつり叱られたりもします。観ていた当時は私には子供はいませんでしたが、彼女の家庭で繰り広げられる家族の暮らしはフランスの子供たちを取り巻く問題だったり子育て事情などを反映しているんだろうなと興味深く観ていました。

大体、犯罪を題材にしたドラマの場合、事件によって感情的につらいものだったり、許せないくらいの悪が登場したり、気分的にすっきりしないこともあります。

それが、家族の団らんの場面で緩和されるというか、ちょっと気分が持ち直すというか…とにかく、世の中悪いことばかりではないんだなと思うし、人生ってそういうものかもとも思ったりしてしまうのです。

 

ドラマを観ていた頃からだいぶたっていますが、今でもジュリーは私のあこがれの女性の一人であり、ドラマでおきた数々の事件に関しては大半を忘れてしまっているのに、彼女が「メルド!!」と叫んで署内に勝手に積み上げられた生乾きのレンガ(経緯はもう忘れましたが)を蹴り飛ばして破壊したシーンを思い出します。

"メルド"とはフランス語で"う〇こ"のことで、日本語的には「クソッ!!」って言うのと同じです。

ジュリーは結構この言葉をよく使っていて、怒らせるとほんとに怖い人なんですけど、フランスでは一般的によく使われているのか、彼女が結構な男勝りの激情家なのか、私にはわかりません。

でもその性格も含めて、あこがれの女性の一人です。

 

古いドラマになりますし、見る手段があまりないので、おすすめするのにふさわしくないかもしれませんが、お話も練ってあって面白いので、是非ともご紹介したかった作品です。

機会があればぜひ!ご覧になってみてください。

私も後半の観ていない部分を観たいです。おすすめいたします。(*^▽^*)

 

六月の閑話休題です。

 

2024年6月のテーマ

「暮らしを見直したくなる本」

 

でおすすめしてまいりました。

 

今月のテーマの本だと、"断捨離"の本だったり、ダイエットや健康に関するエッセイ漫画だったり、まるで違う日常を送っている外国の生活を紹介した本だったりと、思いつく本がジャンルもばらばらにたくさんあるんですが、今回は小説に絞ったんであのようなチョイスになりました。

単に私が影響されやすい性格だから、いろんな本が思いついてしまうのかもしれません。

多分、普段読んでいる本で圧倒的に小説が多いので、小説になったのでしょう。

本の主題ではなく主人公の背景として"心地よい生活空間"を感じられる本ばかりです。

気になった方は是非ご賞味あれ。

 

さて、今回のタイトルの話とまいりましょう。

先日、とある資格試験を受験しまして、その勉強のために、ここひと月ほど毎日(土日は休んでましたが…)勉強していました。

また、とある薬の副作用で全身に薬疹(やくしん)が出てしまって夜も眠れなかったり、病院通いしたりとイレギュラーなことが続いたりしたので、今月は忙しなく過ごしていました。

 

ところがですね。

タイトルの通り、こういう忙しい時ほど、隙間時間に読書するようになりました。

まとまった時間をとれるわけではないので、"読書がすすむ"という言い方は適切ではないように思います。

試験勉強もしていたので、隙間時間にテキストを読み返したりもしていたんですが、それでもこの時間はテキスト、この時間は趣味の本、というように、割り振るようになり、スマホを触る時間が削られました。

 

何というか、"しなくちゃいけないこと"が優先されるのは当たり前なんですけど、そればっかりだと心が疲れちゃうというか、リフレッシュの時間が欲しくなってしまうんですよね。

これが、忙しくて体力的にクタクタだったりすると、活字を追うのもしんどくて、何も考えずにテレビをぼーっと見るとかして体全体で休みたくなっちゃうんですけど、試験勉強や体調不良で自制心を働かせていないといけない状態が続いていたので、「好きなこと(読書)をする時間=快楽」だったみたいです。

 

体中がはれて痒みマックスだった時には、甘いおやつを毎日食べてしまってました。

楽しみを用意してそれを考えることで、我慢しなくちゃいけないことから思考をそらしていたというか。

期間限定だったからよかったものの、毎日甘いおやつは体にもお財布にも良くないので、はれが引いてきてからは意識してやめました。

 

対照的に、読書の方は元々生活習慣に組み込まれてしまっているので、変わらず隙間時間のお楽しみになっていましたが、こちらも弊害が出まして…。

目を使いすぎて痛くなってきちゃったんです。

試験勉強でテキストとにらめっこした後、隙間時間に読書。パソコン作業もするし、テレビ画面もよく見ている。睡眠時間が減ってリフレッシュしきれてない。

こりゃいかんと思って目薬を買ってきまして、点すようにしたら二日くらいで治りました。

潤いが足りてなかったんですかね。

 

だいぶ脱線してしまいましたが、忙しい時に限って読書時間を捻出しようとしてしまう、ということと、目は使いすぎてはいけない、ということを今回のことで自覚しました。

ちなみに、私の場合、忙しい時や疲れている時に読む本はコージーミステリーになりがちです。

今月第三回に書いた"ダイエットクラブシリーズ"の本に手を出してしまってから、もう止まりません。

いやー、読んでる本は気分が反映されるなあと思いました。

 

それでは、来月のテーマとまいりましょう。

 

2024年7月のテーマ

「いっぱいある!海外刑事ドラマ」

 

でおすすめしたいと思います。

毎年7月は「子供と一緒に読みたい児童書」というテーマでおすすめしてきたんですが、今年はちょっと変えてみます。

なぜかというと、ここのところ全然図書館に行けてなくて、児童書と触れ合う機会がまったくなかったので、おすすめしたい本がパッと思いつかなかったからです。

では海外刑事ドラマばかり観ていたのかというと、海外ドラマ自体最近は全く観ていないんですけど…。

…なんでだろう。

もともと海外ドラマが好きでたくさん観てきたんですけど、主にアメリカやイギリスのミステリー、犯罪もので、刑事ドラマも多いです。

刑事ドラマの場合、ストーリーの要となる事件がちゃんと描かれていないと面白くないのは言うまでもありませんが、主役の刑事のキャラクターやプライベートな顔が魅力的でないと人気は出ないと思います。

日本に住む私が視聴できる海外の刑事ドラマなんて、製作された国で大人気になった作品ばかりなので、主人公は個性豊かな刑事ばかりです。

ふと思い出すと、語りたいことが続々と出てきてしまって、児童書のことは考えられなくなってしまいました。

というわけで、いつもながら気分に左右されがちなブログですが、気が向いたら覗いていただけると嬉しいです。(*^▽^*)

2024年6月のテーマ

「暮らしを見直したくなる本」

 

第三回は、

「ダイエットクラブ5 とんでもないパティシエ」

J・B・スタンリー 作、武藤崇恵 訳、

RHブックスプラス、2011年発行

 

 

です。

 

このダイエットクラブシリーズは、アメリカで大人気のコージーミステリーシリーズだそうです。

それを言うと、前回のお茶と探偵シリーズもそうなんですが…。

他のコージーミステリーの作品を読んでいるときに、その作品の主人公がダイエットクラブシリーズを読んでいるシーンが描かれていたこともあります。作者は別の方なので、多分このシリーズが好きなんだろうなと思い、勝手ながらシンパシーを感じました。

私も大好きなので、これまでにも何度かシリーズの作品をブログに書いたことがあります。

 

 

 

 

それはさておき、あらすじとまいりましょう。

まず、シリーズの前提から。

主人公のジェームズ・ヘンリーは小さな町の図書館の館長をしています。

都会の大学で教授として働いていたジェームズは、妻の裏切りで離婚を経験。程なく母が亡くなり、一人暮らしになった父親の面倒を見るために故郷に帰ってきます。父親は体が悪いわけではないのですが、優しかった母が亡くなってから気難し屋に拍車がかかり、誰にも会わずに家に閉じこもりきりになってしまったので、一人息子のジェームズはほっておけなかったのです。

シリーズ第一作目の物語はここから始まるのですが、この時点で様々なストレスからジェームズの体重は人生史上最高値を記録。それまでの人生で獲得してきたすべてのものを手放した状態で昔の子供部屋に戻ってきた彼は自分を負け犬と思っていました。そんな彼がダイエットをしたいという仲間たちとサパークラブの活動に参加。サパークラブとは、料理をしながらおしゃべりを楽しむクラブのことで、ワインを楽しむクラブだとか、特定の目的に絞ったものもあるそうです。彼らの場合は、ダイエットに役立つ料理を持ち寄って一緒に痩せようというわけ。

そのサパークラブの仲間同士のことを自分たちで<デブ・ファイブ>と名付けて親交を深めるうちに、殺人事件に関わってしまい、みんなで協力して事件を解決に導く…というシリーズです。

 

今作品は、そのシリーズの第五弾。

<デブ・ファイブ>のメンバーたちの状況も第一作目からは大分変化があり、ジェームズは父親の再婚に伴い、家を出ることにします。ジェームズの父親たちは、クリスマスに結婚式を挙げる予定で町に新婦の親戚たちが集まることになります。

新婦の妹が有名なパティシエ…というか日本でいうところの料理研究家で、テレビでお菓子作りの番組を持ち、レシピ本も出版しているという、マーサ・スチュアートばりのセレブで別名"お菓子の女王"。"姉の結婚式でウエディングケーキを焼くためにわざわざこんな田舎町に来てあげた"という態度の高慢な女性で、彼女の周りは敵だらけ。"お菓子の女王"の変死により、またもや<デブ・ファイブ>が力を合わせて犯人捜しをする…というお話です。

 

このシリーズでは毎回、前作からジェームズを取り巻く人間関係が変化していって、彼の周囲がにぎやかに、しかも居心地よくなっていくので、読んでいてとても前向きな気持ちになれる作品です。

 

<デブ・ファイブ>のメンバーたちも、郵便配達人のベネットは長年の夢であった"ジョパティ(アメリカのクイズ番組で優勝すると賞金がもらえる)"に今作で出場しますし、高校の美術教師であるリンディは恋人(一作目ではいなかった)との関係に悩み中。ナチュラルなものやスピリチュアルなものが大好きな動物愛護家のジリアンは作品を重ねるごとにビジネスの才能を発揮してきましたが、今作では意外な方向で人生が充実しそうな流れが来ます。ジェームズが一作目で心を奪われた保安官事務所の事務方で働いていたルーシーは試験に合格して事務方を卒業し、今では現場で働いています。ルーシーが正式に法執行機関の人間になったことで、これまでのように何でも<デブ・ファイブ>のみんなと情報共有するわけにはいかなくなってしまったことも、<デブ・ファイブ>にこれまでにない変化をもたらします。

最後にジェームズは、これまでに恋愛もうまくいったりいかなかったりと、読んでいる方からするとやきもきさせられてきましたが、今作では実家を出て自分の家を手に入れるという大きな生活の変化とともに、もっとビックリなビッグサプライズもあって、本当に人生が一変します。

 

というわけで、この本がなぜ"暮らしを見直したくなる本"なのかと言いますと、ジェームズの生活が一変する作品であり、ジェームズ自身がその大きな変化をとてもポジティブにとらえているので、なんだか変化というものが楽しく感じられるからです。

 

家を買う、というのも、前回書いた記事のセオドシアのように理想の家にほれ込んで、買えるかどうかは別として自分ならではのインテリアとは…と夢想するのではなく、とても現実的。

引っ越すことは決まっていて、新しい住まいを探している。古くてもいいから、できれば一軒家で家庭菜園とかしてみたい。予算の範囲内で買えるところ。両親に新婚旅行をプレゼントしたいし、家を買ったら貯金はほぼなくなってしまう。

などなど…前提条件があって、不動産屋さんの売り上げナンバーワン営業だという担当者が不本意な物件を提示してきてもそれはNO!と妥協はしない。

たまたま持ってきてくれた物件が気に入って、買うことを決断。手に入ってからは懐は寂しいながらも自分で壁の色を塗り替え、必要な家具を買い、友達からは新居に必要なものをプレゼントとしてもらい、とりあえず生活できそうに整った家に引っ越すところまでこまごまとしたことが描かれています。

 

本筋の事件も新しい母親の親族が被害者ということで、ジェームズにとってはいつも以上に身近なところでおきた殺人事件ですし、彼の人生も大きな転機を迎えていて、大忙しだなあという感じではありますが、<デブ・ファイブ>の面々や図書館で働く双子のスコットとフランシス、街の住民たちとのやり取りにいつもながらほっこりさせられます。

この作品を読むと、第一作目でジェームズが自分を負け犬だなんて考えていたことが嘘のようです。

ただ、ダイエットに関しては大成功とはいかないようですが…。

私にとって、"暮らしを見直す"ということは、"日常に何かポジティブな変化をもたらしたい"ということに近いようです。

 

健康診断なんかで、あまり良くない数値が出た項目があったりすると、「生活を見直す」必要が出てきます。

そういう時の「生活を見直す」というのは、「悪しき習慣をなるべく排除し、健康に良い習慣を取り入れよう」というような習慣の改善を求める言葉であり、"悪しき習慣"が自分にとって魅力的であれば、この言葉はネガティブに聞こえてしまうと思います。

今回のテーマでいうところの"暮らしを見直す"、というのは、そういうこととはちょっと違うな、と書いていて思いました。

 

あと、この作品のことを書くなら是非とも書いておかなくてはいけないのが、作品に登場する食べ物の数々がおいしそうなこと。

と言っても、前回の"お茶と探偵シリーズ"みたいにお店で出されるスイーツやキッシュ、スープといったメニューとはちょっと違います。

ジェームズが日常生活の中で口にするごく普通の食べ物…サパークラブで持ち寄るダイエットにいいとされる食べ物から、新しく母親になるミラお手製の家庭料理、アイスクリーム屋さんの新作メニューに、近所のご婦人たちが持ってきてくれたキャセロール、我慢できずに自動販売機で買ったスナック(チートス)、そして今回はお菓子の女王の作ったケーキまで。

おいしい物大好きなジェームズですから、それこそ食べ物の描写はたくさんあります。

ちなみに各章のタイトルはその章に出てくる食べ物の名前(カロリー付き)になっているのもこのシリーズらしくていいです。

 

食べ物の誘惑と戦いながら、殺人事件を解決し、作品が進むごとに登場人物にも変化が感じられるダイエットクラブシリーズは本当に面白いです。

ミステリーとしても面白いし、登場人物の会話や日常描写も読んでいて楽しい。

ダイエットクラブシリーズをもっと皆さんに知ってほしいです。おすすめいたします。(*^▽^*)

 

 
 
 

2024年6月のテーマ

「暮らしを見直したくなる本」

 

第二回は、

「お茶と探偵10 ウーロンと仮面舞踏会の夜」

ローラ・チャイルズ 作、東野さやか 訳、

RHブックスプラス、2011年発行

 

 

です。

 

以前にも何度か記事にしたコージー・ミステリーのシリーズ第10作目です。

発行元の株式会社 武田ランダムハウスジャパンはもうなく、シリーズの続きは現在、原書房さんから出版されています。

原書房さんからは、シリーズの新作は出版されていますが、旧作は新しく出版されてはいないので、「ウーロンと仮面舞踏会の夜」は現時点で入手できるものはほぼ中古ということになります。

入手しにくいものをおすすめしてしまってすみません。

 

さて、あらすじです。

サウスカロライナ州チャールストンの歴史地区にティーショップを構えるセオドシアは、お茶の魅力を広めることに日々尽力しています。仲間であるティー・ブレンダーのドレイトンとシェフのヘイリーと共に、季節ごとに新作のお茶の販売、テーマのあるお茶会の開催、イベントでのケータリングと大忙しです。

そんな彼女が乗馬クラブの馬術競技会に参加した際、競技コースで死んでいる女性を発見。なんと、以前の恋人のいとこでニュースキャスターの女性でした。町がセレブな仮面舞踏会のイベント準備で盛り上がるなか、いとこの死で町に舞い戻ってきた元恋人に頼まれて、セオドシアは事件の真相を探ることになります。

 

このシリーズは、毎回チャールストンの町で開催される大きなイベントが描かれて、それも楽しみの一つなんですが、今回は仮面舞踏会ということで、いつもに増して豪華で華やかな催しとなっており、そこも魅力です。

また、主人公のセオドシアが経営するティーショップで提供される食べ物が本当においしそうで、読んでいて居心地がいい…コージーミステリーのお手本みたいなシリーズです。

 

ところで、この作品がなぜ今月のテーマ「暮らしを見直したくなる本」なのかと言いますと、セオドシアが家を手に入れたくなるお話だからです。

 

彼女は第一作目からずっとティーショップの二階の部屋に住んでいました。

その部屋はこじんまりしているけれど主の趣味にあふれたインテリアで飾られ、文字通りセオドシアの城でした。彼女は自分の部屋に満足し、度々手を加えて自分好みの部屋へと作り変えていました。

 

その彼女に変化が起きたのがこの作品。

歴史地区の一角にある小さなイギリス風コテージが売りに出されていると知って、見るだけでもと内覧を申し込み、一目見て気に入ってしまいます。

この作品を読んだことがない方にはピンとこないと思いますが、物語の舞台であるチャールストンの歴史地区は、ヨーロッパから入植した人々が建てたお屋敷が立ち並び、レンガ敷きの小道がいたる所に張り巡らされた、古風なヨーロッパ風の街並みが魅力的なアメリカの観光地なのです。

 

そんな歴史地区の一角にあるコテージですから、ハナミズキやサルスベリの植わった庭の周りを鋳鉄のフェンスが囲い、レンガの外壁に藁ぶき風の屋根、小塔を備えた二階建て。コッツウォルズ様式、アン・ハサウェイ風住宅などいろいろな呼び方をされてきたようですが、セオドシアの感想としては"ヘンゼルとグレーテルのおうち"。

自分の住まいに満足していた彼女でも、いっぺんにほれ込んでしまう素敵な建物なのです。

内覧してみて、この家に住みたい気持ちが強くなり、自分が住むならどんな風にするかと思いを巡らせるセオドシア。

しかし、家を買うというのはとんでもなく大きな出費です。

それも普通の家ではなく、小さいとはいえ一等地である歴史地区に建つ手入れされた古くからある建物。

いくらティーショップ経営者でビジネスウーマンのセオドシアでも、資金を工面するのは難しい。

それでもあきらめられない…。というジレンマが今作中では描かれています。

 

それのどこが「暮らしを見直す」ことになるかというと、居住空間という暮らしの基礎を自分らしく、素敵にしたいという欲求が私にも伝染するからです。

それまでのシリーズでも、ティーショップ二階の彼女の部屋の描写は素敵だし、こんな風に私も自分らしいインテリアで暮らしてみたいという気持ちにさせられてきましたが、それまで自分の部屋に満足していたセオドシアが、"理想の家"をみつけてほれ込んでしまうというのが、熱量を感じられていいのです。

一軒家ということで、室内装飾の話だけでなく、建物の外観や庭に植えられている植物まで、トータルで自分らしい家。

 

気持ちが伝染すると言っても、正直、家を買いたいだとか、引越ししたいだとかいうことではなくて、「現在の住まいをもっと自分らしく、暮らしが好きになるように変えてみたい!」という気持ちになるというか…。

ひいては、自分らしい家って何だろうと考えてみたりなんかもして。

 

ちなみに、セオドシアが家を買いたいというのは、お話の本筋とは関係がないです。

ティーショップでのお茶会の描写も、新商品のお茶やメニューを詳しく書いてあっても、物語の本筋には関係ありません。けれども、この作品の世界を鮮やかに彩っている、なくてはならない描写の数々なのです。

ミステリーとして面白いかどうかというのと同じくらいの比率で、主人公の生活の描写が、コージーミステリーでは大事だと思います。

まあ、本格ミステリーが好きな方には、伏線でも何でもない不必要な描写がだらだらあってうっとおしいなと思われるかもしれません。そこは好みということで。

 

前回の「ホリーガーデン」同様に、ちょっと読み方が独特では?と思われるかもしれませんが、"暮らしを見直したくなる"かどうかは別としても、コージーミステリーの代表格みたいなシリーズですので、興味がわいたなら手に取っていただきたいと思います。おすすめいたします。(*^▽^*)

 

 

 

 

 

 

 

2024年6月のテーマ

「暮らしを見直したくなる本」

 

第一回は、

「ホリー・ガーデン」

江國香織 作、

新潮文庫社、1998年発行

 

 

です。

 

二十代後半~三十代前半の頃に何度も読み返した作品です。

 

高校まで同じ女子校で過ごした、果歩静枝という二人の女性の物語です。

ずっと一緒に過ごしてきて、お互いのことをよく知っている二人は三十を目前にして互いに独身。友情に変わりはありません。そんな二人の日常を丁寧に描く中で、失恋の傷が癒えない果歩と、毎日充実していながら妻子ある男性と恋愛する静枝の関係が緩やかに変化していく…。静かな日常の物語です。

 

江國香織さんの作品は恋愛小説に分類されると思いますし、実際に恋愛を扱ったものが多いと思いますが、私にとっては"恋愛"の部分は割とどうでもよいのです。

問題はなんだっていいんですが、主人公たちの抱える心理的な傷や問題を、直接的な言葉でズバリと表すのではなく、その人物の行動や場面描写などによって婉曲的に浮かび上がらせていく手法が、私にとっては美しく文学的に感じるので、つまりは文章が好きな作家さんということになります。

この作家さんの書かれる文章には、何とも言えない余韻があって、そこが読んでいて心地よく感じるのです。

 

それはさておき、二人の主人公、果歩と静枝はどちらも恋愛において問題を抱えています。

しかし、表面的にはノープロブレムを貫いているし、本人自身もそう思い込もうとしていて、8割がた成功しています。

穏やかに過ぎていく日常の中で、それでも時折隠している本音が漏れだして心がざわつくときがあります。

例えば、果歩は昔の恋人が撮った写真を床に並べて夜通しそれを眺めて過ごします。その時間は彼女は過去に囚われています。

静枝の恋人は優しくて彼女を大切に想っているようで、彼女の恋愛は順調です。それでも妻帯者であることに変わりはなく、恋人とのデートや会話が満ち足りていればいるほど、彼女は一方で自分を鼓舞し続けています。

 

そういった気持ちの谷はあるけれど、果歩は箱根に一人でピクニックに行ってリフレッシュしたり、同僚で後輩の中野君と紅茶を飲んで一緒に過ごしたりしますし、静枝の方は大学の同期との定期的な飲み会やクラシックのコンサートを聞きに行ったりと、日常に彩を添えています。(果歩の場合は自暴自棄ともとれる無頓着な人付き合いをしてもいるので、日常を良い事で彩っているとは言えませんが。)

 

読んでいると、生活ってこういうものかなと思うのです。

自分の内面になかなか解決できない問題があったとしても、解決できない間はそれを受容して生きていく。

生活全部が問題に支配されてはならず、日常を回していくためには楽しみや毎日の習慣が必要なのかもしれないなあと…。

 

そこから転じて、なんというか、私の場合、彼女たちの日常を読んでいて、真似をしてみたいだとか、その生き方に共感するというのではなくて、"自分の暮らしのくせ"みたいなものについて考えてみたくなってしまうのです。

 

「モヤモヤした気分の時に、自分がとってしまう行動って何かな?」とか。

「最近のちょっとした楽しみって何だろう?」とか。

そこから、「いっちょこんな習慣を取り入れてみようかな」っていう具合にちょっとステップアップしてみたくなります。

 

多分、江國香織ファンの方々からすると、作品のいいところを全然わかっていないと思われるだろうし、この作品に対する自分の読み方が独特なのかもしれないなと自分でも思ったりもします。

それでも私にとってこの作品は、"暮らしを見直したくなる本"なのです。

 

基本的には恋愛小説で、二人の近すぎる女性たちの友情の物語なので、かなり女性読者にとって関心の高い内容かなと思います。

私のような読み方をする人はあまりいないかもしれませんが、純粋に小説として面白いので、おすすめしたいと思います。

 

また、余談ですが、この作品の中に出てくるフレーズで、すごく私の中に残った個所がいくつかあるので、最後に抜粋したいと思います。

 

一つ目は、"子供の頃、大人はみんな、もっと人格者だと思っていた。"というもの。

 

私もまったく同じように思っていたということに気づかされたのもあるのですが、このフレーズが、"だからそうじゃないと知って失望した"と言う意味ではなくて、"自分が大人になってみて、そう簡単に人格者にはなれないと分かった"というような意味に私は感じたので、そこが妙に納得してしまって残っています。

 

 

もう一つは、"言いすぎた、なんて最悪のあやまり方だと思った。言いすぎた、なんて、うっかりほんとうのことを言ってしまってごめんなさいねと言うようなものだ。"というもの。

 

この文章には脱帽しました。「言いすぎた、ごめん。」というセリフはたくさんのエンタメで耳にする言葉です。

しかし、考えてみるととても残酷な言葉で、謝ることでさらに相手を傷つけていることにこのセリフの主は全く気付いていない分罪深いと思ってしまいます。

今でも私は自分があやまる場面でこの言葉は使わないようにしたいと思っています。

 

他にもありますが、長くなるのでこの辺でやめときます。

 

さて、テーマの内容から最後はだいぶ逸れてしまいましたが、この作品は私にいろんなことを感じさせてくれる作品でした。最近は流石に読んでいませんが、年齢が上がった今、読んでみればまた新たな発見があるんじゃないかと思っています。おすすめいたします。(*^▽^*)