ウクライナ紛争の金融的背景(BRICS銀行):インドへの外交攻勢,南米参加とモンロー主義 | 大阪の弁護士 重次直樹のブログ

ウクライナ紛争の金融的背景(BRICS銀行):インドへの外交攻勢,南米参加とモンロー主義

ウクライナ紛争の金融的背景はBRICS新開発銀行(NDB),という仮説を裏付ける情報が,次々と出てくる。

(関連記事) ・ウクライナ戦争の金融的背景 ・ウクライナ大規模侵攻の理由(仮説):西側に大規模な経済制裁をさせるため?  ・プーチン主導で進む金融・経済戦争(仮説)と,苫米地英人「戦争論」の世界 ・BRICS新開発銀行(NDB)とウクライナ紛争の時系列

 

ロシアのリャブコフ外務副大臣は,2022/3/30,「BRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は、新しい世界秩序の基礎となる」と述べた。 → こちら    

 

(引用元:リンク先サイト,自動翻訳)

上記記事は続けて,「駐ブラジル・ロシア大使アレクセイ・ラベツキーは、欧米による経済制裁措置に対抗して、BRICSの協力形態が変わる可能性があると述べた。彼によると、現在、協力に向けた新たな機会が組織に開かれている,と述べた」と伝える。  (日本語自動翻訳がおかしいので,英語自動翻訳に基づき修正)

”the Russian Ambassador to Brazil, Alexei Labetsky, said that against the background of sanctions measures by the West, the format of the BRICS work could change. According to him, at present, new opportunities for cooperation have opened up for the organization.”

 

ここで重要なのが,「ブラジル」だ。インドの重要性は以前に触れた。2つ前の記事で,現在,インドに対する双方からの外交攻勢がかけられていることを述べた。  → こちら  「特に,インドはキープレイヤーであり,現在,双方からの外交攻勢を受けている」

  ・2022.4.1 ロシアのラブロフ外相が訪印  → こちら

  ・2022.3.31 英トラス外相が訪印 → こちら

  ・2022.3.25 中国王外相が訪印 → こちら

  ・2022.3.19 岸田総理が訪印 → こちら

 

しかし,ブラジルは米国にとって,中露印と全く異なる意味を持つ。それは,ブラジルが西半球というアメリカの裏庭に位置することだ。そして,米国がウクライナで大規模演習を始める直前,南米から新たにウルグアイがNDBに参加している。

 

・2022.9.2 ウルグアイ・UAE・バングラデッシュの3ヶ国がNDBに参加

・2022.9.20-10.1  ウクライナで米ほか15ヵ国が大規模軍事演習

・2021.10.26 ウクライナ軍がドネツクにトルコ製ドローン攻撃

・2021.10末~11初 ロシア軍ウクライナ国境に集結

 


 

2022.9.2に新規加盟した3ヶ国はいずれも重要だ。

・ウルグアイ・・・ブラジルの隣国,西半球に存在(モンロー主義対象)

・バングラデッシュ・・・インドの隣国,人口1億超

・UAE(アラブ首長国連邦)・・・金融センタードバイを擁する中東の有力国,産油国

 

(2021/9/7 3ヶ国加盟直後に,メンバー拡大方針について語るBRICS開発銀行総裁)

 

米国は,ロシアの喉元で大軍事演習を行い(2021.9.20-10.1),ウ軍にドンバスをドローン攻撃させながら(2021.10.26),恰も先に軍事的圧力を掛けたのがプーチンのロシアのように宣伝しているが,説得力がない。米国は例外主義(exceptionalism)で,キューバ危機やモンロー・ドクトリンなど,自身はユーラシアに介入するが,ユーラシア側からの西半球介入を徹底的に排除してきた。

 

ところが,BRICS新国際銀行(NDI)では,ブラジルという西半球の大国家が初期メンバーに入っている。2021.9にはウルグアイも新規に加盟した。そして,ウクライナ戦争開始後,NDIはロシア関係の融資をペンディングにしつつも,新たに西半球への融資を決めている。 → こちら 2022.3.22 公表

 

一つは,南米FONPLATAへの5000万ドルの融資,もう一つが南米DesenvolveSãoPaulo(DSP)への9000万ドルの融資だ。いずれもSDGs(持続可能な開発目標)関係の融資になっている。

 

FONPLATA Sustainable Infrastructure Project

”The Board approved a loan of USD 50 million to Fondo Financiero para el Desarrollo de la Cuenca del Plata (FONPLATA, Financial Fund for the Development of the River Plate Basin), an international organization formed by Argentina, Bolivia, Brazil, Paraguay and Uruguay. The loan proceeds will be on-lent by FONPLATA to large and medium-sized municipalities and federal states in Brazil for financing multi-sector projects focusing on improving local infrastructure, such as water and sanitation, social housing, transport, tourism enabling and urban infrastructure. The FONPLATA Sustainable Infrastructure Project will contribute to Brazil’s efforts to achieve the Sustainable Development Goals (SDGs), in particular, SDG 9: build resilient infrastructure, promote sustainable industrialization, and foster innovation”

FONPLATA持続可能なインフラプロジェクト

理事会は、アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイによって形成された国際組織であるフォンドフィナンシエロパラエルデサロロデラクエンカデルプラタ(FONPLATA、リバープレート盆地開発のための金融基金)への5000万米ドルの融資を承認しました。融資収益は、水と衛生、社会住宅、輸送、観光を可能にする、都市インフラなどの地域インフラの改善に焦点を当てたマルチセクタープロジェクトに資金を提供するために、FONPLATAによってブラジルの大中規模の自治体と連邦州に貸し出されます。 FONPLATA Sustainable Infrastructure Projectは、持続可能な開発目標(SDGs)、特にSDG 9を達成するためのブラジルの取り組みに貢献します。つまり、回復力のあるインフラストラクチャを構築し、持続可能な産業化を促進し、イノベーションを促進します。

 

Desenvolve SP Sustainable Infrastructure Project

The Board approved a loan of USD 90 million to Desenvolve São Paulo (DSP) for on-lending to sustainable infrastructure sub-borrowers in the public and private sectors in the state of São Paulo. By partnering with DSP, the NDB will be able to reach smaller municipalities and private sector companies that are currently not eligible to access funding from multilateral development banks, supporting post-pandemic sustainable economic recovery. NDB loan proceeds will be used for on-lending to investments in key local infrastructure such as sustainable urban development, clean energy and irrigation, water resource management and sanitation.

DesenvolveSP持続可能なインフラストラクチャプロジェクト

理事会は、サンパウロ州の公的および民間部門の持続可能なインフラストラクチャーのサブ借入人への貸付のために、DesenvolveSãoPaulo(DSP)に9千万米ドルの融資を承認しました。NDBは、DSPと提携することにより、現在多国間開発銀行からの資金提供を受ける資格のない小規模な自治体や民間企業にリーチできるようになり、パンデミック後の持続可能な経済回復を支援します。NDBの融資収益は、持続可能な都市開発、クリーンなエネルギーと灌漑、水資源管理と衛生などの主要な地域インフラへの投資への貸付に使用されます。

 

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BRICS新開発銀行(NDB)は,中露だけでなく,+インドの”3G”にも留まらず,西半球のブラジル・ウルグアイが入っており,上記のとおり,アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの5か国への開発支援も行っている。

 

(関連記事) → 中村逸郎氏 ロシアは「ロシア、インド、中国で欧米に対抗する三国同盟“3G”をつくろうとしている」

 

NDBには,中露印伯(ブラジル)だけでなく,

・アフリカ・・・南ア,エジプト

・中東・・・UAE,エジプト

も入っており,地域的な拡がりも大きい。

 

そして,ウクライナ侵攻後の最初の融資が西半球の案件というのも,挑発的だ。米国がユーラシアに介入して紛争対立を誘発・長期化させる中,NDBはユーラシア勢力(中露)が西半球に経済的足掛かりを築く橋頭保になりうる

 

ウクライナ戦争は,東欧の戦争ではあるが,背景には世界的な金融面での主導権争いがあり,中露側が健闘しているように見える。

 

地力に勝る米国が,今後,どのように対応するか,注目したい。