【西暦2021年2月16日】
【月面クラビウス基地機種転換センター】
卒業したての候補生の一人ライナス・フィルダー少尉が戦死した。
クァドラン・ローと戦闘になり相討ちになりコックピットを潰されての死であった。
一方のクァドラン・ローだが戦闘不能になったがパイロットは重傷となり、そのまま捕虜になった。
フライング・フィッシュ中隊イダテン小隊はライナス含め2名戦死、1名が負傷した。
3機のクァドラン・ローを撃墜し2機を戦闘不能にし、4機が逃走した。
イダテン小隊の残存した2機は何とか踏ん張って耐えてたらしく、はぐれゼントラーディのクァドラン・ロー部隊は大樹達の姿を見て逃げ出したと言う。
「バッカニア少尉、気を落とすな・・・・軍人である以上・・・・一定の確率であり得る話だ・・・・悔やんでいても仕方がない。」
「分かっています・・・・分かってはいますけれども・・・」
「死んだ人間は戻らない。死んだ人間に囚われたら君が死ぬ事になるぞ。」
先の大戦で多くの仲間の死を見てきた茂人はカゴメに気にするなと助言した。
分かってはいるとは言えカゴメには耐えられない程精神的ダメージが大きかった。
統合戦争と星間大戦を戦ってきた茂人と違ってカゴメは戦後世代だ。
士官学校卒業してから2年目になる軍人だが、まだ20歳の若き女性士官だ。
覚悟していたとは言えいざその時が来ると耐えきれない。
それだけではないカゴメにとってライナスはある意味特別な人間であった。
「バッカニア少尉ってかつてソロでアイドルしてたカゴメ・バッカニアですか?」
「うっ・・・・・・あまり触れたくない過去なんだけどな。」
「俺すごくファンだったんですよ!なんで軍なんかに?」
「なりゆき・・・・でね。一応、士官学校に願書出してたからアイドル辞めたの。」
茂人と共に機種転換センターに来た時に挨拶した後、ライナスがカゴメにファンだと告白した。
かつてカゴメは売れないソロアイドルとして活動してた事があった。
メガロード01からクラビウス基地に来訪しライブしたミンメイの姿に憧れを抱き両親の反対を押し切りアイドルを志しソロデビューしたが、現実は厳しく芽が出ず引退した。
結局誰も見向きもしてくれなかった、ライブやっても見てくれる人は殆どいなかった。
歌の道を諦め士官学校へ進み軍のオペレーターとして勤務するようになった。
そうした中でかつてソロアイドルとして活躍してた時に応援してくれたファンがいた事を知り感激し、卒業するまでいろいろと接し内心恋心を抱くようになった。
それが故に更に悲しみに追い打ちをかける事となった。
「行ってきます!バッカニア少尉!」
ラウラと入れ替わるかのようにライナスは卒業し戦場へ旅立っていきそして死んだ。
さよならも言わずにこの世からいなくなってしまった。
戦争ってこう言うものなんだ・・・・・死ぬとこうも胸を貫く辛さなのか・・・
ライナスは遺骨も無くこの世から消えていなくなった。
「カゴメ、今度なんだけれどもバルカン戦線の話教えて・・・・」
「ごめん・・・・・ラウラ・・・・・・そんな時間ないの・・・」
「時間がないなら仕方がない・・・・カゴメ?」
何も知らないラウラは普段通りにカゴメと接しようとしていた。
軍史オタクとなりつつラウラは普段からいろいろと質問攻めにしていた。
イギリス出身のカゴメは第二次世界大戦のヨーロッパ軍史に関しては詳しい。
好奇心旺盛な性格であるラウラはどんどんこれでもかと質問しまくり、カゴメは士官学校出身しかもトップクラスの成績である知識で詳しく説明してきた。
だけど今日は違う、いつものカゴメと違っていた。
何処か冷たく悲しげな雰囲気であった。
普段のカゴメだったら親しげに明るく振る舞ってくれたのに・・・
「カゴメ・・・・・普段なら・・・」
いつもと違う雰囲気にラウラは不安になり泣きそうになった。
明るい性格のカゴメにいつも助けられていた。
同胞殺しのトラウマも頼るべき戦友のいない環境による孤独もカゴメのおかげでなんとか出来た。
話しかければ地球人だろうとゼントラーディ人だろうと笑顔で明るく接してくれる。
だけど今はそんなカゴメはいない・・・・・
「ラウラ、バッカニア教官見なかった?」
「・・・・・・・」
「ラウラ?どうかした?」
「あっミュレ・・・・なんでもない。なんでもないから・・・・・」
「ちょっと・・・」
思わず走り出してしまった。
何もできない無力な自分が嫌になった。
いつも世話になっているカゴメに何もできない無力な惨めな自分が嫌になった。
女子トイレの洗面台の前に立ち鏡に映る自分の顔を見た。
「わ・・・私は戦争しか脳のない・・・・ただの兵士でしかないのか・・・地球人と違うのか・・・」
鏡に映る自分の顔を見て思わずこんな顔をしていたのかと思った・・・・
蒼い髪のショートヘアで、地球人男性曰く美人と言ってもいい感じの顔・・・
だけど表情は何処か暗く目もやつれていて、覇気が無かった。
そしてゼントラーディ人と言う戦争の為にクローンで製造されたが故に何度も同じ個体を見た量産型と言ってもいい程の個性のない面白くのない顔・・・
それが故に今の状況を鑑みて戦争しか脳のない人間にすらなれない兵士でしかない。
人間になれないからこそ常に強さに飢え、カゴメを慰めやしない。
「私は一体どうすれば・・・」
誰にも相談できない状況にラウラは思わず泣いた。
だけどまだやるべき事があるので自分を殺して涙を拭き教室へ向かった。
戦史講義であったが、カゴメではない教官が教壇に立った。
ラウラはシャーペンで戦史「九州沖航空戦」の内容をノートに書きながらも、心の内は締め付けられるかのような苦しさに襲われた。
今の自分はとても無力な存在だと。
【西暦2021年2月16日】
【新統合軍空母アルタミラ】
大樹は副隊長室で仕事をしていた。
この前の戦闘で見たラウラと同じ顔のメルトランの事を調べ、尋問で何を言っているのかを調べた。
捕虜は地球人に対する恨み節を述べており、尋問のゼントラーディ人の士官が困惑する程だ。
「大尉、コーヒーです。」
「ありがとう・・・美味いな・・・ってべサーズ准尉が入れるとは珍しいな。」
「ある種の嗜みだと思ってください。」
仕事をしている大樹にコーヒーを持ってきたのはロザであった。
味は一流の喫茶店で出すほど腕が良くとても美味しかった。
そんなコーヒーを出すロザもゼントラーディ人である。
ゼントラーディ人とは言え環境が違えば人も変わる・・と大樹はふと考えた。
前ブラックパンサーズにいた頃、配属したてのシュリが言ってた事を思い出した。
「私は私ですから。」
「なんだそれ?」
「いくら同じ顔と体をしてても私ではないですし、躊躇なく撃てますよ。」
ー私は私ですから・・・と・・・
ゼントラーディ人はクローンだから気にせず撃てるのかを聞いた事がある。
シュリは躊躇いもなく同じ顔同じ身体をしていてもそれは自分ではないから撃てると言った。
それを聞いた大樹はつくづく強い女だなと思った。
「とは言え、実際に顔を見てしまうと躊躇う気持ちはあるんだよな。」
現実はそう簡単に甘くない。
敵兵士の顔を見てしまえばどんなに強い覚悟を持っていても躊躇いが生じる。
戦争はどんな覚悟を持っても考えを持っても簡単に崩れてしまう。
もしあいつ(ラウラ)と同じ顔の敵を見て殺せるのか?
そう考えると大樹の手は自然に震えが止まらなくなった。
「大尉?」
「すまん、考え事をしていた。」
「考え事なんて珍しいですね。」
「考えるさ・・・・副隊長だからな。」
どんな地位についても戦争の現実に抗うのは難しい。
初めて戦場で敵兵士を殺した時も手の震えが止まらなかった。
それでも守らねば国民が命を落とす事になる。
だからこそ誰かが罪を背負ってでも軍人として脅威と戦わねばならないのだ。
ライナスはよくやった。
今大樹に言えるのはその言葉だけであった。
【西暦2021年2月16日】
【新統合軍月面クラビウス基地.司令部.白川提督執務室。】
白川提督はマックスとミリアの両名を呼び出し戦闘報告を聞いた。
戦闘における戦死者を出した原因や捕虜の扱いなど事が話し合った後、本来の任務であるアルガス・セルザーと共に惑星エデンに向かうように辞令を出し解散した。
「大尉、ゼネラル・ギャラクシーのセルザー主任の護衛頼んだぞ。」
「ご期待に添えるように専念します。」
「中尉も新型機のテストの結果、楽しみにしているぞ。」
「ハッ成果を残し新型機完成に貢献します。」
マックスとミリアはゼネラル・ギャラクシー社が送り出す期待の星VFーXー10の試験を行いロールアウトに導く事と開発主任であるアルガス・セルザーを護衛しなければならない。
ミリアがテストパイロットに適任と言う理由で試験を任せられたが、反統合勢力によるアルガス暗殺を防ぐ為にジーナス夫妻もといダンシング・スカルにテスト兼護衛を任せた。
「まさか・・・エースのミリアに護衛してもらえるとはな。同じゼントランとしては頼もしい限りだ。」
「私こそゼントラーディから出た天才技師の自慢の機体を制式採用前に使わせてもらえるなんて光栄ですわ。」
「いやいや俺こそエースのミリアに使ってもらえればコードネーム・カットラスも喜ぶ。」
「買いかぶりですわ。」
白川提督との会合を終えたマックスとミリアはゼネラル・ギャラクシー.クラビウス支社にてアルガスと合流した。
和やかな雰囲気で合流を果たしたが、バラクラバとゼネラル・ギャラクシーのロゴのついたベレー帽を被りM4カービンを装備したゼネラル・ギャラクシーの私兵が2人を睨む。
2人だけではない、バラクラバとベレー帽を被った女性兵士やゼントラーディ人であろう兵士達が自分達の周囲にまるで包囲するかのように配置されていた。
「セルザー主任、結構物々しい雰囲気ですね。」
「大尉もそう思うか・・・大げさだと思うがね。物騒だというのでPFも同行するらしいがな。」
「プライベートフォース、民間軍事会社・・・」
「我が社で改修した機を運用している噂があるがね。」
民間軍事会社・・・PF・・・傭兵・・・PMC、国家の軍ではない軍事力。
ゼントラーディ軍では考えられない異質の兵力にミリアは不思議に思っていた。
正規軍だけでなく金で雇われた軍隊の存在はミリアからすればありえない。
金の事と次第では味方だったり、敵になったりする発想こそ論外だ。
更に言えば一企業が軍事力を持つなんて、考えるだけで頭が痛くなる。
「まぁVFーXー8の件もあれば当然の話か・・・」
ミリアはそう呟くと考えるのを一旦やめた。
地球の軍事をじっくり学んでたら頭が痛くなるだけである。
将来市長になるつもりだし、軍務に励む傍ら政治の事を学ぶ方が有意義。
今は早く新型機のテストが行える事を心待ちするのみだ!
【西暦2021年2月16日】
【クラビウスシティー・桐原邸】
本業であるスーパー銭湯の業務が終わった頃に茂人は帰宅した。
娘達(志保・未代)と会話したり、妻であるデワントンとそれぞれの出来事を語り合った。
そして娘達が寝静まった時間帯を迎え二人で晩酌をした。
「ふぅ」
「茂人・・・・元気ないわね。」
「教え子・・・少しだけの期間教えていた教え子が戦死したからな。」
「戦死?茂人はそこまで・・・らしくないわね。」
「問題は俺じゃないんだよ、戦死した教え子が原因で・・・バッカニアがなぁ・・・」
「???」
教え子の戦死、それが原因でカゴメが酷く憔悴してしまった事を話した。
副官として数々の戦場に参戦し多くの部下の死を見てきたデワントンは冷静に話を聞いた。
茂人からいろいろ話を頷きながら話を聞いたデワントンは口を開いた。
「明日はスーパー銭湯を休業するわ。」
「なんで!?」
「一応、予備役だし基地に入れるわけで・・・」
「何をする気だ?」
「まぁ明日の朝分かるわよ。」
スーパー銭湯を休業し機種転換センターに訪れると言うのだ。
茂人はまさかの言葉に何をするのかとデワントンに問い詰めると明日の朝に分かると言う。
一体何をするのだろうか?そう考えながら翌朝を迎えた。
朝ごはんを共に済ませ、制服を着替え出勤する準備をしていた。
すると別の部屋にいたデワントンが意外な格好をして出てきた。
「おはよう茂人、どう懐かしい格好でしょ。」
「軍服に制帽か、本当に行くつもりなのか?」
「本当に行くつもりよ、志保と未代のご飯や朝の準備しておくから先に行ってね。」
「あぁ・・・」
なんとデワントンは新統合軍の制帽を被り制服を身に纏っていた。
今は正規軍人として一線を退いてはいたが予備役として軍籍が残っており、スーパー銭湯を茂人と共に営む傍ら定期的に軍人としての訓練を受けていた。
VFパイロットであった事もあり、定期的に軍事基地に入る権利も有している。
茂人が出勤するとデワントンは子供達に食事を出し、スクールバスに2人共乗せたのを見届けた後身だしなみを整え車に乗り機種転換センターに向け出発した。
【西暦2021年2月17日】
【クラビウス基地機種転換センター】
午前中の訓練や授業が終わった。
VF訓練の成績は上々であり、教官から今日も褒められた。
ただカゴメは今日も元気がなく、終始暗い表情を浮かべていた。
「結局、カゴメは暗いままだった。」
仲のいい親友が暗い表情のままな姿を見てラウラは終始不安だった。
折角のお昼時であり、美味いチキンカツ丼だったけど何も味がしない。
カゴメはすぐ食事を終え何処かに行っているし、孤独が辛い・・・
ミュレと楽しく食事する気持ちにならんので隅っこで淋しくチキンカツ丼を食べていた。
食べ終わる頃、何者かが背後に立った。
「ベルタリア3級空士長らしくないわね。」
「誰がらしくないって!私がこんなに悩んでい・・・・るのに・・・えっ!?」
「久しぶりね・・・最後に会ったのはボドル基幹艦隊決戦前だったかしら?」
何者かはデワントンであった。
ゼントラーディ軍時代のエースのミリアの活躍を支えた副官の一人。
最後に会ったのはボドル基幹艦隊決戦前、絵理と乱闘した際に叱られた時だ。
あれから10年経ったが何一つ変わらない容姿であった。
まさかのデワントン登場にラウラは開いた口が閉まらなかった。
「デワントン・・・・フィアロ2級空士長・・・・殿」
「懐かしい面ね、茂人から聞いているわ。」
「茂人・・・・桐原教官から?どんなかんけ・・・」
「聞いてない?まぁいいわ、夫婦だからよ。」
前はミリアの後ろばかり付いていく姿が目立っていたが、今は堂々とした雰囲気を身に纏っている。
更にデワントンが茂人と夫婦関係であり、ラウラは驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
驚きの出来事が連発したが、ラウラはデワントンに今起きている事を相談した。
ミリア隊であったが副官の立場にいた人物なので話せば分かってくれると・・・
思惑通り、デワントンは真摯に話を聞いてくれた。
「ラウラは戦争しか脳がないから友人を助けられないと?」
「私はゼントラーディ人だから、落ち込んでいるカゴメを・・・・」
「助けてあげられないって言うのね。」
「・・・・はい。」
地球人とゼントラーディ人と言う種族が違う上での価値観の違いや気持ちの違いにより、カゴメの気持ちが分からず上手く接する事が出来ず力になれない。
ラウラは落ち込んだ表情で今の自分の悩みを全て吐いた。
ゼントランが故に価値観が違うので下手に対応すればカゴメとの関係が壊れてしまう。
それが怖くて慰める事が出来ないと思っていた。
話を聞いていたデワントンはフッと笑うと思っている事を口に出した。
「だから何だって言うのよって話よ。」
「えっ・・・・」
「きちんと面と向き合って言わなければ分からない事だってあるのよ。」
「面ですか?私はゼントラーディ人だし、カゴメは・・・」
「それが何だって言うの?」
ラウラとカゴメの問題は所詮は大した事はない。
きちんと正面から向き合って話せば問題解決に繋がる切欠になる。
話さなければ何も始まらないし、何も進まない。
必ずしも成功するわけではないが、何もしないよりかはマシである。
「先の大戦で私が経験した事だけど、話さなければ始まらない事はあるわ。」
「2級空士長殿もそんな事が?」
「そうあれは5ターム前、地球オンタリオ自治区での話・・・」
デワントンは語りだした・・・・先の大戦・・・星間大戦の出来事を・・・
西暦2009年12月、北米オンタリオ自治区トロント付近のあの戦い・・
マクロスがカムジン率いる第7空間機甲師団に襲撃を受けた頃の話・・・
「ミリア空士長、本当にあのマイクローンの船に行かれるのですか?」
「ああ。」
「ラプ・ラミズ司令は、かなり気を落とされていたようですが。」
「確かにな。カムジンの奴らが暴れても、止めようともしない。」
「よろしいのですか?」
「さあな、私には分からぬ。」
デワントンは任務でマイクローン化したミリアをマクロスに輸送する任務に従事した。
任務に従事する同中、ミリアは言えなかったラプラミズへの不満を述べていた。
マクロスとカムジンらが交戦する中で、警戒しながら進むデワントンはそれを聞いて驚いた。
普段のミリアならば絶対に話さない本音だった。
「ミリアがあんな事を・・・・あのミリアが・・・・」
「ラプラミズ司令に対する忠義は本物だけれども、いつもカムジンと対峙し終えた時は何処か疲れてた表情をいっつも浮かべてたわ。」
「確かにカムジン相手ならば疲れますね。」
味方殺しのカムジンことカムジン・クラヴシェラはマクロスと対峙していた時は独断専行が多く、ラプラミズはミリアにモニター越しに抑えるように命じた。
見た目は強気のミリアだが、通信を終えるたびに疲れた表情を浮かべていた。
いつも後ろに控えていたデワントンと同僚のメールはいつも心配そうに見ていた。
「ミリア空士長、ご武運を・・・・」
「デワントン・・・・ウ・テマ」
「ハッ・・・・なんでありましょうか?」
「お前だから本音を話せた感謝する気が晴れた。感謝するぞ!帰還したらまた頼む。」
デワントンはミリアの入ったカプセルをマクロスに投下する直前、感謝の言葉を聞いた。
エースのミリアが故に表沙汰で言えなかった事を副官のデワントンに裏表なく話せた。
マイクローンスパイとしての任を果たす前に言えてミリアは何処か安堵している表情を浮かべた。
任を終えたデワントンは敬礼するとすぐさまマクロス艦から離れた。
「人はねぇ何か切欠がなければ言いたい事は言えない生き物なのよ。私の茂人もそうだけども・・・・」
「桐原教官とですか?」
「私と茂人はこの後の戦闘で戦って、次にあった時は共闘・・戦後は同じ軍の同僚そして今は夫婦。」
「はははそれは確かに・・・・私達ゼントラーディ人と地球人こうして共にいる事なんて昔の私達から見れば信じられない話ですね。」
人間は切欠が無ければ言いたいことも言えない生き物だとデワントンは語った。
話さなければ他人のままであるし、知り合いであっても気持ちが分からない。
そして今あるデワントンと茂人の夫婦関係も・・・
「こちらエリトロプスリーダー、マクロス付近で敵機を確認。敵主力ではありません。」
『ガンサイト2(エマ・グレンジャー)よりエリトロプスリーダーへ、敵機を迎撃せよ!増援にパープル小隊を向かわせます』
「エリトロプスリーダー了解!」
任を終えたデワントンは茂人率いるエリトロプス小隊と交戦激しい追撃を受けた。
激しい戦闘の結果は、マクロスの全方位バリアーの暴走で引き分けと言う結果で終わった。
その後、ボドル基幹艦隊決戦やその後の地上戦で共闘したことがきっかけで意気投合し、戦後同じ部隊で勤務後しばらくして結婚し予備役編入後は月面に移住した。
「私と茂人は戦場で出会った。無論、お互い名も無き敵兵士としか認識してなかった。」
「確かに戦場にいる敵の名は知らないし、知る必要もないですからね。」
「ボドル基幹艦隊では特徴があったから近づき共闘し地上戦で顔合わせ・・・ラウラって気になる相手っていない?」
「気になる相手なんて・・・・いませんよ・・・・今はVFパイロットになるのに精一杯ですし。」
顔合わせしたからこそ茂人とデワントンは結婚し共に過ごせている。
最初は気まずい雰囲気だったが、今ではいい思い出になっている。
説得力のある話にラウラは納得する中、デワントンは気になる人がいないかと聞かれた。
まさかの質問にラウラは顔を赤くすると今はいないと答えた。
本当は気になる相手である大樹がいるのだが、素直に認めたくなかった。
素直に認めてしまえば、正気を保てる自身がなかった。
「どんな事も勇気を持って接しなさい。必ず出来るから。」
「はい・・・・ありがとうございしました。」
「後・・・・ゼントラーディ軍じゃないから、2級空士長はやめなさい。次会った時は普通にデワントンって呼んでほしいな。」
「了解しました。」
「次会う時は軍務ではなくプライベートで会って食事したいかな。」
休憩が終わるとデワントンと別れた。
今後会う時は名前は呼び捨てで呼び、軍務のない日に会いたいなど言われた。
久しぶりにゼントラーディ軍時代の上官に会い今の悩みを告白したラウラの気持ちは清流が流れるが如く迷いが無くなり、カゴメときちんと向き合える覚悟が持てた。
食器を戻すと意気揚々と午後の訓練に従事した。
【西暦2021年2月17日】
【月面クラビウス基地第23宇宙軍港】
マックスとミリア率いる新統合軍第2独立戦隊ダンシング・スカルはゼネラル・ギャラクシーの天才技師アルガス・セルザーとゼネラル・ギャラクシーの私設軍隊アルタイルと共に月面クラビウス基地第23宇宙軍港から出航し惑星エデンに向かった。
軍港周辺にはフルバック中隊所属のVFー3000クルセイダーが警戒を行っており、進路上にはオーベルト級宇宙駆逐艦で編成された第23駆逐戦隊が展開していた。
「ワイルダー中尉、前方にアルゲニクス級を確認。所属はダンシング・スカル・・・」
「天才夫妻の船か・・・後方にいるのはなんだ?」
「船舶確認、所属はARMD級ホーランディア。2年前は軍籍にあった艦ですが、今はゼネラル・ギャラクシー所属艦だそうです。」
「一企業が空母・・・・おいおい何の冗談だ?なんで空母なんかあるんだ?」
空母シナノから発艦したジェフリー率いるダンパー小隊は艦隊航路周辺を飛んだ。
アルゲニクスの他、アルタイル所属の空母ホーランディアと駆逐艦3隻が航行しておりジェフリーは一企業が小規模艦隊を保有する事に驚きを隠せなかった。
ただでさえ新統合軍が先の大戦の影響で再建中だと言うのに・・・
「一企業がって中尉、S.M.Sだって言う星間運輸母体のPMCも運用してますよ。」
「けっ、軍も先の大戦で再建中なのによくもまぁ余力が有り余る。」
「政府も積極的に異星人を編入してたりしているそうですよ。惑星ゾラのゾラ人や惑星ヴォルドールのヴォルドール人とか、そこからの入隊者もいるわけで。」
「だけど見かけないな?」
「辺境だけですよ。」
新統合政府による人類播種計画により超長距離移民船団や短距離移民船団・調査船団により入植可能な惑星が次々に見つかり入植するのだが、原住民が住んでいる場合もある。
惑星ゾラにはエルフ族のような耳を持ち共生生物キャットスネーキーを首に巻くゾラ人や猫が人間に進化したかのようなヴォルドール人など地球人やゼントラーディ人と違った人種が見つかっている。
新統合政府に編入を望む先住民族国家や先住民族は次々に地球国籍を得たり、新統合軍に編入されたりしており望まず国交を結び軍事同盟を締結し兵器を購入したり顧問団を招いたりと近代改修しており銀河規模の国際社会を形成しつつあった。
一方で新統合政府に反発し敵意を持ったり、中立的立場を取る国は当然ある。
新統合政府に敵意のある国家や民族は反統合組織やブラックマーケットと結託し武器を購入したり、ライセンス生産をして軍備を整え新統合政府に抵抗しようと目論んでい。
「中尉殿、我々軍もしっかりしてないとあのPMCの連中にデカい顔されますよ。」
「バカを言えPMC連中にデカい顔されるようでは軍隊失格だよ。」
そんな事を言うジェフリーはS.M.Sに所属し民間企業が所有するマクロスクウォーター級級可変攻撃宇宙空母の艦長になるのだが、それは38年後の別の話である。
なおPMCも新統合政府に編入された先住民族の就職先の一つになり、多くの種族が地球一般市民権獲得の為日々奮闘している。
「クラウセア隊長、セルザー主任を乗せたアルゲニクス、以上なし。」
「新統合軍第23駆逐戦隊、左右に展開中。」
「うむ、天才夫妻が乗っているとは言え怠惰は許さぬ。」
「ダー」
私設軍隊アルタイル所属のARMD級ホーランディア艦内では護衛隊長であるジェネリル・ クラウセアがアルガスの乗るアルゲニクスを眺めていた。
天才技師であるアルガスを警護し親企業であるゼネラル・ギャラクシーの最新鋭機を乗るのがかつてのゼントラーディのエースであるミリアがテストパイロットを務める。
ゼントラーディ人であるジェネリルはミリアの名声を知っている。
それが面白くない。
夫であるマックスとミリアの名を知らない人は今ではいない。
今回のテストパイロットとして試験が成功し名声が上がったらますますつけあがる事になる。
カムジン率いる第7空間機甲師団にいた時どんだけ恥をかかされたか。
ーいつまでもいい気になるなよ・・・ ミリア・ファリーナ
機会あれば失脚の芽を見つけ経歴に傷をつけてやる。
ジェネリルは密かに邪悪な笑みを浮かべた。
【西暦2021年2月17日】
【クラビウス基地機種転換センター.射撃場】
カゴメは憂さを晴らすかのように射撃場で射撃訓練をしていた。
何度も的に向け拳銃を発砲するも上手く的に当たらない。
当たっても高得点と言えるような点数を稼げていない。
一通りの練習を終えるとため息を吐いた。
「やっぱり集中出来てないわ。教え子達に笑われて・・・」
「カゴメ・・・・・」
「ラウラ」
風呂に入り身だしなみを整えたラウラは射撃場を訪れた。
カゴメは案の定、上手くできてなかった。
普段なら優れた射撃のセンスを見せたりしているのに、今は凡人レベル。
何処となく落ち着いた雰囲気はなく、何処か悲しげであった。
「珍しいわね・・・こんな時間に・・・貴女も練習?」
「今日1日中元気がないように見えたから何かあったのか?」
ラウラは臆することもなくカゴメに何があったのかを聞いた。
反応は驚いた素振りを見せるカゴメだったが何処か慌てていた。
弱気でいる自分を見せたくないのだろうと・・・・
以前の自分と同じだ、プライドがあるが故に素直になれないと。
どうやら否定する構えを取ろうとしているが、ラウラは怯まずに向き合おうとした。
「いいえ何でも・・・・」
「嘘だね。隠し事なんてらしくないぞ。カゴメが良ければ話してくれないか?」
ラウラは咄嗟に否定しようとするカゴメの逃げ道を防いだ。
真面目な性格のカゴメの事だ言葉で否定しても態度で見れば隠し通す事なんて出来ない。
観念したのかカゴメは言えなかった事を洗いざらい吐いた。
「その教え子がこの間の戦闘でね……知らせが来たのよ…まぁよくある話よ……」
カゴメはこの前の戦闘で教え子ライナスが戦死した事を告白した。
ーよくある事と口では言えても割り切れていないんだな・・・
ーカゴメはそう言う奴だ。
告白を聞いたラウラはよくある事だと理解しているとは言えカゴメは受け入れていないと悟った。
受け入れようとするが、無意識に拒絶しているように見える。
「親しい人間がいざ戦場で命を散らすってね、軍人とは言えいつまでも心の傷として残るのよ。」
「でも軍人だから当たり前では・・・軍人だからこそ、死ぬ覚悟だって・・・」
「そう簡単に受け入れられる程人間は強くないのよ。ラウラ、貴女だって死ねば悲しむし死んでしまったら悲しむ人はいるでしょ。」
「それは・・・・そうだけど。」
軍人だから死ぬ覚悟はあるし、戦友の死を受け入れなければならない。
ゼントラーディ軍人として戦いで生きてきたラウラはそれが常識であった。
カゴメの反論は自身の常識が変と思うぐらい異質だった。
人の死を簡単に受け入れられるほど人間は強くはない。
最初は唸るだけだったが、よく考えると確かにそうかもしれない。
戦友のメフィリアもアンジェミラは生きているし親しき人を失った経験がない。
もし2人のどちらかが死んでしまったら、受け入れられるのかとラウラは疑問に思った。
「ねぇラウラ、これをあげるわ。」
「ヘアピン?こんな可愛らしいの私に似合うのか?」
「似合うわ。」
「本当に似合うのか?地球人の女が付ける・・・装飾品なんて・・・」
深く考えているラウラにカゴメは突然ヘアピンをあげると言った。
ヘアピンは紫色をしており、見るからに可愛らしい印象があった。
何故くれるのかと思ったけど何処か胸が熱くなった。
正直な話、地球人の女性がつける装飾品には興味があったからだ。
とは言え戦闘種族である自分にヘアピンを付けていいのかと抵抗があった。
地球人の女性とは姿形似ていても違う存在であるから。
「あっ私が付けてあげるわ!」
「いやいいよ別に・・・・」
「まぁまぁ遠慮しない!よいしょっと」
戸惑うラウラにカゴメは半ば強引にヘアピンを付けた。
左前髪に強引に付けられたヘアピンはラウラの容姿を一変した。
ゼントラーディ人が故にクローンとしての容姿のラウラに個性が生まれたのだった。
とは言え慣れてないラウラは何処か不安に感じていた。
「ど・・・どうだ?やっぱり私には・・・・」
「やっぱりよく似合っているわ。」
「そ・・・そうか・・・」
ラウラはカゴメからヘアピン似合っていると言われ照れて顔を赤くした。
鏡を見せてもらうと本当に自分かと見間違える程、可愛らしいと思えた。
一手間加えるだけで無個性だった自分の顔が個性が出た。
自分に似合わないと言いつつも、いざつければ誰も文句言えない程似合っている。
「でもどうしてこれを?」
「う〜んなんとなく・・・・ね。」
「なんとなく・・・か?」
ヘアピンをくれた理由は分からなかった。
カゴメの様子から見るに特に深い意味は無さそうだ。
ー少しは元気が出たみたいだな。
とは言えカゴメは元気を取り戻しているので詮索しない事にした。
「大事にするよ・・ありがとう」
「どういたしまして。」
ラウラはカゴメからもらったヘアピンを一生賭けてでも大事にしようと思った。
自分がヘアピンをつける事でカゴメが元気になるならばそれに応え大切にしなければならない。
ヘアピンをつけるだけじゃない、ヘアピン同様自分自身の命を大切にせねば・・・
命も失えばヘアピンも無くなってしまうし・・・
「もう遅いし戻るよ。おやすみ。」
「えぇおやすみなさい。」
就寝予定時間であり、早く寝なければならない。
ラウラはおやすみと一言言って自分の官舎の方へ帰って行った。
射撃場からエレベーターで降りて、バイクに乗って数分駆けて自宅官舎に戻るのでラウラがこんな時間まで心配して自分を訪れた事にカゴメは感激した。
いつまでもラウラに心配させるわけにはいかない、総決心したカゴメは笑顔を絶やさなかった。
一人残ったカゴメはガラス越しの宇宙を見て一人呟いた。
「あのヘアピンは貴女を失わないためのお守りだなんて・・・私も随分臆病になったものね。」
カゴメがラウラにヘアピンを渡したのは死んでほしくないからと言う想いからだった。
強さを求めるあまり戦場に執着しライナスのように死んで欲しくはなかった。
ヘアピンをつけたラウラは何処か楽しそうに部屋に戻っていったので、戦場に執着し強さを求めるあまり最終的に死に至る心配は少しだけ消えた。
戦場で軍人が死んでしまう可能性があるのは当たり前・・・・
されど実際に死んでいなくなってしまうのは素直に受け入れられないし認めたくもない。
ただ悲しみだけしか残らない。
だからカゴメはラウラに愛用のヘアピンの一つを託したのだ。
【西暦2020年2月20日】
【月面クラビウスシティー】
休暇日になった。
ラウラは久しぶりに同じく休暇日であるシュリを呼び出した。
空母シナノの任務前の休暇日ともあってかシュリは面倒くさいと言う表情を浮かべていたがいざ待ち合わせの場所に向かうと現地で待ってたラウラの姿を見て驚いた。
「以外ね・・・・ヘアピンなんて珍しい・・・」
「大事な友達からもらったんだよ。なんか付けていると前向きになってさ・・・」
「前向きねぇ。」
ゼントラーディ軍に帰属意識が強いラウラがヘアピンをつけるなんて以外・・・
ラウラの姿を一目見てシュリが真っ先に思った感想だ。
とは言え前より前向きな性格になり嬉しそうな表情を浮かべるラウラを見て戦友として嬉しいと思っており、何よりゼントラーディ人以外の親友を得られた事が感動的だった。
ボドル基幹艦隊決戦で深い傷を負ってたから振り切れそうで安心した。
「シュリに地球の流儀を教えてもらいたいな。」
「まさか・・・・私をその為に呼んだのかな?」
「そうに決まってるんじゃない。シュリの方がいろいろ詳しいし。」
ヘアピンをもらってからのラウラは前向きになったが図々しくなった。
ラウラがシュリを呼び出したのはヘアピンの自慢と地球の流儀を教えてもらう為。
その為に出港前最後の休暇であるシュリを呼び出した。
最後の休暇だからゆっくり休ませてもらいたかったが、ラウラの元気な姿を見て諦めた。
「久しぶりに軍を離れた私の戦友達(チームメイト)を呼んで慰労会でもしますか。」
「楽しそう、いろいろと私が成長した姿見せれるよ。」
「きちんとVFパイロットになってから言ってねそれ。」
シュリの提案で臨時の慰労会を開く事になった。
参加する面々はアポロシティーや惑星エデンから引っ越してきたシュリのチェリア・ユリンやナザリア・ファロと言ったチームメイト達と馴染みの深い戦友達だ。
ボドル基幹艦隊決戦以来再会する親しい戦友らと再会する事となったラウラは自身が成長した姿をチェリアやナザリア達に披露する気満々であるが、シュリは一言釘を差した。
カゴメから貰ったヘアピンはただのヘアピンではなかった。
ラウラの人生にとってかけがえの無い宝物になった。
ヘアピンをもらって以降、ラウラの強さを求める姿勢にブレーキがかかった。
むしろ前みたいに仲間との連携を強めたり、状況判断が前よりも良くなった。
その結果、教官との模擬戦において自身の実力が自然に向上した。
地球人とゼントラーディ人の女・・・・
種族が違うが、たった一つのヘアピンによって強い信頼関係が構築できた。
信頼関係だけではないラウラの人生を変えたキーアイテムにもなった。
更に言えば少しずつであるがボドル基幹艦隊決戦の悪夢も見る頻度も減り、トラウマも徐々に減ってきておりラウラはカゴメやミュレなどと楽しく過ごせるようになった。
一方のカゴメも、活き活きとする姿を見てライナスの死から立ち直る事が出来た。
だが
そんなラウラ達に次の厳しい局面が徐々に近づきつつあった。
予告
新兵器開発が極秘裏に進められる新統合軍クラビウス方面軍。その最中、ラウラは気になる男性兵吉野大樹と再会を果たす。軍人としての気品を見せる大樹にラウラは己自身と見比べてしまう。
次回 マクロス外伝蒼い髪のメルトラン
リユニオン
静かに動き出せ!サンダーボルト!
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