刺青の人体標本 「皮の提供者」改訂版
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皮の"提供者"(献体者)はどんな方々だったんだろう?
という疑問にぶつかります。
今回、刺青標本の献体者「瀧さん」について さらに詳しく調べてみました。
季刊「銀花」第二十三号(1975年) 纏と袢纏 鳶の描いた板絵 の記事によると、「於玉ヶ池の瀧さん。本名 瀧三郎といい、背中にみごとな般若の彫り物があるところから般若の瀧とも呼ばれ、ほかに四ヶ町の瀧、元岩井町の瀧ともいわれた鳶」だったとのこと。78歳で亡くなるまで仕事をされていたそうです。
※情報提供 おじゃさん
趣味豊かな人物で、納札愛好家「元岩瀧」として知られていたほか、絵を描くのが得意で神田明神に畳一枚ほどもある、火消「火事場勢揃い」の板絵を奉納したのだそうです。
先日、神田明神に観に行ってきましたが、現在は一般公開していないそうです。残念…
於玉ヶ池滝画「火事場勢揃い」(桐板に岩絵の具)
季刊「銀花」第二十三号(1975年)
於玉ヶ池滝画の署名が見えます。
納札集 「彫勇會 大山 御瀧の水ごり」 1925年(大正14)
■瀧さんの彫物
瀧さんは、アメリカで発行されていたグラフ雑誌「LIFE」に背中の一枚般若の彫物の写真が掲載されるなど、その筋では有名な方だったようです。
彫師: 初代 彫宇之
■背中: 「一枚般若」(背中いっぱいに般若の顔面を大写ししたもの)
■腹: 「奴の顔」その上に「大黒と恵比寿」の扇を掲げた「鶴」
■腕: 「鯉」
■右大腿部: 「鬼とオカメ」
■左大腿部: 「金太郎とひょっとこ」(左右で対になっています)
■左すね: 「蟹」
ことわざ"蟹の横這い"と同じように、他人からは奇妙に見えても本人にとっては最適=「我が道を行く」というような意味でしょうか?
1948年9月2日の瀧さん 男の子が大腿部の鬼の面の彫物を眺めています。
denverpost.com Tattoo Trends ©(AP Photo/Charles Gorry)
瀧さんは町火消「よ組」の鳶頭だったそうです。
鉢巻にしている手拭は、「よ組」現在の江戸消防記念会第一区一番組のもので、「よ組」の纏のデザインになっている神田の「田」の文字と、第一区の「大一」を組み合わせたデザインになっています。
※情報提供 おじゃさん
江戸時代の火消は、ほぼ全員が刺青を彫っていたそうなので、暴れん坊将軍に出てくる「め組」の人たちも、本来なら史実に基づき全身刺青姿にすべきでしょうね♪
LIFE誌 1950年4月3日号に掲載された入浴中の瀧さん
LE DOCTEUR FUKUSHI PROSPECTE 銭湯を訪問する福士政一博士(1878-1956)
情報提供:mixiコミュ『ミイラ・ミイラ・ミイラ』 ロロさん
「LIFE」誌 1950年4月3日号 銭湯を訪問する福士政一博士(1878-1956)
1955年7月18日の瀧さん 男の子が不思議そうに眺めているのが印象的です。
The Selvedge Yard (ANCIENT ART OF THE JAPANESE TEBORI TATTOO MASTERS) Image by © Bettmann/CORBIS
上の写真の別アングル(王子名主の滝 1955年7月18日)
世界画報 1955年 第24巻 第10号 江戸彫勇会の刺青自慢会
■瀧さんの標本
晩年、瀧さんは胆のう炎にかかり 大学病院で手術を受けることになったのですが、彫り物を傷つけないよう担当医師に細心の注意を払って執刀させたというエピソードが「死体の文化史」に紹介されています。
※ブラック・ジャック第72話「イレズミの男」の元ネタでしょうか?
"刺青の皮を剥ぐ博士"親子二代に渡って刺青の標本を蒐集する福士親子の話
■死体の文化史/下川 耿史
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「瀧さん」のエピソードを題材にしたと思われる 第72話「イレズミの男」を収録
ブラック・ジャック―オールカラー版/手塚 治虫
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■死体の文化史/下川 耿史
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「瀧さん」のエピソードを題材にしたと思われる 第72話「イレズミの男」を収録
ブラック・ジャック―オールカラー版/手塚 治虫
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その後、今度はすい臓がんに侵され、瀧さんの刺青への執念を心得た同じ医師による手術を受けるも一週間も経ずして帰らぬ人となったのだそうです。
死後、東京医科大学名誉教授「福士勝成氏」(1917-)の手により刺青は剥ぎ取られ、美しい標本となり書斎に飾られているそうです。
1987年刊 「Life and Death Tattoos (Tattootime 4)」に掲載された標本制作途中の瀧さんの皮を持つ福士勝成氏
© morti vivos docent by Nicole Qualtieri
「死体の文化史」の一節に
「胆のう炎の手術で右の脇腹を切開する際、できるだけ彫り物を傷つけないよう刺青の奴の顔の輪郭に沿って切開、口を開くように剥ぎ取ってから執刀し、終了後は奴の顔をはめ込んだようにして縫合した」
「標本の刺青皮は腹部の奴の面がパックリと口を開いたままである」
とありますが、写真の矢印部分を見ると、記述通り 脇腹の刺青の顔の輪郭部分に沿って入れられた縫合痕が一部切開され開いたままになっているのが確認できます。
1995年刊 別冊宝島二二八号「死体の本」に掲載された標本製作途中の瀧さんの皮
※情報提供:mixiコミュ 『ミイラ・ミイラ・ミイラ』 吸血鬼ハンターしるぽさん
Photo by © NAO
注意深く観察すると胸から腹にかけての彫物も写っているのがわかります。
© morti vivos docent by Nicole Qualtieri
©Dutchman Tattoos Our Trip to Japan - 1986
本郷二丁目の福士教授のご自宅の書斎には、まだ瀧さんが飾られているのでしょうか…?
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在りし日の「瀧さん」を髣髴とさせる、紅葉と般若の彫り物が見事な刺青キューピー携帯ストラップ"瀧さんモデル?"を見つけました
![にひひ](https://stat.ameba.jp/blog/ucs/img/char/char2/193.gif)
![$歪んだものほど美しい-刺青キューピー](https://stat.ameba.jp/user_images/20110606/20/orochon-x/57/9c/j/o0415025411274811826.jpg?caw=800)
【参考文献・資料】
■芸術新潮 1995年11月号 (特集・東京大学のコレクションは凄いぞ !)/著者不明
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■違式註違条例の研究-文明開化と庶民生活の相克- 春田 国男
■生きている浮世絵 刺青展
(1973年に小田急デパート新宿店で開催された展覧会図録)
東大医学部標本室の展示物の背景・エピソードを詳しく紹介(トルソー型標本の白黒写真掲載)
■漱石の脳 (叢書死の文化)/斎藤 磐根
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福士勝成氏の病理学的見地からの刺青解説(標本写真掲載)
■原色日本刺青大鑑 (1973年)/著者不明
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刺青標本の献体者「滝さん」の一枚般若の標本写真掲載
■死体の本 (別冊宝島 228)/著者不明
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福士勝成氏と原皮状態の刺青標本の写真掲載
■Pranks: Re/Search, No 11 (Re/Search, No. 11)/著者不明
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1936年初版発行の刺青解説書 貴重な戦前の刺青写真を多数掲載
■文身百姿 (1956年)/玉林 晴朗
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"刺青の皮を剥ぐ博士"親子二代に渡って刺青の標本を蒐集する福士親子の話
■死体の文化史/下川 耿史
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※上記「死体の文化史」と同じ内容の装丁違いです
■死体と戦争 (ちくま文庫)/下川 耿史
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■刺青墨譜―なぜ刺青と生きるか/斎藤 卓志
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刺青標本の献体者「M.T.」氏の刺青の題材『桜姫東文章』や、
福士政一博士を題材に書かれた刺青標本にまつわる小説に
ついて詳しく解説されています。(標本写真掲載)
■いれずみの文化誌/小野 友道
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