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城郭模型製作工房

城郭模型作家・島 充のブログです。日本の城郭および古建築の模型やジオラマの製作過程を公開しています。



そして本格的に設計に入りましたが、検討段階の図面と何が違うかというと、まず、部材の大きさを製品の解像度に合わせる必要があります。具体的には、1mm以下の寸法がどこまで実現できるのか。まず安全だろうということで0.5mm刻みでの設計をしました。


ちなみに当初予定では縮尺1/125でした。

この縮尺で、例えば一間は303×7÷125=16.968mmとなります。これをキリのいい17mmに置き換えて設計して行くのです。これまでの検討段階では、実寸を正確に縮小した寸法での作図でした。


また、今回こだわった部分の一つに瓦がありますが、おそらく平瓦の段までは正確な縮尺だと金型造形ができないだろう、と踏んで、瓦は1/100のオーバースケールとして設計しました。それでも最終的には、この瓦の造形が一つのネックとなって、1/100での製品化となりました。


3Dデータを前提とした図面なので、とにかく正確に作図することを心がけました。正確な作図というのはつまり


このように、違う面の図面どうしがちゃんと対応しているということです。X軸、Y軸、Z軸が全ての図面で一致するように作図する。蓑甲などは瓦一つずつ対応させています。



あと、意外と面倒なのが寸法を全て書き入れることです。自分向けの図面だとこれが必要ありません。



最終的には図面は約40枚になりました。中身はまだ公開できませんので一覧で。





現在ひとまとめになっているのは39枚ですが、検討用とか、修正図など未整理のものがまだあります。


そして同時にジオラマも設計しています。

このジオラマは、時期によって建物を入れ替えたりして遊べる仕様になっていて、例えば、対面所と千畳敷をすげ変えたり、山里に豊国社を置いてみたりできます。そして天守はさまざまな復元案を入れ替えて遊べるように構想していました。


三浦先生からいろいろご指摘やアドバイスももらいながら2021年いっぱいで図面が完成!


しかしここで大きな壁が‥

これだけ念を入れた図面を作ったにも関わらず、中国の工場が3Dデータに出来ない、つまり日本建築の形を読み解けない!!ということが発覚したのです。

「分かりました。こちらで3Dデータまで用意します」と返事したけど、さてどうしたものか。


ちょうどその時、私は松本市立博物館の巨大ジオラマの城郭部分の制作と寺社の設計でてんてこ舞いしておりました。


企画の方針がだいぶ固まったところで、天守模型の設計に取り掛かりました。


まず、監修の三浦先生に電話して、2点のことを確認しました。

●一間は七尺でよいか

●「大坂城図屏風」の模型化でよいか


これが決まらないと先に進みませんからね。どちらともOKでした。三浦先生は「大坂城屏風」が資料価値が高いという評価をされているのです。


私は屏風絵については、どれも間違っている、という立場です。絵空事なので。近年では、絵画史料を根拠とすることにはかなり慎重な流れがあります。この辺りきちんと書こうとすると大変になるので割愛します。


「大坂城図屏風」の描写が信頼できるからこれを資料として復元する!ではなくて、「大坂城図屏風」の天守を現実的に立体化したらこうなる、というスタンスです。ただ、新たにやるからには大坂城図屏風版の天守としては決定版にしたいですよね。


まず叩き台づくりです。とにかくこねくり回す粘土の塊を作らなければなりません。そうやってできたのがこちら。


今見ると恐ろしくカッコ悪いです。

ただ、方針は最後まではっきりしていました。つまり、屏風の描写の通り、二重目以上は全ての屋根を入母屋で構成する、ということです。「大坂城屏風」を元にした復元案では、四重目を入母屋にせずに腰屋根として千鳥破風を載せるものも見られるのですが、私は屏風の立体化なので、描写そのままの屋根にしたいと考えました。

しかし、ご覧の通り、最上階の廻縁が四重目に埋まってしまっています。かといって、廻縁を高くすると首が長くなって不恰好になるのですね。この塩梅が大変難しい。


次に対案として、あまり縛られずにかなりアレンジしたものも考えてみました。


これは最上階周りを、熊本城天守最上階周りの囲いを取り去った状態にしてみたものです。


こんなアイデアもありました。

パーツを取捨選択することで、それぞれの屏風に似た天守を作ることができる、というものです。パーツの選び方によって、自分だけの豊臣大坂城天守が作れるわけです。しかしこれは無駄になるパーツが多いため保留となりました。


さてここから念を入れてブラッシュアップしていきます。






柱通りと窓高の検討もして

こうやってこねくり回しながら、頭の中で立体像にしていくわけです。


そして最終的にA案を採用することにしました。


この決定までに、三浦先生の指摘は「垂木は四枝がいい」、という一点だったと記憶しています。

AとB、どちらがいいでしょうか?と聞いても「これは島さんの作品だから好きにして下さい。おかしなところだけ言います」と、こちらを尊重して下さるのです。これはこの後も最後まで一貫していました。私とすれば、試されているような気もしてとても緊張しましたが、好きにやらせてもらいました。


さて、A案に絞られたところで、さらに細かいところの整合性、内部構造も考えながら、模型としての設計に入ります。ここからおよそ40枚の模型図面の作図に進みます。


前回の続きです。

年が変わって2021年になります。リサーチ会社の調査が行われました。

調査といっても、ターゲットとなるお城ファンの方を集めて座談会を開き、様々な意見を聴取するのです。そのためには話題の種となるモックアップが必要でした。


豊臣大坂城本丸のモック。


徳川大坂城のモック。


天守も大きさだけ。

いずれもスチレンボードや紙を使った簡単なものですが、御殿の平面が印刷されていることからもお分かりかと思いますが、平面情報をデータにすることがこの前段階としてありました。


比較のため縮尺違いも作ってますね。


徳川大坂城の1/150のモックは紙で。天守は1日で設計した記憶があります。天守台石垣はファセットの社長に頼み込んで、大阪城天守閣のデータを使わせてもらいました。

正規の仕事の合間に進めていたので、とても忙しかった記憶があります。


1/150の二条城天守と並べて巨大さを改めて実感したり。


これらのモックと私の豊臣大坂城天守模型を使ってリサーチが行われました。


その結果、徳川大坂城は反応があまり芳しくなく、豊臣大坂城の天守とジオラマは好評だったとのこと。開発費やその採算、マーケティング上の企画の分かりやすさなどが検討されて、徳川大坂城はカットして、豊臣大坂城一本で行くことが決まりました。


ここから本格的に、天守と本丸ジオラマの開発がスタートしたのでした。


つづく




一部地域で『週刊 豊臣大坂城をつくる』のテスト販売が行われていました。



書店で見つけられた方おられましたか?

今後、売上などの分析が行われて、全国販売するかどうかが決まります。


全国販売まで行かなかったら‥残念ながら幻の企画となります。

少し情報が入っていますが、いい数字と悪い数字があり、難しい判断となりそうです。


開発に3年かかりました。

紆余曲折があり、消えた構想もあります。数回に分けて、これまでのいきさつを書いてみたいと思います。

【そもそもの発端】

2020年10月に企画の話が舞い込みました。編プロの社長さんから突然の電話、その後すぐにわざわざ工房までお出かけくださいました。お話を伺ったところ、豊臣大坂城の企画が頓挫している、どうにか実現させてほしいということでした。


当時、引き受けるに当たっていくつか条件を出しました。

●完全オリジナルとすること。

できるだけ人様の復元図面は使わない、という主義でやってきましたが、これは一方では著作権の問題があります。もう一方ではモチベーションの問題があります。

つまり、これだけ大きな企画を完遂するには、私のモチベーションを保たなければなりません。人様の復元図面を使うと、納得がいかなかったり、ちょっとした疑問が大きなことになってきます。また、図面を引かれた方とのやり取りが大変になってスムーズに進まないこともあります。そして商品となると、権利が絡み合った場合面倒なことになります。自分の責任でスムーズにスッキリと。


●素材はプラにすること。

これは造形のディティールを優先したい、ということと、商品としての組み立てやすさです。安土城は私も作りましたが、とにかく、あの柱と建具を延々と立てていくのが苦行のようでした。塗装もしてなかったし、一般の方には完成させる難易度の高い商品だったと思います。塗装済みで、組み立てやすく、ディティールがきちんと出る素材としてプラを条件としました。ただ、金型のコストがあるので、内部構造はMDFとして当初は構想しました。


先方からは、監修は三浦先生、という条件が出されました。もちろん快諾です。


なんとなく動き出したのですが、明確な目標としては「プロトタイプをつくる」ことです。

プロトタイプとはいわゆる完成見本です。テスト販売→全国販売の流れですから、テスト販売の時には、完成見本が出来ていないと、マガジンも表紙も、シリーズ紹介の冊子もつくることができません。とにかく「プロトタイプをつくる」ことが企画にとって肝となるわけです。


▲完成したプロトタイプ。島充撮影


とはいっても、私のところに来た段階で、企画は一度振り出しに戻ったわけで、まっさらな状態です。そして、編プロの社長さんはさすがに話しているとアイデアが色々出てくる。


最初に2人で意気投合した形でたどり着いた企画の原形は、「大坂城をつくる」で豊臣・徳川両時期の大坂城の天守と、本丸ジオラマをそれぞれ並べて比較できるもの、ということでした。



一方で、大きな天守模型も捨て難い。こういう案も出しています。


豊臣大坂城の天守は立体化することが決まっているので、そちらの外観設計もすぐに始めました。天守についてはまとめて書きます。


この後、リサーチ会社によるサンプル調査が行われることになります。お城好きの方を集めて、反応を見るのです。続きは次回。


ちなみにこの頃、私は岡山城の天守や、熊本城の被災模型を手がけていました。





テレビ出演のお知らせです。


2023年11月11日(土)

夜7:30〜8:59

NHK BSプレミアム

🔶美の壺スペシャル 「城」🔶


空前の盛り上がりを見せる「城」。国宝・重文も多く、まさに“美の宝庫”。建築・石垣・庭園・障壁画など、城の美を、極上の4K映像で余すことなく紹介する拡大決定版!!


▽ 世界遺産30周年の姫路城。直木賞作家・今村翔吾がその魅力を全力で語る
▽ 城の姿を精巧に再現する城郭模型作家が「白眉」とたたえる松本城のベストスポット
▽ 穴太衆あのうしゅう が、極秘に受け継いできた「石垣」の技
▽ “天空の城”竹田城。細部に宿る“神業”とは?
▽ 彦根城の庭園にみる、壮大でドラマチックな仕掛け
▽ 二条城と名古屋城は、極上「障壁画」
▽ 木村多江は、金沢城のなまこ壁に挑戦
▽ 草刈正雄の“家臣”登場!?


こちらに出演しております。

どうぞよろしくお願い致します。


7月に2日間、松本城でロケをしてきました。

炎天下で、帰ってきたら顔が真っ赤になっていました。



こだわって長い時間をかけて一つの番組を作り上げる現場はとても気持ちのいいものでした。


かなりしゃべりましたので、どんな編集がされているか、私も楽しみです。