城郭模型製作工房

城郭模型製作工房

城郭模型作家・島 充のブログです。日本の城郭および古建築の模型やジオラマの製作過程を公開しています。

「城郭模型製作工房」をご覧いただき、ありがとうございます。


日本の城郭や古建築の模型およびジオラマを専門に製作しております。個人向け鑑賞用から展示用、メディア掲載用まで、幅広くご要望にお応えしております。
こちらのブログでは主に製作過程や考証内容を公開しています。


城郭模型の魅力を、少しでも多くの方にお伝えできたらと思います。どうぞお楽しみください。



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つつしみて新年を賀したてまつります。 
 旧年中は種々お引き立てを蒙り有難く深謝申し上げます。尚本年も変わらぬご厚誼の程ひとえに希い上げます。



年頭には皆さまに明るくごあいさつをしたいのですが、元日から地震、さらには事故もあり、浮かれ心が引き締まる年明けとなりました。

さて、1月3日より、尼崎城で「島充の世界展」と銘打って企画展が開かれています。


会期を通して1/150の復元模型6点を展示、会期前半は中央のメイン展示に豊臣大坂城模型とそのプロジェクト資料を多数並べております。このメイン展示は、会期後半1月21日より展示替えをして、熊本城本丸模型から天守周辺を新たにベースを作り切り抜いたものを中心に、その周りにアーマーモデリングでこれまで発表してきた、主に市販キットを使用した小品10点を並べます。

この他に、模型の野外撮影パネルや、制作過程の映像、作業机の再現など、模型の背景にも触れて頂けるような展示になっています。


また、1月20日には親子向けワークショップ、21日にはトークショーの予定です。(詳細は記事の終わりに)


ありがたいことに早速反響を頂いており、一部ご紹介致します。

細かいところまで見ると、時間が必要かもしれません。


最後にひとつご紹介を。

会場入口のパネル前に展示している尼崎城の鯱です。これは今回の展示のための作りおろしです。プラモ尼崎城さんの製品を使っていますが、尼崎市立歴史博物館にあるオリジナルを写しています。欠けや割れの様子など、博物館のものと見比べていただくのも面白いと思います。とても小さいので見落とし注意です。



2月12日までです!どうぞ尼崎城へ!


【詳細はこちら】





【会期中イベント詳細】

◆子どもワークショップ「自分だけのシャチホコを作ろう」

内 容:島充さんと一緒に尼崎城シャチホコプラモデルを作ります。

日 時:1月20日(土曜日)午後2時~3時

場 所:尼崎城1階

定 員:先着8人(小学生から18歳以下)

対 象:小学生~18歳以下(小学生は要保護者同伴)

申 込:1月4日午前10時から電話かファクスであまがさき観光局まで

(TEL:06-6409-4946/FAX:06-6417-5146

料 金:材料費1,000円

トークショー「城と復元」

内 容:島充さんがこれまでの復元を通して見つめてきたお城の魅力、資料などから制作した復元模型の秘話など。お城ファンも模型ファンも楽しめるトークイベント

日 時:1月21日(日曜日午後2時~午後3時半

場 所:尼崎城1階

定 員:先着50人(当日午後1時から尼崎城1階にて参加整理券を配布)

料 金:トークは無料(参加には尼崎城入城券が必要)





8月の下旬に、東京のスタジオで2日間撮影を行いました。


スムーズに撮影を進めるため、事前にこちらで撮影した仮写真を使った香盤表に従って、必要な写真を撮っていきます。モニターを見ながら、光の向きなど注文を出しつつ。


この撮影中に、テスト販売のパーツのサンプルが届きました。しかしこれもまだ3Dプリンター出力のものが含まれていて、あくまでサンプルです。


これを持ち帰ってすぐに始めたのが、組立ガイドの原稿作りです。


接着剤の扱いから



パーツの取り付け方まで、



組立ガイドの写真は全て私のところで用意したものです。組立ガイドは専門の方に任せることもあるそうなのですが、今回は全て私が担当することになっています。


これが結構大変な仕事です。


写真を撮って、ラフ原稿にして、写真は全て解像度や明るさの調整を加え、そのまま印刷できるデータにした上で、原稿とは別にまとめて送ります。


するとデザインされた校正原稿が返ってきます。チェックして修正指示を書き込み、返送します。


アーマーモデリングの連載で慣れている作業とはいえ、編集プロダクションが違うと、少し勝手が違うところもありました。制作過程ではなくて、組立説明書なので、分かりやすく編集し、注意書きはしっかり読んでもらえるようにしなければならないので、かなり気を使いました。


この組立説明書の段階では、まだ、サンプルパーツを使っています。テスト販売用の本パーツが届いたのは、もう入稿した後だったと記憶しています。しかし、サンプルと異なる部分はありませんでした。


今回のキットパーツは、基本的に塗装済みです。テストでは一部お客様塗装の部分もありましたが、塗料と筆がセットされています。この筆もいくつかのサンプルの中から選びました。パーツの色味は国際標準色見本であるパントンカラーで指定しましたので、プロトタイプで私が着色した色にかなり近いものが再現されています。

漆の黒色はちゃんと半ツヤになっていて、漆塗りの雰囲気が出ています。




金の部分は、当初、工場の提案でメッキのシールがサンプルとして出てきていましたが、

反射する時と(菊紋部分がメッキシール)

反射しない時では

見え方の差が大きく、金の重厚感がないので、これもカラーサンプルを送って塗装にしてもらいました。


金は基本的に塗装済みのエッチングですが、このエッチングの何がすごいかと言うと、通常のようにデザインナイフで切り離すのではなく、手でねじ切れるようになっています。材質もかなり硬いもので、工場は「初心者に扱えるように研究します」と言っていましたが、こんなものが出来てくるとは!驚きました。


組み上げるとこんな感じです。

ここまで8回に分けて、テスト販売までの道のりを書いてきました。まあ、やれること、やりたいことはほぼやれたと思います。


ミュージアムモデル並の仕上がりで、しかもホビー商品にしか出来ない遊び方もできて(完成後中が見れるなど)、ちゃんと天守の形をしていて、そして何より見ていて美しいこと、飽きないこと。そんなことを目標に設計しました。


100号集めるとお高いですが、しかし、もしこれが一点物、注文品だったら絶対にこんな価格では手に入りません!!


全国の皆さんのお手元にお届けしたい!

フランスの本社の判断やいかに...






さて、プロトタイプのパーツが五月雨式に次々と送られ始めました。

全て3Dプリンターで出力されたものです。


最上階はテスト販売の部分ですので、きちんとパーツ分けされていて、そのチェックも同時に行います。障壁画のステッカーもOK!



それ以外の下層部はパーツ分けはほとんどされておらず、一体出力された塊です。

上から順に送られてきて、そのチェックをしつつ、どんどん着色していきます。完成見本なので、いつものような質感を出した塗装ではなく、単色ベタ塗りです。


1回ですんなり組み上がらないため、修正に戻して再出力を繰り返しました。それは、パーツが若干収縮したり、データそのままで遊びが全く無かったりしたためです。



その一方で設計の元データにも改良を加えて貰います。縮尺が1/100になったため、屋根の内部も全て構造表現として出力可能になったのです。


上からだんだん着色を進めます。


中を覗いてみたところです。

せっかく1/100に解像度がアップしたのですから、無目敷居と板目も追加してもらいましょう。


エッチングパーツか間に合わない箇所は塗装で済ませます。

エッチングが付くと生まれ変わります。



最後まで調整が必要だったのが二重目。

やっと組上がる形で全ての部位が出力され、着色も終わりました!


プロトタイプ完成祝いで、いつもの海辺で外光撮影をしました。


この後、マガジンの仮編集のため、室内撮影をして、現物は東京のスタジオへ!本撮影に進みました。




2022年末の動きを書いておきます。

監修会議のあと、出来がよかったからか、俄に三浦先生のご指摘が念入りに入りました。

それは破風の妻壁です。破風はまさに天守の一番目立つ部位であり、建物の性格に大きく影響します。


当初設計の妻壁はこちらです。



意匠の詳細がこちら。

豊臣ゆかりの建物から取り集めて構成していました。しかし、同じ桃山建築でも、黎明期と円熟期では雰囲気が異なるのです。また、瑞巌寺や大崎八幡宮は豊臣の大工の作ではあっても、地方の建築なので、中央ではやらないことをやったり、クセが強いのです。


年末28日から大晦日まで、妻壁の修正を繰り返しました。しかしこの時も、ご指摘はあっても答えは教えてくださらず、結局3パターンを作ったのですが、どれが相応しいかの選択も私に委ねられました。


また、ご指摘を正面から反映させると、寺社建築になってしまうため、それをあくまで城郭建築として消化させるということも難点でした。


そして3案ともOKをもらったあと、悩みに悩んで一つに絞り、すぐに3Dデータの修正に回します。

これでもまだ完成ではなく、特に笈形の形状については最後までなかなか自分でも納得が出来ませんでした。


2月に天守の3Dデータ納品!


そしてここで、現実的な商品としては、細密な天守模型とジオラマの二本立てでは採算が苦しいということで、天守模型の一本に絞られることになりました。ただ、ジオラマのデータは出来ていますから、機が熟せば動き出すこともあるのかも??


そして2022年初5月、プロトタイプのプロトタイプとして3Dプリンターでテスト出力された天守が到着!東京に私も駆けつけました。

おおお〜!!


あら、でもなんか縦に引き伸ばされた感じが‥


データを変換する中で、厚みが重複したりしている箇所があるようです。何ヶ所か確認をお願いしてこの時は帰ってきました。


工場側からも、細部を安全に製品化するには現状より110%したい、と要望が。ならばいっそ1/100にしましょう、ということで、縮尺の変更が決定しました。


そして7月の上旬に最初のテストパーツが私のところへ送られてきました。こちらが出したデータを元に、工場で改めてパーツの分割や組み合わせ部分の加工などが加えられています。

パーツチェックの開始です。

干渉して組み上がらないところや、組み立て上弱い部分などに修正をお願いします。


プロトタイプの完成が少し見えてきました!







2022年はそのほとんどを松本城下模型に費やしていました。8メートル規模の国内最大級の巨大城下ジオラマです。その城郭部分と単品建物、寺社を受けていました。博物館模型は承認図→制作の流れです。まず図面で承認を得てから取り掛かるのですが、まあこれが凄い数の図面になるわけです。


今回は作家としてというより下請けの下請けで業者扱いでした。3Dプリンターで出すわけでもなく手作りなので、人を3人雇って...



そんな中で大坂城天守の3Dデータ化が難しいという知らせ。目の前が真っ暗とはこのこと。


軒反りと、軒が反ることによって生じる茅負の「投げ」など、ちゃんと原理を理解していないと造形が難しいのです。




あとは蓑甲などねじれ=3次元曲面になるところ。


平の図面を立体に戻すにあたって、やはり本物の納まりを分かっていることが重要になるのだと痛感しました。


出来ないのならどうしようもないわけで、自分でも出来ないけど「どうにかします」と答えてしまったので、どうにかせねばならない。何ヶ所かあてを当たるも...そのまま時だけが過ぎて夏の終わりになりかけていました。


この難局を打破したのがT君という学生です。彼は小さい頃から私の模型のファンでいてくれて、熊本城本丸模型の時もうちに滞在しながら手伝ってくれた、私の技術と考え方をとてもよく吸収してくれている人物です。この松本城下模型の時もアルバイトとして夏休みから1ヶ月以上、泊まり込みでせっせと手伝ってくれていました。その彼は某有名国立大の建築科在籍なのです。


松本城下模型で寺社部分は史料が少なく、一方で数が膨大でした。そこで現存していたり詳細が分かるものは私が手作りして、詳細が分からない寺社はある程度記号化、パターン化した3Dプリンター出力の建物を組み合わせる方式を取りました。納期の迫る中、急遽そのデータを作ってくれたのが彼で、私が単体建物をつくり、図面を引くそばから、本人曰く「これまで馴染みのない」CADを、しかし見事に使いこなしてくれました。


△念来寺鐘楼(島充作)


△3Dプリンターテスト出力した寺院本堂


そして松本城下模型が終わったあとに、そのままの勢いで大坂城天守も3D化してくれたのです。



設計図通り、私の頭の中にしかなかったものがこうやって見える形になった時は感動...

(この段階では縮尺1/125で、屋根の構造は板材の組み合わせになっていますが、1/100の本製品では小屋組の構造に改良しています)






2022年の活動は彼無しには成立しませんでした。そしてこの大坂城も彼無しには製品化できませんでした。大きなプロジェクトは一人では絶対にできません。彼の名前は、ちゃんとマガジンにクレジットされています。


3Dデータが出来たのが2022年12月も暮れに近づいた頃。東京で監修会議を開き、三浦先生に3Dデータをお見せして、チェックを頂きました。最初に頂いた一言が「恐ろしくできがいい」。思わず2人で小さくガッツポーズ。



このように天守は難航しましたが、一方、ジオラマは中国の工場がすんなり立体化してくれていました。




ただし天守を除く。天守は結局、慣れないCADで私が概形データを作ることに。これは桜井案天守です。


さて、あとは中国の工場の出番です!