【ウッドショック】 新潟県産木材の生産状況と課題 | オーガニックスタジオ新潟社長の奮闘記 │ おーがにっくな家ブログ

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新潟県産木材の意見交換会に出席してきました。



前回開催された意見交換会の報告と、
私の理想主義的な提言ブログで書いたところ、

それが新潟県の林政担当者と、テレビ局の目に触れて
思わぬ反響があったわけです。

そうしたこともあり、
8月18日、新潟県庁での再度の意見交換会に、招聘されました。

 



こんな感じで記事を書いてしまうと、
私が非常に林業にも詳しく、県産材木にも造詣が深いと
思われてしまうと困ります。
それなりに知識と、全国的な情報を多く持ってるってだけ。

中途半端な知識を持った、理想主義者が夢を語っている程度だと
思って読んでください。

木材の流通を語る時には、「川上・川中・川下」と例えます。
伐採と営林が川上。製材・製品化が川中。
そして、最終消費者の、工務店は川下。と言う事です。

しかし、本会に出席されたメンバーの9割は、
川上の林業家と行政の担当者ばかり。
川下は、ほぼ私だけという偏った構成でした。

前回の意見交換会で寄せられた質問に対する答えと、
現状での伐採と製材の稼働状況の説明。

それと、現在ひっぱりだこの林材ライターの赤堀様から、
各地域での、地域材の利用状況の説明がされました。
栃木県の大手パワービルダーが築き上げた、川上・川中・川下の
独自のサプライチェーンの説明がされました。

新潟県産材の状況

川中の、大規模な製材・プレカットの企業から、
現状の状況の説明がされました。

最大手の山北森林組合+さんぽくプレカットは、
月間1000~1500立米の生産能力があるという。県内最大手。
住宅1棟分で15㎥ほどなので、最大100棟分。年間1200棟分。
一般建築・公共向けの製品も多いので、
内訳は分かりませんが、そうとうに大規模。

(新潟県で持ち家で、おおむね6000棟/年の新築があります)
ウッドショックに関しては、「深刻さを体感を全く感じていない。

今まで通りの状況を維持している」という意外な感想をおっしゃっていた。 

余裕すら感じられる。

2番手の坂詰製材さんは、輸入木材の不足が。国産材に切り替わり、

需要が急増してそれに対応しようと生産能力を倍増させているとのこと。
平時では300㎥であったのを、残業や他の製材所に協力してもらい、600㎥。
400棟分の生産まで増やしたという。

川上の伐採は順調に進んでいて、供給不足にはなっていないが、
乾燥させないことには、現在の住宅では事実上利用できないために、
乾燥窯の処理能力が不足してボトルネックになっている。
新規で乾燥釜の投資は、億単位の設備投資が必要になるので単独では不可能。
新潟県から資金の補助してもらわないと増設できない。
現状では、これ以上供給できないといった返答。


提言:未利用の設備の再活用

ある大手工務店の関連する製材所に、10年ほど前に、高性能の乾燥窯を導入したが、
窯の故障により、現在は稼働していないものがあるそうです。
県からの補助金を大量に投入されていると聞きます。

元を正せば、県の財源から捻出されたものである。
使ってないのであれば、その窯を必要としている事業所に譲渡できないものか
購入後10年かそこらなので、修理すれば使えるのではないか?
そのように提言します。 (林政課の方には提言済)


必要なのは「安定供給」よりも「安定需要」

そのように、林材ライターの赤堀さんもおっしゃっていた。

現状は 川上・川中・川下の需要ニーズ情報が統合されてなく、
目詰まりの要因になっている。

ここで、億単位で設備投資をしました。増産体制を取りました。
ウッドショックが終りました。安い輸入材が再び入ってきました。
にわかに増えた注文が途絶えました。
木材供給者はそれを心配している。だから、設備投資を増やせない。



再度提言:工務店の協同組合による調達と計画製材の可能性

2度ほど指名され、以前このブログで提言した、

独自のサプライチェーンの構築構想について、説明をしました。
工務店で協同組合を結成し、資材需要の予測を立てる。


例えば、坂詰製材の400棟分の能力のうち、200棟分の優先供給を約束してもらう。
立木価格、伐採搬送、製材までからの逆算された製品価格を、契約期間内は保証する。
残りの200棟分は、市場に売却し、収益化する。

メリットやその詳細については、前回のブログをご参照ください。




「ローカルな計画経済」で回せるか

木材は、「資本主義の市場経済」によって、
グローバルな需要と供給で価格と量がきまり流通している。
国外の需要供給の外的要因に翻弄されているのがウッドショックの根本要因。
そして、貧乏になっていった日本の「買い負け」も露わになっている。

地域サプライチェーンの構想は、「グローバルな市場経済」ではなく、
「ローカルな計画経済」で回せるか。という命題である。

つまり、かつてのソ連のように。
マルクス社会主義で回すことが可能か?


近年、資本主義での経済活動そのものが巨大化し過ぎて、
地球そのものを変貌させている。

温暖化による気候変動は最たるもの。
コロナウイルスショックも根っこは同じ。
資源争奪戦によるウッドショックも、資本主義経済の負の現象ではある。

 



「人新世の資本論」が、大ベストセラーとなったが、
この本では「コモン(組合的な経済活動)へとシフトし、
脱経済成長」するしかないと説明している。 その地域木材版であるわけです。
*読んでいない方は、ぜひ一読をお勧めします。


木材安保論

現実問題として、実は日本における「米」は、
市場に政府が介入し、計画経済で運営されてきた。
食料は主食の米である「食料安保」上の理由が1つと、
自民党の票田である「農家保護」のためである。

木材は実はそれ以上に幅広い安全保障上の要素を
満たしているのではないか?

「建築業を支える木材資源の安定供給」だけでなく、
自然災害を守るための「山林の維持管理」
さらには、木質のバイオマスエネルギーとしても、
「温暖化対策」やエネルギー自給率の観点でも重要である。




米を守るのであれば、それと同様に木材を守る事は、
理にかなっていると思われるが、
かつて昭和30年代から輸入の自由化が行われて自給率が低下したことを、
政策上の大きなミスミステイクだったのではという声もよく聞く。


森林保全のための補助金林業

木材の伐採には、間伐と皆伐の2つの方法がある。
皆伐は木材は効率が良く、100年計画の営林計画で行えば、
山林保全の面でも問題なく、木材価格の低下にもつながるが、
森林管理の性質の伐採に見える間伐には補助金がつくが、
皆伐には補助が付きにくいという問題も、当日耳にした。


郷土愛プレミアムをユーザーは支持するのか?

仮に、今までの最安値で安定していた頃の木材の、
価格が1棟当たり200万円だとしよう。

それが、伐採から製材までの製造原価逆算で、
組合向けは250万円の価格で、安定供給を保証することになったら、
50万円の差額は、地域材に対する郷土愛としてのプレミアム。
それが、一般ユーザとして受け入れていただけるものなのか?

また、再び、ウッドショックで市場価格が300万円になったとする。
組合員の工務店は、こういった外部要因での価格高騰リスクは
ある程度リスクヘッジでき、
国や県からの補助金も受けることができるとしたら。

そして、目に見える形で、地域林業に少しは貢献できたという、
気持ちが加わったら、どれほどのユーザーと、
工務店が賛同するのだろうか?

 



NHK朝の連ドラの「おかえりモネ」の効果で、
林業にも注目度が上がっている中で、
まんざら地域型市場経済によるマネー循環も、
支持されそうな気もする。


課題:  集成材の需要に対応する

乾燥窯不足の問題に加えて、もう一つ。
もう一つのボトルネックは集成材の供給能力不足です。
近年無垢の柱ではなく、集成材の柱でなければ家が建てられない業者が増えてきた。
金物工法の普及していることが、その要因です。

棟数を多く建てるビルダーのほとんどが、集成材を用いている。
代替品としての杉の無垢柱へ切り替えができないという。
金物工法は、寸法が安定しているという品質上の問題でなく、
建て方が容易で、大工の技能もそこまで要求されないからだという。

集成材需要の増加に対応できているかという問題はある。
さんぽくプレカット、志田木材店は、
集成材は生産できているようだが、
坂詰製材は集成材製造ラインは無いようだ。

また、新潟県の木材は杉が中心となるが、
曲げ強度はベイマツに劣るために、横架材(梁)での利用に限界がある。
より、地域産材の利用率を高めるためにはハイブリッドビーム
(スギとベイマツの複合梁)も含め、
現代の住宅へのニーズに合うものを、域内製造できること。
または、域内での別の製材所と、製造品目を調整しあって、
相互補完できる体制も良いのではないかと思いました。


(このことに関しては、状況を詳細にわかって
 いるわけでないのでピンボケかもしれません)


関連図書:

国内の林業をより深く知るために
参考図書が2冊上げられます。


林業に光りを当てている本。

赤堀楠雄様の 林ヲ営ム

 




林業の抱えている問題を知るための本。

田中淳夫の 絶望の林業。

 

両面から押さえると よく理解できよう。