テレビ東京系列で放送していている「未来世紀ジパング」という番組で、日本の魚を世界に広める動きについて報じていました。
ここからは、その内容を一部紹介します。
寿司や刺身は外国でも食べられるようになってきましたが、生で食べる魚といえばほとんどが鮭(サーモン)で、日本産は極僅かで各国で食べられているものの多くがカナダ産やチリ産というのが現状です。
魚を食べる量は、先進国だけでなく途上国でも増えています。また、各地で魚をとって市場に出回っていますが、生で食べられるような魚はほとんど売られていないようです。
そこで、様々な海産物を外国で生で食べられるような取り組みが始まっています。日本で獲れた海産物を、鮮度を保った状態で外国に輸出される仕組みが徐々に構築されているようです。
ヤマト運輸の国際クール宅急便と航空貨物の利用によって、輸送コストを抑えつつ新鮮な平目や蛸などが下のような経路で生きたまま香港に届けられていました。
青森→(トラック)→仙台→(飛行機)→伊丹→(飛行機)→那覇→(飛行機)→香港
他の荷物と一緒に運ぶことで輸送コストを安くし、那覇が24時間空港で夜間でも通関業務を行えるため時間のロスが少なくなっているようです。
ヤマト運輸は、香港以外に台湾・上海・マレーシア・シンガポールでも宅配便事業を展開していますので(詳しくは「外国人に人気の日本のモノ(サービス業編( 4 )」 参照)、これらの場所にも鮮度を保ったまま海産物を届けることができるのではないでしょうか。
青森の港に上がった平目が、翌日の朝には香港に到着し、その日の昼には飲食店に届くようです。青森で獲れたものが東京の築地市場に到着するのとほぼ同じ時間しかかからず、香港でも東京と同じくらいの鮮度のものが食べられるようになっています。
これ以外にも、鮮度を保ったまま保存する技術も紹介していました。
CAS(Cellc Alive System)冷凍という、細胞を破壊しないで冷凍することによって解凍後も鮮度を保つ技術があります。通常の冷凍方法は徐々に凍らせていくのですが、CAS冷凍は細胞中の水分子を振動させることで瞬間的に凍らせるため細胞が壊れません。
1年前に冷凍した岩牡蠣がまるで生のような鮮度を保っており、4年前に冷凍した蛸を解凍しても吸盤が吸い付くくらいの鮮度がありました。
三菱電機ではCAS冷凍機能付きの冷蔵庫を販売していますし、隠岐の離島でもCAS冷凍の設備を導入して海産物をブランド化するなど、徐々に普及している技術です。
またナノバブル水という技術についても紹介していました。ナノバブルという1000分の1ミリ単位の窒素の泡を含んだ水に数分漬けることにより、海産物の鮮度が保てるということです。この保存技術により、北米に新鮮な海産物を輸出しているようです。
普通に考えれば、日本よりも現地周辺で獲れた魚の方が新鮮なはずで、わざわざ遠い日本から運ぶ必要はないように思えます。しかし、番組でも伝えていましたが、現地の市場に出回っている海産物は鮮度が保たれていないため、とても生では食べられないようです。
これは、日本と外国で海産物の鮮度を保つ技術に大きな差があるからです。日本では昔から生で海産物を食べる習慣があったので、鮮度を保つ技術が発達していて、その技術は世界最高レベルです。
番組でも紹介していた最新技術以外にも、以下のような方法で鮮度を保っています。
○活け締め
・死後硬直を遅らせる
・血抜きをして微生物の繁殖を抑える(血液には細菌が繁殖しやすい)
・旨味成分の保持(魚が暴れるとATP(アデノシン三リン酸)が早く分解されて旨味が落ちる)
○神経締め
魚を締めた後に延髄に沿って走る神経を抜くと身持ちが良くなります(種類によっては神経締めをしない方がいい魚もあります)。魚を取った直後に漁師が漁船で神経締めをして、より鮮度を保つようにしていることもあります。
○冷塩水処理
海水と同じ塩分濃度の塩水に氷を入れ、内臓や血などを取り除いた魚を入れます。水ではなく塩水に漬けることにより、浸透圧で魚の余分な 水分を出して、切り身にしたときのドリップを少なくします。魚の温度を低くすることによって、調理する時に人の手に触れて温度上昇して劣化や変質が起きるのを少なくできます。
これら以外にも鮮度を保つ方法があり、魚の種類によっても様々な方法があるようです。
魚の旨味は死後硬直から一定時間経過後に旨味が出ます。しかし、旨味が出てから腐敗するまでの時間が短く、自然に死んだ魚は余計に早く腐るようです。更に血が残っていると、微生物が繁殖してATPの分解も早く進みます。そこで、生きているうちに早く即死させて血を抜くことが重要となります。
また、魚はただ生きていれば新鮮で美味しいというわけではないようです。店にある水槽にいる魚は、水槽にいる時間が長いとATPの分解が進んでしまいます。あまり長く水槽にいると、旨味が抜けてしまい、生きていても味が落ちてしまいます。
海産物を美味しく食べるためには、魚の切り方も重要です。刺身や寿司のネタは、ただ切っているだけのように思えますが、切り方によって味が異なります。
刺身を垂直にブツ切りにすると、美味しくなくなってしまいます。包丁を寝かせて切ると食感が良くなります。45度以下に包丁を寝かせると味が良くなり、薄い身の場合は30度や20度にすると美味しくなるので、身が薄い尻尾のほうはより包丁を寝かせて切ると良いようです。
そして、刺身の組織を潰さないように切ることも重要です。そのためには、できるだけ刃の長い包丁を使い、よく切れるように研いでおく必要があります。
このように、生の海産物を食べるためには、ただ海産物を獲ればいいというわけではなく、鮮度を保つ方法や切り方など様々なことが揃っていなければなりません。
外国で生の海産物を食べる習慣が広がっても、それを美味しく食べる方法までは伝わっていないようです。そのため、外国人が日本に来て刺身や寿司を食べると、自国で食べたものとは比べ物にならないくらい美味しいと驚くことが多いようです。
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