サンタマリア:22 (怪盗X:Long:柳瀬流輝) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

短めに終わらせるつもりが既に22とか…。

 

before

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「じゃ僕は表を閉めますから。館内チェックお願いします。」

 

「あぁ、はい。」

 

鴨野橋くんは時計を気にしながら博物館入り口に向かう。私と流輝さんは顔を見合わせ

 

「なにアイツ 気が利くな。」

 

「ね…。」

 

笑ったけれど

 

いやいやあの鴨野橋くんに限って私と流輝さんに気を遣ってだなんてあり得ない、きっと今日は好きなアニメがあって早々に帰りたいに違いない

 

と、思ったり。でも理由はなんであれ

 

「館内にお客さんが残っていないか確認してきます。」

 

「俺も行く。」

 

二人きりにしてくれた彼にちょっと感謝する。

 

「お仕事もう落ち着いたんですか?」

 

「今日はノー残業デー。」

 

「なるほど。」

 

カツ カツ…

 

天井高い館内に二人の靴音が響く。

 

一つ一つブースを確認するだけの事に流輝さんは退屈しないかなと思ったけれど

 

「…ふ~ん…」

 

流輝さんは途中途中足を止め美術品に目を留めていて。その横顔を見ていたら

 

「流輝さん。行くよ。」

 

「ん…。」

 

この人はホント端正な顔立ちをしているなと

 

スーツ姿が最高に似合っている なんだかモデルさんみたい…。

 

少し長めの前髪に見え隠れする黒い瞳 彼に見つめられたら目の前の19世紀の王女様も頬を紅くするんじゃないのかなんて

 

「素敵でしょ。これはね…」

 

でもごめんなさい、彼は私とお付き合いしてるんです、なんて…私こそ頬を紅くしたりして。

 

「ここに展示されている美術品全てを説明できるのか。」

 

流輝さんは少し感心するような表情で聞いた。

 

「私は絵画担当。でも…そうだね、一応工芸品も頭に入れているかな。」

 

「ふ~ん。さすが芸術バカ。」

 

「芸術好きって言って。」

 

二人そんな話をしながら足を進めていたから

 

いつもより少しゆっくりとした館内チェックになる。だからかな

 

ピピ

 

『先輩。』

 

「あ、はい。」

 

やっぱり何か予定があるのかも。せっかちな鴨野橋くんは 私がまだチェック終了の報告をしていないのにインカムを通して『もう閉めましたから。』と閉館した旨を伝えてきた。

 

『柳瀬さんは裏口から帰って戴いてください。僕はもう帰りますから。』

 

「了解です。」

 

ピッ…

 

気づいたら陽は落ち窓から見える景色はただの暗闇。

 

館内の優しい照明の下 この重厚な建物に自分達の靴音だけを響かせる私達は なんだか時代に取り残された迷い人のようで。

 

だけど高貴な美術品に囲まれ 愛おしい恋人と二人きり

 

「付き合って貰ってすいません。もう終わりですから。」

 

私は凄く心地よさを感じていた。

 

「この部屋、まだ閉鎖中なのか。」

 

「ん?あぁ、そう。」

 

ロープパテーションの置かれた重厚な扉の前

 

以前ティアラの飾られた部屋の前で流輝さんは立ち止まる。

 

「この部屋はチェックしないのか?」

 

「しないよ。だって閉鎖中だもの。誰も入らないよ。」

 

そう言って通り過ぎようとしたけれど

 

「俺だったら入るな。」

 

「え?」

 

流輝さんはロープの内側に入り扉に手を当てる。

 

「入るなと言われたら入りたくなるのが人間だろ?」

 

ニヤッと口角を上げコンコンと扉をノックする。その悪戯な笑顔に笑い返しながら

 

「はいはい。流輝坊ちゃまは悪戯っ子ですね。」

 

「その呼び方止めろよ…。」

 

部屋の入り口横のEDロックの蓋を開けた。そして解錠する為の暗証番号を入力する時

 

「美術品ひとつに…随分と大げさなセキュリティだな。」

 

彼はそう言ってきて。

 

「ある意味厳重かな。」

 

流輝さんにチラッと視線を向けると彼は敢えてこちらに背を向けた。私は

 

「そっち向かなくて良いよ。清掃のおばさんも番号知ってるから。」

 

「は?」

 

首を傾げながら振り返った彼にクスッと笑う。

 

「暗証番号は展示毎に変わるの。今は何もないから皆知っている番号だよ。」

 

「…そういう事。」

 

「うん。展示が始まったら番号を知っているのはたった一人だけ。セキュリティ凄いでしょ。」

 

「うちの職場よりも凝ってるな。」

 

「そうなの?」

 

「常に職員全員暗証番号は知ってるからな。」

 

「甘いね。」

 

「だな。」

 

ピッピッピッピッ…

 

ガチャ

 

解除された音が扉の内側から聞こえたのを耳にし

 

「開けて良いか?」

 

流輝さんはグッと…扉を半身で押す。その時

 

「あっ」

 

有ることを思い出し ハッとして彼の腕を掴み止めた。

 

「どうした?」

 

「あ…あ、そか大丈夫…」

 

「なんだよ?」

 

「ううん、勘違いしちゃっただけ。」

 

私は自らを笑い首を横に振って。

 

「センサーが反応しちゃったかと思った。」

 

「センサー?」

 

「そう。この部屋は特別な美術品が展示されるから理由もなく入ろうとするとセンサーが反応して通報される仕組みになっているの。だけど今は空っぽだからセンサー切ったんだった。」

 

舌を出して笑い誤魔化し それから扉をゆっくりと開けた。

 

ギィ…

 

「ほら。誰もいない。」

 

開けると同時に感じたどこか籠もったぬるい空気

 

辛うじて灯っている頭上の非常口を案内する照明だけの薄暗い空間だっていうのに

 

「…ふ~ん…。」

 

コツッ…

 

流輝さんは部屋に入りグルッと見渡す。

 

「誰か居れば面白かったのに。」

 

そう言って振り返り私に笑った。だから私は手を後ろで組みゆっくりと部屋に足を踏み入れ

 

「怪盗ブラックフォックスとか?」

 

言いながら…笑い返す。そして

 

「…多分、怪盗ブラックフォックスは来ると思う。」

 

ため息交じりそう言った。

 

 

 

 

・・・・

 

 

 

 

「何日か前『鈴蘭』っていう絵画が社長宅から盗まれたの知ってる?」

 

「…ああ。」

 

「その前は『桜』。どちらの絵画も大正ダビンチの名画なの。そして…今日発表されたんだけど、事もあろうにこの部屋に次に展示されるのは『花水木』っていう…彼が描いた絵画なの。それで達郎が…あ、幼なじみね、警察が動いてるの。」

 

***は話しながらゆっくりと奥へと足を向けた。

 

「『桜』『鈴蘭』『花水木』…。この三つはね、セットっていうか…私はこの三つの絵画に繋がるものを感じていてね…」

 

「…。」

 

部屋の中央で立ち止まっている俺に目も向けず ただ真っ直ぐに部屋の奥へ

 

そして立ち止まり手の平をソッと壁に当て

 

「怪盗ブラックフォックスが繋がりを感じているかは分からない。でももし私と同じように三つの絵画に何かを感じていたら…次に狙われるのは『花水木』だと思う。」

 

壁の中央 展示されるだろう位置を見上げた。

 

「…盗まれてしまう前に一目で良いから観たいな…。」

 

そう呟きながら…。

 

「大正のダビンチの絵画が観たくて学芸員になったようなものなのに。…怪盗ブラックフォックスってば意地悪だよね。」

 

笑い振り返ったとしても

 

「…。」

 

その笑顔が寂しそうに見えたのは気のせいではないと思う。

 

「まだ盗まれると決まったわけじゃないだろ。」

 

そして俺の発言は…口先だけの…

 

「まぁそうだけど。…ま、その時はその時だよね。考えたって仕方ないね。」

 

***は微笑み入り口に向かおうとする。その手を

 

グイッ

 

「え?」

 

俺は掴み振り向かせた。

 

「どうして俺がこの部屋に入りたかったんだと思う?」

 

「どうしてって…」

 

きょとんとした顔で首を傾げるコイツ…俺は素知らぬ顔をし笑って

 

「確実に二人きりになれるから。」

 

「え…」

 

グッ…

 

引き寄せ 無防備な唇にキスをした。…この時は本当に

 

「…なに…びっくりする…」

 

「クック…いちいち目を丸くするんだな。」

 

…本当にキスをしたかったからだった。

 

「あ、ダメ、監視カメラある!」

 

トンッ

 

「ッ…!」

 

右肩を押され…『鈴蘭』を奪う際に負った傷に痛みが走っても

 

「…っ…。…鴨野橋に怒られるか?」

 

それでも…コイツと…。

 

「あ…切ったんだった…センサーと一緒に…」

 

「クック…そればっか。」

 

腰に手を回しまた唇を塞ぐ。何度もそうしたかった。

 

「…。」

 

ずっと…そうしていたかった。

 

 

 

next

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