サンタマリア:23 (怪盗X:Long:柳瀬流輝) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

30…いや、35まではいかないだろうと…。

 

before

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「展示されてから?」

 

「ああ。」

 

その夜 俺達ブラックフォックスは集まった。閉店後の黒狐に。

 

「リキくん…それはちょっとリスク高いんじゃないかな。」

 

店には俺達以外いない。各テーブルやカウンター上の残像だけがさっきまでの店の様子を表している。

 

ただの残像なのに…何故かそれがザワザワとした賑わいになり 耳鳴りとして俺を苦しめた。

 

「流輝、展示される期間が長ければ長いほど注目を浴びる。それ分かって言ってんのかよ?」

 

「むしろ何日かでも展示されたほうが世間からの中傷は避けられるんじゃないのか。一度も拝めないなんて待望者から恨み買うぞ。」

 

展示期間中にミッションを実行する

 

そうすれば***は『花水木』を観る事が出来る

 

そんな心情を知ってか知らずか俺の提案に皆怪訝な顔をした。

 

「リキくん、肩が痛む?日数開けたほうが良いっていうなら…」

 

「いやそれは関係ない。…んな顔すんなって。」

 

宙は責任を感じていた。確かに鈴蘭邸で逃げ遅れたコイツを連れ戻した際に負ったケガではあったが

 

「俺の不注意だ。レーザーばかりに気を取られてた。お前のせいじゃないよ。」

 

「うん…。」

 

切なそうに俯く宙は随分と責任を感じていた。

 

「パンフレットが刷り上がってたな。」

 

パサッ

 

ボスが背後から一枚のパンフレットをテーブルに置く。

 

さっき***が伊吹に渡して欲しいと差し出してきた『花水木』展示案内と同じもの

 

「今日発表された。」

 

俺はため息交じり それから目を反らした。

 

「柳瀬。」

 

パソコンを操作していた拓斗が画面を見ろと俺を呼ぶ。

 

「オレから言わせて貰えば、展示前がベストだし。展示室の暗証番号がいちいち変わり過ぎて解読できねー。」

 

…そう言ってたよ、アイツも。

 

横から覗き込むと日付順に並ぶ不規則な数字

 

「あの部屋 展示品ごとに暗証番号が変わってる。」

 

「展示品ごと??」

 

健至も脇から同じように見つめる画面

 

「気まぐれで決めてるみてーな印象。これじゃ解読しても意味ねーし。」

 

まだ読み取れていない数字もある。だが少なからず同じ数列が上下に並ぶ事はなく 桁数までも違って…全く異なる数字であることは一目瞭然だった。

 

「しかもチャンスは2回とか。間違えたらビービー警報鳴って大ごとだし。」

 

拓斗は鼻で笑い俺に視線を向けた。それはまるで

 

「なぁ流輝。…」

 

健至が言いづらそうな顔で俺を見つめるのと同じ意味だろう

 

コイツの…いや、コイツらが何を言いたいのか聞かなくても分かっていた。

 

「流輝の彼女、そこの学芸員なんだろ。どうにかなんないのかよ。」

 

俺の女を協力者にする

 

「…。」

 

そうすれば危険は回避出来る…そんな事俺が一番理解しているから。

 

・・・・

 

「俺が仕入れた情報は拓斗と同様のものだ。」

 

***との世間話のなかで何か情報はないかと常にアンテナを張っているのは確かだった。だが

 

「展示毎で暗証番号は変わる。その番号は博物館の誰かたった一人が決め 口外はしない。…まさにその展示の担当になった奴のただの気まぐれだ。」

 

「マジかよ…。」

 

***から情報を得る事を避ける俺もいた。なぜならそれが目的で付き合っているわけじゃない。その為に

 

「多分だが…俺の女はブラックフォックスが嫌いだ。」

 

「え?」

 

会いに行っているわけじゃない…。

 

俺はそれぞれの顔を見渡し 静かに微笑む。そして

 

「協力だなんて到底無理だ。もしアイツが展示担当になったとして…俺の正体を隠した上で猫なで声で展示室の暗号を聞いたとしても、芸術バカだからな アイツは吐かない。」

 

…右肩を擦りながら言った。

 

「絶対にアイツは教えねーよ。」

 

間違えなく。そうだろ、芸術バカ女。

 

・・・・

 

「たっくん、部屋の中はどうなの。」

 

「そっちは楽勝。レーザーが入り口と中央に張られているけどカメラと同じタイミングで切る事が出来る。万が一切れなくても死角が結構あるからこのルートを辿ればクリア出来る。」

 

拓斗はそう答え 画面に赤いラインでルートを描く。

 

「部屋の中がそれだけ緩いって事は…暗証番号は解読されないってよっぽど自信があるんだね。」

 

「だと思う。もうハッキングしまくるしかねーって感じ。」

 

「たっくんの腕の見せ所じゃん。」

 

「るせー…。っつーか展示室に搬入される前なら暗号を解く手間も省けんだっつー…。」

 

「…。」

 

拓斗が珍しくため息をつく。コイツは『桜』『鈴蘭』のキャンパスの裏に描かれていた数字も解読しなくちゃならない。

 

それは相当な気力と時間を使い…どこか苛ついているようにも見える横顔に 

 

「展示される予定の部屋の入り口はひとつ。」


俺は呟き 皆の視線を再び集めた。

 

「暗証番号が分からない限りあの扉は開かない。力づくでも無理だ。」

 

今日敢えて体をぶつけ重さを確認する。思いの外ビクともしない分厚い扉にある意味驚く…

 

暗証番号を解読できない限り 期間中に盗むのは不可能

 

宙と健至がチラチラと目を合わせては視線を向けた。それは

 

「さっきのは撤回だ。搬入時にしよう。」

 

決定打とも言える俺の言葉を待っていたんだと思う。

 

「だね。」

 

ホッとしたように頷く宙と健至、そして拓斗

 

***に『花水木』を見せたいが為だけにコイツらを危ない目に遭わせるわけにいかない

 

「ふぅ…」


…すまない ***。


コイツらにバレないようにため息をついた。


「…じゃ、警備と警察の動きをハッキングして搬入日は調べる。あと搬入口だけど駐車場に入り口があって…」

 

拓斗がパソコンの画面を俺達に見せようとするから

 

「搬入日は前日。時間は20時だ。」

 

「は?」

 

ガタッ

 

腰を上げながら投げ捨てるように伝えた。そして

 

「搬入は地下駐車場の入り口ではなく職員出入り口からだ。ドアが異様な程高く幅広い。入ってすぐエレベーターが設置してあるのもそれが理由だろう。」

 

何か言いたげな皆と視線を合わせる事なく

 

「俺が仕入れた情報はそこまでだ。あとは頼んだぞ。」

 

クシャ…

 

拓斗の頭を撫ですぐに二階に続く階段に向かって。

 

「柳瀬…」

 

その許しを請うような声に振り向きもせずに。

 

・・・・

 

いつか見た***の部屋のカレンダー

 

「おやすみ。」

 

階段を上がりきる手前でギュッと瞼を閉じる事で ***の笑顔をかき消した俺は

 

「フゥ…。」

 

 惚れた女の小さな願いを叶えてやれない 自ら壊す道を選んだ。

 

 

 

next

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