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「へー…。」
いっちゃんは部屋に入るなりグルッと見渡した。
「クロフネの2階ってこんな風なんだな…。」
私の部屋というより、2階の住居部分に興味を持ったらしい。階段を上がった先からキョロキョロし始め、部屋に入るなり、
「位置的にどこ。」
正面の窓を開け身を乗り出すようにして景色を眺め始めて。
「この部屋の真下って奥のソファんとこ?」
「そうみたい。」
「ってことは、店の入口の真上の窓はマスターの部屋?」
「だね。」
「ふーん…。」
ホント興味深々だ。
座ることもせずいつまでも立ったままキョロキョロしているから私もなかなか腰を下ろせないでいる。
「あの本、マスターの?」
窓を閉めると今度は部屋の中だ。端に積まれた何十冊もある本を指さす。
「そう。自分の部屋の本棚がいっぱいだからって。」
「古本屋に売れよ…。」
古本屋で買ってるんだよと笑い返しながら改めて私も部屋を見渡した。
「元々この部屋は使ってなかったらしいの。私が来るからって家具一式用意してくれたんだよ。」
ベッドに寝具一式 テーブルにローダンス、そしてカーペット
「マジで?」
「エアコンも。テレビもだよ。こういう小物も用意してくれてたの。」
置き時計に置き鏡 クッションに観葉植物まで。
「ホントジョージさんには頭が上がらない。ね、いっちゃん座って。お茶飲んで。」
私はテーブルの前に腰を下ろしたけど、彼は未だにキョロキョロ…そんな彼の様子を麦茶を飲みながらチラチラと気にする。
いっちゃんがこの部屋に居るのって変な感じ…。
招いておいて今更そんなことを思ったり。
・・・・
ジョージさんから今夜は帰らないと聞いても、すぐにはいっちゃんを招くことを思いつかなかった。
なにがキッカケだっだんだろう…分からないけれど、帰りの道中 気づいたら どう誘おうかってそんなことばかりを考えていた。
「喉乾いた。お前もなんか飲む?」
「え?…ああ…うん。」
誘ったあとのことも。
泊まるよね…それって…どうなんだろう。え、どうしよう…。
静かな帰り道 胸がドキドキいい始めたんだ。
「おやすみ。また明日。」
あーー…。
結局誘いそびれて。部屋に戻ってからもずっと考えてしまう。
そうなったら…え、どうしよう…。
外だというのにあまりにも情熱的だったキス。呼べばこの部屋に二人きり…その先を想像すれば呼ぶことをためらってしまう。だけど、
「…会いたいな。」
呟いてしまった本心が私を動かせたんだ。
「もう荷物まとめたんだな。」
部屋の片隅のスーツケースとダンボールを指さした。
「うん。あとはお土産をいれるだけ。」
「そか。」
私は明後日にはこの街を離れる。その前に、
「いっちゃん、もう座りなよ。」
私の気持ちを彼に伝えておきたいから。
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