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この部屋に来るのは何度目だろう。***を抱 くのは
「なにか飲み物持ってくるね。」
「悪ぃ。」
何度目か…。
***は下 着を身につけベッドから降りた。
「ねぇ大和のTシャツ着ていい?」
コイツの親は平日休みの仕事のようで土日は家にいない。だからオレがここに来るのは大抵週末の昼間で、
「もう着てるじゃねーか。」
「へへ。」
学生の頃のオレ達はそれが身体を絡ませるタイミングにもなっていた。
「大きいから楽ちんなんだもん。」
***はいつも脱ぎ落としたオレの服を着て無人のリビングに降りる。この日も悪戯に笑い 部屋を出た。
パタン。
「…暑。」
下 着を履き上半身は裸のままバフッとベッドに寝転がった。
「…フワァ…。」
レースのカーテンが夏の光を優しく受け止め部屋に広げている。穏やかな光と気怠くも甘だるい体の疲れが相まって眠くなっちまう。
「…。」
なーんか居心地いいんだよな…。
***の部屋が好きだった。
広くはない。でも窮屈さはまったく感じない。
白を基調にした空間に淡いベージュや薄いピンクが静かに溶けている。
香りもない。無臭だ。…いや、ほとんどない、が正しいか。ほんのりと優しい匂いがする。洗い立ての清潔な布の匂い。
整理整頓されているデスクの上には教科書と拡げたノート…ペンはまとめてあるけど色や種類はバラバラだ。それはアイツが必要な時に必要な物を使っている証拠で、
ベッドは白いシーツにクタッとしたクッションがひとつだけ。余計なものがない分即落ちだろう、良い夢見れそうで…。
「…。」
窓際に置かれた観葉植物の葉はよく手入れされていて無理に飾っている感じがない。
アイツらしい部屋だよな…。
どの部分を切り取っても誰かに見せるためではなく自分が落ち着くためだけに作られた空間。
居心地いいわけだ…。
まさに***そのものだと思った。染まっちまっているオレは だからこんなにも落ち着くんだと思う。
ガチャ
「お待たせ。ドーナツあったから持ってきた。」
水のペットボトルとトレイに載せたグラスに入ったアイスコーヒー
グラスとドーナツはローテーブルに置かれ、ペットボトルは差し出された。
「サンキュ。」
「裸で寒くない?エアコン一度切ろうか。」
首を横に振りながら体を起こす。喉を潤し手渡せば***はすぐ体をすり入れるようにしてベッドに上がり抱きついてきた。
「あ。やっぱり体冷えてるよ。冷たい。」
「まだ暑ぃ。しばらくこのままでいい。」
そうは言っても***は薄手のブランケットを掛ける。そしてそれごとまた抱きつく。
「この時間好き。」
オレの肩先に頬を埋めて…背を抱き返しながらいつも思っていた。
「大和が素直だから。」
「お前は甘えん坊じゃねーか。」
好きだって。離したくないって。
「たまにはいいでしょ。」
ずっと一緒にいたい…って、いつからかずっと。
話をしながらどさくさに紛れてキスをし合う
誰にも邪魔されない二人だけの時間
いつもカッコつけちまうけど、この時だけは素の自分を吐き出せていた。
「昨日進路指導室呼ばれてたでしょ、もう大学決めたの?」
結構マジな話もしたよな。
「ああ。〇〇大。」
「え、ウソ。凄い…。」
「電車乗り継ぐ必要もねーし、いいかって。正直 奨学金で通えるとこで高校の教員免許取れるとこならどこでもいいんだけどな。」
「そか…頭いいとこだ…。同じとこは無理だけど私も都内の大学にする。」
ギュッと抱きついてくる…大学は違っても一緒にいたいと言っているように感じた。
「先生になるんだね…。…ね、お父さんのいる高校、女子校だったよね?」
父親の存在を話したのも確かいつかのこの時だ。どうして高校教師になりたいのか そう聞かれた流れで打ち明けた…あの時***は、
『…そっか。』
変に同情することも背を押すこともしなかったよな。ただ静かに受けとめてくれた。
「大和、カッコいいから人気者になりそ。生徒が皆目キラキラさせたりして。」
「だろうな。」
「イヤ。」
膨れっ面して睨む。思わず笑っちまう。
「お前が言ったんじゃねーか。」
じゃれ合いながら…胸のなかが温かい何かで満たされていくのを感じていた。
付き合って1年くらい経っていたよな。飽きるどころかもうすっかり知り得た仲で離れる気にならなかった。
「あの高校変な規則があってさ。教員は既婚者じゃなきゃいけねーんだ。」
そんな想いが あんなことを言わせちまったのかもしれない。
「え?結婚してなきゃいけないの?」
「教師と生徒のあれやこれやがないようにってな。」
「偽嫁??なにそれ、ダメ!」
「痛ぇ!叩くなって!だからさ、オレがその高校に勤める時、」
「なに?」
「結婚しねーか。」
言葉にすることに迷いは無かった。一瞬の沈黙のあと 腕の中 目を合わせる。
「え?」
「オレの嫁になってくれ。」
「え…。」
***はきょとんとした顔をした。だけどオレが目を逸らさないから、ジワジワくる言葉の重みに頬を桃色に染める。
「なんとか言えよ。」
「…ん。」
胸に頬を埋めた。背をギュッと抱きしめた。コイツガチガチじゃねーか…思わず笑っちまう。
「***。返事。」
肩先を掴み距離を開け顔を覗き込もうとするけど、またすぐに抱きつき逸らす。
「ダメかよ?」
一瞬不安になった。ヤバ、そこまで考えてたのオレだけか、とか。でも、
「…いいよ。」
震えているようにも笑っているようにも感じるか細い声
「…分かった。大和がその高校に勤める時、」
やっと目を合わせたら恥ずかしくてたまらないって顔してたよな。
「私を…大和のお嫁さんにしてね。」
不確かな未来のなか オレのそばに唯一***にいて欲しい。
「約束ね?」
「ああ。お前忘れんなよ。」
「忘れない。偽嫁なんて雇ったら怒るから。あ、私にさせても怒るから!」
「まぁその時の状況に…イテッ!だから叩くなって!」
ずっと一緒に。
・・・・
「暖かくなったよなぁ…。」
久しぶりにいつかの約束を思い出した夕暮れ
あれから10年経つ。一度別れたオレ達は10年経ってよりを戻した。
一緒に暮らし始めて早2ヶ月季節は変わった。クリスマスの雪舞う寒さに変わり、桜は咲き誇り今夜あたり桜吹雪が舞いそうな。
「よし。帰るか。」
三学期終業式を終え、明日から生徒たちは春休みだ。ちなみにオレも明日は休み
LIの帰りにでも***と夜桜を楽しむか。
「…。」
それにしても、だ。
受け取ったばかりの小さな袋に改めて視線を落とし呟いた。
「指輪って高ぇ…。」
ジュエリーショップを背にするオレは。
・・・・
あの時の会話を…***、お前は覚えてるか?…っつか、マジな話として受け取っていたか。
偽嫁も雇ったし、約2ヶ月偽嫁にもさせちまったけど、
「忘れてねーだろうなぁ…?」
やっと今夜 叶えてやれるよ。
next
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