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「いらっしゃいませ。」
翌日定時で上がり その足でLIに来た。昨夜ヒカリと随分遅くまで話をし寝不足もいいところだが、来ないわけにはいかない。
「…。」
アイツ、居るか?…
あんなにオレとの接触を避けていたのに、***はわざわざうちに来た…マフラーとおでんはおまけだ、話があったに違いねー。
そう確信したオレは確固たる決意をしていた。
絶対に誤解を解いてやる。
まだ客のまばらな店内を見渡す。カウンター奥にいた***と目が合う。あ、っと思ったと同時
「鴻上くん!」
気まずそうな顔をしながらもすぐさま***は駆け寄って来た。
「おでんサンキュ。マフラーも。」
「あ、うん…あの、」
「お前今日何時上がりだ。」
***の声を断ち切る。立ち話じゃ済まさないつもりでいた。
「え、21時だけど…」
「3時間も待ってられねーな…。久仁さんは。」
目の前のコイツを差し置き久仁さんを探す。もうこうなったら…。
「おー大和、いらっしゃい。」
大袈裟なほどの笑顔で手を振る久仁さんを見つければ、
「昨日悪かったなー…っておい??」
オレはすかさず引っ捕まえ肩を抱き、***に背を向けた。
「久仁さんに頼みがある。」
「…イヤな予感。」
「***を早退させてくれ。」
「は。」
オレはここぞとばかりに個人情報を漏らした詫びの代わりにと、自分勝手な要望を伝えた。
「***と話がしたいが接客をしながらじゃそれができねー。かと言って改めて会う約束を取り付けるのも難しい。このまま引っ張りだすしかねーんだよ。」
「お前らなんなんだ?どういう関係…」
「頼む。このとおりだ。」
手を合わせ懇願する姿に久仁さんは大きくため息をつく。
「おいおい…。」
10年ぶりに再会できた…それなのに 淡い思い出は誤解とすれ違いばかりに上書きされる。懐かしむことを拒みたくなるほどだ。
このまますれ違い続けるのか。気まずいまま?
「頼む。」
アイツとそんなふうになりたくなかった。
久仁さんはらしくないオレに眉間にシワを寄せる。どう察してくれたかは分からないが、
「ハァ…分かった。大和がそこまで言うなら…。」
渋々頷いた。
「まぁ今日は特別 試合も無いし1時間早く…」
「もう一声。」
「は?…ハァ、1時間半…」
「久仁さーん。」
「あーー。***、お前今日上がり。」
「え?」
***はきょとんとした顔をしている。久仁さんの諦めの遠吠えにオレはガッツポーズをした。
・・・・
「ハイカンパーイ。」
「…カンパイ。」
頬をひきつらせている***のグラスに強引にグラスを合わせた。
「やっぱビールうまっ。」
オレは計画が上手くいき万々歳だ。
LIから連れ出し連れて来た居酒屋 和風の店構えにクリスマスのデコレーションが不似合いな店
サンタの帽子を被った店員の案内で角のテーブル席に向かい合わせに腰を下ろす。
「やること強引すぎない?」
「そうか?」
「社長怒ってないかな…。」
「ないない。オレの個人情報バラした罪を背負ってんだから怒るわけにいかねーから。」
コイツはいつまでも落ち着かない。オレの様子を気にしながら店内を見渡している。
オレも最初のうちは会話も間も探っていたが、ここまで来て気まずく過ごしたくはねーと、先々注文しテンション高めに接した。
「焼鳥うまっ。お前も食えよ。」
***はしばらく口をつぐんでいたが、
「鴻上くん。」
「ん。」
意を決したようにオレを見つめ直し、
「昨日は…出過ぎた真似をしてごめんなさい。」
そう言って頭を下げた。
「この前、鴻上くん言ったじゃない?『お前は知ってるだろ』って…。私、覚えてる。高校の時お父さんのこと話してくれたよね。」
静かな口調に…話の重さを感じはしたが、
「悩んでいたことも将来の仕事に教師を選んでいたことも…その高校の条件も覚えてる。それなのに、大和の指輪を見て私、既婚者だって決めつけて…まさか偽装なんてそこまで考えつけなくて。」
『大和』…か…。
不意に名を呼ばれ ぎこちなさが溶けていく。
「大和はただ久しぶりって声をかけてくれただけなのに、私随分ひどいこと言ったし、接し方も失礼だった。本当に既婚者だとしても…言い過ぎた。…」
「…。」
…ああそうだ、オレコイツの茶色がかった目がすげー好きだった…。
***は言葉を選びながら慎重な面持ちで話している。それなのにオレは、コイツが目の前にいることに不思議さを感じ、
この表情も…目の下のホクロも潤んだ瞳も なぞるように見つめてしまっていた。
「社長からも大和は独身だって聞いたの。謝りたくて…でもお店に来ないし、社長に無理言って昨日…」
噛みしめる唇まで見つめちまう。俯いた***に手を差し伸べそうにまでなる。
「でもまさか、恋人と暮らしてるなんて…」
「は。」
すぐにその手を引っ込めた。ああそうだ、勘違いはまだ…。
「私、距離感どうかしてるよね、本当にごめんなさい。モメたでしょ?おでん持って行っちゃったし…図々しいっていうか、相手の都合考えてないっていうか…」
「いや、気にしなくていい。アイツはそんなんじゃねーから。」
「いや、もうそんなウソ…」
「従姉だ従姉。」
「…え?」
やっと全ての誤解を解くことができる…オレはもう笑っていた。
「職場から本当に既婚者なのか疑われててさ。家にまで来るんだ、嫁がいるかどうか確認に。それで時々、従姉に来てもらってる。」
「ええ?」
「しつこい教頭がいんだよなー。」
***は目を丸くしているが 事実なんだからどうしようもない。信じてもらうしかなかった。
「嫁のふりだ。恋人でもなんでもねーよ。」
「いとこ…嫁の…ふり?」
「ああ。おでんすげー美味かった。ねーちゃんも喜んでたよ。」
***は戸惑っていた。真に受けていいのか…そんな面構えだ。だからオレは、
「訳あって既婚者のふりをしているが、正真正銘独身だ。一人暮らしで恋人もいない。それが今のオレ。」
またグラスを合わせた。
「オレの現状は以上。次はお前のことを教えてくれ。」
***はしばらく考え込んでいたが、目の前の到底ウソをついているように見えない食いっぷりと飲みっぷりに気が抜けたか
「…既婚者のふりはしてるってところは違うけど、」
信じてくれたんだろう。フッと笑い、答えた。
「以下は大和と同じ、です。」
・・・・
オレ達の再会 色々ゴタついたが、誤解は解け笑い合えた。
昔話から始まり引越したあとのこと、仕事のこと久仁さんとの関係やヒカリのこと…盛り上がって時間はあっという間に過ぎる。
「美味かったー。」
「うん、美味しかった。」
一度壊れたものが元に戻るのか 分からない。それをオレは望んでんのか…それもまだ分からない。
…だけど、
「ごちそうさまでした。」
今***が目の前にいる。それだけで、
もう十分過ぎるほどオレの心は温かく満たされていた。
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