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「すごいー…。」
夜空いっぱいに打ち上げ花火が咲いていた。
赤、青、金色
一瞬で夜空を染め上げ 遅れて届く音が胸を震わせる。
「電話だれ。」
「あ、ジョージさんだった。なんだろ…あとでかけてみるね。」
いっちゃんに連れられた場所は 神社の裏手を上がった先の小高い丘。
先客が数組いるけれど、絶妙な距離感と街灯もない闇の中では顔も分からないし声も聞こえない。まるで二人きり 花火を独占していると勘違いしてしまいそうだ。
「こことかどうかな?」
「ああ。」
腰を下ろせる場所を花火と携帯の灯りで探し 大きな木の根元にシートを敷く。
「うわ、よく見える〜。わぁ…。」
視界を邪魔するものはなにもない。私は口元に手を当てたまま感嘆の声を上げた。
こんなにしっかり見たのって初めてかも…。
花火が消えると暗闇に戻りまた次の花火が咲く。
「キレイだね。」
そのたびに隣りのいっちゃんを見たけれど、
「ねぇ、ちゃんと見てる?」
彼は空を見上げてはいなかった。見ている風だけど向ける視線の高さが違うというか、
「…なぁ。」
「ん?」
…つまらなそうな顔をしているというか。
「どうしたの?」
いっちゃんは一度だけ空を見上げそれから私を見た。そして少しだけ言いにくそうに続けた。
「花火見たらさ、担任のこと思いだした?」
「え?」
え…
「プッ…図星かよ。マジでお前分かり易すぎ。」
彼の指摘に自分の笑顔が強張ったのが分かる。いっちゃんは私の戸惑いを見過ごすことはせず、
「出会いが夏祭りなんだろ。今日も…携帯は落とすし花火は上がるし、似たような状況じゃね。」
そう言って笑って。
「…。」
どうしてそんな事言うの…。
いっちゃんの笑顔の意味が分からなかった。そして彼の言うことがまさに図星で、それを隠し通せなかったことを悔やんだ。
だって今夜は 二人で純粋に花火を楽しみたかったから。先生に恋に落ちたあの夏の夜とは違うし思い出すこと自体が彼に対して失礼なことだと分かっている、それなのに、
「…。」
否定したいのに、違うとは言えなくて。言ってもきっと見透かされてるって、
「…うん。少し。」
空を見上げながら答えた私は…いっちゃんの目にどう映ったんだろう なんて…。
「花火を見ると…やっぱり思い出しちゃうかな。」
「…そか。」
「でもね、」
目を合わせた。私は笑顔で伝えた。
「今は、いっちゃんのこと考えてる。」
…それも本当だから。
いっちゃんの一瞬 驚いた顔を見て見ぬ振りをし、私はまた花火に目を戻す。
「いっちゃん、見ようよ。」
こんなことで二人で過ごす時間を切ないものにしたくなかった。
「キレイ…。ねぇ、花火ってすごいよね。」
二人で同じ空を見上げたかったから。
「こんなに長い時間空を見上げること普段は無いじゃない?花火とか…あとは、」
…あとは、
「…星、とか…」
そう声にした瞬間、肩を抱かれた。彼のほうを向いた時、
え…
重ねられた唇に 目を見開いた。
え…。
・・・・
「これで次に花火を観た時 俺を思い出すだろ。」
動けなくなっている私を優しい眼差しで見つめる。
「思い出の上書きっつーの?」
…いっちゃんは先生のことを忘れろとかそんな事言わない。怒ったり、しない。その代わりに彼自身を私の胸に焼き付けるんだ。
「花火イコール俺、的な。」
「…なにそれ…」
不意に泣きそうになって思わず笑った。そうしたらいっちゃんも笑って、
「バカ女。」
…またキスをして。
・・・・
彼の言うとおり 花火を見ても先生を思い出すことはもう無いと思う。きっと私は、
「花火…見ないの?」
「優先したいことがあるから。」
この夜を思い出すんだ。
彼の手が私の頭を抱く。花火の上がる音が胸に響く。遠くに歓声が聞こえる。
「ヤバ…止まんね。」
「バカ…。」
夜空を飾る花火が上がり終わるまで 私たちはキスをし続けた。
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