サンタマリア:21 (怪盗X:Long:柳瀬流輝) | ANOTHER DAYS

ANOTHER DAYS

「orangeeeendays/みかんの日々」復刻版

ボルテージ乙ゲーキャラの二次妄想小説中心です
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日々の出来事など。

皆様良いお年を。

 

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「『鈴蘭』、ごめん。」

 

「達郎が謝ることじゃないよ。私に…謝る事でもないよ。」

 

達郎が博物館を訪ねてくれたのは『鈴蘭』が盗まれた三日後の事。

 

天気は下り坂の予報だった。閉館前の時間だった事もあり外はどんよりと薄暗くて。

 

だから館内の中庭を見渡せる長椅子に肩を並べ座る。

 

「『花水木』…搬入は今月末だったよな。」

 

ふぅ…と椅子に凭れる達郎は仕事の合間に寄ってくれた様

 

『桜』に続き『鈴蘭』までも怪盗ブラックフォックスに盗まれた。『花水木』…やっぱり狙われるのかな。

 

「博物館の警備を上司に願い出たんだけどさ…大正のダビンチの名画は他にも沢山あるだろ。『桜』『鈴蘭』の次は『花水木』だっていうその理由っていうか…その三つを繋げる何かがあるのかって言われてさ…」

 

「…だね。私が勝手に『桜』『鈴蘭』『花水木』これはセットだって言ってるだけだものね。」

 

この三つの絵画は確かに名画ではあるけれど、曾おじいちゃんの名を世に知らしめたのは『椿姫』という絵画。

 

だけれどそれは行方知らず…警察はそれこそが怪盗ブラックフォックスの目的だろうと『花水木』の警護ではなく『椿姫』の行方を探し始めているらしい。

 

「闇ルートに流されたというより大正のダビンチ自ら何処かに隠したと言われてるよな。俺達警察かブラックフォックスか、どっちが先に見つけ出すか…」

 

もう何十年も前の話だからな…

 

そう呟き達郎は頭を抱えた。私はその姿に微笑み返した。

 

「私的にはもうどっちでも良いかなって。」

 

「え?」

 

「曾おじいちゃんは天才だよ。彼が描いた絵画だもの。盗難を繰り返されて…それもまた運命めいていて凄いって感じ。」

 

「だけどそんなの見す見す許すわけには…」

 

「それはそうだよ。だけどあのまま富豪だとかIT社長だとかが持っていても曾孫の私は観る事は出来なかったわけだから。ブラックフォックスが盗んで行方知らずになっても…一緒かなっていうか。」

 

カタ…

 

私は納得のいかない達郎に笑いかけ腰を上げた。そしてう~んと背伸びをし

 

「私はただ…曾おじいちゃんの絵画が金儲けの為に利用されるのがイヤなの。」

 

そう伝える。そして

 

「だから…怪盗ブラックフォックスが闇のルートに曾おじいちゃんの絵画を流すのだとしたら許せないって話。それだけなの。ホントそれだけなの。」

 

そう強い口調で言い…ふぅ…と息を吐いた。

 

「なんて…私みたいなただの学芸員には何も出来ないから達郎に恨み辛み話すだけだけどね。」

 

パンチくらいはしちゃいたい気分だけど。

 

そう言い右フックを打ってみせる。そんな私を達郎はクスッと笑ったけれど

 

「ブラックフォックスは単独犯じゃないんだ。数人いてさ。」

 

「なんとなくそんな感じ。」

 

「ああ。そのうちの一人が『鈴蘭』盗難時にケガをしている。」

 

「え、ケガ?」

 

「と言っても服の上からじゃ分からない。骨が折れてりゃ別だけどな。」


達郎は自分の右肩を擦りながら立ち上がった。

 

「ケガをした奴がリーダーらしくてさ。『リーダー危ない!』と仲間が叫んだって。誰かを庇っての負傷らしい。『桜』の時もさ、警護と連中が殴り合っているんだけど、それもそのリーダー一人で五人を相手したらしいよ。仲間を先に逃がしてさ。」

 

「リーダー、立派じゃん。」

 

「だな。顔を殴ったって言ってたけど口が切れた程度じゃ見つけ出せない。」

 

シュッ…

 

私とは違う力強い右フックをし 達郎は私を見つめた。

 

「怪盗ブラックフォックスのチームワークは完璧。万が一辿り着いたとしても裏は作っているだろうし誰も口を割らないだろうな。」

 

「そか。」

 

「…なぁ***。」

 

「ん?」

 

ポン…と達郎は私の頭に手を乗せる。そしてまるで子供を慰めるかのような優しい眼差しで私を見つめた。

 

「『花水木』は俺が守る。」

 

「…うん。」

 

「任せとけ。」

 

「フフ。うん!」

 

達郎の優しさに胸が温かくなる。そして大事な友人を苦しめる怪盗ブラックフォックスをまたこの時憎たらしく思う…。

 

「今月末、搬入は閉館後だったよな?確か20時…」

 

「あ、それがね…」

 

言いかけた時、だった。

 

「○○さ~ん。閉館の時間ですよ~。」

 

「え?」

 

鴨野橋くんの声…っていうかお客さんは確かにもう居ないけれどそんな大きな声で呼ぶ??と頬が引きつった。

 

「じゃ、***、また。」

 

「あ、うん。」

 

達郎は私の頭を撫で不機嫌な鴨野橋くんの脇を通り入り口に向かう。その時視界に

 

「え…?」

 

今 達郎とすれ違った人…

 

「また先輩にお客さんですよ。次から次へとホント…」

 

「流輝さん…?」

 

こちらに向かってくる人影を目にし 自然と頬が熱くなった。

 

「よ。」

 

「どうしたの??」

 

ドンッ

 

「ちょっとぉ」

 

鴨野橋くんにぶつかろうとお構いなしに流輝さんに駆け寄った。

 

「もう閉館だろ。帰ろうぜ。」

 

「迎えに来てくれたの?」

 

「ああ。…それより…」

 

チラッと振り返り 遠い廊下の先を歩く達郎を見つめる。

 

「誰だ?」

 

「ああ、幼なじみの達郎。刑事をしてるの。」

 

「刑事?」

 

「怪盗ブラックフォックスが『花水木』を狙うんじゃなかろうかと。迷惑な話だ。」

 

「ちょっと鴨野橋くん勝手に話に入らないでよ。」

 

鴨野橋くんとバチバチ視線をぶつけていたから気づかなかった。

 

「…幼なじみね…」

 

流輝さんがいつまでも達郎の背を見つめていたことを。

 

 

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