第3章 新たな夢への旅立ち (2)
18時15分嫁島が見えてきた、嫁島というからさぞ見目麗しい島かと思っていたところ、暗に反して柔和なところもあるがいかにも気の強そうな、近寄りがたいところもあり、全体としては毅然とした嫁という感じのする島である、突然藤次郎氏が「やはり嫁はこのように硬軟両方の雰囲気を持つものなのかな」としみじみわが身を思うように遠くを見つめながら言うではないか、私も吊られて「そうだな優しいだけでは嫁も勤まらないよ」「だけどこの嫁はどちらかといえばきつい部類に入るね」しばらくこの話でもちっきりになった、それにしても、この島を嫁島と命名した人もよくよく考えてつけたのだろう、なぜか分かるような気がするのである、二人でひどく感心した。
7月30日今日は一日何も見えない海の上をひたすら走る日である。針路は鳥島、あのアホウドリの生息する島である。海は穏やかで見渡す限り青の海と青の空、時折、面白い形状の積乱雲を見つけることがある。発達している積乱雲は海面から水蒸気を吸い上げ、吸い上げた水蒸気が雲となり、積乱雲へと成長し、飽和状態になった雲が一挙に雨となり海面に吹き降ろす、その過程が今目の前で起こっている、「自然てすごいなー!」の一言である。
あの雲の下に入り込むと大変なことになる。遠くで見ている分には良いのだが、今そのような積乱雲の柱が何本も鬼平Ⅱの周りに立ち上がっている。ともかくその柱に近づかないよう針路を微調整しながら進む。明日はいよいよ鳥島である。
7月31日4時59分鳥島を遠望する。想像していた島より小さい、なだらかな形状の島である。アホウドリはどのあたりに生息しているのか目を凝らしてみるも、みあたらない。吉村昭著の『漂流』といったような本を読んだことがある。昔船が紀伊半島沖で難破し、何日も漂流してこの島に漂着し、アホウドリを食料にして救助をひたすら待つといったストーリーだったと思う。そのあたりからこの島のアホウドリの絶滅が始まっていたのではないかなどと、変な想像をしてしまう。実際にはその後の乱獲によるものであるが、今は必死に絶滅の危機から救おうと努力し、絶滅の危機を脱するまでに至ったようである、結局アホウドリの姿さえ見ずに鳥島を後にする。
15時21分大海原の一点に奇妙な突起物を認む、近づくに従いそれこそ海に突然突き出てきた岩、それが須美寿島である、この周辺は海溝になっており、何千メートルの海底からちょこんと顔を出している岩が須美寿島であり、それこそ棒でたたいたらポキット折れてしまうのではないかと思われるような岩の固まりである。
須美寿島を真近に見て、私は思わず、「大海原にひとつだけ取り残されているようで、寂しいだろうな、人恋しいのではないか、夜になると泣いているのではないか」そんな気持ちにさせられてしまうような、島であった、我々は何故かその島と別れがたく、子供を宥めるようにしばらく島の周りにとどまっていた。
16時21分、むずかる須美寿島を離れる、振り返るのがとてもつらく、心を鬼にして次のウェーポイントに針路を取る、途中一回だけ振り返ってみた、なんと寂しそうな、たたずまいではないか、絶海にまた取り残されるんだね、子供の頃、両親の帰りを、一人ぽつねんと待っていた、あのなんともいえない寂しさを、思わず思い出してしまう光景である。来年また来るからそれまで元気にしていてほしいと祈りつつ、船足を速める。もう夜がそこまで来ている、明日の朝には青ヶ島を見る位置に到達していると思われる、但し今回最も近寄ってみたかった島にベヨネーズ列岩があったが、丁度真夜中頃ベヨネーズ列岩付近を通過することになり、今回は残念であるが接近してみることはあきらめた。





