第3章 新たな夢への旅立ち (3)
8月1日、10時06分、往路で近づけなかった青ヶ島を望む位置に到達した。青ヶ島を右舷に見ながら、いよいよ復路、最初の寄港地の八丈島を狙う。青ヶ島から八丈島まで2時間程度の距離である。もうすぐ八丈島と思うと何故か心がうきうきしてくる、いよいよ八丈島への最終アプローチへと進んだ。
青ヶ島を右舷後方に望む地点で巨大な潮流域に突入した。青ヶ島の方向から八丈島の西の方向に流れる、幅の広い激流が荒れ狂っている。いたるところに三角波が出来、小さな船ではこの潮流は乗り切れそうにない。鬼平Ⅱは次から次に襲いかかる波を切り裂き、まきあがる波の飛まつを浴びながら、確実に自分の向かう針路を保持している、頼もしい限りである。
八丈島に少しでも近づくにはその激流を斜めに横断していくのが最も良いが、時間は多少かかるが、激流を真横に横断して先ず潮流域を脱して八丈島を改めて狙い直すと言う手がある。はるか遠くに全く波のない穏やかな海域がチラッと見えた。やはり真横に横断して体制を立て直した方が安全であると判断し、船首を八丈島と平行になるように向け穏やかな海域へと避難する。
最初に見えたのが八丈小島。雲をかぶっており、往路に見た小島とは一味違った厳しい雰囲気をかもし出している。例の潮流は八丈小島を取り巻くように流れ、さらに西の方向に流れているようである。穏やかな海域からその流れを見ると海面が1~2メートルくらい盛り上がった流れとなっているようで、つくづく自然には驚嘆させられる。
12時52分無事八丈島神湊港に入港。4日振りに地面を踏みしめる。早々に町へ繰り出した。一軒の私好みのひなびた居酒屋があり、藤次郎氏とその店に飛び込み、手当たり次第に注文した、八丈島の焼酎を腹いっぱい飲んで、美味いものを食べ、幸せ感に浸り、ふと気が付くと、店の若女将がこちらを向いてニコニコしているではないか、我々の食べっぷり、飲みっぷり、むさ苦しい格好を見てのことだと思う。
美人ではないが何か語りかけてくるような顔立ちをしており、私の好きなタイプである。よけいなことではあるが、私の美人観はただ顔かたちが整っており、人から美人であるといわれるような人でも、顔から何も語りかけてこないような美人は私の美人観から外れる。もっとも私が勝手に考えていることで向こうから言わせれば何を勝手なことをしゃべくっているのだと言うことになる。
で、その女将の気を引こうと、思わず、必要以上に話しかけてしまったものだ、うん、なんていうか青春の一ページを捲っている様な気持ちかな、でもなんか空回りしているような気もした。近いうちにまた訪れてみたい。
8月2日5時32分最後の寄港地三宅島に向かう10時間の行程である。一気に下田を狙うという考えもあるが神子元島周辺で夜になり、大型船の航路を何本も横切ることになり、非常に危険なので、あえて無理をせず、三宅島に一泊して、翌早朝下田を狙うということにした。
15時過ぎには三宅島阿古港には入れるはずである。途中御蔵島沖で船尾から釣り糸をたれ、カツオを1匹吊り上げた。今回の航海で、釣果はその1匹だけであったが、これがまた実に見事なカツオで夕食の食卓をいっそう豪華にしてくれた。ここまで来るともう家の庭のようなもので、天候さえ悪くならなければ明日は無事下田に帰港できる。嬉しいのとみんなに迷惑をかけたことへ、どのように弁明したら良いのかなど、まだ帰港前だというのに頭がごちゃごちゃである。
14時37分三宅島阿古港に接岸。久しぶりに温泉に入りゆったりした気分を味わう、2週間ぶりの風呂である、髭も伸び放題、石鹸で体を洗うのも出航以来である。日焼けで真っ黒、三宅島の人たちが色白に見える、ともかく2週間ぶりの垢を落とし、明日に備える。夕食は例のカツオが出てきた、美味しかった。




