1979年12月13日の朝、つまり全斗煥らが12・12クーデターを起こした翌日。朝刊各紙の一面や社会面には、前夜に首都ソウルで漢江の橋が遮断され市内に軍隊が展開するという事件が起きたことが大々的に報じられた。
『東亜日報』の社会面の記事(右上)はこんな内容だった。(手動でスクロール)
漢江の南北遮断5時間 漢江の橋、車両通行禁止に
会社帰りの市民が歩いて橋を渡る
路肩の車の中で徹夜も
帰宅できなかった人は旅館の相部屋で
12日午後7時、ソウル龍山区漢南洞の鄭承和参謀総長公館に出動した軍の捜査機関員と、公館の警備兵との間で起きた衝突で、この一帯をはじめ、ソウル市内の11の漢江橋の交通が遮断され、江北から江南へ退勤する多くの市民が足止めされ、橋を歩いて渡る事態になった。 また、橋の上や道路の左右に車を止めたまま、車の中で仮眠したり、徒歩で帰宅して13日未明になって車を取りに戻るなど、明け方まで交通混雑をもたらした。
この日の夜8時頃から漢南高架道路北端と檀国大学校の間、奨忠洞から国立劇場の間、薬水洞ロータリーから漢南洞の間の道路が軍と警察によって遮断され、夜11時頃にはソウル市内の南北をつなぐすべての橋梁の車両通行が禁止された。
このため、すべての車両が足止めされ、夜間通行禁止の0時が迫る中で、橋の左右の江辺道路などには数千台の民間車両が停まったままで、人々は車から降りて歩いて橋を渡ったり、車の中で夜を明かすことになった。
漢江の南北をつなぐ橋は、車両通行の禁止から5時間後の13日未明4時、通行禁止の解除とともに車両通行が再開された。
橋の上と両側で足止めされていた数千台の一般車両は、通行禁止時間中にもUターンが許されており、明け方4時の通行再開と同時に一斉に動き始め、普段見られないような慌ただしい夜明けとなった。
この日、漢江橋の車両通行が突然禁止されると、帰宅できなかった永同、蚕室、永登浦、金浦などの地域の住民は、徒歩で橋を渡って1〜2時間かけて家に戻ったり、橋の近くの旅館などにも宿泊した。この夜、マスコミ各社には「橋の通行が遮断されているが、何かあったのか」といった問い合わせ電話が明け方まで相次いだ。
外国の新聞・通信社もこの事態を大きく報じた。『読売新聞』もソウルの島元特派員発でニュースを伝えた。
読売新聞1979年12月13日夕刊
【ソウル十三日! 島元特派員】
鄭戒厳司令官逮捕という衝撃的な事件のあと、一夜明けた十三日のソウル市内には、戦闘服、自動小銃で武装した兵士の姿が増え、特に中央政庁舎などのある中心部では、緊迫した空気がみなぎっている。だが、十二日夜には一晩中戦車がごう音をあげて走り回っていたのに、十三日は一応は静かな表情を取り戻している。
ソウルのど真ん中太平路の中央政庁舎の周囲は、前日まで警備を担当していた首都警備司令部部隊とは違う部隊が配置されている。戦車二十台、装甲車八台と、その数も増強され、無反動砲を装備したジープが庁舎の表裏双方の出入り口に配置されて、一層いかめしい印象を与えている。
一般の市民はいたって平静で、商店や会社も平常通りの営業を行っている。ただ、十二日午後八時に、ソウルのビジネズ街と居住区をわける漢江の十二の橋が突然通行禁止になったため、市民は自動車を放置して徒歩で帰宅したり、あわてて旅館にかけこんだり、車内で一夜を明かす人も多かった。橋の通行止めは十三日午前五時に解除されたが、市民たちはようやく朝のラジオ放送で通行禁止の理由を知り、納得するとともに「またか」との深刻な表情をも隠していない。職場では少しでも情報を得ようと、ニュースの時間のたびにラジオの周囲に人が集まるが、放送は国防相談活を繰り返し流すだけで事件の詳細についてはまったく報じていない。
米軍人外出控えよ
【ソウル十三日=島元特派員】
グライスティーン駐米大使は、十三日午前、ソウルの米軍放送を通じて、外人学校を十三日は休校にしたことを伝えるとともに、アメリカ人は不用な外出をしないよう呼びかけた。ウィッカム駐韓米軍司令官も同放送で、米軍人とその軍属に対し、外出をひかえるよう呼びかけた。
一夜明けた13日に伝えられた国防部長官の声明で明らかになったのは、陸軍参謀総長で戒厳司令官だった陸軍大将鄭昇和が拘束され、李熺性がその後任に任命されたことだけ。12月12日の夜に一体何が起きていたのか、一般市民は知りようがなかったし、この事件に関与した当事者の多くもまた、この時点では前夜起きた出来事の全貌を把握していたわけではなかった。
その後、1987年の「民主化宣言」があり1993年には「文民政権」の金泳三大統領が誕生し、紆余曲折を経ながらもこの12・12の「真相究明」と「責任追求」が行われるようになった。その過程で明らかになった事件の経緯を再構成して、テレビ各局がドキュメンタリー番組を作り、ドラマ化されて「コリアゲート」(1996 SBS)や「第5共和国」(2005 MBC)などが放映されてきた。
2023年11月に韓国で公開された映画「ソウルの春」も、この12・12事件を素材にして脚本が書かれている。再現劇ではないので、登場人物は微妙に仮名になっているし、場面描写やセリフには当然ながらかなりの脚色が加えられている。実際にはなかった場面も挿入されている。この映画は、韓国で1,300万人以上の観客を動員し、韓国人の4人に1人が観たとされる。今年の5月からは韓国のNetflixでも公開されており、2024年8月23日日本でも公開。







