【こぼれ話】韓国トイレ事情 | 一松書院のブログ

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 「トイレットペーパーは便器へ」というキャンペーンに気づいたのは、数年前のこと。これはちょっとショックだった。

2015年7月撮影 ヨイナルの地下鉄駅トイレで


 「韓国に入国したらトイレットペーパーは横のクズカゴへ」という切り替えができるようになって、「俺も一人前だ」と思ってから相当な時間がたっていた。韓国に学生たちを連れて行く時には「便器に捨てるんじゃないぞぉ!!」と繰り返し言ってきた。それが根底から覆される事態が起きた。「ちゃぶ台返し」ならぬ「便所のクズカゴ返し」に等しい大異変である。
 

 使った紙を横のクズカゴに入れるというのは、日本社会で育った学生にはすごい抵抗感があったようで、「いやぁ、これはできないっすよぉ!」「流しちゃいました」といっていた。学生に限らず、中高年の世代でも結構ダメで、日本人客の多かった河回マウルの「チョヨンハンジップ」では、便所の詰まり解消の手伝いをしたことが何度もあった。
 

 1990年代の半ば、うちの大学が初めて韓国人学生の短期留学を受け入れた時、留学生寮の管理人から、トイレの汚物入れ周りに使ったトイレットペーパーが毎日山のように捨てれられいるというクレームが来たという事件もあった。
 

 日本の学生がクズカゴに捨てられないように、韓国社会で育った大学生には、たとえクズカゴがなくても便器に流すというのにすごい抵抗があったのだと思う。それ以来、オリエンテーションでの最初の注意に、「トレイの紙は必ず便器に流すように」という項目が盛り込まれた。

 ブログにも書いたが、朝鮮半島で水洗便所が設置されたのは植民地統治下の1930年代半ば。ビルなどに設置されたが、下水道が不完全であるうえ浄化槽もないまま糞尿を流すというので、不衛生だとして規制された。
 解放後、朝鮮戦争前の1949年にソウル市長が、東和百貨店(旧三越)前、鍾路、世宗路の3箇所の公衆便所を水洗式にするという指示を出したという記事がある。

浄化槽をつけたのかもしれないが、下水道の整備が進んだ結果ではなさそうだ。1963年段階でも、水洗化されつつあったトイレの多くに「不備」「違法」が多いとして、取り締まりが行われたりしている。

 

 とはいっても、流れ(トイレの「流れ」ではなく時の「流れ」)は水洗化で、1967年に完成した軍人アパートは水洗便所完備だということで、大韓ニュースでもその映像が紹介されている。軍人アパートは、旧日本軍射撃場跡に建てられた軍人用官舎で、現在の南山3号トンネルの南側出口横、南山テリムアパートのところにあった。

左は「KakaoMap」(2019現在)右は「大京城府大観」(1936)


 韓国でトイレの水洗化が一気に進んだのは、1973年の「便所改良条例」の制定によってである。この条例によって、暗渠になった清渓川などへの糞尿の垂れ流しを抑止するとともに、1981年までにソウルのみならず全国的にトイレを水洗式にすることが目指された。


 

 つまり、下水道が整備されるといったインフラ整備の進捗の結果としてではなく、トップダウンの「政策」として水洗化が押し進められたものであった。セマウル運動で、農村でも便所を改修すると水洗の洋式便器が据え付けられた。しかし、使い勝手が悪いのでみんな在来式のボットン便所しか使ってないという笑えない記事もある。

 

 それで思い出したが、1976年に慶州に行って旅館に泊まった。トイレは外にあったが、水洗だった。入るときに、そこの主人から何か言われたのだが、韓国語がわからなかったのでそのまま入った。すっきりして、紐を引っぱったら頭上のタンクから水が溢れ出してびしょ濡れになった。きっと気をつけろと言ってくれたんだと思う。やっぱり言葉はできた方がいいと切実に思ったし、それ以来、上にタンクのある水洗トイレの紐は濡れない位置に移動してから引っ張るようになった。
 
 ちなみに、1973年、日本では第1次オイルショックで「トイレットペーパー」がなくなるというので大騒ぎになった。この時点で、日本では「紙は便器に流すもの」になっていた。ただ、新聞紙を使っていたという「記憶」だけはまだ残っていたようだが、汚物と紙(トイレットペーパー)は水で流すもの、これが「文明」だという刷り込みができていたのであろう。


 その一方で、韓国では水に流すトイレットペーパーを想定しない、糞尿だけを水に流す水洗式便所へと邁進したのだと思われる。80年代の韓国のトイレットペーパーは、日本と同じような水溶性のものもあった。しかし、その一方で、灰色のごわごわしていて「新聞紙よりはまし」のようなトイレットペーパーも多かった。

 80年代、90年代の日本のガイドブックなどで、「使ったトイレットペーパーは便器に流さず備え付けのくずかごに入れること」などという記載はほとんど見たことはない。ただ、ある程度のリピーターになると、「流さずクズカゴに捨てる」というのを知っていることが知韓派のステータスになってたように思う。知っている人は、やや自慢げに語るものだった。

 今後、韓国のトイレの大きなクズカゴは急激に姿を消し、トイレの紙は便器に流すのが当たり前になるかも知れない。と思うのだが…。地下鉄の駅からクズカゴがなくなったという最初のステッカーの写真を撮ってすでに4年。

2018年3月撮影

 

ということは、なかなか流してくれないということなのだろうか。ホテルとかでは結構まだドーンと大きなクズカゴが置いてある。で、どこに捨てればいいかと思い悩むのだが。