あっけなかったが、話しを聞いてくれたことは嬉しかった。


普段相手にもしない私に何故か付き合ってくれたのだ。


たわいもない進路相談だったのだけど。



よくあんな生き方ができると思う。


淳のような人は一体どんな大人になるんだか。


いや、大人になるまで生きていられるのだろうか。


平凡な私には到底真似でいない生き方だ。




少なくとも、卒業した後、学校に来て後輩をイビルような人にはなって欲しくない。


やはり、スターみたく活躍するのかな。



私も才能が欲しい。


何か一つでも突出した才能が。


こんなに節に思ったのは初めてだった。



体中砂だらけだ。


とりあえず、シャワーを浴びて、着替えることとした。


ソファーに座り携帯の着信履歴を見直す。


待ち合わせしたとき、淳から掛かってきた履歴が3つあったのがすごく嬉しかった。


杏には悪いなとは思うが、


携帯をおでこに当てながらしばし、目を閉じてみました。



朝5:30。


朝刊がいつも通り乱暴にポストへ押し込まれた。


家族が起き出すにはまだ時間があった。


眠りたくない私は、大して読む部分もない新聞を引っ張り出し、


テレビ欄を眺めてみた。



無造作に新聞をテーブルへ置くと、一面はデカデカと派手な記事が踊っている。


とある忌まわしい事件の一周忌を報じたものだった。



一瞬だけ付けたテレビでは、遺族が泣き崩れ、報道陣のフラッシュがたかれていた。



私はすぐに消した。



サイレンが木霊している気がしたからだ。


玄関を開けて耳を澄ます。


再び砂だらけのサンダルに足を入れてしまった。


空はもう7割方明るかった。



全くもって空耳のようでもある。


そうかと思うと、遠くから聞こえるサイレンのように聞こえなくもない。


色んな雑音を疑ってかかった。


耳のフィルターが故障しているようだ。


真っ当な心理状態ではなかったのだろう。


幻聴であってほしい。




ずっと耳をすましていた。


一個尖った音が耳に入った。


間違いなくサイレンだ。



時計を見ると親が起き出す時間が迫っていた。


外出は避けたい。


私は再びテレビを付けては、すぐに消した。


こんな番組、親に見せたくない。


テレビをぶっ壊して見れなくしてしまいたい気分だ。



私は言い訳は後で考えるとして、自転車の鍵を持ち、外へと飛び出した。



大好きな淳の家の方向へ懸命に自転車を漕いだのだ。


あれ以降、耳には確実なサイレン音は入ってこない。


フワフワした幻聴らしきサイレンばかりが耳に残る。


頭はどうかしていた。




淳の家に着いた。着いてしまった。


とても静かだ。


辺りもザワついている様子はない。


いつものポジションに淳のバイクは無かった。


どこにも無いのだ。


まだ家に帰ってないのだろうか。



私は携帯を居間のソファーに置き忘れてきていた。




第15話に続く














私は立ち止まったまま聞いた。


『で、あの子なの?』


『あぁ、まぁ。』


『かわいいじゃん。密かに付き合ってたりするの?』


『そんな風に見えた?』


『いや・・・全然。』


『やっぱ一緒にサーフィンできる人が好きなの?』


淳が私の顔を見た。


不思議そうな目で私を見る。


(何言ってんだよ、実は好きなのはオマエのことなんだよ?)


この淳の眼差しを、そう受け取りたかった。


そのまま店を出てしまった。





『あぁ、あっちじゃねぇ。』


淳は少し間を置いて、ぶっきら棒にそう答えた。


目ぼしき乙女はレジの方の子だった。


単車のエンジンがかかり、私はいつものごとく後ろで淳に掴まる。


さっきまでのように体を密着させられなかった。


淳には伝わっているのか?





このコンビニに行って以降、単車の排気音が先ほどよりもウルサイものだなと、


認識が変わり始めていた。


私って単純。


髪の毛が滅茶苦茶になるのがいやだったので、スカーフを頭に巻いた。


レジの子は、コンビニには不釣合いな、サロンにいそうな子だった。


あんな僻地のコンビニにいるなんて反則だ。


原宿とかに行きたいと言出だしたのは、このこともあってなのか。


ヤカマシイ単車はトンネルを抜けると、朝日を浴びた。


朝日の中でも、本当に朝一番の薄っすらとした優しい朝日だ。


最高に気持ちが良い。


頼むから警察が現れないで欲しい。邪魔されたくない。



珍しく信号で止まった淳は、ビニール袋をまさぐった。


振り返り何だと思う?と問うような、意地悪な質問をぶつけられた。


アタフタするのも格好悪いと思い、平然を装った。


『あれでしょ、ドーム。』


『・・・・、正解!』


私の大好きなグミとチョコが同時に口の中に入れられた。


複雑な気分だが、嬉しさが少し勝った。


自然とオデコが淳の背中にくっついた。





私の家の前で単車は止まった。


私は聞いた。


『もう部活生活ともオサラバしたことだし、午後からでも、原宿行ってみる?』


『あー、とりあえず寝て、みて、からだな。』


とりあえず寝たいらしい。男って結構すぐ疲れる生き物みたい。



『お前の家デカイな。寝に行っていい?今から。』


『親いるし。アンタ誰って話になるよ。』


『うーん、Hしたいな、お前と。』


『最低~。』


『チェックチュしませんか。』


『かわいくないから、キモいし。淳だったら誰とでもできるでしょ?』


『だめかぁ、ホントお前つまらん。ノリ悪っ。それじゃ進路もおぼつかんね。』


淳が本気かどうか、私には分からない。


きっと杏とは何度も愛し合ったんだろうな。



『あの子とは?コンビにの。』


『だから何もないよ。付き合ってもいないし。』


『じゃあ、得意のナンパでもしてお願いすれば?』


『あー、あぁ、まださ、話したことないんだ。』



私よりこの子への方が全然本気じゃないか。


心の中でバーカと言ってみた。



振り返れば淳はもう走り出していた。



こっちまでジンジン響いてくるようなエンジンの音だった。



正直、あっけなかった。




第14話に続く。

昨秋の事件の幕開けはこんな感じだった。


普段全く思わないくせして、この時ばかりは、正直、普通の人間でよかったと思った。


そのぐらい周りの派手な連中は悲劇的な事件を起こし、


そして巻き込まれたからだ。



それでも、私も皆も、Life goes on. 


背を向けて過ごした。


恋愛も失恋もし、恥をかいたり、悲しくて思いっきり泣いた時もあった。


力を誇示して殴りつけた教室にある木製の掃除用具入れには穴があき、


沢山の進路資料の入ったカラーボックスにも幾つものヒビが入り出した。


全細胞が入れ替わったかのように水泳に没頭し、


全ての大会を終えた。



季節は今、一回りしようとしている。





昨夜、閉店間際のカフェで軽くご飯を食べた後、2人で花火しながらずっと喋っていた。


テラスがとっても気持ちよく、そしてちょっぴし主役気分だった。


少し下品かもしれないが、足を投げ出したり、ふんぞり返ってみたり。


セレブって一体なんなのだろう。


実際のところ、育ちの悪さを露呈してきました。



でも、ずっとしっかりしてるより、たまにはバカがしたい。


私はパスタとジンジャエールを頂き、彼には、ずっと私の進路の話を聞いてもらっていた。


彼がポイントを使って機種変した新しいマスタード色の携帯を少しイジりながら、


頭の片隅で彼に関する人間相関図を少し描いていた。



『お前も、もっとテキトウにさ・・・、つーかもっとハデにやれよ。お前らしく。』



基本、聞き役の同い年の彼からのアドバイスはこれだった。


とてもシンプルなものだった。


お前らしくって言われても、それが一番分からないってのに。




彼は少し飽きてきているようで、


財布をテーブルの上に出してみたりしてみた。


彼の顔をチラリと見ると、落ち着かない様子である。




一気に席を立つと、すぐさまチェックを済ませ、単車に乗り込んだ。


どうやら私へのアドバイスは、


まるで彼自身に言い聞かせていた言葉のようでもあるように感じた。


髪伸びたねと人に言いながら、翌日自分が切ってくるようなものに近い。




TMCの代表と噂される彼の高そうなバイクは意外と静かだ。


彼にはいつも、お前は値段ばっか気にするな言われるが、


素人の私が見てもすぐに分かるほど、手入れがされており、


旧車と新車が融合してできている。


アホみたいに信号もなにもかも無視して、海へと向かった。



着くとすぐに、今度原宿とか、あの辺行きたいね、と急な要望を私に言った。


読めない人だ。


花火をしている内に序々に夜が明けてきた。


星にさよならとアリガトウを告げたい気分で一杯だ。


彼を想う気持ちは、未だ、もう少し自分の胸にしまっておくことにする。


浜辺を全力で走り回ったり、波に飲まれたりで、汚れた洋服を身にまとい、


今、私は再び後部座席で涼しい風に揺られている。


ガラガラな道路を踊るように滅茶苦茶に走り、物凄いスピードでコーナーを曲がった。



『ここが名物のコンビニ。』


停車すると彼はそう言った。


こんなへき地にあるコンビニに超ド級の美女がバイトしているらしい。


というか、こんなところにコンビニつくっても誰も来ないだろうに。


お構いなしに彼は足早に店内に入ろうとする。





私はその美女が何系かを想像しながら、歩き、自動ドアを通る前で


土地柄、ベタかも知れないが、サーファー系のキレイ目系か軽そうなギャル系だろう


という結論に達していた。


頭はこのように働いてはいたが、汚い格好をしているが上、


店内に入るのに腰が引けていた。


汚れているお気に入りの水玉のホットパンツが悲しかった。




負けるのは嫌なのでシレっと店内に入ると、予想通りの日焼けしたすらっとした子が


私に挨拶した。笑顔付きである。


よっぽど歓迎してくれているのでしょう。


ヒマなのか。


年齢不詳の彼女は年上なのは間違いないが、おそらく未だ十代だ。


容姿的には私と五分か、私の勝ち。




彼はというと、早くもレジでお金を払っている。



『行くよ。』


まだ雑誌コーナーにも差し掛かっていない私に、カレは小さな声で言った。



『何買ったの?』


『え?アレだよ、アレ。』


淳は少しニヤけた。


私は何のことかはすぐ分かったが、一応


『は?』


と答えておいた。



妙な沈黙があった。もちろん淳のせいである。






第13話に続く