淳は単車を走らせ帰って行った。


私も家に戻り、ソファーに腰をおろす。



私は携帯のランプの点滅に気づく。


メッセージを再生した。


とても強く吹く風の音と共に、声が録音されていた。



『大事なものをなくした。今日、午後会えないから・・・』



時間をだいぶ余らせたコンパクトなメッセージだった。


淳が何を失くしたのかは、私にはわからない。


クスブリという存在なのか、それとも物質的なものなのか。


なくした。


この言葉だけが頭の中でリピートされた。


徐々にマブタが重くなり、生暖かいソファーにうつ伏せになった。


耳のみでテレビのニュースを聞いた。


犯行に使われた拳銃の押収を大きく取り上げている。


再び、ダレタ右手で持っている携帯から声が漏れ出した。



自動的に2件目の録音を再生し出していた。


『先ほどは、ご来店ありがとうございました。野見山の姉です。

淳君から聞いています。淳君から預かったものを、今日そちらに向かう純に渡して下さい。

ご迷惑をおかけ致します。』



頭の中が真っ白になった。


テレビの音が聞こえなくなっていた。


私が知っている限りの情報では・・・、確かに野見山と淳はもはや、堂々と接触できる仲ではない。



私は淳から何を預かったのだろう。


それはさておき、野見山が私のもとを訪れるといった内容に驚愕した。


全く聞いていなかった。



野見山はいつ来るのか?


私はテレビを消そうと顔を上げた。




『おせーじゃねーか、コラ。どうなってやがる?』



夜はもう明けかけていた。








第17話に続く。


私は、淳を探すため、彼の家の周辺を歩き出した。


と言っても、彼と会ってしまったら恥ずかしい格好をしていたのだが。



道に落ちているタバコの吸殻やゴミを見つけては


彼の物ではないかと考え込んでいる自分がいた。



彼に良からぬことが起きないよう、それらのゴミをポケットに入れ、


神様の機嫌をとったりもしてみた。



淳にはもう無茶して欲しくない。


歩きながら、そっぽ向いた方向にある白い月に、私はそう祈った。



そのまま真っ直ぐ歩き、大きな国道にぶつかると今までの空気が一変した。


厳戒態勢が敷かれた護送車が私の目の前を勢い良く通過して行った。



淳だ。



私はすぐにそう思った。護送車に彼の名を叫ぼうと思ったが、


声は出なかった。


自然と出てきたのは笑みだった。


苦し紛れの笑みだった。こんなもの、見せられた側の方が辛いのに。


続いて、報道関係の車がどっと流れて行った。


通行人からは少年、15歳、殺人、そんな言葉が零れていた。



私は、終わった、ただそう思った。


その場にしゃがみ込み、ずっと先の方まで護送車の行方を見守った。



目に映る街は蜃気楼のようにボヤケ、手の甲が濡れた。


次第に視線が落ち、綺麗に丁寧に塗ったペディキュアを見ては、空しさが押し寄せた。







しばらくうずくまっていると、この私のこの姿をも含めた茶番的空気を


吹き飛ばすかのような爆音が国道に流れた。




エンジンの熱気が私の泣き顔を襲った。



『ずいぶん役者だなぁ、お前もよ。』


淳だった。


よう行く屋上に一人でいたらしい。



『考えごと。』


何をしてたかという問いには、コレしか言わなかった。


彼は少しナーバスになっている気もする。


護送車の話を切り出した。彼は私をバカにするように一蹴した。



『アイツ、パクられたな。お前ら付き合ってんの?役者同士?』



付き合ってる?そんなわけがない。



『どうして捕まったの?』


『さぁな、危ないクスリでもやってたんじゃね?』



彼の口からは殺人という言葉は出てこなかった。




ただし、淳は捕まった容疑者がクスブリであることは知っていた。




CandyのNo2淳を刺した直後から、


クスブリは自らのポジションを確立しつつあった。


といえども、ほぼ誰もがクスブリの功績は知らない。


知るも者といえば、3代目SCREAM代表のトオルぐらいであろう。


クスブリは密かに一撃必殺の黒帯ヒットマン生活を送ってきたのだ。




そのある種の成功者、クスブリが、ついに逮捕された。


あの事件から1年たった本日未明、15歳の少年は手錠をかけられ


まだ薄暗く青黒い空のもと、勢い良く暗闇の中へ護送されて行った。


テーマソングこそかからなかったものの、満天の星を独り占めしたがごとく


フラッシュがたかれた。


殺人事件の最重要容疑者としての逮捕であった。



クスブリは落ち着いており、安堵感のある彼の顔は容疑者らしくなく、


すでに刑の確定した囚人の鏡のような顔つきだった。



本日、クスブリの家から一発だけ弾の抜けた拳銃が押収された。







私は、淳に尋ねた。



『あの駅前の殺しの事件ってさぁ・・・、ほんとに彼がやったの?』


私の声はとても小さな声だった。


淳は私の顔の近くまで身を寄せた。



『お前に何がわかんだよ。』


キレる寸前の淳の目が、怖かった。



野見山の名前など、淳の前では出せなかった。








第16話に続く