トオルの抹殺に失敗した野見山は淳が運び込まれた病院から逃走した。


腐ったような三日月が静かに笑った夜だった。


誰も信じられやしない。



泥棒もカラスも狙おうとしない遠い空の冷たいCandyを見上げ、


それらを繋ぎ合わせては、デタラメな星座を頭に描いた。


『大して綺麗じゃねぇよボケ。』


まぶたの裏の淳の残像と共に、野見山は苦し紛れに笑ってみせた。




心のスペースは隙間だらけの孤独というよりも、空白に近いものになっていた。


ぶつぶつツブヤキ、リズムに乗せて韻を踏んで歩いた。


いつも通り体を揺らしながら、戸惑いも、自分の歩幅さえもラップした。



トオルの女の家を一つづつ潰して行くこととした。


トオルの居場所は知らないと言う割に、知っている他の女の名前や場所はすぐゲロする女ばかりだった。


このように見回りした後に逃げ込むのが逃亡する者の鉄則だ。


野見山は怪しい家をリストアップし、何度も顔を出し、ズカズカと家を捜索した。



その中で唯一、度々訪問する野見山に愛嬌を振りまき、協力的な女が光恵だった。


『電話、しろや。』


ドライヤーで髪を乾かしている最中にも関わらず、野見山を玄関先まで出迎え対応する女だった。





『電話出たよ。東京じゃ会えないって。』


電話しながらポーチをあさり、リップグロスを指に付けて野見山の腕にそう書いた。


光恵はラメでキラキラになった野見山の腕を見てケラケラ含み笑いをしながら電話の対応をした。




野見山はベッドに座り、光恵はベッドを背もたれにして座り、電話していた。


目の前に相手がいるかのようにリアクションの大きい喋り方だった。



光恵のアイズチが多くなると、彼女は野見山の足を時折イジリ、


タバコの箱をポケットから出した野見山に対し、着火したライターを右腕を伸ばして近づけた。


光恵は電話を終えるとこう言った。



『私も会いに行きたい。』



第24話に続く。












『チャカって…何?知らないわよ。』

私は家を荒らされるのが嫌だった。



野見山は知らん振りだ。ダンマリを決め込み、異常な捜索を始めた。


殺人犯が警察のガサ入れのように私の家を散らかして行った。


『おい、さっさと出せや!淳から預かった拳銃出せや!』


私は胸倉を掴まれ、体を揺すられた。力の抜けてる私の脳が揺らされた。


その脳みそで、淳から預かった物があったかどうかを振り返ってみた。


思い当たる節がない。



『あのテレビで捕まった子が持ってたアレじゃないの?私わからないよ。

大体、銃を持ってどうするのよ?』


『あのクスブリ野郎が何故俺の拳銃を持っている?約束が違いすぎるぜ。出頭だバカヤロウ。』


『もういいじゃない、あの子が捕まったんだから。もう、よそうよ・・・。』


『いいわけねー。淳はどこだ?電話しろ。』


電話をかけた。


すぐに携帯は野見山に奪われた。


『もしもし、野見山だ。お前どこにいる?』


『おう久しぶりだな野見山、大会は知っての通り好成績で幕を閉じた。』


『おい、あのチャカはどこよ?』


『ははは。いきなりそれか。あーそう、今日はトオル君の誕生日なんだ。』


『いい加減にしろや淳。ど、こ、だ?』


『その家の女のバッグを開けてみろ。入ってるよ。』


『それにしてもクスブリの野郎・・・、一体どうなってやがる?』


『俺にもわからん。』


『なんだと?』


野見山バッグをあさり、布を解いた。


『コレは紛れもなく俺の銃だぜ淳。』


『だよな。情報がだだ漏れかもしれねーぞ野見山。お前の出頭など想定済みってわけだ。

お前に拳銃を手渡した泊がクスブリ使ったに違いない。拳銃の出所も型式しってんのもアイツだろ。

ってかよ、光恵だ。あの女も、間違いねぇな。』


『光恵さんが・・・。』


『お前の場合、あの女になら漏れまくるだろ、バカが。 しかしよぉ、クスブリが泊にナビクとは思えねぇがな。

トオルの死亡が確認できない以上、お前はまだ解放されないみたいだな。』



『トオルはまだ・・・。』


『あぁ、きっと何処かでまだ息を潜めてるに違いない。しかも今日はアイツのバースデーってわけだ。』




トオルのヒットマンとして活躍したクスブリが花道をくぐり抜け、拘置所に突っ込むように入って行った。


どっしりと構え、生き生きとしたクスブリの表情が淳には忘れられない程印象的だった。




淳はクスブリに刺された夜のことを思い出していた。


話しは病院でクスブリに刺された淳と出会った後の野見山の逃走劇に戻る。


野見山は光恵という女に出会っていた。


後の全国大会の会場にまで顔を出したアノ女だ。





第23話に続く。










これが、昨年の秋に起こった駅前の警官射殺事件の全貌です。


1周忌を向かえ、テレビでの報道が激化していた。


先ほどの目の前の光景がテレビの画面に映し出されていた。


クスブリの逮捕劇は派手に報じられた。




あれ以来、野見山もSCREAM3代目のトオルも姿を消していた。


そして今、いわば、その片割れである野見山が私の目の前に、いる。



『おい、一体どうなってやがる。何故俺は捕まらず、あのクスブリ野郎がパクられる?』


野見山は私の家の居間まで上がり、信じられない顔で画面を見つめていた。



『久しぶり・・・。元気にしてた?』


私にだって分からない。殺人を犯して逃亡してた男が目の前でキレている。


逃亡生活を経験した彼であったが、全くもってマルくなった気配はない。


このような心無く、当たり障りのない会話から始めることとなった。



『よぉ、お前なんか変わったなぁ。』


野見山がそう言いながらテレビから視線を外し、急に近づいてきた。


私の髪の毛の束を手でいじり出し、クスっと笑っているようにも見えた。


彼が知っている時の私の髪の毛はほぼ真っ黒だったが、今は堂々とミルクティーカラーで


明るくなっていた。




怖くて震えた。


ふと視線を上げると彼の目線は私の頭部にはなく、それを越えたもっと奥の方に向けられていた。


まるで邪魔扱いするように平手で真横に私の頭を押しのけた。


野見山の目がヤラしく部屋中を嗅ぎまわしている。



テレビの中でリポーターのテンションがじょじょに上がってきている。


声のトーンが一段と大きくなり、絶叫に変わりつつある。


野見山がフスマを開け出し、床の物を蹴り払い出した。



『出せや。』


野見山は私の顔を見て、少しイライラしながらそう言った。



『てか何を? 何なのもう?』


意味が分からなかった。



野見山はうなずいた。彼は腰をかがめて、私が座っているソファーを力ずくでひっくり返した。


私はそのまま転げ落ち、家中に大きな音が響いてしまった。



私は無抵抗に転がった姿勢のままテレビの画面に吸い寄せられた。


甲高いリポーターの声が枯れそうになってきている。


何度も同じ言葉を連呼しているのだ。


クスブリを乗せた車がついに、拘置所に入ったのだ。



『チャカ出せや!』


野見山の声も、レポーターの声に比例するように大きくなっていた。