光恵のもとにトオルのデータが返信されてくる。


携帯で逐一それをチェックし、彼女はハンドルを切った。


野見山には何をしているのか理解できない行動だった。


マイペースな彼女のサバサバした振る舞いに大人を感じていた。



『アンタどんだけ惚れてるのかは知らんが、俺はトオルを見つけ次第、消す。』


野見山は拳銃をイジリながら光恵の横顔を覗いた。



『もう何度も聞いたよ。私は会いたいの。しかも今すぐね。それだけ。』



『アイツ、SCREAMの全盛を極めた男だよな。斜陽ではないが、没落は一瞬なんだな。

ただよ、アイツは恐ろしいよ、この俺でもな。警察もよく分かってんだろうな、その辺をよ。

その点においては警察も満更アホではないとは思うよな。』


『でもあなたの方が無茶苦茶な男でしょ?』


『俺を潰すなんて意外と簡単だよ、どんなに強かろうがな。最悪、俺自身が自分を潰すことができる。

しかし、アイツはゾンビのように生まれ変わっちまう。座右の銘はきっとrebirthだ。

尾張名古屋は城で持つと言うが、アイツはあんな巨大組織作っときながら、その辺は無頓着だもんな。

盾となるのは、アイツの身一つだ。』



ラジオからニュースが流れ、幾つものホストクラブの摘発を報じている。


トオルが経営に携わる箱全てにガサが入ったのだ。


光恵は落胆の表情を浮かべた。



『泊の野郎がここまで踊るとはな・・・。』


『SCREAMは今後どうなるの?』


『さぁな。良い子ちゃんの組織になるしかないだろうな。

警察とつるんでバイオレンスでやってくには限界があるだろうしよ。

巨大組織だしよ、情報なんてどっから漏れるか分からないからな。

かといって、それで楽しいかと言われれば、俺は疑問だがな。』


SCREAMのバイオレンスファクトリー路線からの脱却を野見山が示唆した。


まさしく警察の思うがままにSCREAMという組織が変貌して行く気がしてならなかった。


もしも警察がSCREAMを見限った時、こんな骨抜きな組織はない。





『SCREAMが生き残る道はあるの?』


『今のうちに警察のタマ握っとくことだろうな。ある意味SCREAMにとって、

こんなにチャンスなこたぁねぇんだぜ。』


野見山は不敵な笑みを浮かべた。


『しっかり生きている奴にはかなわねぇよなぁ。拳銃じゃ法律には勝てない。』


『あなたそう言うわりには、物騒な物持ってるじゃない。』


『確かに。司法や常識をブチ壊す威力はないがな、でもコレがあれば、一瞬は勝てる。』


野見山はそう口にし、自分の非力さを実感した。



そして殺し合いの無い平和な世界を望む社会の中で、


バイオレンスファクトリーSCREAMを築いたトオルのタフさに感服していた。



なんでもアリな世界ならば、何人でも殺せるし、何回でも好きな子を犯せばいい。

強盗という名が無くなるまで金をふんだくれば良い。


一般的な善悪を超越して、なんでもアリなはずなのに、出来ないことが頭に浮かぶということは、

どういうことなのだろ?


野見山の頭の中で曖昧な答えが生まれはじめていた。


奇しくも何でもアリな活動を続けてきたトオルに気付かされることとなった。



光恵は相変わらずトオルを追い詰めて行く。


タッチの差でのすれ違いばかりだ。


トオルを狙い撃ちする場所はポイント、ポイントで光恵が割り出し、


その場所を野見山の口から言わせるように誘導する形がとられてきた。


光恵はイライラを見せはじめている。



一方、野見山は自分の保身という動機でトオルを消すつもりではあったが、


そもそも、このこと自体が警察の言いなりであることも痛感しだしてきている。


スタート時点よりもヤル気が失せはじめてきていた。


まもなく夜明けである。


車内の雰囲気は幾分悪かった。


トオルを消せなければ、光恵自身の身も危ないのだ。



『なぁ、アンタ何さっきからそんなに焦ってる?』


野見山がイラつく質問を光恵にした。



『アナタはなんでそんなに余裕なのよ?』


『質問に答えろや。さっきから誰と連絡とってんだよ?』


『誰でもよくない?いちいち何なの?』


『俺はよ、匂いに敏感なんだよ。お前、普通の人間じゃねぇだろ。』


『は?妄想癖?キモいんだけど。』


野見山もイラ付き始め、銃を落ち着き無く持ち始めた。



『時間ないから、もう向かうわ。これがラストチャンスだと思ってね。』


光恵はついに東京を離れ、トオルと約束した密会場所へ急行することととなった。


場所は、神奈川県 午前6時、横浜駅。


光恵はまだ横浜で密会予定であるとは本部に報告していない。


トオルはタクシーに乗ると、腕を組み、目を開けたまま寝ていた。



『あいつタクシーかな?』


『そうね、タクシーでしょ。』


『てか、俺がトオルならとっくに横浜行ってるけどな。』


『確かに。』



5時25分。


2人は到着した。



トオルは目覚めた途端、窓の外に見えた横浜国際プールの前で急いでタクシーを止まらせた。


寄り道したいことをドライバーに告げた。


ここが後に全国大会が開催される会場である。



トオルは自分が襲撃に合った意味をずっと考えていた。


警察の手に渡すまいという淳のはからいであったことも理解していた。


情報戦を制した淳は、自身はクスブリに刺されたものの、


ノーマークの野見山がトオルへの襲撃に成功したのだ。



トオルは、この会場内をウロつき、淳へという内容ではなかったが、淳へのメッセージを残している。


そして、トオルからのメッセージはここだけでは無かった。



勿論まだこの段階では淳の全国大会出場など、まったく持って白紙に近い状態であった。










雨は、止みかけていた。


気が触れたような速さでブチ抜くように車は走った。



深夜2時、倉庫だらけの町並みに突入していた。


暗闇にトラックとフォークリフトが無造作に駐車され、人気の無いイタリアンレストラン


の優しい明かりが際立っていた。繊細なグラスとテーブルに添えられた花が綺麗に並んでいた。


丁度、光恵の運転する車のラジオから洋楽のTOP10が大きなボリュームで流た頃だった。



さらに奥へ奥へと進み、埠頭の先っぽへ車は入り込む。


ゆっくりと大きな風車が回り、ライトアップされた静かな海を目の前にして、野見山は車から降りて

我慢していた小便をブチ撒けた。


車から漏れて聞こえる音楽に乗り、体を揺すって用を足していた。


誰もいない世界に迷い込んだ気分の野見山は、じっと薄い目で海を眺めた。


久々に落ち着いて深い呼吸をしている自分に気づいた。



潮の香りに慣れた頃だった。ラジオのカウントダウンも中盤に差し掛かった頃、


急にラジオボリュームが抑えられた。



野見山が車の方を振り返ると、光恵は誰かと電話をしていた。


暗くハッキリ見えない光恵の表情を盗み見たが、自分が車に戻れそうな雰囲気ではなかった。


珍しく気を遣ってしまった場面に野見山自身が驚いた。



『不審船でも探すかぁ。』


場の悪くなった野見山は、そう独り言を呟き、進入禁止の低いフェンスに沿って海沿いを歩いた。


対岸はキラビヤカなビルの群れである。


街灯の下のベンチに人影を発見した。



少し飛んでるカップルが座っていた。野見山に気がつくと2人は奇声を上げて驚いていた。


それほど寂れて人気の無い場所だったのだ。


どうやら撮影をしている模様である。彼氏がハンディを持ち、毎晩ここで記念のビデオ撮影をしている模様だ。


2人とも目がトロンとしており、肩を抱き合いながら漫才を始めている。


もうすぐどっちかが死ぬからなのかと、野見山なりに考えが及んでいた。



『ネットなんだけど大丈夫?出てくれない?』


彼氏がラリった声で野見山にカメラを向けて笑いながらそう言った。


野見山はカメラを取り合えず止めるように言った。


『止めろだってぇ。マジうちら止まんないからぁ。』


ケバイ彼女がそう応戦した。



『一人で黄昏てんの?』


『いや、連れは車にいる。お前ら、何やってんだよ?』


『そこのクラブ行って、飽きたんで、いつも通りここで撮影みたいな。後でアップするから、

まぁ出てよ。』


どうやらこの辺に大箱のクラブがあるらしい。



彼氏は野見山にカメラを向け、出演を促そうとラップした。


『yo、まじヤバメなゲスト来てるぜ、教えてくれよお前のA to Z、yo。』


『気づけば腐った警官包囲網、 今、目の前のお前、ラリったB-boy,yo!

響いたなcandy始動のゴーサイン、聞いてねぇよこんな黒い交際。』



『おい、アンタまさか・・・・』


『何がだコラ?』


『今日SCREAMの3代目が・・・。』


『あぁ、俺がCandyの野見山だ。よく覚えとけ。』


野見山は調子に乗って拳銃を見せびらかせている。



電話を終えた光恵が駆け付け、カメラをとりあげた。


『ちょっとアナタ、今日SCREAMの3代目この辺で見なかった?』


光恵がカップル2人に尋ねた。


『23時頃、あの工場の前を傷だらけで不気味な男が歩いていたとは聞いたけど・・・、本人かは・・・。』



野見山と光恵は再び車に戻り、爆走を始めた。



光恵は運転しながらトオルに電話をかける。


『ねぇトオルくん今どこ?』


『あぁ、どこかなぁ。ははっ。あんま信用できねぇよ誰も』


『何でよ。他の人と一緒にしないで。お願い。』


猛烈なスピードで走る車に近寄ってくるバイクがあの音を炸裂させた。


白バイだった。サイレン音が鳴った途端、光恵は親指で電話を切り、車の速度を抑えて


止まった。



『お前ら、スピード出しぎ。あっあと伝言な。明日の正午がリミット。蓮見トオル消せなければ

野見山、キミはブタ箱決定な。密かに務所に消される段取りだ。だから一生出ることは無い。で次、お前、お前は・・・まぁいいか。分かってんなお前ら!』


白バイは言葉を濁しつつ、伝言して去って行った。



『見ての通りだ。SCREAMの泊は警察とデキている。しかし何故俺らの車がここ走っていると分かった?』


『さぁ・・・。』


あまりこの事を言及されたくない光恵は電話に逃げた。


トオルに再度電話している模様だ。



『会いたい・・・。』


光恵は泣きながら話していた。


そんな中、彼女はそれらを会話内容を録音し、すぐにメールで分析に出していた。


トオルが約束の場所に現れる保障などどこにも無いからだ。


今現在の居所を突き止めようとしていた。


















野見山はトオルを発見しだい銃をぶっ放すことはまだ口にしなかった。


『おい、行くなら行くぞ。』


ローションを念入りにパッティングしている光恵をせかした。


光恵は全く動じない。


『おいババアいい加減にしろや!』


『まじ待って。考え中だし。』


鏡の前で髪の毛をいじりながらそう答えた。


クローゼットをあさりながら光恵は野見山に聞いた。



『会ってさぁ、どうするの?』


『殺す。』


光恵の念入りな支度に業を煮やしたのか、野見山は早くもつい口にしてしまった。


半分トオルへの嫉妬もあったのではないかと思う。



『かぁらす。』


光恵はふざけ半分に野見山の口調を大げさに誇張して真似てみせた。

洋服をピッキングしながらクスクス笑っていた。

野見山は作った気だるい顔で煙を吐き捨てていた。




野見山を助手席に乗せ光恵の車が走り出した。

あれだけ髪の毛を気にしていたのにも関わらず窓は全開だった。

あらゆるパーツが溶け出しそうな程とばして走った。



そのスピードとは裏腹に道は不確からしい。

野見山がナビゲートした。


『頭いいんだね。』


光恵は野見山をおだてた。



『ねぇコレ見て。気持ち悪い?』


携帯で撮ったイグアナの写真を野見山に見せた。


『デカイな。実家でかってるのか?』


『飼ってるわけないじゃん。脱走したら大変だよ。サンシャイン行ったんだトオル君と。

またこの子にも会いたいな、なんて思っちゃった。ってバカっぽいよね。』


『ちょっとな。』


光恵と野見山の会話は続いた。





『私子供欲しいけど、絶対私の子供バカになるよ。』


『そんなことねーよ。子供欲しいのか?』


『欲しい。』


『確信犯的に作っちゃえば?あんま良くないことかもだけど。』


『無理、無理。』


『ゴムなしの時にトオルに頑張ってもらえばいいだろ。』


『変態。心配性だから付けない時の方が珍しいから、絶対できないよ。』


野見山の想像は膨らんでいた。


殺してやろうという気が何故か一瞬薄れた瞬間だった。

下世話なノリでトオルに対し、更に増した殺意を抱くことは不思議と無かった。