野見山は腹を決め、ゆっくりとドアを開けた。
切り替えが早いのか、諦めが早いのかは、この男に関しては
よく分からない。面倒な思考に陥るのを嫌うのであろう。
野見山は、2王立ちだった。
暗闇で傘をさした男が目の前にいた。
仕立ての良いスーツに身を包み、ピンク色の派手なストライプ柄のネクタイが揺れている。
綺麗なハンカチで腕についた水滴を拭いながら口を開いた。
『野見山ぁ。』
半笑いでそう言うと、茶色の革靴は一歩前進し、肌つやのいいこの男は、長身の野見山の顔を見上げた。
警官がウロウロしている中で、この男は慌てる様子など微塵もなく紳士的だった。
この男こそ、SCREAMのNo2の泊だ。
『よぅ泊、何してんだよ。実業家にでも鞍替えか?』
『ズブぬれじゃねーかよ野見山。ついに、やらかしてくれたなこのタコ野郎・・・。』
『お前とお喋りするつもりはねぇ。知ってるか?トオルの次はお前だ、泊。』
『お前はまだSCREAMという組織を理解していないらしいな。』
『茶番野郎、何が言いたい?』
泊が不敵な笑みをみせて言った。
『野見山、このままパクられたくなければ、の話しだが・・・、お前にミッションを与えよう。
果たして来い。失敗すれば、お前はパクられ、淳も三浦陽介も死ぬと思え。』
泊が拳銃を懐から取り出す。居間でくつろぐように泊の手の平で寝そべった拳銃は、
悩み一つ無い綺麗な顔をして野見山の方を向いていた。
『確かに茶番だわなぁ。』
泊はパーティー会場でトオルの横を陣取り、終始この拳銃をトオルに向けていたことを告白した。
クスブリから淳を刺した一報を受けたときのやり取りが妙に奇妙だったのはこの為だ。
野見山の頭に没落寸前のチームのヘッドの悲惨な様子が浮かんだ。
『何事にもよぉ、終わりはあるんだよ野見山。』
『アンタよぉ、そんなもん、とっくに知ってるぜオッサン。』
野見山は説教混じりの泊にキレ始めている。
『カッカすんじゃねぇよ。野見山、この警察の動きはちとおかしいだろ?なぜこんなに大人数を動員する?
事故と傷害だけだぜ。狂ってるよなぁ。容疑者は完璧にお前。目撃者多数。楽勝の逮捕だろ。
こりゃ、ぶっちゃけると、大物であるトオルをパクる為に用意された人員だ。だが、そのトオルを潰してしまったのがお前。おそらく見物人の中にも私服警官がウヨウヨしていたことだろう。目的はトップのトオルからチャカの入手ルートの詳細を引っ張り出すことだ。』
泊が不可解な供述を始める。これほど真面目な話しが胡散臭く聞こえる男も珍しい。
『テメエ、警察がガサ入れに来ること知ってて銃もってきたのかよ?』
『聞け。あいつは拳銃の入手に手を染め始めた。一番欲しがっていた物であり、一番恐れていたものだ。
あいつを脅すにはコレしかない。それにアイツを追放するには拳銃ぐらいハードな物でないと・・・。警察的にもパンチが足りない。』
『他の理由は?』
『お前も堂々と表を歩ける身でないなら分かるだろ。何処へ隠そうが毎日、毎日、不安からは逃げられない。
結局自分で持つしかなくなるんだ。』
『トオルはよくお前に拳銃を渡したなぁ。』
『アイツはリスクを取らない。自然と側近の俺が持つようになっていた。ヤバくなったら俺を切ったはずだぜ。』
『じゃぁもう一つ聞こう。あのトオルがガサ入れに気づかないことなどあり得るのかな?』
野見山が突っかかり出す。人一倍失敗の多いこの男は信じ込んでバカを見るのが怖いのだろう。
『いや、恐らく知っていただろう。誰にも武器の持ち込みを許さなかった。』
『じゃぁ、当然お前にも拳銃の話しはしたんだろ?』
『当たり前すぎて無かったよ。』
『アイツも万が一に備えて危機管理してたかもしれないぞ?』
『さぁ、してたら、こうはならないだろ。野見山お前何が言いたい?』
『気になることがな。アイツは店の階段をすっ飛ばして上がって来た。一番にだ。
車のキーは後ろのザコが持ってるんだぜ?アイツはキョロキョロ周りを見渡し、俺に遭遇した。』
野見山ほどの無茶苦茶な男が遭遇時のディテールを覚えていることに泊は少し驚いた。
『拳銃で脅された奴が一目散に逃げ出したいのは、理解できるだろうよ?俺の狙いどおり。』
『本当にそうかな?第一、ビビリはするだろうが、ガサ入れを目の前にしてお前が銃をぶっ放す可能性など無いに等しいことぐらいトオルなら分かるはずだ。そして俺の出現が無ければ、トオルはそのままオサラバだ。隠さずに何もかも話せや!』
泊は視線を野見山から外し、奥の通りを一度覗き見た。
そして、そのまま目線を上げ、降りつける雨を見ながらゆっくりと口を開いた。
『お前の出現は正直、予定外だ。今日は、トオルのイケニエの日で、何らかの罪で引っ張る予定だったんだ。アイツを店内から追い出したら警察にお任せ状態だった。なのにお前は周囲にいた警官よりも早くトオルを潰してしまった。アイツにとって幸運以外の何者でもなかったはずだ。恐らくお前の攻撃をまともに受け入れ、チャカの所有も無い、運転前でありスピード違反もしていないアイツは、表向き上、一瞬にして被害者に摩り替わることに成功した。』
『警察に魂を売ったとは、ずいぶん腐った組織だな。ごく最近のSCREAM全国拡大路線はそのお陰か。俺の居場所がすぐ分かった理由もよく分かったぜ。』
『何を言われようが構わない。飲み込みが早いじゃない。あの通路にタムロしてウロウロしてる警官は何も探してはいない。こっちに一般人を寄せ付けない為にそれらしく立っている。見ろよ、コッチをチラチラ見てるだろ?トオルのせいで拳銃が蔓延したら、組織として今まで築いてきたものが色々崩壊してしまう。こっちは商売あがったりなんだよ。もう切るしかないだろ。』
泊がついに自白した。
第20話に続く。