昨日の記事でも書いた通り

家に帰り着く前に

こちらに着いたその足で

新宿武蔵野館に寄って

新作メグレ映画を観てきました。

 

新宿武蔵野館(2023.3.20)

 

最初、始まるまでに

1時間近くありましたし

終わるのが21時だと聞いて

いったんはパンフを買うだけで

帰ろうとしたんですが

このタイミングを逃したら

出不精な自分のこと

いつ観るか分からないと思い直し

観ることにした次第です。

 

受付のお姉さんが

呆れずに対応してくれたのは

ありがたかったです。

 

 

ロビーには

映画にちなんだディスプレイが

作られておりました。

 

《メグレと若い女の死》劇場ロビーディスプレイ

 

パンフレットはこちら。

 

《メグレと若い女の死》パンフレット

(アンプラグド編集・発行、2023.3.17)

 

映画の原題は

単に Maigret とあるのみ。

 

監督はパトリス・ルコントで

フランスでの公開は昨年です。

 

以下、真相にはふれませんが

設定や背景、シーンの一部などに

言及していますので

未見の方、これから観る方は

ご注意ください。

 

 

今回の映画は

『メグレと若い女の死』(1954)が

ベースになっていますけど

新訳版(ハヤカワ・ミステリ文庫)

中条省平の解説にもある通り

真相は微妙に変わっています。

 

また、原作には登場しない

ベティという

やはり地方からパリへと

上京してきた娘が加わって

メグレに協力することになります。

 

観終わった時は

そういう囮捜査のようなことに

素人を使うなんてことを

メグレがやるかしら

と思いました。

 

《殺人鬼に罠をかけろ》(1958)でも

囮捜査をしていることを

上にリンクを張った

自分の記事を読み返して

記憶を新たにさせられましたが

あちらは女性警官にやらせてますからね。

 

もっとも

102編もあるシリーズですから

そのどれかで

やっているのかも知れず。

 

メグレ・シリーズの

良い読者ではない自分には

ちょっと判断がつきません。

 

 

シリーズのどれかで

やっているかも、と思ったのは

本映画はメグレ・シリーズの要素を

各作品から抜き出して

そこかしこに

散りばめているのではないか

と思ったからです。

 

パリの各所に配置されている

緊急通報のボタンを押す場面があり

通信指令室のようなところで

パリの地図にランプがついて

警察が出動するという場面は

ちょうど読み終えていた短編

「メグレと無愛想な刑事」を

彷彿させるシーンでしたし。

 

通信指令室でパリ市街の地図に

ランプが点るシーンは

《署名ピクピュス》(1943)にも

ありましたし

今回の映画ではその前で

メグレが部下に対して

自分の捜査方法を説いたりしています。

 

そこで話された捜査法は

シリーズのどれかで

語っているものだろうと

想像されましたし

そういうシーンを観ているうちに

この映画はメグレ像の集大成を

目指しているのではないか

と思い至った次第です。

 

 

ちなみに

《署名ピクピュス》や

同じ役者がメグレを演じている

《死んだセシール》(1944)では

パリのアパルトマンの階段を

息を切らせて上がるシーンが

ユーモラスに描かれていて

印象に残ってますけど

今回の《メグレと若い女の死》でも

被害者の住む部屋まで

息も絶え絶えに登るシーンがあり

嬉しくなりました。

 

今回、メグレを演じている

ジェラール・ドパルデューが

大兵肥満なだけに

ほんとに大変そうでしたね。

 

 

ところで

カプランという人物の

事務所を訪ねるシーンがありましたが

何をやっている事務所なのか分からないし

なぜ被害者がその事務所の名刺? を

持っていたのかも分からない。

 

もちろん、原作にはないシーンですが

別の作品に出てくるのかもしれず。

 

ですが、映画的には

重要なシーンだったようで

パンフレットでもその重要性が

説明されていました。

 

それは

メグレの背景などとも

関わってくるのですが

その背景は原作にあるのかどうか

今回、そういう設定を知って

びっくりさせられた次第です。

 

 

原作との違いについて

細かいことをいうと

キリがなくなりますし

この程度にとどめておこう

と思いつつ

あとふたつだけ。

 

ひとつは

映画には無愛想な刑事

ロニョンが出てこないこと。

 

これは残念でした。

 

リュカは名前だけ出てたような。

 

今回の映画で

主にメグレと行動を共にするのは

クレジットに役名が出ている

ラポワントだと思います。

 

そのラポワントに

パイプの吸い方? を

教える場面がありましたが

それもシリーズのどれかで

出てくるのかも。

 

 

もうひとつ、

メグレといえばパイプ

というイメージなんですが

映画の冒頭でメグレは

医者の診察を受けていて

検索の結果が出るまで

禁煙を申し渡されます。

 

ですから

パイプを吸うシーンが

ほとんどないんですけど

(これは異色の設定ですね)

予審判事に会っているシーンで

空のパイプを弄んでいるのを注意され

(判事が買っている淡水魚に

 タバコの煙が悪影響を与えるからだとか)

「これはパイプではない

 ……ベルギーの冗談なんだが」と

メグレが応えるシーンがあって

笑っちゃいました。

 

ルネ・マグリットという

ベルギー出身の画家による

《イメージの裏切り》(1929)を

踏まえた台詞だなと思って

ニヤリとさせられたわけですが

時代的に合っているのか

マグリットがベルギー出身なのか等

帰宅してから調べちゃったことは

ここだけの話です。( ̄▽ ̄)

 

 

ちなみに

医者から診察を受けるシーンで

メグレが医者の勉強をしていたことを

匂わせる台詞もありましたが

これは原作にもあるようですね。

 

原作のどれなのかは

分かりませんけど。(^^;ゞ

 

 

今回の映画は

原作の時代背景そのままに

1950年代のパリを舞台として

演出・制作されています。

 

1950年代にマグリットの絵が

どれだけ知られていたものか

分かりませんけど

少なくとも時系列的には

矛盾がないわけで。

 

1950年代のパリといわれて

ファッションも音楽も建物も

その時代のものに忠実なんだろうと

思うしかないわけですが

こちらの教養が浅いため

音楽については

〈セ・シ・ボン〉(1948)しか

分からなかったのが残念。

 

アコーディオンの

いい感じの曲も

流れてたんですけどね。

 

使用楽曲は

クレジットで流れましたが

もちろんフランス語ですし

(C'est si bon だけ

 かろうじて分かりましたw)

パンフレットには何もなくて

ちょっと困りもの。

 

 

1950年代を彷彿させる

原色のカラーではない

くすんだ感じの映像が

なかなかいい雰囲気でした。

 

ただ、

観終わったあと

原作に描かれた真相は

現代ではロマンチックすぎて

通用しないのかなあ

と思った次第です。

 

今回の映画の真相は

2時間ドラマのようで

ありふれている感じがしました。

 

それに比べると

原作の真相は哀愁を覚えさせ

胸に迫るものだっただけに

原作通りでないことを

個人的に残念だと思ったことは

付け加えておきます。

 

 

でも

映画としてはいいものだと

認めることに

やぶさかではありません。

 

ルコント監督の作品を

読み込んで(観込んで?)いるファンなら

いろいろと発見や感想も

あるんでしょうけど

自分は《仕立て屋の恋》(1989)と

《髪結いの亭主》(1990)しか

観ておりませんので

ルコント映画としては

何もいえないのが残念です。

 

 

以上

映画ファンではなく

ミステリ・ファンとしての

感想でした。

 

乱文長文多謝。