(1954/平岡敦訳、ハヤカワ・ミステリ文庫、2023.2.25)
パトリス・ルコント監督による
新作映画が公開されるというので
新訳されたものを読みました。
読んでから観る
という人間なので。(^^ゞ
パリ第二区の公園で
若い女の死体が発見されます。
たまたま署にいたメグレは
通報を受けて出かけますが
第二区はロニョン警部の
担当地区であることを思い出す。
このロニョン警部は
綽名を〈無愛想な刑事〉といい
常に自分は報われないと思っていて
優秀ながら僻み根性が強く
扱いにくいというキャラクター。
司法警察局にいながらにして
情報が集まるのを待つメグレと
手柄を立てようとして
独自の捜査を続けるロニョンとの
対照的なありようが
読みどころのひとつになっています。
あと、情報を得たメグレが
被害者が最後に寄ったと思われる酒場に行き
バーテンの話を聞いただけで
快刀乱麻を断つごとく
一挙に解決に持ち込むあたりは
意外性があるのみならず
すっと腑に落ちる納得感があり
びっくりすると同時に
感心させられました。
メグレ・シリーズは
現在の組みの文庫本で
250ページほどのものが多く
真相に至る論理に飛躍があって
メグレひとりが納得しているだけ
という印象を受けることもあり
ミステリとして物足りなさを
感じさせることが多いのですけど
本作品はそうした物足りなさが
ありませんでした。
というのは
自分が成長したからなのか
と思ったことでした(笑)
本作品に限っていえば
ある装飾具のために
命を落とさなければならなかった
運命の皮肉のようなものが
被害者の生活状況とも相まって
強い印象を残します。
ところで
金沢に帰省して
実家の本棚を見たら
旧訳の方もありました。
(北村良三訳、ハヤカワ・ミステリ、1972.11.30)
訳者の北村良三は
長島良三の別名義で
こちらは未読でございます。(^^;
パラパラと見てみたら
新訳版では章タイトルがあるのに
旧訳版では章数字だけでした。
翻訳に使った底本の違いによるものか
新訳版の解説(中条省平)には
何も書かれていないので
謎です。
旧訳版は解説ではなく
「訳者あとがき」で
のちにメグレ訳者として
知られるようになる
長島良三だけあって
『メグレとシャルル氏』
(邦訳『メグレ最後の事件』)の
フランスでの評判が悪いことを伝えるなど
読み応えのあるものでした。
そのあとがきだと
『メグレと無愛想な刑事と殺し屋たち』
という訳題になっている作品は
『メグレと生死不明の男』という題で
講談社文庫から出ていますけど
確か持っていたはず。
無愛想な刑事ロニョンのキャラが
なかなか良かったので
東京に帰ったら
読んでみましょうかね。
なお新訳版は
出たときに紀伊国屋書店で
買ったんですけど
その際、映画公開記念のためでしょう
栞が置いてありました。
記念に持ち帰ったことは
いうまでもありません。
こちら↓が裏側かと。
昔、よくあったように
割引券になっていないのは
ちょっと残念かな(笑)
紀伊国屋書店以外でも
配られたものなのか
現在もまだ配られているのかは
不詳です。
ハヤカワ・ミステリ文庫からは
この後もメグレものが2冊
続けて刊行される予定らしく
そのうち1冊が
『サン・フォリアン寺院の首吊人』の
新訳だというから驚き。
本邦初訳は1937(昭和12)年に
春秋社から出た伊東鋭太郎訳で
その時の邦題は
『聖フォリアン寺院の首吊男』でした。
その後、1939〜40年に
江戸川乱歩による翻案版が出て
(自分が読んだのはそれの
少年探偵シリーズ用のリライト版)
アジア太平洋戦争を挟み
1950(昭和25)年に
水谷準による新訳が雄鶏社から
〈Ondori MYSTERIES〉の1冊として出たあと
それが1957年に角川文庫に入りました。
1960年には中央公論社から
世界推理名作全集の1冊として
三好格という人の訳も出ています。
それ以来、改訳されることなく
今日に至っていますので
実に53年ぶりの新訳になるかと。
自分は角川文庫版を
いちおう持ってますが
ポプラ社の乱歩版で
読んでいることもあり
実は未読だったりします。(^^ゞ
そんなこんなもあって
これは実に楽しみなのでした。