ミュンヘン古楽クァルテット『中世ヨーロッパ名曲集』CD

(ワーナー・パイオニア WPCC-3134、1990.1.25)

 

手元にある

ロビン・フッドがらみのCDの

3枚のうちの1枚で

ダス・アルテ・ヴェルク名盤コレクション

というシリーズの第1巻です。

 

原盤レーベルはテルデックで

録音は1966年4月18〜19日。

 

 

原盤のタイトルは

Secular Music circa 1300 ですが

secular music は「世俗音楽」

circa はラテン語で「およそ」

という意味ですから、直訳すると

「1300年ごろの世俗音楽」

ということになります。

 

ジャケット上部の

Robin et Marian • Llibre Verbell and Others

というのは、副題になるんだと思いますが

これも直訳すると

「ロバンとマリアン・朱い本、その他」

ということになります。

 

 

こちらは確か

立川のディスクユニオンで

見つけたものかと。

 

収録曲に

13世紀のトルヴェールの一人

アダン・ド・ラ・アル

Adam de la Halle による

「ロバンとマリオンの劇」が

収録されているのに目がとまって

購入したものです。

 

すぐさま

映画の《ロビンとマリアン》

連想されたからですけど

ついでにいえば

ロバンというのは

ロビンのフランス語読みです。

 

 

「ロバンとマリオンの劇」は

今谷和徳執筆のライナーによれば

オペラ・コミックの先駆をなす作品

といわれているそうです。

 

内容は

狩の最中だった騎士が

羊飼いの娘マリオンを見染め

言い寄るが拒否される。

 

マリオンがその話を

恋人の農夫ロバンにすると

ロバンは従兄弟や農夫の仲間を集め

騎士をやっつけようとするが

逆に騎士に叩きのめされる。

 

騎士はマリアンに

もう一度、言い寄るものの

やはり拒否されたのち

仲間たちの勧めで

ロバンとマリアンが

結婚式を挙げる

というお話。

 

アダン自身は

北フランスの生まれですけど

ナポリの宮廷に勤めている時に

書き上げたのだとか。

 

 

この音楽劇と

ロビン・フッドとの関係ですけど

先にご案内の

『ロビン・フッド物語』によれば

フランスの五月祭で

上演されていたものが

イギリスに輸入されたのではないか

という仮説があるそうです(p.69)。

 

マリアンというのはフランス系の名前で

フランスの牧歌劇ではロバンとともに

よく歌われたらしく

イギリス中世のバラッドには

マリアンが登場していないことから

可能性は高いと書かれていました。

 

つまり

ロビンとマリアンというカップルの

元ネタともいえる作品なわけで

CDを購入した当時は

違和感がありましたが

そうと知ってみれば

買っておいてよかった

と思った次第です(現金だなあw)

 

 

ロバンとマリアンがらみでは他に、

中声部の歌詞が

「ロバンとマリオンの劇」冒頭で

マリオンが歌う

「ロバンは私の恋人」である

という3声部のモテトゥスを収録。

 

ここに収録されている

モテトゥスというのは

最上声部と中声部と最下声部とで

それぞれ別の歌詞が歌われるという

ポリフォニックな歌曲で

最下声部はグレゴリオ聖歌の

歌詞と旋律が使われますが

普通は器楽で演奏されるのだとか。

 

どうしてそういう歌曲が生まれたか

という話をすると長くなりますので

(資料を引っ張り出すのが大変w)

ここでは省略しますが

そういう歌曲が発展して

後期ルネサンス時代に盛期を迎え

バッハのポリフォニー楽曲にも

つながっていくわけです。

 

 

本盤には以上の曲のほかに

『ルネサンス・バロック名曲名盤100』で

皆川達夫が取り上げている

トルヴェールの一人

モニヨ・ダラス Moniot d'Arras の

「そは五月」も

「それは五月のことでした」

という邦題で収録されています。

 

皆川が同書で

推薦盤に準ずるものとして

マンロウの『十字軍の音楽』の後に

あげているんですが

これは迂闊にも

買った後で気づきました。

 

皆川の同書では本盤について

「演奏があまりよくありません」

と書かれていますけど(笑)

 

 

副題の Llibre Verbell

有名な「モンセラートの〈朱い本〉」

Llibre Verbell de Montserrat のことで

本盤には全曲、収録されています。

 

有名とはいいながら

今まで聴いたことがなかったので

こんなに短い曲の集成だとは

今の今まで知りませんでしたけど。

 

そのうちの1曲を歌う

ミュンヘン聖母マリア少年合唱団の演奏が

大人の声が続いた後で流れると

ハッとさせられて

いい感じ。

 

 

使われている楽器を

備忘も兼ねて記しておくと……。

 

【管楽器】

シャルモー(クラリネットのご先祖)

フルート(古楽なので縦笛でしょう)

ショーム(オーボエのご先祖)

トロンボーン(別名サックバット)

 

【弦楽器】

リュート、サラセン風キタラレベック

ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ属の楽器)

バグラマ(ロングネックのリュート)

 

【その他】

オルガネット(吹子付きの小さなオルガン)

ドラム、ベル、タンブリン

 

 

器楽曲もふたつ

収録されていますし

1300年前後の

鄙びた響きを楽しみたい方には

おすすめの1枚でしょう。

 

「ロバンとマリオンの劇」が

一部、省略されているとはいえ

収録されている点でも見逃せませんけど

(歌詞対訳が実にありがたい!)

録音が1966年と古いので

最近の録音があるのなら

そちらでも聴いてみたいものですね。