ちょっと必要があって

『シャーロック・ホームズの冒険』の収録作を

何編かを読み返していたところ

なんで今まで気づかなかったんだろう

ということに気づきました。

 

今回、手にとったのは下のテキストです。

 

光文社文庫版『シャーロック・ホームズの冒険』

(1892/日暮雅通訳、光文社文庫、2006.1.20)

 

まず読み返したのが

『冒険』では巻末に入っている

「ぶな屋敷」。

 

女性家庭教師が相談に訪れる話

というくらいしか覚えてなくて

事件の真相とかは忘れていましたが

ちょっと面白かったのは

作品が始まってすぐのやりとり。

 

ホームズがワトスンに

「たとえ事件そのものはつまらなくても、

 推理とその論理的総合の能力という

 ぼくの本領を発揮する場となった事件を

 重視して」(p.485)

作品をまとめてくれているが

興味本位に偏り過ぎていると批判したあとで

言葉が過ぎたかもしれないと言い

以下のように話します。

 

きみが書きとめてくれた事件のほとんどは、法律のうえでは犯罪にならないものだからだ。ボヘミアの国王に手を貸すことになった、あのちょっとしたできごとにしろ、メアリ・サザーランド嬢の風変りな経験にしろ、唇のねじれた男にまつわる事件にしろ、花嫁に逃げられた独身の貴族の事件にしろ、みんな法律の埒外にある問題だった。(p.487)

 

法律にふれない犯罪ということで

現代の日本のミステリにおける

いわゆる〈日常の謎〉ものを

連想しましたが、それはともかく。

 

 

上の引用でホームズがあげている事件のうち

「メアリ・サザーランド嬢の風変りな経験」

って何だろうと思って

ぱらぱらとめくってみたら

『冒険』の三つ目に入っている

「花婿の正体」だと分かりました。

 

こちらの作品は

だいたい話の内容は覚えていましたが

登場人物の名前までは覚えておらず

それも仕方ないかと思いつつ

次に読み返したのが

『冒険』の二つ目に入っている

「赤毛組合」でした。

 

そしたらその冒頭で

ホームズがワトスンに

次のように言う場面がありました。

 

このあいだ、メアリ・サザーランド嬢が持ち込んだあの単純な事件にかかる直前にぼくが言ったことを、おぼえているだろう。(p.58)

 

上に書いた通り

メアリ・サザーランド嬢の事件は

『冒険』の三つ目に収められている

「花婿の正体」です。

 

「赤毛組合」は二つ目に入っているので

単行本で初めて読んだ読者は

さぞ戸惑ったことでしょう。

 

自分は戸惑ったどころか

びっくりしちゃいました。

 

 

光文社文庫版の訳者解説によると

執筆順は「花婿の正体」が先で

「赤毛組合」が後だったそうですけど

(そこまで判明していることにもびっくりw)

ドイルのエージェントが

雑誌社に(最初の6編を?)まとめて送ったため

掲載時に順序が入れ替わったのだとか。

 

だったら単行本にする時に

順序を直せばいいと思うのですが

掲載順そのままに収録しているあたり

荒っぽいというか何というか。

 

ドイルがホームズものを

重視していないかったことが

こういうところからも

分かるような気がしたり。

 

 

ホームズ・シリーズは

自分は子どもの頃に

児童向けの翻訳で読んでいますが

もちろん単行本に収録された順序で

読めているわけもなく。

 

自分が主として読んだ偕成社版は

原作単行本の順番を踏襲しておらず

作品の順序はバラバラなので

順序の矛盾に気づかないのも

しょうがないといえばしょうがない。

 

長じてからは

新潮文庫版を読んでいるはずなのに

まったく気づかなかったのが

ちょっと不思議。

 

そのあとは

東京書籍版(のち、ちくま文庫版)を

通しで読みましたけど

シャーロキアンの考証に基づいて

事件の発生順に収めているため

順序の矛盾に気づくはずもなく。

 

それにしても

光文社文庫版を手に入れた時に

解説だけは目を通しているはずなんですが

記憶には残ってなかったようで。( ̄▽ ̄)

 

 

ミステリの短編集で

収録順が前後していることが

意外と気づかれないことだというのは

本格ミステリ・マニアの間だと

都筑道夫が「私の推理小説作法」(1974年発表。

『黄色い部屋はいかに改装されたか?』に収録)

で指摘している

『ブラウン神父の無心』の例が有名ですけど

ホームズにもあったことにびっくり。

 

もっとも

シャーロキアンの間では

よく知られた話なのかもしれません。

 

それにホームズものには

ワトスンが小説にしなかった

いわゆる「語られざる事件」というのがあって

そういうことを知っていると

かえって気にならないかもしれませんし。

 

 

それにしても

先に取り上げたことのある

『ミス・マープルと13の謎』

『アンクル・アブナーの叡知』もそうですけど

向こうの単行本の

収録順序をめぐる問題って

意外と面白いテーマかもしれません。

 

トリヴィアルすぎるかもしれませんけどね。( ̄▽ ̄)

 

 

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